高畑充希と白石加代子が愛と憎しみの火花を散らす!舞台『エレクトラ』インタビュー
(左から)白石加代子、高畑充希
この顔ぶれを見たとき、多くの演劇ファンが思わず快哉を叫んだのではないだろうか。
演劇界が愛してやまない若手女優・高畑充希と、日本を代表する舞台女優・白石加代子。このふたりが、堂々舞台初共演を果たす。しかも、演目は『エレクトラ』。激しくぶつかり合い憎み合う娘・エレクトラと母・クリュタイメストラを高畑充希と白石加代子のふたりが演じるというのだから、想像するだけで全身からゾクゾクと沸き立つものがある。
思わず「二大女優激突!」と見出しをつけたくなるところだが、当のふたりは取材現場で顔を合わせるなり、再会のハグ。半世紀分の年齢差も感じさせない仲良しムードで対談はスタートした。
ずっと加代ちゃんと同じ舞台に立つのが夢だった。
--先ほどお話ししているのを聞いてビックリしたのですが、高畑さんは白石さんのことを「加代ちゃん」とお呼びなんですね。
高畑 そうなんです。
--いつから加代ちゃんと?
高畑 いつからだろう。もう結構前だと思うんですけど。
白石 芝居仲間はみんな私のことを「加代ちゃん」と呼ぶんですよ。きっと先輩がそう呼んでいるのを聞いたんじゃないかしら。
高畑 確か加代ちゃんから「加代ちゃんって呼んで」って言われた気がします(笑)。
白石 ああ、そうだったかもしれない(笑)。
--ちなみに白石さんは高畑さんのことを何とお呼びで?
白石 何て呼ぼうかと思っているんですけど。さっき聞いたら、「みっちゃん」って呼んでいる方が多くて。
高畑 そうですね。周りは結構みっちゃんって呼びます。
白石 じゃあ私もそうさせていただこうかしら。ふたりで「加代ちゃんみっちゃん」ね(笑)。
--もうすっかり意気投合のおふたりですが、何でも高畑さんにとって白石さんは昔から憧れの大先輩だったとか。
高畑 そうなんです。私、小さいときから演劇オタクで(笑)。加代ちゃんの出ている舞台はずっと前からよく拝見していました。初めて楽屋にお伺いしてご挨拶させていただいたのが、2008年の『身毒丸』。あまりにも興奮してしまって、その場で「いつか白石さんと共演できる女優になりたいです!」って宣言してしまいました(笑)。
白石 そうだったわね。私もあのときのことはよく覚えているの。
高畑 私、どちらかと言うとあまりそういう場で積極的になれない子どもだったんです。だけど、なぜかあのときは不思議とそんな大胆なことが言えてしまって。
--それはなぜだったんでしょうね。
高畑 自分でもよくわからないんですけど、素晴らしい作品を拝見した後に、ずっと憧れていた方が目の前にいて、たぶんすごくテンションが上がっていたんだと思います(笑)。
みっちゃんには、ギリシア悲劇を演じる上で必要なものがある。
--そしてその宣言がついに実現されるときがやってきた、と。しかも演目は『エレクトラ』。愛憎入り交じる母娘という実に刺激的な役どころです。
白石 私はこのクリュタイメストラを演じるのは、これで4度目。劇団早稲田小劇場(現SCOT)にいたときに一度、それから『悲劇 アトレウス家の崩壊』(1983年)で一度、そのときのエレクトラはツレちゃん(鳳蘭さん)。あとは蜷川(幸雄)さんの『グリークス』(2000年)でもやらせていただいて、そのときは寺島しのぶさんがエレクトラだったの。
--錚々たる顔ぶれですね。そして、今回は高畑さん。
高畑 …知らなかった方が良かったです(笑)。
白石 あらそう? でもみっちゃんにも今までご一緒した方たちと共通点はあると思う。見た目は可憐だけど、芯がとっても強いから。むしろ私の方が『エレクトラ』をやるって聞いたときは、みっちゃんに失礼じゃないかしらと心配だったの。ほら、私は年齢的に言えばみっちゃんのお母さんというより、おばあちゃんでしょう。そんな私が母親役なんてみっちゃんが可哀相だと思って。でも、周りのみなさんがこの組み合わせをとても楽しみにしてくださって。じゃあ、私もそこに乗らせていただこうかと思ったの(笑)。
高畑 私はとにかくずっと加代ちゃんと同じ舞台に立ちたいと思っていたので、ご一緒できると決まった時点でもう本当に嬉しかったです。ただ、『エレクトラ』の台本を初めて手渡されたときは驚きました(笑)。こんなにも激しい感情がほとばしる役は、今まで経験したことがなかったので、どうやってこの境地に至ればいいんだろうって。
白石 そうね。どうやって自分をかき立てていけば良いのかということは、役者としては大きな問題です。私も今までいくつもギリシア悲劇を演じてきたけれど、果たしてちゃんとなし遂げられていたかと言えば、それはわからない。でも、みっちゃんなら大丈夫だろうと思っているんです。
--それは、高畑さんのどんなところをご覧になってですか?
白石 まずギリシア悲劇は「空間を占める」力がなければ演じることはできません。よくみっちゃんがお出になっているCMを拝見するんですけど、みっちゃんはあの短い時間の中でものすごく動いて画面を支配することができています。これができる女優さんというのはなかなかいません。一方で『とと姉ちゃん』ではCMとは逆の演技を要求されていたと思うんです。それは何かと言うと、動いて画面を支配するのではなく、静止して、表情のクローズアップで空間を占めるということ。みっちゃんは、これにもきちんと対応できていた。カメラが寄ってクローズアップしてくれるわけではない舞台では、動いて空間を占める力、静止して空間を占める力、この両方が求められるんですね。みっちゃんは、そのどちらも備えている。だからとても安心しているんです。
--と白石さんはおっしゃっていますが、高畑さんはいかがですか?
高畑 嬉しすぎて目が落ちそうです(笑)。
白石 やだ、じゃあ私が拾ってあげる(笑)。
--では高畑さんにおうかがいします。共演を待ち望んでいた大先輩とのことですが、改めて白石さんのどんなところに魅力を感じるのか教えてください。
高畑 加代ちゃんのお芝居を初めて観たのはまだ10代の頃だったんですけど、頭をガツンッと殴られたようなインパクトがあって。出ているだけで自然と目で追ってしまったんです。単純な言葉になってしまうんですけど、もう「好き」という言葉しか出てきません。
--それだけ吸引力のある方と同じ舞台に立つのは、ある意味恐怖でもありそうです。
高畑 そこはもう当たって砕けろだと思っています。私が客席にいても、きっと加代ちゃんのことを見てしまう。だからと言って萎縮しても仕方がないし、やってみるしかないので、稽古が始まる前から怖がりすぎるのはやめようと自分に言い聞かせています。
--古典劇自体、今回が初めてですよね。
高畑 はい。私、こんなに舞台で喋ったことないです(笑)。
--白石さんと相対することで、自分の中にどんな変化が生まれると思いますか?
高畑 それがまったく想像できないからこそ楽しみです。こんな機会はそうそうあるものではないので、一緒にお芝居をさせていただける時間を全力で楽しみたいと思っています。
--高畑さんはとても受けのお芝居がお上手だなと思うので、白石さんとの対決は本当に楽しみです。
白石 そこはむしろ私の方が勉強をさせていただく立場です。なぜかと言うと、私はひとりでとめどなく喋るのには慣れているけれど、キャッチボールが苦手で。ダイアローグに関しては、昔から主人(元早稲田小劇場の深尾誼)に「ダメだダメだ」って怒られてばかりいるんです。長くお芝居をさせていただきましたが、いまだにそれを自分がクリアできたとは思えない。だから、今回はじっとみっちゃんのお芝居を見させていただくかも(笑)。
高畑 え! それは気になって稽古どころではないかもしれないです(笑)。
白石 私、ずるいから、盗むと決めたらその人のお芝居をひたすらじっと見つめちゃうの。
高畑 じゃあ私はその倍見つめ返します(笑)。ずっと客席から舞台上の加代ちゃんを見つめ続けてきたので、今度は稽古場での加代ちゃんを見られるんだと思ったら、すごく贅沢ですよね。稽古が始まったばかりのところから初日までを近くで見られるのは幸せなことだなと思います。
想像を絶する母娘の愛憎をふたりで演じ抜く。
--ちなみに、このエレクトラとクリュタイメストラは単に憎み合っているのではなく、愛憎が表裏一体となった関係だと思いますが、こうした関係性に対する共感はありますか?
高畑 それはわかりますね。腹が立つのは興味がある相手だからこそ。我が家の場合、わりと娘の私が気持ちを抑えることが多い気がするので、舞台ではその分、発散できるかなと思います(笑)。
白石 エレクトラにとっては苦しい話よね。愛する両親それぞれに愛人ができてしまって、その結果、母親が父親を殺してしまうんだもの。
高畑 想像を絶する状況ですよね。私たちの感覚で言えば、とてもありえない。でも、だからこそ何とか自分がその心境に行き着く方法を考えないと…。
白石 私がギリシア劇を演じるときの方法なんだけど、あまりにもかけ離れているからこそ、とりあえず気持ちが乗らなくても、自分の言葉じゃないと思いつつ台詞を喋り続けるの。そうすると、知らないうちに感情が追いついてくるから。きっと初日が開くまでには私のことが憎くて憎くて仕方なくなっていると思うわ(笑)。
高畑 わかりました。がんばります!(笑)
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スタイリスト(高畑さん):大石 裕介(DerGLANZ)
ヘアメイク(高畑さん):市岡愛(PEACE MONKEY)
(取材・文・写真撮影:横川良明)
1991年生まれ。大阪府出身。2005年、山口百恵トリビュートミュージカル『プレイバック part2 〜屋上の天使』主役オーディションでグランプリを獲得。同舞台でデビューを飾る。以降、舞台から映像まで幅広い作品で活躍。07年~12年まで、舞台『ピーターパン』で8代目ピーターパンを務めた。2016年4月、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の主役に抜擢。一躍国民的ヒロインとして親しまれる。近年の出演作にドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、映画『アズミ・ハルコは行方不明』、ミュージカル『わたしは真悟』がある。
3月18日より、映画『ひるね姫~知らないワタシの物語~』にて主役の声優を務める。
白石 加代子(しらいし・かよこ)
1967年、劇団早稲田小劇場(現SCOT)に入団。黎明期小劇場演劇の興隆のなか、数々の伝説的舞台を生んだ。なかでも、ギリシャ悲劇『トロイアの女』は、世界に名だたる演劇人の耳目をあつめた。89年、SCOTを退団。以降、蜷川幸雄『身毒丸』、鴨下信一『白石加代子の百物語』を始めとし、宮本亜門、鵜山仁、野田秀樹、野村萬斎、長塚圭史、串田和美、小野寺修二など名演出家の舞台に立ち続ける。96年・98年に読売演劇大賞優秀女優賞、01年に芸術選奨文部科学大臣賞、05年に紫綬褒章、12年に旭日小綬章、14年に菊池寛賞を受賞。
■原作:アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデス「ギリシア悲劇」より
■上演台本:笹部博司
■演出:鵜山 仁
■出演:高畑充希、村上虹郎、中嶋朋子、横田栄司、仁村紗和 / 麿赤兒、白石加代子
■製作:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
<東京公演>
■会場:世田谷パブリックシアター
■日程:2017年4月14日(金)~4月23日(日)
■料金:S席 8,500円/A席 7,500円(全席指定・税込)
■一般前売り開始日:2017年1月21日(土)
■主催:公益財団法人 新潟市芸術文化振興財団
■公演に関するお問合せ:株式会社MTP 03-6380-6299
■に関するお問合せ:ホリプロセンター 03-3490-4949(平日10:00~18:00/土曜10:00~13:00/日祝休)
<新潟公演>
■会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
■日程:2017年4月25日(火)19:00・26日(水)14:00
■料金:S 席8,000円/A席7,000円(全席指定・税込)
■主催:公益財団法人 新潟市芸術文化振興財団、N S T
■お問合せ:りゅーとぴあ専用ダイヤル 025-224-5521(11:00〜19:00/休館日を除く)
<兵庫公演>
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
■日程:2017年4月29日(土)14:00 / 18:30 ・ 30日(日)13:00
■料金:A席9,000円/B席6,000円(全席指定・税込)
■主催:兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
■お問合せ:芸術文化センターオフィス 0798-68-0255(11:00〜17:00/月曜休み *祝日の場合翌日)
<神奈川公演>
■会場:相模女子大学グリーンホール・大ホール(相模原市文化会館)
■日程:2017年5月2日(火)18:30
■料金:6,800円(全席指定・税込)
■主催:公益財団法人 相模原市民文化財団
■お問合せ:Move 042-742-9999(10:00〜19:00)
<水戸公演>
■会場:水戸芸術館 ACM劇場
■日程:2017年5月6日(土)18:30 ・ 7日(日)14:00
■料金:S席8,000円/A席7,000円/B席5,500円(全席指定・税込)
■主催:公益財団法人 水戸市芸術振興財団
■お問合せ:水戸芸術館 ACM劇場 029-227-8123(10:00〜18:00/月曜休み)
(東京&兵庫=プレオーダー受付中)