大竹しのぶに訊く『フェードル』で味わえる古典劇ならではの面白さとは?
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大竹しのぶ『フェードル』インタビュー
2011年に上演した『ピアフ』(2013年、2016年に再演)では読売演劇大賞最優秀女優賞など、数々の演劇賞を獲得し、井上ひさし作品などでも何度もタッグを組んできた大竹しのぶと栗山民也が2017年春、この顔合わせでは初めての古典作品に挑戦することになった。フランスの劇作家ジャン・ラシーヌによる歴史的名作『フェードル』は、ギリシャ悲劇を題材に書かれたフランス古典文学の金字塔的な作品。17世紀に書かれた作品とはいえ、激しい感情を爆発させるヒロインといい、その周囲の人々の対応といい、この物語は現代にも通ずる普遍的な出来事に溢れていて、やがて訪れるのは驚愕の結末……。実にドラマティックな展開が、美しいセリフの数々によって紡ぎ出されていく。この作品で、義理の息子へ抱く狂おしいまでの恋心に身を焦がすアテネ王の妻・フェードルを演じる大竹に、作品への想い、古典劇ならでは得られる面白さなどを語ってもらった。
――演出の栗山民也さんにかなり以前から、古典作品をやろうと誘われていたそうですね。
そうなんです。3年前、『太鼓たたいて笛ふいて』(2014年)をやっていた時に、栗山さんが「しのぶちゃん、今度は古典をやろう!」とおっしゃって下さって。「ぜひ!」と答えたんです。そのあとで栗山さんのほうから『フェードル』を、というお話をいただきました。もちろん有名な戯曲で読んでいたので、それはとっても面白いなと思いました。
蜷川(幸雄)さんとギリシャ悲劇を初めてやった時、もすごく面白かったんです。あー、これが演劇の原点なんだということも感じました。そして今度は、栗山さんとどういう風に古典作品を作るのかがとってもとっても楽しみです。
――古典となると、やはり現代劇をやるのとは違う部分も多そうですが。
最初はやはり、難しそうでちょっと取っつきにくいような感じが私にも正直ありました。だけど実際にやってみたら、こんなに面白いものはないとまで思うようになりましたね。「ここからすべてが始まるんだ」という感じがして。この『フェードル』の場合はギリシャ悲劇を基にフランスの作家が書いた作品ではあるんですけど、私が最初にやった『エレクトラ』という作品では、神とも対話したりするし、そして装置も何もない舞台で自分の肉体を通して出てくる言葉と感情だけでお芝居を見せていく。役者として潔く勝負している感じがしてすごく面白かったんです。
――舞台上で神と対話ができてしまうような、そのくらい熱量のある『フェードル』のセリフをしゃべれる女優は今の日本では大竹さんしかいないと、先日栗山さんがおっしゃっていました。
えっ、すごく嬉しいんですけど!(笑) だけどこういう古典作品に出る時の一番の喜びが、そうやって神と対話ができることだったりもするんですよね。
――それは他の舞台や映像作品では、味わえない感覚かもしれませんね。
そうですね。前に映画の撮影が終わり、翌日から8時間のシェークスピア劇に取り組まなくてはならない時があって、分厚い台本が2冊も。「どうしよう?」と思っていたのに、いざ読み始めてみたらだんだん元気になってきて、最後のほうは家の中をピョンピョン走り回りながら読んでいたんです(笑)。
「あー、楽しい!」みたいな感じで。実は、シェイクスピア作品のセリフって精神的にちょっと落ち込んでいる人を元気にすることができるらしいんですよ。嫌なものを浄化してくれるような力があるんですって。天と地を結び付ける言葉の力というか……。実際にそれを体験したって感じでした。
――演じる側としてはパワーが必要になって、より疲れたりはしないんですか。
いえ、私の場合は逆に元気になれます。『エレクトラ』をやっていた時には「あともう1回できる」「1日4回くらいできる」っていつも言っていたくらい(笑)。
――そういえば『ピアフ』を演じられていた時も、そんなことをおっしゃっていたような。
あれは、ある意味自分が解放される役だったから。あと感情がそれほど複雑じゃなく、単純なので(笑)。なんだかスポーツ選手みたいな感覚で、すごくいい試合ができたような気持ちになれる。
――スカッとした感じですか。
ピアフの時は、生きる喜びというのでしょうか。毎回「よし、今日も楽しく死ねた!」みたいに思っていました(笑)。
――栗山さんと一緒にお仕事をする時の面白さ、楽しさはどういうところに感じられていますか。
蜷川さんとはちょっと違って、栗山さんの場合は立ち位置なども含めてすごく細やかな演出をしてくださるので。……って、そんな言い方をしたら蜷川さんに、「じゃ、俺はなんなんだよ!」って言われそうですけれど(笑)。でもそういう細やかな栗山さんの演出で、『フェードル』みたいなスケールの大きい戯曲をやるとどんな風になるんだろうと思って、ワクワクしています。
――今までご一緒した作品とは、かなり違うテイストの作品に初めて取り組むわけですね。
『フェードル』は古典ですがすごくわかりやすく、骨太で、大胆な感じの作品なので栗山さんが今回どういう演出をなさるのか、今からとても楽しみです。
――フェードルという女性は、どんな女性だと思われていますか?
ちょっとおかしいというか、「なんなんだコイツ」みたいな感じ?(笑) 「私はもう死ぬーー」なんて言ったりするし。奥ゆかしい妻の顔とか、愛に目覚める女の顔とか、激しい嫉妬の顔とか。本当に女の持ついろいろな感情を出してくる役なので、この人を演じるのはとても面白そう。
――今回のカンパニーについての印象はいかがでしょうか。
(キムラ)緑子ちゃんとは、ついこの間まで『三婆』を一緒にやっていましたし、プライベートでも友達なんです。「なんで私が乳母なの!」っていう声が聞こえてきそう(笑)。あと平(岳大)さんとは蜷川さんの舞台でご一緒したことがあるんですが、その時は同じシーンがなかったので今回初めて芝居をするようなものですね。
――フェードルに愛されるイッポリット役ですね。
まっすぐでまじめな人なので、イッポリット役は平さんにピッタリだなと思います(笑)。(門脇)麦さんと今井(清隆)さんとは今回がまったく初めてなんですよ。
――新鮮な顔合わせで楽しみです。そして、古典だと難解な作品なのではないかと思ってしまっているお客様も多そうですので、ここはぜひ大竹さんからいざないのお言葉をいただきたいのですが。
とにかく、お話は単純で本当にわかりやすいですから! まるでスポーツの試合を観ているような、爽快感すら感じられるくらいにね(笑)。役者の身体が解放されて、憎しみとか愛している感情が激しくむき出しになり、役者の身体に血が駆け巡っているのを感じられたら、絶対に観ている方々もドキドキしたりワクワクできると思うんですよ。
そして、きっと「ああ、これが演劇なんだな」って思えるはずです。血がたぎるような、たとえば闘牛を観てワーッと叫んだりするような。そういうところまでいっていただくためには、やっぱり言葉の力と、私たちの身体からほとばしるエネルギーが必要。それがなければ単になんだかずいぶん長いセリフを言っているな、というだけのつまらないものになってしまうかもしれませんからね(笑)。
ですからぜひ、お客様には「へえ、難しくないんだ!」と思っていただきたいんです。そのためにも、この作品に書かれている言葉の持つ力に私たちのエネルギーと感情をうまくマッチさせて、しっかり演じなければいけないなと思っています。
インタビュー・文=田中里津子
■翻訳:岩切正一郎
■演出:栗山民也
■出演:大竹しのぶ、平岳大、門脇麦、谷田歩、斉藤まりえ、藤井咲有里、キムラ緑子、今井清隆
【東京公演】
■日程:2017年4月8日(土)~4月30日(日)
■会場:Bunkamuraシアターコクーン
■
※未就学児童入場不可
※コクーンシートは、特にご覧になりにくいお席です。ご了承の上ご購入ください。
【新潟公演】
■日程:2017年5月3日(水・祝)14:00
■会場:りゅーとぴあ
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※U25席は観劇時25歳以下が対象。当日指定席券引換。座席数限定。要本人確認書類。
※未就学児童入場不可
【愛知公演】
■日程:2017年5月6日(土)18:00、5月7日(日)13:00
■会場:刈谷市総合文化センター大ホール
■
※U-25
(観劇時25歳以下が対象。当日指定席券引換。座席数限定。要本人確認書類)
※未就学児童入場不可
【兵庫公演】
■日程:2017年5月11日(木)~5月14日(日)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
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※未就学児童入場不可
■公式ホームページ:http://www.phedre.jp/