劇作・演出家、鈴木聡に聞く「新作『ユー・アー・ミー?』はラッパ屋風ファンタジー」
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ラッパ屋の新作『ユー・アー・ミー?』が、新宿の紀伊國屋ホールで1月14日から開幕した。
ラッパ屋は、40代、50代の観客にとっては、すごく親しみある芝居を見せてくれる劇団だ。家族や会社のあれやこれやを、笑わせて笑わせて、ほろりとさせて、元気づけてくれる。その代わり、金魚のお告げやら、万馬券が当たったりという奇跡は最近ではあまり起こらなくなった。最近は、たとえば劇団青年座に書き下ろすときのような生々しくて、リアルな痛みが、ラッパ屋にも滲み出してきたかのように。人間臭さは変わらないけれど、より大人のコメディーを上演するようになってきた。それが親しみに通じるというわけだ。そんなイメージで公演の少し前にインタビューに行ったのだが、意外や意外、僕の思い込みが露呈する--
オンリーワンの作品さえ「それはそれで面白いよね」くらいに扱われる時代
--最近の鈴木さんの戯曲がすごく現実的な物語になってきたような気がするんです。その辺りの思いはいかがですか?
たぶん現実をとらえるということに精一杯になっていると思うんです。つまり、世の中というものを、「これはなんなんだろうか」と自分で確かめようと思って書いている気がします、ここ最近。そのくらい時代、世の中の変化、そして人の心の変化が大きいと感じているから。90年代とかバブルのころって、みんなでノリを共有できたから、それに立脚してつくればいい気がしていたんです。『斉藤幸子』(2001)、『裸にスキップ』(2004)のころは、時代が昭和的なところから離れていこうとしているから、そのアンチテーゼを持ってくればいいような気がしていた。だからアナログな人間関係を迷わずに書いたし、そのことがメッセージになる気がしていたんだよね。ところがここのところは、みんなが見たい感じとかピンと来る感じがよくわからなくて、じゃあ自分はどう思っているのか、自分はこの世界をどう把握しているのかを確かめる感じが強くなってきたんです。
--奇跡の起こり方が小さくなっていませんか。劇作家として、あるいは広告のお仕事をされているという意味では、より時代に敏感なのだと思うのです。
演劇がどこまでメッセージになれるのか、影響できるのか、何かを変えられるのかということを考え続けていますね。表現自体と言ってもいい。演劇にしても映画にしても、僕には、これがオンリーワンだと思える作品がいくつもあるんです。でも今は、たくさんある中の一つとして扱われてしまう可能性があると思うんですね。この芝居を書けば、こんなの思い込みですけど、何か世界が変えられるんじゃないかくらいの気持ちで書いているし、創作の原動力は本来そういうものだと思うんですけど、それが持ちにくくなっている。お客さんに確実に届くよう、足元を見ながら書くというスタンスが強くなっているかもしれません。
--でもそこで戦わないといけないわけですよね。笑いという盾を持って。
アメリカでトランプが大統領に選ばれたりするわけじゃないですか。これ自体がコメディみたいですよね。そういうことが現実に起こると、そこそこのウェルメイドでは太刀打ちできないな、という思いはあります。
ラッパ屋のメンバーもお客さんも面白がるものが年月とともに変わってきた
--それが若いころに書いていたケレンの面白さがあった舞台とは変化している理由でしょうか?
たぶん歳のせいもある。ケレンって、ケレンに向かってつくるんだという思いで描くんですね。逆に言うと芝居場のために、何かを捨てたりする。僕も、ラッパ屋のみんなもその何かにこだわりたいという思いが強くなっているかも。逆に言えば、外部のプロデュース公演でのときの方が、観客がエンターテインメントを望んでいるとわかっているから思い切ってやれますね。
--むしろラッパ屋の役者さんたちとの勝負になってきているわけですね。
それとラッパ屋のお客さんね。お客さんも一緒に歩んできてくれている。一緒に少しずつ変わっていきましょうみたいな。
--それで今回の作品はどこに向かおうとされたわけですか?
なんか変わったことをやりたいなって……。会社を舞台にしているんですけど、あるキャラクターを、今どき会社にふさわしいキャラクターを演じるとか、そういうのを不自然に思って自分らしくいたいと思うかで、もう一人の自分が出てきてしまう。
--ん? 何かしゃべりにくそうだなと思ったら、今回は思い切りファンタジーってことですね? 僕が思い込みで話を聞いていたと(苦笑)。
そうなんですよ。やっとわかりましたか(笑)。おまぬけなおとぎ話です、大人の。おかやまはじめと、松村武くんが同じ人物なんです。おかやまのキャラ変をしたのが松村くん。だから少しかっこいい。「なんで出てくるんだよ」「お前がもう少し頑張らないからだよ」とやりとりをしながら、おかやまが言い返したりするんですけど、影響も受けたりして格好良くなるわけですよ。でもなりきれない、おかやまだから。
--いえいえ、おかやまさんさんはこの場合関係ないでしょ(苦笑)。
おかやま演じる中年おやじですね。でも結局「お前がダメだから」って松村くんに乗っ取られてしまうわけです。現実世界では、周囲からおかやま演じる中年おやじが見えなくなってしまう。切ないですよね。見えなくなっちゃうんだから。
--その手応えは?
どうでしょう。いつもとちょっと違う感じを面白がってもらえるといいですね。けんか別れした親友同士の関係だと思ってくれればいいと思う。お互いのことをすごくよく知っていて、愛憎もあって。そいつらが再会して、お前ダメだとか、お前こそダメだと言い合ってみたり、でもこういうところはいいところだよ、みたいな言い合いをしていると思っていただければ。誰にでも出世したいとか、人に優しくいたいとかという気持ちはあるじゃないですか。これが分かれてしまったと。だから本当にファンタジー。それをラッパ屋風のリアルな進行で行う。普通の会社のお話だから生々しくもある。空間自体は現実的なんだけど、そこに一個だけファンタジーが入ってくる、という感じです。
《鈴木聡》
1959年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、広告会社博報堂に入社。コピーライターとして活躍。1983年サラリーマン新劇喇叭屋(現ラッパ屋)を結成。現在は、演劇、映画、テレビドラマ、新作落語の脚本執筆など幅広く活躍。主な作品は、ミュージカル『阿 OKUNI 国』(木の実ナナ主演)、松竹『寝坊な豆腐屋』(森光子・中村勘三郎主演)、NHK連続ドラマ小説『あすか』『瞳』など。近作に、パルコ『恋と音楽』(稲垣吾郎主演)、コマ・スタジアム『男嫌い』(沢口靖子主演)、NHKドラマ『狸な家族』。ラッパ屋『あしたのニュース』、グループる・ばる『八百屋のお告げ』で第41回紀伊國屋演劇賞個人賞、劇団青年座『をんな善哉』で第15回鶴屋南北戯曲賞を受賞。
(取材・文:いまいこういち)
■開演時間:14・16・17・19・20日19:00、18・21日14:00/19:00、15日14:00、22日13:00/17:00
おかやまはじめ 木村靖司 福本伸一 岩本淳/岩橋道子 弘中麻紀 ともさと衣 大草理乙子
松村武(カムカムミニキーナ) 谷川清美(演劇集団円)
中野順一朗 浦川拓海 青野竜平(新宿公社) 林大樹/宇納佑 熊川隆一 武藤直樹
■ラッパ屋公式サイト http://rappaya.jp/