The Best Album 2016 -西山 瞳が選ぶ3枚-
日頃から“新譜チェック”に余念がない方たちが、各々の視点と尺度で『2016年のベスト3作』を選出。今回は、ジャズ・ピアニストとして活動する西山 瞳が選ぶ3枚をお届けします。
『ヒットの崩壊』(柴那典・講談社現代新書)を読んでいる。ネガティブな内容ではなく、音楽産業全体で見ると、ソフトを売ることからライブ市場へシフトしてきている、という話。私自身も2016年は大型コンサートに数回観客として参加した。普段はジャズ箱で良い音でアコースティック音楽を聴くことが圧倒的に多いが、大型コンサートの楽しみは音環境の良し悪しではなく、その時しか体験できない瞬間性のみだと改めて実感。録音物ではなく、よりプリミティブな音楽体験に回帰しているのは、我々ジャズ・ミュージシャンにとっては心強い事象かもしれないと思った。4月のアイアン・メイデンの両国国技館コンサートには、痺れた。
BABYMETAL
METAL RESISTANCE
BABYMETAL待望の第二作。まだ二作品しか出してないの?という、驚異の活躍ぶり。前作に比べ、細分化したヘヴィ・メタルのジャンルを網羅するような、プログレ・メタル、ヴァイキング・メタル、また、90年代以降の日本のV系アプローチの曲など、ヘヴィ・メタルやその周辺音楽を聴いてきた人間には、これも拾ってくれるんですかという目配せが嬉しい。どの曲も10代の少女の真っ直ぐで凛とした声で、サウンドは重いのに、とても清涼感を感じる、アイドルとメタルの融合進化系、色眼鏡をとって音楽そのものを聴けば、プロダクションの優秀さがわかる。
Robert Glasper Experiment
ArtScience
グラスパーといえば、ミュージシャンサイドでは、フレッシュ・サウンド・ニュー・タレントの『Mood』から少しずつ話題になり、『In My Element』のあたりには、新時代のスタイルが現れたのかもしれないと、たくさんのピアニストが興奮し、追いかけるようになった。その後『Black Radio』からはリスナー方向に話題がシフトしていき、ピアニストとしてのフォロアーは減ったように感じていた。この今年の作品は、今までの発表作の中で一番聴いたかもしれない。ピアノの存在感が相当減っているが、アルバムとしての流れがとても良く、まったく飽きなかった。ピアニストとしては、コモンの『Black America Again』が、インパクトがあった。グラスパーにしか弾けないピアノ。
Daiki Tsuneta Millennium Parade
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92年生まれのトラックメイカーのデビュー作。社会的には移行期的混乱のゴミ溜めの中にいた印象のある今年、突然出てきた毒々しい花のような音楽。禁断のコラージュに魅了されると同時に、ミレニアム世代独特の退廃感に酔う。ファッション的に聴こえるかもしれないが、底力のある音楽人の確信的犯行。豊かな才能とその骨太さ、時代と向き合う強かさに、音楽人として心がプッシュされた。本人作のPVのセンスも面白い。ジャンルはどこに区分されるのかわからないが、ドラムは石若駿、ジャズリスナーにも聴いてほしい。
ジャズ・ピアニスト
2016年は、自身のバンド“Parallax”(パララックス)のライヴ盤『LIVE』(Meatone)、ヘヴィ・メタルのジャズ・カヴァー・プロジェクト第二作『New Heritage Of Real Heavy Metal 2 / NHORHM』(Apollo Sounds)を発表。
http://hitominishiyama.net/