『生誕150年 横山大観展』レポート 「富士」からレア作品まで、見どころたっぷりな“オール大観”!【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.28 岩本恵美(フリーランサー)

レポート
アート
2018.4.22

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美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、フリーランサーの岩本恵美さんが、東京・竹橋の国立近代美術館で開催されている『生誕150年 横山大観展』の見どころについて語ってくださっています。

2018年は、近代日本画壇の巨匠・横山大観(1868-1958年)生誕150年、没後60年となる節目の年。各地で大観展が開催される中、東京・竹橋の国立近代美術館でも『生誕150年 横山大観展』が幕を開けた。展示作品が“オール大観”という、見ごたえたっぷりの本展。大観の代名詞ともいえる「富士」を画題にした代表作の数々はもちろんのこと、公開される機会があまりなかった明治期の作品、久々のお目見えとなるレア作品を通して、大観の知られざる側面にも光を当てる。

さまざまな試みに挑戦した明治期

展示は「『明治』の大観」「『大正』の大観」「『昭和』の大観」の3章から成る構成。

第1章で紹介される明治期の作品からは、大観が新しい表現に次々と挑戦していたことが見て取れる。

《迷児》(1902年)

《迷児》(1902年)

たとえば、《迷児》(1902年)では、伝統的な画題に独自のエッセンスを加えて刷新。孔子、釈迦、老子を描く三教図にキリストと幼子を加えて描いた。聖人らに囲まれた幼子は、信仰が揺らぐ当時の日本を表しているのだという。西洋画のデッサンを意識し、木炭で描いているのも、西洋文化がどっと入ってきた明治ならではの時代背景を感じさせる。

また、《ガンヂスの水》(1906年、シーピー化成株式会社蔵)では、菱田春草とともに研究した朦朧体で水の流れを表現。見方によってはうねる草のようにも見え、大観が朦朧体による表現に試行錯誤したことがうかがえる。

こうした新たな表現方法への挑戦とともに、ユニークな画題にも取り組むところに、大観のフットワークの軽さを感じずにはいられない。

《瀑布(ナイヤガラの滝・万里の長城)》(1911年頃、佐野東石美術館蔵)

《瀑布(ナイヤガラの滝・万里の長城)》(1911年頃、佐野東石美術館蔵)

中でも印象的なのが、《瀑布(ナイヤガラの滝・万里の長城)》(1911年頃、佐野東石美術館蔵)だ。一見すると普通の金地屏風に見えるが、左隻にナイヤガラの滝、右隻に万里の長城という、国を超えた名所が描かれている。大胆な組み合わせと構図にはもちろん驚かされるが、平塗りが当然の群青や緑青の岩絵具をたらし込みのようにのせており、技法においても私たちを驚かせてくれる。

温故知新な作品で魅せた大正時代

この時期、先人たちの絵に学びながら彩色画も水墨画も描いた大観。明治末から大正にかけては、琳派の影響もあり、金屏風を意欲的に手がけたという。

《秋色》(1917年)や《群青富士》(1917年頃、静岡県立美術館)は、そんな大観の琳派への傾倒ぶりがよく表れている作品だ。

《秋色》(1917年)

《秋色》(1917年)

《秋色》では、琳派によく用いられる槇や蔦のモチーフが登場。一方で、左隻の鹿たちが人間味あふれる表情で描かれているのは、大観ならではの表現といえるだろう。

《群青富士》(1917年頃、静岡県立美術館)

《群青富士》(1917年頃、静岡県立美術館)

また、《群青富士》の鮮やかな色使い、雲海から頭を出す富士のデフォルメされた形にも琳派の影響を感じずにはいられない。

大観といえば富士だが、特に大正時代の作品の富士はこのようにデフォルメされたものが多い。

《霊峰十趣》シリーズ

《霊峰十趣》シリーズ

《霊峰十趣》の一連の作品でも、富士の形は単純化されている。そのうち、本展では「春」「秋」「夜」「山」の4作を展示(展示期間:5月6日まで)。富士という同一の画題を季節や時間で描きわけている大観の多様な表現にぜひ注目してほしい。

また、会場を別にして一挙公開されている重要文化財の《生々流転》(1923年、東京国立近代美術館蔵)は、大観の水墨技法の集大成ともいえる作品。水の一生に自らの人生観を重ねて描いた40メートル以上の超大作は圧巻だ。

《生々流転》(1923年、東京国立近代美術館蔵)

《生々流転》(1923年、東京国立近代美術館蔵)

円熟を迎えた昭和、大作が目白押し

「東に大観、西に栖鳳」といわれ、昭和ともなると大観は名実ともに日本画壇を代表する画家となった。

その実力は明治宮殿の調度品の制作を宮内省から依頼されるほどのもので、大観は《朝陽霊峯》(1927年、宮内庁三の丸尚蔵館蔵、展示期間:5月6日まで)を献上している。富士と日輪を国の象徴として羽織袴姿で描いたという本作。富士と日輪は金地に絶妙な色合いの金泥を重ねて描き、松の木々や山並みには大名家に伝わる由緒ある墨を用いたそうだ。大観の並々ならぬ意気込みが感じられる。

また、大観の代表作といわれるものの多くが生まれたのもこの時期。ローマ日本美術展に出展された《夜桜》(1929年、大倉集古館蔵、展示期間:5月8日〜5月27日)と、豪華絢爛な《紅葉》(1931年、足立美術館蔵、展示期間:5月8日〜5月27日)が並んで展示されるのは必見だ。

華やかな作品の一方で、草花など繊細緻密な描写の作品にも目を向けてほしい。

『生誕150年 横山大観展』展示風景

『生誕150年 横山大観展』展示風景

《野に咲く花二題(蒲公英・薊)》(1942年、展示期間:5月6日まで)には、よく見るとタンポポの綿毛まで丁寧に描き込まれている。

華美な装飾画もあれば、叙情的な繊細な表現もできる大観の表現の多様性に、ただただ感服するばかりだ。

『生誕150年 横山大観展』展示風景

『生誕150年 横山大観展』展示風景

『生誕150年 横山大観展』の東京展は国立近代美術館にて、5月27日まで開催。その後、6月8日〜7月22日に京都にて開催される予定だ。大観イヤーとなる今年だからこそ実現した展示作品の数々。大観の表現の幅広さをぜひ自身の目で確かめてみてほしい。

イベント情報

『生誕150年 横山大観展』
【東京展】
会期:2018年4月13日(金)~5月27日(日)
会場:東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園)
開館時間:10:00~17:00(金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし4月30日は開館)
【京都展】
会期:2018年6月8日(金)~7月22日(日)
会場:京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町)
開館時間:9:30~17:00
(6月8日~6月30日の金・土曜日は20:00まで、7月6日~7月21日の金・土曜日は21:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし7月16日(月)は開館、7月17日(火)は休館)
観覧料:一般1,500(1,300)円、大学生1,100(900)円、高校生600(400)円
※( )内は前売りおよび20名以上の団体料金、いずれも消費税込
※中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料
それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障がい者手帳等を提示
公式サイト:http://taikan2018.exhn.jp/
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