維新派最後の野外劇『アマハラ』会見レポート《前編》
維新派『アマハラ』メインビジュアル。撮影場所は今回の公演地の平城京跡地。
「格好を付けた言い方ですが、私たちの手で終わらせようと」(山﨑)
主宰・松本雄吉を6月に失い、10月に上演する野外公演『アマハラ』を最後に、劇団を解散することになった維新派。本公演に向けて、劇団員の平野舞&金子仁司、長年楽曲を担当した内橋和久、劇団制作の山﨑佳奈子、編集者の小堀純(司会)が出席した会見が、8月19日(金)に大阪市内で行われた。東京や東海エリアの記者も含めて20名以上が駆けつけ、作品のみならず解散のこと、松本雄吉のことにも質問が及び、なんと1時間半近い長尺となった会見。その模様を、前後編にわけてレポートする。
まず今回の作品は、2010年に岡山県・犬島と埼玉、翌年にはシンガポールでも上演した『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』がベース。意外にも、結成して46年目も経つというのに、過去作品の改訂上演はこれが初めてのことになる。
山﨑 今回の公演は《東アジア文化都市》という文化事業の、コアイベントの1つとして話をいただきました。松本は20年以上前に平城京跡に出会ってから「いつかここで野外公演をしたい」と思っていたのでお引き受けして、1年以上前から準備を進めていました。維新派は松本が飽き性だったこともあって、再演をしたことがなかったんです。でも今回は《東アジア文化都市》の趣旨や、平城京という場所を考えた時に(アジアの海を舞台にした)『台湾…』がテーマとしてつながる部分があるんじゃないかと。とはいえ再演と言いながらも、松本は「新作と見まがうばかりに書き換える」と豪語していました。
『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』犬島公演より [撮影]井上嘉和
昨年の『トワイライト』公演の直後には平城京跡地まで下見に行き、劇場の設営場所を決定。それと同時に、初演の「流木でできた島々」とは趣を変え、巨大な廃船をイメージした舞台美術のプランも固めていた。
山﨑 平城京はとても広い所なんですけど、どこにどういう風に劇場を構えるか…つまりお客さんにどういった風景を見せたいか、舞台に立つ我々はどこに立ちたいかということを、松本は考えました。奈良市の人が勧めて下さったのは別の場所だったんですけど「そこは魅力がない」と言って、一人でズンズン歩いていって「(真正面に生駒山が見える)ここやな」と。やっぱり奈良で公演をするなら、生駒山に沈む夕陽を(お客様に)見せたいというのがあったので、そうやって決まりました。舞台を船にしたのは、松本がポツポツと話していたことを思い出すと、平城京には遣唐使や鑑真が(船を使って)来日したり、シルクロードの終着点になることから、奈良は大陸に向かって開かれてるのでは? と言ってて。そういう意味で、海のない奈良に船があるというのは、歴史的にも造形的にも面白いんじゃないか? という発想があったのではと思います。
しかし作品の内容に手をつける前に、ガンが判明。病床で少しずつ構想を練っていたものの、遺されたのはシーンの順番を記した構成表と、アイディアを書き留めた2冊の創作ノートだけで、新しいシーンの脚本などはまったく手付かずのままだった。そこで初演に出演した平野・金子などの役者たちを中心に「演出部」を結成。創作ノートや生前に交わしたメールの言葉などを参考に松本の意図を読み解いた上で、芝居を構成する10シーン(予定)の脚本や振付を各役者が作り、さらに平野が作品全体を取りまとめる形にしたという。
金子 演出部の人間がそれぞれのシーンを作った上で、芝居全体のことをどう筋を通していくかを考えている所です。個人的に強く思うのは、前回とは劇場の形が違う、(公演の)場所が違うということ。前回犬島でやったことを、平城京の船の形(の劇場)でやるということが、松本さんの遺した大きな演出意図だと思うので、そこを一番に考えています。
平野 松本さんはこの作品をどう新しくしたかったのか、どういう目線をそこに新しく盛り込んで行きたかったのかを感じながら今作ってるんですけど、予想以上に「どういう風にしようと思ったんだろう?」「松本さんならどういうひらめきでやったんだろう?」と。そういう時は“松本ノート”を開くのですが、やっぱり探れば探るほど、そこには広大な大地が広がっているという(笑)。ただその中で、特に繰り返し何度も出てくる言葉があって、それが「旅」と「ここはどこですか」。これは初めて出てきた言葉ではなくて、今までずっと私たちが松本と接する中で、常に持っていた言葉なんです。このワードがノートにも何度も書かれていたので、やっぱりそれがこの作品のキーワードなのかなと思っています。
記者会見に出席したメンバー。(左より)内橋和久、山﨑佳奈子、平野舞、金子仁司
さらに音楽担当の内橋は、「新作と見まがうばかりに」という松本の言葉を受けてか、サウンド面も初演とはいろいろと変化させるという言葉が。
内橋 新しく作るシーンは当然新曲ですし、前回に続いて使うシーンに関しても、この劇場でこの場所だとどうなるか? という意味では変えていきますので、まったく同じものにはならないと思います。ただ松本さんには、ちょっと冒険的な…「これ無理かもしれないけど、どんな反応するか見てやろう」みたいな(曲の)投げ方を結構してたんですけど、今回はしません。役者も「これ、違うんじゃないですか?」とか(平野・金子に向かって)言いにくいやろ?(笑)それがわかってるから、すごく気をつけて作ろうと思います。
ちなみに金子は脚本を書くために、松本が愛用していた表計算用のソフトウェア「Excel」を使い始めたそうだが、それによって大きな発見があったとも。
金子 維新派の台本って非常に特殊で、横書きで言葉が整然と並んでいて、かつ(舞台の)図面がそこに差し込まれているんですけど、Excelを使うとすごく理にかなってるんですよ。やっぱりコピペの能力が半端じゃないので、「ここいらない」ってなった時にバッと削除したら、カンと(前に)詰まっていく。そういう具体的な作業を通じて、松本さんが“空間”をどう見ていたのか…「あ、こんな考え方をしてたんじゃないか」という発見があります。あと松本さんの台本ってイメージを伝えるものじゃなくて、説明書やったんやなあと。役者に対してというのもあるけど、まず自分に対する説明書。一度書いてみることで自分のやりたいことがわかって、さらに実際に(演出を)やってみて「こういうやり方もあるなあ」ということがわかるという、そういう台本だったんだと思いました。
内橋 ソフトウェアによってできること・できないことは違うから、その“できること”から生まれてくる発想というのが絶対ある。松本さんがExcelを使っていたのは、彼のやり方に合ってたんやと思うけど、Excelに書かされる何かもあったと思います。
『アマハラ』舞台美術の模型。広大な野原という会場の特徴を活かし、あえて床板を張らずに草地をむき出しにする場所もあるそうだ。
また解散の決定や今後については、記者の間からも惜しまれる声が次々に上がったが、以下の様なコメントが出された。
山﨑 松本が維新派で担ってきた役割は、単なる演出にとどまらない範囲のものだったので、最初はこの公演をすること自体が難しいんじゃないかという意見の方が強かったんです。でも松本が生前から準備を進めていて、しかも平城京跡ということにすごく思い入れがあって。46年間という長い時間の中で関わってきた人たちもたくさんいるので、松本が亡くなったから自然に終わるということではなく…格好を付けた言い方になりますが、私たちの手で終わらせようということになりました。この作品は今海外から公演オファーを受けてまして、実現すれば解散は来年11月以降になると思います。それがなくなれば、本当にこの公演が終わったら解散ということになります。
平野 一ファンとしては松本が築いた「ヂャンヂャン☆オペラ」というスタイルを、少しずつ形を変えながらでも続けてほしいとは思うんですが、松本の手を離れたら、それは果たしてヂャンヂャン☆オペラと言えるのか? と。今まで自分たちが役者として考えながらやってきたことは、松本雄吉の考え方や世界の見方を軸にしていたし、やっぱり松本さんがいないヂャンヂャン☆オペラは、自分の中では考えられないというのが正直な気分です。
先日、実際の舞台に近い広さを使って行われた稽古の様子。
後半は公演の話題からは少し離れて、闘病生活から思い出話まで、松本雄吉個人について語られた部分を紹介する。
■日時:2016年10月14日(金)~24日(月) 17:15開演
※雨天決行(台風などの荒天の場合は中止)。屋台村は16:00から開場。
■会場:奈良・平城京跡(第二次朝堂院跡地)特設会場
■料金: 一般5,500円 25歳以下3,000円
■発売:8月28日(日)12時より劇団WEB・電話(06-6763-2634/12:00~18:00)にて受付。
■音楽・演奏:内橋和久
■出演:維新派、ほか