チョコレートと花言葉と星座について

コラム
2017.2.20

 拝啓

 

 チョコレートは嫌いではないと、お伝えしていたつもりだったのですが。あるいは伝え忘れていたかもしれませんね。あなたのことですから僕が甘いものを好まないだろうと、気を使ってくれたのでしょう。余計な心配をさせてしまってすみません。この際だからはっきりと言っておきますが、僕は甘いものが大好きです。なので安心してチョコレートを送って頂いて結構ですよ。バレンタインデーは少し過ぎてしまいましたがあなたからのチョコレートならいつでも受け付けていますので。

 

 ところでバレンタインデーといえば、女性から男性へ想いを込めたチョコレートを贈り愛を告白する日だと認識していましたが、今となってはこのバレンタイン観はいささかクラシックなようですね。義理チョコは言わずもがなですが、今となっては友達同士で贈り合う友チョコ、男性から女性へ贈る逆チョコなんかも一般的なようです。

 

 いずれにせよ、物に祈りや願いを込めて他人に贈るって、とても素敵な行為ですよね。愛とか、恋とか、好きとか、嫌いとか、ずっといっしょにいようねとか、あんたが憎いとか、とにかくどんな想いにせよ形のないものを形ある物に込めるっていうのはすごくロマンティックで美しい行為だと思います。

 

 僕はこの「形のないものを形あるものに込める行為」が人の営みの中でも特に好きです。

 例えば花言葉がそうです。それこそ愛だの、恋だの、好きだの、嫌いだの、私を想ってだの、あなたは美しいだののメッセージを色とりどりの花に込めているわけですから。有名な花言葉には、バラの「愛情」やオリーブの「平和」なんかがありますね。

 僕が好きな花言葉は勿忘草の「私を忘れないで」です。いつだったか、片思いをしていた人が遠くに行ってしまう時に祈りを込めて勿忘草を贈ったことがありますが、その人は特に花に興味があるわけではなかったので「花か……」と宝くじで300円が当たった時みたいな中途半端な反応をしていました。もちろん花言葉も通じなかったので300円をあげたほうがましだったなと今では思います。

 ところで野菜にも花言葉があることを知っていますか? 例えば、ごぼうの花言葉は「私に触れないで」です。どんなプレゼントでも僕は喜んで受け取りますが、ごぼうだけは贈ってほしくないですね。

 

 

 夜空に輝く星々にも、人の想いがたくさん込められています。流れ星を見たら多くの人が願いごとをするし、死んでしまった人を「星になった」なんていうこともありますよね。また、昔の人は星と星とを繋いだ星座にもたくさんの物語を見出しました。

 ちなみに僕はやぎ座なんですが、やぎ座のやぎの絵は人魚みたいに下半身が魚で描かれることが多いですよね。なんでか知っていますか? それはギリシャ神話の逸話で、普段はやぎの姿をしている牧畜の神様が、突然現れた怪物から川へ飛び込んで逃げようと魚に変身したものの、慌てていたため下半身しか変身できなかった姿を星座にしたからなんです。神様なのにかわいらしいですね。

 僕も数年に一度、着替え忘れて下半身だけパジャマを履いたままで外出してしまうことがあります。そういう時、僕はしれっとユニクロに入ってスキニージーンズを買って着替えますが、これは特に神話になっていないですね。

 

 そうだ。手紙を書くこともまた、形のないものを形ある物に込める行為ですよね。幾分直接的ではありますが、伝えたい言葉を紙に込めているわけですから。

 この手紙を通じてあなたにも僕の想いが伝わっているといいなと思います。

 心配なので、念のため最後に書き記しておきますね。

 

 「チョコレートがほしいです」

 

 ……僕の想いは十分伝わったでしょうか?

 それでは。

 いつかまた宇宙のどこかで。

 

敬具


チープアーティスト・しおひがりによる連載『メッセージ・イン・ア・ペットボトル』。毎回、この世にいる"だれか"へ向けた恋文のような、そうでないような手紙を綴っていきます。添えられるイラストは、しおひがり本人による描き下ろし作品です。 過去の手紙はこちらからお読みいただけます。

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