小池修一郎演出ミュージカル『グレート・ギャツビー』を主演の井上芳雄が大阪で大いに語る
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『グレート・ギャツビー』合同取材会にて(撮影/石橋法子)
20世紀のアメリカ文学を代表する最高傑作のひとつ『華麗なるギャツビー』が、井上芳雄主演でミュージカル化される。宝塚歌劇団で世界初の”ミュージカル化”に成功した小池修一郎が、井上のために脚本・演出を刷新、名作に新たな息吹をもたらす。音楽は、新作『BANDSTAND』でブロードウェイ・デビューを飾るリチャード・オベラッカーの全曲書き下ろしだ。映画版ではロバート・レッドフォード、レオナルド・ディカプリオらによって演じられてきたジェイ・ギャッツビー役の井上芳雄が大阪で開かれた合同取材会で、作品への意気込みを語った。
「ギャツビーがどんな結末を迎えるのか、僕も早く教えて欲しい(笑)」
ーーはじめに、作品との出合いからお聞かせください。
まだデビューする前の高校生ぐらいのときに、91年に宝塚歌劇団雪組で上演された杜けあきさん主演『華麗なるギャツビー』を映像で見たのが最初でしたね。その頃はミュージカルならなんでも観たいなという時期で、小池先生の存在もまだよく知らなかったのですが、この作品で菊田一夫演劇賞を受賞されたように、とても評価の高い作品だということは福岡にいても知っていたので、宝塚にもこんなミュージカルを作る方がいるんだなという驚きがすごく印象的でしたね。
ーー作品のどんな点に魅力を感じましたか。
宝塚版を観て思ったのは、音楽が素晴らしく杜さんがカッコいいのはもちろん、とてもミュージカルに適した作品だなと。ミュージカルってドラマチックであった方がいいんですよね。だから、ちょっと怪しげなバーに暗号を告げて入っていくと、怪しげな男役の踊りが始まるとか。小池先生の演出が素晴らしかったというのもあると思うのですが、1920年代のアメリカという時代の雰囲気もすごく良い。男のひとはカッコよくスーツを着こなして、富裕層のひとが車に乗り始めたり、題材としてミュージカルに合っているなと思いました。何より、物語がすごくロマンチックです。一途に相手を想い続ける男のひとは非常に女性受けが良いというか、そういう役を演じるとやっぱり喜ばれるので(笑)。そういう色んな要素を兼ね備えている作品だと思いました。
井上芳雄
ーー過去にレオナルド・ディカプリオらが演じてきた、ギャツビー役についてはいかがですか?
俳優にとっては、誰もがやりたいと思うような役なので光栄ではあるんですが、実際どう演じればいいのか、分からない。ただ、取り繕ってもしょうがないというか、何かを意図的にまとうとバレちゃうような役だと思うので。宝塚版では杜けあきさんの背中がすごく大きくて、女性のはずなのにこんなにも哀愁みたいなものが出せるんだと、今でもあの有名な主題歌「朝日が昇る前に」とともに覚えている。そこには肩パットを越えた何かがありました(笑)。同じことはできないですけど、僕も自分が持っているものや経験してきたことが何かしら背中から滲み出るはずだと信じて、やるしかないですね。
井上芳雄
ーー本作はギャツビーとデイジーの愛を軸に、男女の価値観の違いも見所のひとつかなと思います。
そうですね。少し乱暴な言い方をすると、「男の代表がギャツビー」で「女の代表がデイジー」だと思うんですね。男のひとはロマンチックで周りが見えなくなるぐらい愛し続けて、どこかで必ず相手が自分のところへ帰ってくると信じている。女のひとは…これ言い方が難しいな(笑)。怒られるかもしれませんが、「どっちを選んだ方が得なのかな?」というのが常にあって、そこを男には悟られないようにしながら、最終的にはとても現実的な決断をする。あと、作家であるフィッツジェラルドと奥さんのゼルダが、主人公たちのモデルになっているとも聞いたことがあるので、そういう意味でも興味深い二人ですよね。宝塚版では主人公が愛されていたというトップスターを活かした小池先生独自の結末が描かれていましたが、原作の結末はまた少し違うので。今回はどっちなのかが、自分の中でも大きな問題なので早く知りたいですね。
井上芳雄
ーー東京の製作発表で披露された楽曲「夜明けの約束」は、謎めいたギャツビーの内面が垣間見えるような歌唱でした。
今手元にある唯一の曲で、恐らく宝塚版の主題歌「朝日が昇る前に」に値するような曲になるんだろうなと思います。確かに、ギャツビーはデイジーと再び出会うという目的のために突き進んできたけれど、それが全部良かったとは思っていなかったんだなと、歌を通して思いました。やっぱり、たくさんのひとを傷つけて来たし、時にはひとの命を奪ったこともあったのかもしれない。でも悪いと思いながらも、その目的が達成されようとしている今、喜びと共に「自分は許された」とちょっと思っている。僕たちが再び出会って、これから愛し合えると言うことは、やっぱり神様が僕たちを祝福してくれているんだって。<さざ波が祝っているようだ♪>という歌詞があるんですけど、現実にはどうであれ、どこかで人間は許されたいと思っていると思う。それはギャツビーも同じなんだなと。何と言うか、歌っていてすごく切なくて苦しい気持ちを感じていました。客観的に見ても、すごく胸に迫るものがあると思います。
井上芳雄
「積み重ねてきた経験が実を結ぶよう、小池先生の期待にも応えたい!」
ーー製作発表では「これまでの集大成となるような作品にしたい」という趣旨のコメントが印象的でした。それは名作であると同時に、初舞台で出会った小池先生の演出だからという思いもあるのでは。
そうですね。まず、この作品は宝塚版が小池先生にとっての代表作のひとつであると思うし、普通だったら代表作をもう一度やり直す必要はないと思うんですよ。音楽も人も趣旨も変えて上演するのはとてもリスキーなことだし、もしかしたら名前を汚してしまうかもしれないと僕は思うんですけど。でも小池先生は、同じ作品を何度でもやり直せる。
『ロミオ&ジュリエット』でも2パターン、『エリザベート』では4、5パターンはやっているので。演出家が普通やりたがらないようなことを、むしろ意欲的にやっていくのが小池先生の特徴のひとつだと思います。だからこそ、今回は芳雄でやるって決めてくださったことに、自分としては大きな意味があるから。自分が積み重ねてきたものが、ここで花開いてひとつの実を結びたいという意気込みはありますね。ただ、最近は「井上くんは色んな舞台で経験を積んで、僕が一緒にやるのがプレッシャーです」という、妙なプレッシャーのかけ方をしてくるので(笑)。これはどう受け止めたらいいのかなとも思うんですけど、恩を仇で返さないように期待には応えたいですね。
井上芳雄
ーー事実、近年はミュージカル俳優の枠に留まらないご活躍ですが、やはりミュージカルの現場はしっくりきますか?
そうですね。一番好きでずっとやり続けていることのなので、そういう意味ではホームグラウンドという気はするんです。でも自分が単純なのか、他のジャンルで素晴らしい経験をさせてもらうと、結構そこに浸っちゃう。先日までKERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんの『陥没』という舞台の本番だったのですが、やっている間はもうKERAさんに夢中(笑)。なんだこのひとは! 何をどう考えるとこうなるんだ?って。ストレートプレイやコメディのお芝居に夢中でハマった後に、久しぶりにこっちに帰ってくると「あれ?」となる。何だこのやたら歌い出すひとたちは?って。自分もそうだったんですけど、毎回海外ロケから帰って来た人みたいにノッキングを起こすんですよ(笑)。でもそれは悪いことではなくて、一回その違和感を飲み込んだり、自分を貫き通したりすることで、またちょっと自分のミュージカルでのやり方も変わってくるだろうし、また新しい価値観が生まれたりするので。毎回その繰り返しですね。今回もミュージカルは『エリザベート』以来で久しぶりなので、どう感じるのかなと楽しみですね。
井上芳雄
ーーチラシで拝見する限り、ビジュアル面も見応えがありそうです。
宣伝美術のビジュアルにも小池先生はこだわっていて、今回は韓国で『モーツァルト!』を演出されたときにビジュアルを担当されたカメラマンのChagoonさんに撮っていただいたんですね。だからちょっと、韓流ぽい仕上がりで(笑)。修正のテクニックなのか、何なのか、最初は今よりももっと”盛り具合”がすごくて「これ俺なのかな?」と、まずそこに驚きました(笑)。でも綺麗であることに越したことはないですし、作品の世界観をすごく上手く表現されていますよね。今後、小池先生の作品はみんな彼に撮らせるんじゃないかなと思うぐらい、素敵なカメラマンです。
井上芳雄
ーー衣装や美術も楽しみです。
美術はまだこれからだと思うのですが、衣装の生澤美子さんは『エリザベート』でも見応えある衣装を作ってくださった方ですし、今回は1920年代という時代感もありますよね。ある程度大人の男と言われるためには、スリーピースのスーツをしっかりと着こなす。男性としてはハードルがあるというか、スーツが似合う体にならないとなと思っています。
井上芳雄
ーー最後に改めて、意気込みをお聞かせください。
名作中の名作『グレート・ギャツビー』をやらせていただくことになりました。小池修一郎先生の宝塚時代の代表作のひとつではありますが、今回は音楽もブロードウェイの作曲家さんで一新されますし、小池先生もほぼ新作として演出をされると思います。また、日本とアメリカの才能がコラボレーションするという意味でも画期的な作品だと思うので、日本の新たなスタンダード作品になれるよう取り組みたいと思います。
井上芳雄
取材・文・撮影:石橋法子
■音楽:リチャード・オベラッカー
■脚本・演出:小池修一郎
■出演:
井上芳雄/夢咲ねね/広瀬友祐/畠中洋/蒼乃夕妃/AKANE LIV/田代万里生
本間ひとし/渚あき/イ・ギトン/音花ゆり 他
■会場:日生劇場 (東京都)
■日程:2017年5月8日(月)~5月29日(月)
■一般発売:2017年2月11日(土)
■会場:中日劇場(愛知県)
■日程:2017年6月3日(土)~6月15日(木)
■一般発売:2017年2月25日(土)
■会場:梅田芸術劇場 メインホール(大阪府)
■日程:2017年7月4日(火)~7月16日(日)
■一般発売:2017年3月11日(土)
■会場:博多座(福岡県)
■日程:2017年7月20日(木)~7月25日(火)
■一般発売:2017年5月13日(土)