バッティストーニがメディアアーティストの真鍋大度と組む進化形のオペラ『オテロ』9月上演
真鍋大度とアンドレア・バッティストーニ
イタリアの生んだ天才指揮者、アンドレア・バッティストーニがこの秋、新たな試みに挑む。メディアアーティストの真鍋大度(ライゾマティクスリサーチ)とのコラボレーションにより音楽と映像を融合させて、ヴェルディの最高傑作『オテロ』(演奏会形式)を振るのだ。さらにこの機会に、主に10代の子供を対象とし、バッティストーニ自身がレクチャーを行う「初めての演奏会オペラ」も開催される。音楽と映像による重厚な心理劇『オテロ』がどのような形になって我々の目の前に現れるのか。このほど会見が行われた。
真鍋大度とアンドレア・バッティストーニ
■単なる「演奏会形式」ではないコンサートに
バッティストーニは現在首席指揮者を務める東京フィルハーモニー交響楽団とともに2015年から演奏会形式のオペラ・コンサートとして2015年に『トゥーランドット』、2016年は『イリス』を上演。いずれもクラシックファンを沸かせる名演として喝采を浴びてきた。2017年9月に行われる演奏会形式の『オテロ』はバッティストーニと東フィルによる3回目のオペラ・コンサートとなる。会場は東急文化村のオーチャードホール。文化村では1990年代から「先駆けて演奏会形式のオペラを上演してきた」(同西村友伸代表取締役社長)ことから、今回バッティストーニと東フィルに打診し、オーチャードホールでの上演実現に至ったものだ。
東急文化村 西村友伸代表取締役社長
加えてこの『オテロ』では、メディアアーティストの真鍋大度(ライゾマティクスリサーチ)が映像を担当する。そもそもこれまで行われたバッティストーニと東フィルによるオペラ・コンサートは単なる「演奏会」ではなかった。「『トゥーランドット』では照明やエキストラ俳優、衣装に工夫をし、『イリス』では浮世絵を投影して美術と音楽を繋ごうと試みた。常に新しいものを感じてもらい、新しい音楽の聞き方を提案している」(バッティストーニ)。
そうしたなかで真鍋を迎えて行う3度目のオペラ・コンサート『オテロ』に対し、バッティストーニは「新しい演出という面では飛躍的な進歩を遂げるに違いない。音楽の視覚的な部分や感情表現を映像がより鮮明に見せてくれるだろう。今まで見たこともないような公演になる。音楽に対する敬意と、音楽のために奉仕するということを忘れず、芸術的に価値の高いものをつくりあげていきたい」と抱負を語った。
アンドレア・バッティストーニ
■映像は「第2のオーケストラ」
そして指揮者が「第2のオーケストラになっていただきたい」と期待を寄せる真鍋は、ダンスやライヴなど様々な場面で映像表現をしてきた実績を持つが、オペラの映像担当は今回が初めてとなる。「バッティストーニにどのようなイメージを持っているか、どのようなことをやりたいかなど取材をし、その中で方法を模索していく」と話す。映像制作は、例えば人の動きや視線、体重のかけ方などのデータを取り、それらを数値化してヴィジュアルに変換する手法で行うなど様々なアプローチがあるというが、今回は心理劇でもあるため「脳のスキャンデータを撮ってみたいが可能かどうか。今回は専門家と組むことになるだろう。この仕事が終わった時、オペラの楽しさ、見方がわかるようになっていれば」(真鍋)と語っている。
真鍋大度(ライゾマティクスリサーチ)
■「オテロ」をよく知る歌手をキャスティング
出演する歌手はオテロにフランチェスコ・アニーレ、デズデーモナにエレーナ・モシュク、イアーゴにはイヴァン・インヴェラーディがキャスティングされている。「イタリア・オペラの伝統的な歌い方を身に着け、『オテロ』を非常によく知るアーティスティックな歌手」として選ばれたものだ。バッティストーニは、オテロ役のアニーレについて「力強く、暴力的な表現のあるこの役を歌うに足る耐久力の持ち主」、デズデーモナのモシュクを「天国的な純粋さ」、そしてイアーゴ役のインヴェラーディは「歌唱力はもちろん、役者としての才能の素晴らしさ」と、それぞれの特徴を挙げている。彼らの歌声、そして演技もまた楽しみだ。
■映像を通して「音楽への扉」を開く試み
このコンサートの期間中の9月9日(土)には若年層を対象とした「初めての演奏会オペラ ~イタリア・オペラ編~」も開催される。これはオペラやクラシックファンの裾野を広げようという試みで、バッティストーニが日本で初めて行う教育プログラムでもある。ヴェルディ『オテロ』『椿姫』やプッチーニ『トゥーランドット』などイタリアを代表する有名な曲を聞きながら、マエストロ自らが解説をするというもの。さらにここでも真鍋が映像を担当するなど、大人でも楽しめそうな内容だ。
このプログラムについてバッティストーニは「今の若い人達はヴィジュアルやイメージが非常に大切。最新技術を通して若い人達を音楽と劇場に近づけ、視覚的な面からオペラに興味を持ってもらいたい。新しい音楽への扉を開くきっかけになれば」と話す。
様々な話題を巻き起こしてきたバッティストーニの演奏会形式のオペラ・コンサート。常に進化する意欲的な試みの『オテロ』がどのような公演になるのか、期待が膨らむ。
左から東急文化村西村友伸代表取締役社長、真鍋大度、アンドレア・バッティストーニ、ソニー音楽財団軽部重信専務理事、東京フィルハーモニー交響楽団工藤真実常務理事
取材・文・写真:西原朋未
全4幕(原語上演・字幕付き)
■会場:Bunkamuraオーチャードホール
■映像演出 ライゾマティクスリサーチ
オテロ フランチェスコ・アニーレ
デズデーモナ エレーナ・モシュク
イアーゴ イヴァン・インヴェラーディ
ロドヴィーコ ジョン ハオ
カッシオ 高橋達也
エミーリア 清水華澄
ロデリーゴ 与儀 巧
モンターノ 斉木健詞
■合唱:新国立劇場合唱団
■児童合唱指揮:掛江みどり
■児童合唱:世田谷ジュニア合唱団
■管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
■会場:Bunkamuraオーチャードホール
■出演:木下美穂子(ソプラノ)、村上敏明(テノール)、上江隼人(バリトン)、東京フィルハーモニー交響楽団
■映像演出・お話:真鍋大度(ライゾマティクスリサーチ)
■公式サイト:http://www.bunkamura.co.jp