生きていることの実感の全て 話題のガールズバンド・リーガルリリーのワンマンを見た
リーガルリリー
リーガルリリー ワンマンライブ『ムスタング vol.1』
2017.3.31 下北沢シェルター
年度末の金曜日の下北沢シェルターは文字どおり立錐の余地もない満員の状態で、今最もリアルな言葉と音を発する10代のガールズバンドを待ち受けていた。ここにいる観客のほとんどは、おそらく『関ジャム 完全燃SHOW』で蔦屋好位置がリーガルリリーを高く評価したり、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのトリビュートアルバム『AKG TRIBUTE』に彼女たちが「ムスタング」のカバーで参加しているというインフォメーション以前から注目している層なのだと思う。かけがえのないバンドが登場したことへの期待感と緊張感を同世代の女の子も、すこし年上の社会人も、女子も男性も固唾を飲んで、その登場を待つ。
リーガルリリー
拍手で迎えられた3人はおもむろに「ジョニー」を奏で始める。映画『ジョニーは戦場に行った』をモチーフにしていると思しき歌詞は、<ばかばっかの戦場>と、自分たちが今いるシーンを冷淡に見つめながら、自分たちの居場所は自分たちが鳴らすことでしか築けないことを少し切な苦しい声で歌う、たかはしほのか(Vo、Gt)の堂々とした佇まいに息を飲む。思いの純度がUSオルタナ直系のギターサウンドを必然的に求めたような自然さだ。そのまま1stミニアルバム『the Post』の曲順通り「ぶらんこ」。シューゲイザー・テイストもあるギター、メロディアスに“歌う”白石はるか(Ba)のフレーズも洗練されている。そしてエンディングに向かい全員で轟音を奏でる総力戦の凄まじさ。冒頭で一気に心臓を掴まれたような苦しさだ。普段はなるべく開けないようにしている自分の本心。それをどんな年齢、立場、職業、性別も問わずに剥がしていくような力がリーガルリリーにはある。
リーガルリリー
MCでたかはしは、今日のワンマンまで200本近くのライブに出演し、ようやくここに立てたことを素直に感謝していた。そして「私たちにはCDとライブしかないので」ということを強調しているように思えた。それは裏を返せば音楽のみで勝負していくという、彼女にしてみれば当然のことを改めて明確にしておく必要があったのかもしれない。でも、3人のやりとり自体はほのぼのとしていて、気負いは感じられない。
ブルージィでドライヴ感のある「高速道路」や、ディレイが効果的に使われた「教室のしかく」に続いて、今回のワンマンライブのタイトルがなぜ『ムスタング』であるか?についてたかはしが話す。曰く、愛機であるギターのことであり、車の銘柄で言う所のムスタングには“じゃじゃ馬”などの意味があることを説明。その一言一言が嬉しそうだし、なぜ彼女がそのギターを使っているのかもなんとなく伝わる。そしてアジカンのトリビュートのオファーを受けたとき、迷わず「ムスタング」を選んだといい、せっかくなので初披露します、とおなじみのギターフレーズで曲が滑り出す。前向きな意味で<僕らが世界を汚す>し、自分が正義だなんていう気はさらさらないが、<誰にも言えない いつかの誓い それだけが僕の誇り>という歌詞は、今のリーガルリリーにハマりすぎていて、良いカバーの域を超えて、ちょっとゾッとするほどだった。「ムスタング」から違和感なく新曲につながったのも、偶然かもしれないが見事だった。
リーガルリリー
そして多くの人がこの曲をきっかけにリーガルリリーを知ったであろう「リッケンバッカー」。疾走する8ビートのイントロに歓声が上がりつつ、冒頭の<きみは音楽を中途半端にやめた>という歌詞で、背筋に冷たいものを感じつつ演奏に見入る人、それでも演奏の熱に引っ張られて拳を上げる人。その反応は想像以上に人それぞれだった。エンディングに向かう切実な思いを加速させる渾身のギターカッティング、スピードを増すベース、ゆきやま(Dr)の怒涛のドラミング。やるしかないんだよ、そんな気持ちを<ニセモノのロックンロールさ 僕だけのロックンロールさ>と、嘯きながら覚悟を決める、このセンス。太刀打ちできない。でも涙が出るほど美しい。立錐の余地もないシェルターで、誰もが集中して3人の一挙手一投足を見つめるのは、怖いけれど自分の中にある真実から目を背けたくないからでもあるんじゃないだろうか。
リーガルリリー
本編ラストの前にたかはしは、「私はバンドをやるまで自分の役割というか、生きてる意味がなかった。ありがちな話ですが(笑)、曲を作ると二人が反応してくれる。生きるということがバンドをやるまでわからなかった。今は生きるということがわかったので、死ぬことも考えるようになったというか、なれた」という意味のことを話した。ああ、それがこの純度を生むのだな、いやいやありがちな話かもしれないが、ここまで音楽として自分を削って形にしているのはありがちな話じゃない。その話を受け取って、踏みしめるようなゆったりしたリズムの素直な曲である「好きでよかった。」が演奏された。なんだかオアシスの「Liveforever」みたいな大きさのある曲で、揺さぶられてしまう。
リーガルリリー
アンコール2曲を終えてもまだその場を去りがたい人たちに向けて、「またどこかで会いましょう」と、最後のあいさつだけ残して行った3人。夏には新しい音源がリリースされるらしい。音楽で生きていく、それが人生においてさらに重きを増していく中、リーガルリリーは何を歌い、鳴らすのか。興味なんて言葉では済まない強力な磁場が生まれつつある。
取材・文=石角友香 撮影=知衿
2017.3.31 下北沢シェルター
2. ぶらんこ
3. スターノイズ
4. 魔女
5. White out
6. こんにちは
7. 高速道路
8. 教室のしかく
9. ムスタング(COVER)
10. ジャーニーへ。
11. the tokyo tower
12. トランジスタラジオ
13. リッケンバッカー
14. 坂道の途中で
15. 好きでよかった。
[ENCORE]
16. 蛍狩り
17. はしるこども
『行っちゃう?! vol.2』~走り出すこども~
2017年7月12日(水) 新代田FEVER
OPEN 18:30/START 19:00
<出演>リーガルリリー、and more
OPEN 18:00/START 18:30
<出演>リーガルリリー、and more
OPEN 18:00/START 18:30
<出演>リーガルリリー、and more
■ゲスト■
・東京
Saucy Dog、paionia
・名古屋
ドミコ、高井伊吹
・大阪
さよならポエジー、+1組(後日解禁!)
2017.7.5 (wed) release!
BIOTOPE-002
■価格■
¥1,600-(税抜き)
■発売元■
Biotope records
■収録曲■
1.トランジスタラジオ
2.はしるこども
3.the tokyo tower
4.高速道路
5.教室のしかく
6.こんにちは。