特別展『茶の湯』をレポート この春、東京国立博物館で日本の美意識に触れる
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散り始めた桜の花びらが、まるで桃色の雲のように見える上野の森で、東京国立博物館 平成館 特別展『茶の湯』が始まった。茶の湯の展示が開催されるのは、東京国立博物館では実に37年ぶりとのこと。また現在、竹橋の東京国立近代美術館では、樂茶碗の展示『茶碗の中の宇宙』が開催されており、特別展『茶の湯』と『茶碗の中の宇宙』のいずれかの観覧券があれば、会場を行き来する無料シャトルバスを利用することができる。
東京の美術館で、2か所同時に茶の湯関連の大規模展が行われるとは、なかなか接することの叶わない日本の美意識に触れる絶好の機会だ。以下、特別展『茶の湯』の見どころをご紹介する。
国宝の曜変天目のほか、
織田信長や古田織部が所持した逸品が勢ぞろい
世界に3碗しか残っていないとされ、昨年末に4点目が見つかったと報道された曜変天目茶碗。本展では、現存する曜変天目の中でも一番華やかとされる静嘉堂文庫美術館所蔵の曜変天目 稲葉天目が出品される。曜変天目 稲葉天目の内部は宇宙の星々の瞬きを閉じ込めたようで、幻想的ですらある。こちらは5月7日(日)までの展示なのでお見逃しなく。
国宝 曜変天目 稲葉天目 東京・静嘉堂文庫美術館蔵(展示期間:4月11日~5月7日)
実は織田信長も曜変天目茶碗を持っていたらしいが、本能寺の変で焼失したと伝えられている。今回は、信長が所持した後、柴田勝家に拝領されたという重要文化財青井戸茶碗 柴田井戸が展示されており、高台から口縁部までの線が気持ちよくすんなりと伸びる、均整のとれた姿を見せてくれる。
また本展では、かつては曜変天目に次ぐ高い評価を与えられ、斑文が水面の油のように見える茶碗・国宝油滴天目も出品されている。豊臣秀吉の養子である秀次が所持した油滴天目のほか、武将でありながら千利休の弟子でもあった古田織部から松平不昧に伝来した油滴天目を目にすることができるのだ。その他、室町時代の美術書、『君台観左右帳記』にも登場する逸品がずらりと居並ぶ。
茶の湯の歴史を一通り学べる展示構成
室町時代、時の権力者たちは舶来の美術品「唐物」を飾り、茶の湯を力の象徴とした。中でも足利将軍家は、最高級の道具を手に入れてコレクションしていったという。戦国時代に入ると、武将たちがこぞって煌びやかな名品を欲しがり、安土桃山時代には千利休によって侘茶が成立。そして江戸時代から古典復興が起こり、近現代へと至る。
本展では、茶の湯の歴史を時系列で紹介しつつ、時と共にどのような茶人が現れ、またどんな道具が使われたのかが分かるようになっている。例えば足利将軍家の愛した唐物は、見た目に華やかなものが多く、千利休の時代になると装飾が排された道具になり、古田織部はダイナミックで動的な道具を好んだ。また、藤田香雪、益田鈍翁、平瀬露香、原三渓の四人が愛蔵した品が各2週間ずつ紹介され、近現代の数奇者の趣向を知ることができる。
茶人の好みは人それぞれで正解はない。そのような幅広い価値観が成立するのは、茶の道の懐の広さゆえだろう。また、茶道の諸流派は、武将たちが勢力を持っている時はその庇護下に入り、彼らが力を失えば豪商と懇意になるなど、さまざまな方法で生き残りを図ってきた。茶の道が歴史を築いてこれたのは、時代に合わせる柔軟性と強靭さを備えているからなのだと思う。
茶の湯を成立させる道具が、一堂に会する
茶の湯といえばまずは茶碗が思い浮かぶが、道具はそれだけではない。茶杓や茶入れや仕覆のほか、床の間の軸や釜、花器や香合、ひいては茶室のしつらえ全体が芸術空間なのだ。本展では、千利休の茶室・待庵の映像や、利休好みの釜や風炉・建水や水指などを置き合わせた台子飾りを見ることができる。
会場ではさらに古田織部の茶室・燕庵が再現され、庵には現代のアーティスト・須田悦弘の花入れと花が飾られている。偉大な茶人の庵で現代の作家の作品が見られるとは、なんと粋な企画だろう。花は静謐ながらもどこかユーモラスで、自由な作風を好んだ古田織部が生きていたら、お気に入りの道具になっていたに違いない。
燕庵の中に入ることはできないが鑑賞は可能だ。その小さな空間でどれほど豊穣な時間が提供されたのか、肌で感じられるような気がしてくる。
本展で展観されている250点以上もの茶道具のほとんどは、壊れやすい素材でできている。それにも関わらず今に至るまで残っているのは、例え持ち主が滅んでも、道具が持つ歴史や背景、ひいては文化は滅ぼされなかったということだ。特別展『茶の湯』に赴き、所持した人たちの愛情や執着が染み込んだ道具を鑑賞することで、日本の歴史を動かしてきた名だたる人物たちに伝わる美意識を共有することができるだろう。
休館日:月曜日[※ただし5月1日(月)は開館。]
開館時間:午前9時30分〜午後5時(金曜・土曜は午後9時まで、日曜は午後6時まで開館。ゴールデンウィーク期間中の4月30日(日)、5月3日(水・祝)〜5月7日(日)は午後9時まで。) 入館は閉館の30分前まで。
観覧料:一般1,600円(1,400円) 大学生1,200円(1000円) 高校生900円(700円)