第十二沼(だいじゅうにしょう)『アナログシンセ修理沼』

2017.4.27
コラム
音楽

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沼。

皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?

私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。

一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れること

という言葉で比喩される。

 

底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。

第十二沼(だいじゅうにしょう) 『アナログシンセ修理沼

想定外の新種『挨拶しないオバサンEX』

息子が今年の4月から園で年中になった。そう、あの『挨拶しないオバサン』の子供と大部屋で一緒に過ごす事になったのである。

挨拶しないオバサンについての記事はこちら↓

第六沼 「人間観察沼 挨拶しないオバサン編」

この原稿を書いている時点では、奇跡的にまだ『挨拶しないオバサン』には遭遇していない。

しかし、私の人物サーチアンテナは伊達ではなかった。

『挨拶しないオバサンEX』がついに姿を表した。

身長180センチはあるであろうその

『デカイ挨拶しないオバサンEX』

の特集は、事件のネタが溜まってから特集を組むのでお楽しみに!
 

運命的にも近所にやってきたシンセ病院

改めましてこんにちは、齋藤久師です。

僕がシンセサイザーを初めて手に入れた小学校6年生の頃、ほとんどのシンセサイザーがアナログであった。

その後、シンセサイザーはデジタル化が進み、誰でも同じ音を手軽に出せる味気ない物になってしまった。

そうなるとシンセサイザーとは呼べない、ただのプリセットキーボードだ。

しかし90年代に入ると、再びアナログシンセサイザーが脚光を浴びる事になる。

能動的で野太いサウンド、そしてコントロールのしやすさ、またスペックの不器用さから生まれる特殊なサウンド効果。

アナログシンセは完全に復帰し、最近ではデジタルシンセの人気をも越えようとしている。

 

しかし!!

アナログシンセサイザーは個体差も激しく、重たい!さらには音が記憶できなかったり1音しか出ないものもある!また、もっとも困るのは故障した時だ。

しかしこの日本には、どんな故障したアナログシンセでも治してしまうが存在する。

彼の名はDr.H

もともと秋葉原にある某電子楽器輸入会社のリペアーマンとして長年働いていた彼はアナログシンセサイザーの全てを熟知している。

その頃から私もお世話になっていたのだが、ある時彼は独立し、シンセサイザー専門のリペアー会社を立ち上げた。

しかも、私の家から徒歩5分のところに会社を構えたのだ。

これはもう運命としか思えない。

 

ブラックジャック並みの凄腕・Dr.H

Dr.Hの所には、日本中の楽器店から数え切れない程の故障したシンセサイザーが送られてくる。

その他、私のように個人的に持っていく人たちも沢山いる。

会社の階段の踊り場には往年の名機のケースが山積みになっている。

確か90年代の始め、まだDr.Hが秋葉原でリペアーマンをしていた時も同じような異様な光景に出くわした事がある。

調子の悪くなった私のARP OdysseyをDr.Hに持っていくと、社屋から歩道にはみ出し、無造作にアスファルトに山積みになった

Linndrum1
prophet5
EMULATOR!!!

これじゃ盗まれちゃうだろうと思い、修理依頼を一瞬ためらうほどであった。

 

しかし、さすがの腕だ。

一週間後に完璧に元気になった真っ白いARP Odyssey Rev.1が帰ってきた。

その後も、近所になったため、毎月のようにウチのシンセサイザー達はDr.Hの手で見事に手術していただき、ほとんどのシンセサイザーが完全動作するようになった。

 

ただ、Dr,Hにはアナログシンセのような気持ちの波がある。

これはシンセの場合「ゆらぎ」という。

言葉にすると美しいが、要は不安定ということだw。

ある人がLINN DRUMを修理に出したが、戻ってくるまで一年間かかったという。

一方、夜のライブに使おうと思っていた私のminimoog、これを至急直して欲しいと頼むと30分で生き返らせてくれた。

個体差ありすぎw!

個体差と言ってもDr.H1人なので、なんとも言えないが、とにかく『アナログ』感ハンパない、全くブレてない人なのだ。(気持ちはブレるが)

まだまだDr.Hの伝説は続く・・・。

 

機材の呼び名厳禁!モデル名で注文せよ!

私のTR-808が壊れた時の話だ。

電話で

「お世話になります齋藤久師です。
ヤオヤが壊れちゃったのでみてもらえますか?」

というと、いきなりムスっとした口調で

「『TR-808』の事ですか?」

と聞きかえされたので、

「そうですヤオヤです」

と返すとさらに強い口調で

「『ローランド ティーアールハチマルハチ』ですよね!?」

とぶち切れられた。

そこで私はハっとした。

Dr.Hの中では「TR-808」を「ヤオヤ」を呼ぶ事がご法度なんだと。

そういうルールなんだと気がついた。

そこで

「失礼しました、『ローランド ティーアールハチマルハチ』の修理をお願いします」

と言い直したところ、超絶ご機嫌な声で

「そうですか、わかりました!すぐにお持ちください。今ちょうど手が空いているので」

 

・・・なんで私が謝らなくてはいけないんだ??

と思ったが、なぜかDr.Hは憎めないオーラを持つ人なのだ。

「ゆらぎ」過ぎ!無音状態のDr.Hにショック療法で対処

逸話は続く。

どうしてもすぐ修理して欲しいディレイがあったのでDr.Hのところに持って行った。

「あ、コレ私が作ったディレイだ。懐かしいな〜」

と言って引き取ってくれた。

当然ご自身で設計し、発売したエフェクターなので、まあ1週間もすれば治ってくるだろうとタカをくくって待つ事なんと、

2年半!

その間、他の機材をなんども治してもらう都度に

「林さん、あのディレイどうなってます?」

と聞くと、

 

「あ、ボチボチやります」

 

「ああ、今忙しくって」

 

そして最後には

「面倒臭くって」

と笑いながら言い放ったった。

私は怒りを通り越し、爆笑した。

そして、職人の無骨さを感じ、「カッコイイ」とさえ思った。

 

しかし、このままでは、一生あのディレイは治らずじまいだと思い、ウチの奥さんに電話してもらった。

女の子の声で頼まれたらすぐ治してくれるだろうという作戦だ。

 

作戦は見事に成功した。

昼に電話をしたら夕方には治って帰ってきた。

無骨なエンジニアも女性には弱かったのである!

空白の2年半を返してくれ!w

 

Dr.Hの玄関ドアを開けると、ハンダの匂いと10年は移動させてないであろうYAMAHA DX1とKORG PS3100、そしてProphet2000が立てかけてある。

もしもこの記事を見たオーナーは女の子に電話してもらうといいだろう。

夕方には治って帰ってくると思う。

 

そして、シンセサイザー修理の神、Dr.Hにはいつまでも元気でいて欲しい。

彼がいなくなったら、日本中のアナログシンセがゴミになってしまうからだ。

 

あなたもまだまだ遅くは無い。

 

一緒に沼の住人になろう・・・。

 

イベント情報
I Dream of Wires

 日時:5月3日(水祝)
 会場:高円寺Unknown Theater  http://uk-theater.com/
 出演者:齋藤久師+isei ben
 

 

イベント情報
The Prince Of Darkness

 日時:5月20日(土)
 会場:恵比寿 頭バー ZUBAR https://www.facebook.com/events/1891283731141312/
 出演者:小林径、齋藤久師、森田潤、TAKEYOSHI SHINOKI、Kenji Kimura

 
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