第十二沼(だいじゅうにしょう)『アナログシンセ修理沼』
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沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
第十二沼(だいじゅうにしょう) 『アナログシンセ修理沼』
想定外の新種『挨拶しないオバサンEX』
息子が今年の4月から園で年中になった。そう、あの『挨拶しないオバサン』の子供と大部屋で一緒に過ごす事になったのである。
挨拶しないオバサンについての記事はこちら↓
この原稿を書いている時点では、奇跡的にまだ『挨拶しないオバサン』には遭遇していない。
しかし、私の人物サーチアンテナは伊達ではなかった。
『挨拶しないオバサンEX』がついに姿を表した。
身長180センチはあるであろうその
『デカイ挨拶しないオバサンEX』
の特集は、事件のネタが溜まってから特集を組むのでお楽しみに!
運命的にも近所にやってきたシンセ病院
改めましてこんにちは、齋藤久師です。
僕がシンセサイザーを初めて手に入れた小学校6年生の頃、ほとんどのシンセサイザーがアナログであった。
その後、シンセサイザーはデジタル化が進み、誰でも同じ音を手軽に出せる味気ない物になってしまった。
そうなるとシンセサイザーとは呼べない、ただのプリセットキーボードだ。
しかし90年代に入ると、再びアナログシンセサイザーが脚光を浴びる事になる。
能動的で野太いサウンド、そしてコントロールのしやすさ、またスペックの不器用さから生まれる特殊なサウンド効果。
アナログシンセは完全に復帰し、最近ではデジタルシンセの人気をも越えようとしている。
しかし!!
アナログシンセサイザーは個体差も激しく、重たい!さらには音が記憶できなかったり1音しか出ないものもある!また、もっとも困るのは故障した時だ。
しかしこの日本には、どんな故障したアナログシンセでも治してしまう神が存在する。
彼の名はDr.H。
もともと秋葉原にある某電子楽器輸入会社のリペアーマンとして長年働いていた彼はアナログシンセサイザーの全てを熟知している。
その頃から私もお世話になっていたのだが、ある時彼は独立し、シンセサイザー専門のリペアー会社を立ち上げた。
しかも、私の家から徒歩5分のところに会社を構えたのだ。
これはもう運命としか思えない。
ブラックジャック並みの凄腕・Dr.H
Dr.Hの所には、日本中の楽器店から数え切れない程の故障したシンセサイザーが送られてくる。
その他、私のように個人的に持っていく人たちも沢山いる。
会社の階段の踊り場には往年の名機のケースが山積みになっている。
確か90年代の始め、まだDr.Hが秋葉原でリペアーマンをしていた時も同じような異様な光景に出くわした事がある。
調子の悪くなった私のARP OdysseyをDr.Hに持っていくと、社屋から歩道にはみ出し、無造作にアスファルトに山積みになった
Linndrum1
prophet5
EMULATOR!!!
これじゃ盗まれちゃうだろうと思い、修理依頼を一瞬ためらうほどであった。
しかし、さすがの腕だ。
一週間後に完璧に元気になった真っ白いARP Odyssey Rev.1が帰ってきた。
その後も、近所になったため、毎月のようにウチのシンセサイザー達はDr.Hの手で見事に手術していただき、ほとんどのシンセサイザーが完全動作するようになった。
ただ、Dr,Hにはアナログシンセのような気持ちの波がある。
これはシンセの場合「ゆらぎ」という。
言葉にすると美しいが、要は不安定ということだw。
ある人がLINN DRUMを修理に出したが、戻ってくるまで一年間かかったという。
一方、夜のライブに使おうと思っていた私のminimoog、これを至急直して欲しいと頼むと30分で生き返らせてくれた。
個体差ありすぎw!
個体差と言ってもDr.H1人なので、なんとも言えないが、とにかく『アナログ』感ハンパない、全くブレてない人なのだ。(気持ちはブレるが)
まだまだDr.Hの伝説は続く・・・。
機材の呼び名厳禁!モデル名で注文せよ!
私のTR-808が壊れた時の話だ。
電話で
「お世話になります齋藤久師です。
ヤオヤが壊れちゃったのでみてもらえますか?」
というと、いきなりムスっとした口調で
「『TR-808』の事ですか?」
と聞きかえされたので、
「そうですヤオヤです」
と返すとさらに強い口調で
「『ローランド ティーアールハチマルハチ』ですよね!?」
とぶち切れられた。
そこで私はハっとした。
Dr.Hの中では「TR-808」を「ヤオヤ」を呼ぶ事がご法度なんだと。
そういうルールなんだと気がついた。
そこで
「失礼しました、『ローランド ティーアールハチマルハチ』の修理をお願いします」
と言い直したところ、超絶ご機嫌な声で
「そうですか、わかりました!すぐにお持ちください。今ちょうど手が空いているので」
・・・なんで私が謝らなくてはいけないんだ??
と思ったが、なぜかDr.Hは憎めないオーラを持つ人なのだ。
「ゆらぎ」過ぎ!無音状態のDr.Hにショック療法で対処
逸話は続く。
どうしてもすぐ修理して欲しいディレイがあったのでDr.Hのところに持って行った。
「あ、コレ私が作ったディレイだ。懐かしいな〜」
と言って引き取ってくれた。
当然ご自身で設計し、発売したエフェクターなので、まあ1週間もすれば治ってくるだろうとタカをくくって待つ事なんと、
2年半!
その間、他の機材をなんども治してもらう都度に
「林さん、あのディレイどうなってます?」
と聞くと、
「あ、ボチボチやります」
「ああ、今忙しくって」
そして最後には
「面倒臭くって」
と笑いながら言い放ったった。
私は怒りを通り越し、爆笑した。
そして、職人の無骨さを感じ、「カッコイイ」とさえ思った。
しかし、このままでは、一生あのディレイは治らずじまいだと思い、ウチの奥さんに電話してもらった。
女の子の声で頼まれたらすぐ治してくれるだろうという作戦だ。
作戦は見事に成功した。
昼に電話をしたら夕方には治って帰ってきた。
無骨なエンジニアも女性には弱かったのである!
空白の2年半を返してくれ!w
Dr.Hの玄関ドアを開けると、ハンダの匂いと10年は移動させてないであろうYAMAHA DX1とKORG PS3100、そしてProphet2000が立てかけてある。
もしもこの記事を見たオーナーは女の子に電話してもらうといいだろう。
夕方には治って帰ってくると思う。
そして、シンセサイザー修理の神、Dr.Hにはいつまでも元気でいて欲しい。
彼がいなくなったら、日本中のアナログシンセがゴミになってしまうからだ。
あなたもまだまだ遅くは無い。
一緒に沼の住人になろう・・・。
日時:5月3日(水祝)
会場:高円寺Unknown Theater http://uk-theater.com/
出演者:齋藤久師+isei ben
日時:5月20日(土)
会場:恵比寿 頭バー ZUBAR https://www.facebook.com/events/1891283731141312/
出演者:小林径、齋藤久師、森田潤、TAKEYOSHI SHINOKI、Kenji Kimura