成河(そんは)が語る映画『美女と野獣』の舞台裏~「ルミエールは愛されてナンボのキャラクター。存分に愛してあげて」

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2017.5.2
成河

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現在全国ロードショーとなっている話題のディズニー実写映画『美女と野獣』。ディズニーだからこそ実現した極上のミュージカル・ナンバーを織り交ぜながら、ベルと野獣の奇跡の愛の物語を描いた名作だ。

この『美女と野獣』のプレミアム吹替版に一流の演技力と歌声を兼ね備えた豪華キャストが集結した。その中でも野獣と共に魔女の呪いを受けて燭台の姿に変えられてしまった給仕長係ルミエールの声を担当したのが、実力派俳優として様々な舞台に出演し、現在は「ONWARD presents 劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season花 Produced by TBS」に天魔王役で出演中の成河(そんは)だ。実写版ではユアン・マクレガーが演じているこの役を、成河がどのように演じたのか。話を伺ってきた。



――声のお仕事は初めてと聴きましたが。

映画の吹替は初めてですね。声の仕事自体は、ラジオドラマ(NHK『白狐魔記』シリーズなど)を何作かやらせていただいています。すごく好きです。

――『美女と野獣』の話が来たときの率直なお気持ちは?

嘘だろう?と(笑)現実感がなかったです。とはいえ、僕はなんでも興味があるので「やっていいならやるけど、本当に僕でいいの?」と思いましたね。ルミエール役でお話が来たのが嬉しかったです。いや、ベル役って言われてもやりたいと思いましたけど(笑)

映画『美女と野獣』ベル(エマ・ワトソン)

映画『美女と野獣』ベル(エマ・ワトソン)

――普段は身体も表情もすべて使って演じることが多いと思いますが、「声」に特化して演じる場合の役作りはどういう風に作りこんでいくのでしょうか?

役者の仕事を大別すると、「身体表現」と「音声表現」があると思うのです。だいたいの役はTVであろうと舞台であろうと「身体表現」と「音声表現」がブレンドされて出てくるものなんでしょうが、この仕事は「音声表現」に完全に特化してやるじゃないですか?ラジオドラマのときから思っていたんですが、それがおもしろいんです。ものすごくそぎ落とされた表現となるのが。声の高低とか、圧とか、太いか細いか…そのさじ加減でできていくのが。とても技術がいることなんですが、僕はおもしろくて…好きですね!

――今回演じた「ルミエール」は燭台ですが、かなり人間に近い姿になっているじゃないですか。収録時、映像とタイムコード(画面上に「TCR 00:00:00:00」と出ている時間表示)を観ながらセリフを言うとき、うっかり身体が動いてしまったりしませんでしたか?

やってましたね!(笑)コンマに合わせてセリフを言う…僕も吹替が初めてだったし、ルミエールはどのキャラクターよりも動きが多かったので、手を振ったり、実際に跳んで着地のときに言葉のアクセントがどうなるか、とか確認したりしました。セリフの日本語も、実際に喋ってみて、映像の口の動きのタイミングなどで、その場で吹替演出監督から指示が出てどんどん変わっていきました。身振り手振り入れて跳びながらセリフを言って、初めてタイミングが合うということもありまして。結局動きながら喋っていましたね。

――収録中のお話を伺いたいのですが。

あとで聞いて知ったんですが。ディズニーさんの吹替版を作るシステムが特殊なんです。そこにはメリット、デメリットがそれぞれあると思うし、僕は他の現場を知っている訳ではないんですが…完全に一人ずつ録るんです。だから一人に何時間でも時間をかけることができる。一つのセリフを30回でも40回でもリテイクできる。完璧なものが録れるまで延々と録るんです。ねちねちと(笑)これを4,5人同時で録っていたら、なかなかできない事だと思います。

――では、あのコグスワース(置き時計の形をした執事)との軽妙なやり取りも……。

全部一人なんです。それはやる側としては非常に難しいです。

――言葉を返してくれる存在って演じる上で大事ですしね。

そう。で、英語でしゃべるコグスワースに対して日本語で返す。英語の言葉尻を取って。意味的には言葉をちゃんと返しているんだけど、英語だから全然違うなあと(笑)。でも言葉尻をきれいに食って、こっちのセリフを出さなきゃなあって。スタッフさんが「あとで、うまくずらしてタイミングを合わせますから」とおっしゃってくださいましたが、その感覚に慣れるのは本当に大変でしたね。すごく時間がかかりました。

――実際のところどのくらい時間がかかったんですか?

ものすごい集中させていただいたので…セリフ録りで1日、歌で1日かかりました。ただ、7時間ぶっ続けでしたけど。他のやり方を知らなかったので、そういうものだと思ってやっていましたね。

――歌収録もお一人でやるんですか?ユニゾンからハモリまでも。

全部一人。別撮りです。もちろん録る順番があるので、先に録った方の声は聴かせてもらえるんですけどね。でも「息を合わせて歌う」ということはできなかったんです。だから編集技術がものすごく進んでいるという事でもあると思うんです。必要な技術はその時代ごとに変わっていくんだろうなあと思います。

――今回劇中歌で「ひとりぼっちの晩餐会」「デイズ・イン・ザ・サン~日差しをあびて~」などを歌いましたが、歌ってみていかがでしたか?

気持ちいいんですよ。のびのびやらせていただきました。どちらかというと「語るように、しゃべるように歌うこと」が許された曲だったので、そういう意味では流麗に、綺麗に歌わなきゃいけない、というところを外せたので、好きにやりました!好きにやったらああなりました(笑)

――ルミエールというキャラクターの役づくりについてもお話を聞かせてください。

この役をこれまでに演じた人や、アニメーションで声を担当した方のイメージもあるんですが、給仕長としての愛嬌や軽妙さもありつつ、少し落ち着いた渋みがあったりするじゃないですか?もともとトーンも低く落ち着いた感じのイメージがあったので、僕で大丈夫かなって思っていました。僕は声も高めで、実年齢より若く聞こえてしまうので、それは心配だったんですが、何よりユアン・マクレガーさんがあんなにはしゃいでやられているので(笑)「ユアン、声高っけーなー!」って思ったんです。想像と相当違う感じで。これはこれですごくアリだなと思ったので、あまりルミエールはこうでないといけない、という考えはとっぱらって、自分の中にある軽妙なスタンスで(笑)口八丁手八丁なフランス野郎という感じですね。

映画『美女と野獣』ルミエール

映画『美女と野獣』ルミエール

実写版だと各キャラクターの縮尺もものすごくリアルに作っていて、燭台もすごくちっちゃい。そのちっちゃいものがキャッキャと騒いでいる感じが、物語世界で通用する訳で、そういうことが面白いですよね。

――今回の吹替キャストの顔ぶれをみると、劇団四季の『美女と野獣』とは別で、このメンバーでのミュージカルを観てみたいですね。特に成河さんと小倉さんの絡みが観たいです(笑)。

素敵ですね。収録日が別々だったので、共演者の方々と一緒に同じ仕事をした感がないんです。小倉さんとも生涯通算で1回しかお会いしていないんです。それがあの製作発表のときで。あれ以来一度もお会いしたことがなくって。ただお会いしたその1回だけですが、すでに他人には見えなかったんですよ(笑)

――ところで海外の実写・アニメーション作品を観るときは、字幕派?吹替派?

本当にすみません。100%字幕派なんです(笑)

――(笑)そんな字幕派の人に、あえて吹替版を薦めるならなんと言いますか?

本来的には「文字を追わなくていい」ですね。すごく自然に誘導できれば絵だけに集中できるはず。この作品もそうなっていたらいいなあと思います。初めて吹替をやる僕がこんなことを言うのもなんですが、「吹替版がとってもいいね」ではなく「吹替に違和感がないね」で十分なのかも。「吹替版がすばらしかった」という感想はなんだかおかしい感じがするんです。だってオリジナルの二次創作物だし、翻訳しているだけだから。吹替があることで実写版にすうーっと入っていける状態になっていれば大成功なのかな?と思っています。

――そこは翻訳者の腕の見せ所かなとも思います。これって海外のミュージカルを日本版としてやるときにも近い感覚でしょうか?

うーん…似ているけどちょっと別だと思います。舞台で翻訳物だとまた一つ別の舞台を立ち上げる事だと思うので。

これだけ映像がしっかりした作品でクオリティが高いものだと誘導しがいがありますね。キャストもスタッフも全員で翻訳をしている、という感じです。違和感なく自然に絵の中に誘導していくことは、言うほど全然簡単な事ではなく、ものすごい難しさがあって、それを超えることが最終的な目標なんだとやりながら思っていましたね。

――最後に、ご自身が演じた「ルミエール」のここを観てほしい!というポイントを教えてください。

ルミエールは、ディズニー作品にはかかせないキャラクターだと思っています。案内係で、舞台だと「道化者」という役どころかな?そういう役をやらせていただいて本当に楽しかったです。愛されてナンボの役どころなので、存分に愛してあげてください(笑)

映画『美女と野獣』

映画『美女と野獣』

上映情報
ディズニー映画『美女と野獣』

大ヒット公開中(字幕スーパー版・プレミアム吹替版)

◾️CAST:
・ベル:エマ・ワトソン
・野獣:ダン・スティーヴンス
ほか

<プレミアム吹替版>
・ベル/昆夏美
・野獣/山崎育三郎
・ポット夫人/岩崎宏美
・モーリス/村井國夫
・ガストン/吉原光夫
・ル・フウ/藤井隆
・ルミエール/成河
・コグスワース/小倉久寛
・マダム・ド・ガルドローブ/濱田めぐみ
・プリュメット/島田歌穂
・チップ/池田優斗
ほか
 
◾️監督:ビル・コンドン
◾️歌曲:作曲:アラン・メンケン
◾️公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/beautyandbeast.html
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