特別展『没後150年 坂本龍馬』レポート 直筆の手紙と愛刀「陸奥守吉行」から、幕末のスーパースターの実像を知る
テレビや雑誌の「好きな偉人ランキング」で幾度となく1位を獲得するなど、もはや説明不要の人気を誇る幕末のスーパースター・坂本龍馬。龍馬の暗殺から今年で150年を迎えるのを機に、東京・両国の東京都江戸東京博物館では4月29日から6月18日まで特別展『没後150年 坂本龍馬』が開催中だ。本展では龍馬直筆の手紙が一挙に展示されるほか、近年話題を呼んだ愛刀「陸奥守吉行」が見られるとあって、刀剣マニアからの注目度も高い。そんな本展の見どころをレポートしよう。
インパクトたっぷりな巨大龍馬像が来場者をお迎え!
会場入り口前には高さ約3.5mの巨大な龍馬像が威風堂々と構えている。龍馬像というと高知・桂浜の像がよく知られているが、こちらの像は長崎・風頭公園に立つ龍馬像の原型となったもので、今回のために長崎の博物館から運ばれた。間近まで近づけるため、恰好の記念撮影スポットになっている。
《山崎和國作 坂本龍馬之像》 個人蔵 長崎歴史文化博物館保管
龍馬というと、日本最初の商社といわれる亀山社中の創設や、日本の歴史を大きく変えた薩長同盟への貢献が主な功績として伝わる。その生涯は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』をはじめ数々の歴史作品に描かれ、近年では福山雅治主演の大河ドラマ『龍馬伝』が記憶に新しいところ。
全7章で構成されている本展の第一のポイントは「龍馬直筆の手紙を見る」ことで、入場口にも龍馬が姉の乙女に宛てた手紙が装飾に使われている。これは勝海舟に弟子入りした龍馬が海軍修行への志を記した手紙で、龍馬が海舟を「日本第一の人物」として尊敬していたことが分かる重要な一枚だ(実物は5月23日~6月4日のみ展示)。一定時間でライティングが変化し、龍馬の肖像が浮かび上がる演出もかっこいい。
入場口で見られる龍馬の手紙の装飾
序盤の展示では土佐(現在の高知県)の下級武士の家に生まれ育った龍馬が後に脱藩し、海軍修行に至る頃までの時代背景を様々な資料を用いて解説している。会期の前後半で多少の展示入れ替えがあるが、尊王攘夷を掲げて土佐勤王党を結成した武市半平太や、龍馬とも関わった長州志士・久坂玄瑞の直筆書簡などが見どころ。2章では江戸東京博物館が所蔵する幕末の海軍船「第二長崎丸」で使われた食器や調度品のほか、勝海舟の日記などが見られる。
《短刀 銘濃州住兼涌 武市半平太佩用》 室町時代(16世紀) 高知県立歴史民俗資料館
(左)《「海舟日記」三巻 元治元年六月二十四日条》 元治元年(1864) (右)《「海舟日記」四巻 元治元年八月二十三日条》 元治元年(1864) ともに東京都江戸東京博物館蔵
直筆手紙から龍馬のリアルな人間像を感じる
続いて、本展の目玉のひとつとなる龍馬直筆の手紙が展示されたコーナーへ。龍馬の手紙は内容を記録したものを含めて140通現存しているとされていて、今回の展示物には姉の乙女や妻のおりょうに宛てた書簡もある。それぞれ手紙の最後には差出人を示した「龍」「龍馬」、もしくは本名の「直陰(なおかげ)」の名が記されている。
三章「龍馬の手紙を読む」展示風景
崩し字で書かれた手紙は決して読みやすいものとはいえないが、各展示には釈文が添えられているので、龍馬の筆跡を味わいながら内容を理解することも容易だ。なかでも姉の乙女に宛てた手紙の数々は、その他の手紙に比べて明らかにくだけた文体であることがわかる。ユーモアを交えて近況を伝える手紙からは、非常に仲が良かったと伝わる姉弟の関係性のほか、龍馬の人柄が歴史小説やドラマよりも一層リアルに伝わってくる。
《龍馬書簡 推定慶応元年秋 坂本乙女宛》 推定慶応元年(1865) 大阪・鴻池合資会社蔵
三章「龍馬の手紙を読む」展示風景
龍馬暗殺の部屋にかかっていた「血染掛軸」も!
さらに進むと龍馬が愛用した品々が見られるのだが、ここではまず「梅椿図」に注目したい。「血染掛軸」とも呼ばれるこの掛け軸は、龍馬が暗殺された京都・近江屋の床の間に飾られていたもの。下部には血の付いた指で触れたかのような血痕があり、暗殺や処刑など血なまぐさい事件の絶えなかった幕末の空気を今に伝えている。上部には海援隊士による追悼文が記され、「自然堂直柔(なおなり)」と龍馬の名が実名で書かれている(実物は5月23日~6月4日のみ展示。それ以外は複製展示)。
重文《梅椿図(血染掛軸) 板倉槐堂筆》 慶応3年(1867) 京都国立博物館蔵
剣の達人・龍馬が愛用した“あの日本刀”も東京に!
本展の龍馬ゆかりの品々は龍馬が「実際に使用していたもの」ということがポイント。なかでも直筆手紙の数々と並んで注目を集めているのが、龍馬の愛刀「陸奥守吉行」だ。こちらは長らく龍馬の刀であるかに疑問符が付けられていたが、2015年の検証作業で龍馬愛用の刀だったことが断定され、メディアなどでも大きく話題になった。兄の権平から贈られた刀は龍馬が最期の時まで携えていた一振りで、火災によって刃文の美しさが損なわれているものの、剣の達人としても知られた龍馬の魂が感じられる一品といえよう。
《刀 銘吉行 坂本龍馬佩用》 江戸時代(17~18世紀) 京都国立博物館蔵
終盤では、再び様々な資料によって大政奉還から明治維新までを解説。京都の大火や戊辰戦争の幕開けとなった鳥羽伏見の戦いなどを彩色豊かに描いた絵図や錦絵は、幕末維新の激動を迫力たっぷりに伝えてくれる。なお、大政奉還後の勝海舟を描いた「江戸城明渡の帰途(海舟江戸開城図)」(実物は前期のみ展示。後期は複製展示)は江戸東京博物館を代表する一枚なので、こちらも見逃さないようにしたい。
現代の我々にとっては歴史作品で知ることの多い坂本龍馬だが、活き活きした筆致で書かれた手紙や愛刀からは、龍馬が実在の人間だったことを再認識させてくれる。ぜひその実物を会場で見てほしい。