『美女と野獣』は時代とともにどう変化してきたのか 4つの映画化における主人公・ベルの描き方から推察する

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2017.5.6
 『美女と野獣』 (C)2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

『美女と野獣』 (C)2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

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『美女と野獣』といえば、まず多くの人が思い浮かべるのはディズニーのアニメーション映画だろう。1991年に公開されたこの作品は世界中で大ヒットし、アニメーション映画として初めてアカデミー作品賞にノミネートされるなど、人気と評価の両面で不朽の名作と呼ぶにふさわしい実績を残している作品だ。

『美女と野獣』の源流は、古くはギリシャ神話にまで遡ることができる。神であるゼウスが獣に姿を変えて人間を魅了するエピソードに着想を得ていると言われ、そこから幾多の時を経て18世紀のフランスでガブリエル=スザンヌ・ド・ヴィルヌーヴ(ヴィルヌーヴ夫人)が、6人姉弟の末娘と人里離れた城の主である野獣とのロマンスを書いた。さらに程なくして、ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモン(ボーモン夫人)がアレンジを加えた短縮版を発表。その2つが、今日の『美女と野獣』の原作とされている。

現在大ヒット中のディズニー実写版映画には「100年語り継がれるエンターテイメント」とのキャッチコピーがつけられているが、このラブストーリーは実は100年どころではなく、紀元前から語り継がれているといってもいいのである。

今日、『美女と野獣』を有名にしたのはディズニーだが、この物語は幾度も実写映画化されている。最も古い映画化は1946年、フランスのジャン・コクトー監督によるモノクロ作品だ。フランスではさらに2014年にも映画化しており、さらにはオーストラリア、ドイツ、スペインでもそれぞれアレンジを加えて実写映画化されている。ギリシャ神話の頃には神の話であった物語が、時代を経てロマンスへと変貌と遂げ、映画の時代にはさらにその内容が時代の空気を吸って変化している。

そこで、エポックメイキングな映画化である4作品、フランスの1946年実写版、ディズニーの1991年アニメ版、フランスの2014年実写版、そして2017年のディズニーによる実写版を基にその内容にどんな変化があり、何を描こうとしてきたのかを探ってみよう。

強くなりつづけるヒロイン像

『美女と野獣』 (C)2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

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1946年のジャン・コクトー監督による『美女と野獣』は、ヴィルヌーヴ夫人の原作に概ね忠実に、コクトー監督が美的センスをいかんなく発揮している作品だ。楽しげなミュージカルではなく、むしろゴシック・ホラーにロマンスの要素を加えたような雰囲気を持っている。

46年版では主人公のベルはおとなしい性格で、2人の意地悪な姉に家事などを押し付けられている。姉妹で一番の美貌を持っていることも嫉妬される理由となっている。慎ましい性格のベルは、父親が商談に出かける際の土産には、2人の姉は成金趣味で豪華なものを欲しがるのとは対照的にバラ一輪だけを欲する。

父親は、ベルの土産にと道中迷い込んだ野獣の城で庭に咲いていたバラを取ってしまい、野獣の逆鱗に触れてしまう。これはディズニーのアニメーション版以外の作品で共通して使われている筋書きだ。ベルは責任を感じ身代わりを買って出るが、城に囚われた己の運命を嘆き悲しみ涙を流す。46年版のベルは、時代設定が18世紀ということもあるが、それほど能動的なキャラではなく、むしろ謙虚さを良しとするような描写が多い。

 

 

1991年になり、ディズニーがこの古典をアニメーションで再映画化する。ディズニー映画のヒロインもまた、シンデレラに代表されるような謙虚で美しい女性がかつては多かったが、女性の社会進出が進んだ80年代ごろから、自ら行動する活発なキャラクターへと変化していった。91年版『美女と野獣』はその好例だ。ここでのベルは、『眠れる森の美女』のように呪いを王子に解いてもらうのを待っているヒロインではなく、父親を助けるために自ら馬を駆り、知的好奇心に溢れ、粗野な野獣に女性の扱いを教育し、最終的には王子の呪いを解く。91年版は、現実社会における女性像の変化をふんだんに意識し、またさらなる女性の活躍をエンパワーメントするかのような作品になっている。また対象年齢も大幅に広がりを見せ、老若男女観ても楽しめるミュージカルとして仕立てている。

 

 

2014年版、クリストフ・ガンズ監督によるフランス版『美女と野獣』は、ディズニーのものとなった本作を本家のフランスに取り戻そうとする試みだ。楽しげな雰囲気は陰を潜め、荘厳なファンタジーロマンスとなっている。しかしながら、ベルのキャラクター像はやはり時代を反映してか、46年版から大幅に改善が加えられている。

46年版では謙虚でおとなしい女性だったベルだが、2014年版では、家事をサボる2人の姉にも堂々と物申すなど意志の強い女性として描かれている。また、商売の失敗によって田舎に移り住むことになった一家の中で、かつての豪華な生活を忘れられない家族に対して、ベルだけは田舎の暮らしを好ましく思っているなど、周囲との価値観を違える「変わり者」の設定も追加されている。周囲と価値観の違う「変わり者」という設定は、91年のディズニー版にも見られるが、2014年のフランス版はこの影響を受けているのかもしれない。2014年という時代を考えてもただ貞淑なだけの女性では観客の共感を得にくいと考えたかもしれない。

 

 

また2014年版のベルは、野獣への恐怖で涙を落とすことはあっても、決して運命を悲観して泣いたりはしない。2014年の『美女と野獣』は監督の言葉を借りれば、「フランスの伝統的な素晴らしいおとぎ話をディズニーの実写版と言われ続けないため
に作られたものだが、ディズニーがアニメーションで描いたベルよりも、より精神的強さを持った女性として描かれているのは興味深い。

また2014年版は、野獣が呪いを受けるきっかけとなった出来事の描写に多くの時間を割いているのも特徴だ。その事情を知ったベルが野獣に心惹かれていく様を丹念に描写しており、愛が生まれる過程を深く描写している。さすがは恋愛映画の大家、フランスと言ったところだろうか。

そして、満を持して制作された、エマ・ワトソン主演のディズニーによる実写版『美女と野獣』では、ベルという女性に力強さが加わっている。

91年版の時点で、知的好奇心にあふれ、読書を趣味としている設定は存在していたが、2017年版ではさらに洗濯機を自ら発明しているなど、その知性に行動が伴っている。そして囚われの身になっても一度も悲しみの涙を流さない。2017年版のベルは、知性を重んじ芯が強く、自らの意思で行動する力強いヒロイン像となっている。女性の社会的地位向上のため、様々な活動に取り組むエマ・ワトソンのパブリックイメージとも合致する部分が多いにあるキャラクター像だが、エマ自身の考えも多く反映されているのだろう。

こうして見ると、主人公のベルは時代に合わせキャラクターを変化させており、その次代ごとに女性が共感できるキャラクターに仕立て上げられている。やはり『美女と野獣』は女性のための物語なのだ。

女性のためだけではなくなった古典ロマンス

『美女と野獣』 (C)2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

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そして2017年版の特筆すべき変更点は、本作の敵役となるガストンの取り巻きル・フウが同性愛の人物として描かれていることだろう。はっきりと明言しているわけではないが、ガストンに惹かれている描写が多く見て取れる。

この変更点は、本筋のストーリーに大きな影響を及ぼすものではなく、あくまでささいなディテールの範囲にとどまっている。しかしながら、同性愛という題材を「映画の大きなテーマ」ではなく、ある種風景に近いような、「そこに当たり前にあるもの」として描写している点は画期的だ。

「同性愛者を登場させるからには、特別な意味がなくては」と作り手は考えていないのだ。同性愛を特別視しないからこそ、「ただそこにある同性愛」として描くことができる。その事自体が非常に進歩的なことではないか。

また、初めて白人以外の俳優が参加している点も見逃せない。時代考証という点ではいささか史実とは異なるのであろうが、この映画がファンタジーであることを考慮すれば、ディズニーとしては史実への忠実さよりもダイバーシティ(多様性)への配慮を優先するだろう。

『美女と野獣』は、外見にとらわれぬ愛の美しさを讃えた映画だ。それはヴィルヌーヴ夫人とボーモン夫人という2人の女性によって書かれ、女性のための物語として受け継がれ、今回のディズニーの改変によってより広い愛のあり方を許容するものとなった。古典はこのように時代によって解釈し直されることによって広まっていく。きっと未来にはまた違った形の『美女と野獣』が観られることだろう。

文=杉本穂高

映画『美女と野獣』は上映中。

作品情報
『美女と野獣』

監督:ビル・コンドン

出演:エマ・ワトソン、ダン・スティーヴンス、ルーク・エヴァンス

原題:Beauty and the Beast 
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
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