豪華声優陣が20役以上を"声"のみで演じ分ける 古典歌舞伎を朗読で楽しむ『こえかぶ』最新公演の稽古場に潜入!

レポート
舞台
2025.8.6
こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎〜梅と松と桜〜篇』

こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎〜梅と松と桜〜篇』

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古典歌舞伎の物語を、人気声優陣が現代の言葉で伝える朗読劇『こえかぶ』の最新公演『こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎〜梅と松と桜〜篇』が2025年8月9日(土)~11 日(月祝)に、東京・三越劇場で開催される。SPICEでは7月に都内で行われた稽古の様子を取材。最終日の11日に出演する畠中祐に意気込みを聞いた。

畠中祐

畠中祐

『こえかぶ』第4作目となる今回は、歌舞伎三大名作の一つである『菅原伝授手習鑑』を上演する。物語は同作に出てくる三つ子の兄弟(梅王丸・松王丸・桜丸)を軸にしたオリジナル。兄弟が敵味方に分かれる「車引」、桜丸の最期を描く「賀の祝」、我が子を犠牲にする松王丸の決断が胸を打つ「寺子屋」の名場面を、各日3名の声優が〝声〟で巧みに演じ分けていく。初日は野島健児、浪川大輔、仲村宗悟。10日は岡本信彦、山下大輝、堀江瞬。11日は保志総一朗、山口勝平、畠中祐が日替わりで登場。1人で何役も務める妙技は圧巻だ。

この日は畠中の稽古初日。台本を手にした畠中は、共演する山口と談笑しリラックスした雰囲気。稽古場のスタッフの間にも和やかな空気が流れていた。この日別件で不在の保志の代わりは代役が務める。身分や年齢、性別の違いなど、さまざまな役を1人で表現することが求められるのが『こえかぶ』。どのような世界が展開されるのか。稽古場は高揚感に満ちていた。稽古は脚本・演出を務める岡本貴也の声かけで、静かに始まった――。

畠中は人格も学問にも優れ、物語の鍵を握る重要な人物「菅丞相」のほか、三つ子の末っ子でどこか儚げな雰囲気を持つ優男「桜丸」。菅丞相の娘・苅屋姫の姉でキャラクターがさく裂する「立田」。菅丞相に破門された元家来の武部源蔵の妻「戸浪」など全7役を務める。

稽古の冒頭では長男の梅王丸、次男の松王丸、末っ子の桜丸が威勢よくあいさつ。「オープニングはドライブ感が欲しいです」という岡本の意向通り、華やかな幕開けに心が弾む。都内の稽古場から、舞台は京の都にある加茂神社の境内へと時空と共に移動。斎世親王の舎人を務める桜丸が、親王と苅屋姫の仲を取りもとうとする「加茂堤」の段へと展開していく。

場面進行と共にたくさんの人物が登場。岡本は畠中に「苅屋姫は会うだけでビビるような高貴な存在」「超すごい人の運転手を務めている桜丸が、いらんことをして日本中がひっくり返るような状況になっていく」など物語の背景を分かりやすく説明する。メモを取る畠中からも自らが演じる丞相について「何歳くらいの設定なのか?」など質問が返される。岡本から「どんな時も動じない異次元の人物。殿上人というイメージを持って」とアドバイスされると、「殿上人……」と笏(しゃく)を手に何度も頷いていた。

「筆法伝授」の段では、畠中が務める丞相が口にする「神道口伝」のアクセントについても細心の注意が払われた。岡本は過去の歌舞伎の舞台で上演された映像を、稽古を止めて確認し知識を共有。歌舞伎で繰り返し上演されてきた作品に対しての深い敬意を感じられた。

「道明寺」の段での畠中は、個性が強い立田から、歌舞伎の早替えのように即、丞相として語り出すところもある。かしましい女性から、神々しい丞相に変化する様子は、見せ場のひとつでもある。

歌舞伎同様、柝(拍子木)が打たれる瞬間もあるが、分かりやすく古典を伝える『こえかぶ』ならではの遊び心として、殺人現場ではテレビの某サスペンスドラマでおなじみの〝あの音楽〟が流れる時間も。シリアスな「道明寺」の段では、それぞれの日程で梅王丸を演じる野島、岡本、保志がそれぞれ、1人で2役をつとめ落語のように大げんかをしてみせる見せ場もあり、笑いの要素もふんだんに詰め込まれている。岡本からの〝特別な演出〟もあり、会場は大爆笑に包まれるはずだ。

物語の終盤には6月の歌舞伎座『六月大歌舞伎』で取り上げられた「車引」の段と「寺子屋」の段も上演。9月の『秀山祭九月大歌舞伎』(2025年9月2日(火)~24日(水))では、『こえかぶ』で上演される名場面が歌舞伎座で披露されることも決まっており、様々な角度から名作を楽しむことができる。同興行はA・Bの2プログラムがあり、浪人となった松王丸と桜丸が再会する夜の部のAプロ「車引」では、松本幸四郎、市川染五郎親子が〝毒舌〟も交えた掛け合いで客席を沸かせてくれるだろう。

稽古を終えた畠中は「歌舞伎の多面性を感じました。その中に細やかな心情の流れがある」と分析。7役を演じることについては「役が持つ器の大きさをどう演じていくのかが課題です」と明かした。

上演を楽しみにしているファンに向けては「かなりドラマティックな内容。僕ら現代人が体験したことがない悲しみがある作品。それを自分事として演じられるように、作品が持つ歴史や美を表現できるように本番も頑張ります!」と呼びかけた。

取材・文=翡翠

公演情報

『こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎~梅と松と桜~篇』
 
日程 2025年8月9日(土)~11日(月祝)
■8月9日(土) 昼の部:開演14:30、夜の部:開演18:30
■8月10日(日) 昼の部:開演14:30、夜の部:開演18:30
■8月11日(月祝) 昼の部:開演13:00、夜の部:開演17:00
※開場時間は、開演の30分前を予定しております。
 
会場 三越劇場

脚本・演出 岡本貴也
協力 竹柴潤一
 
主催・製作 松竹株式会社
 
出演 
■8月9日(土) 野島健児、浪川大輔、仲村宗悟
■8月10日(日) 岡本信彦、山下大輝、堀江瞬
■8月11日(月祝) 保志総一朗、山口勝平、畠中祐
演目 『菅原伝授手習鑑』
 
料金 全席指定 S席 9,900円(税込) A席 7,700円(税込)
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