中丸新将&志賀廣太郎のベテランと新作『バージン・ブルース』を上演する、うさぎストライプ大池容子にインタビュー
大池容子
人気映画監督のM・Kさんが、「彼女は注目ですよ」と教えてくれた。たしか6年くらい前のことだ。その話がきっかけで、大池容子にSNSでアプローチしてみた。ずいぶんな青田買い。だってそのときの話を大池に聞いたら、監督が見たそれは、青年団に入った新人が初めて披露する短編作品だったのだそう。そして一度も見たことがないのに取材をする僕もごめんなさいな野郎。でもこんな楽しそうな公演をやるのだ。テレビドラマでも常連のベテラン俳優、中丸新将&志賀廣太郎と、大池のうさぎストライプがコラボする『バージン・ブルース』は、うさぎストライプの看板女優・小瀧万梨子を含めた3人芝居。インタビューは、まずは大池のことを聞くところからはじめたい。
将来は公共劇場の芸術監督をやってみたいんです
--大池さんは、青年団ではどういうポジションなんですか?
大池 主宰するうさぎストライプはまだ「青年団リンク」にはなっていません。私自身はアトリエ春風舎の芸術監督をやらせていただいています。春風舎を任せてもらってからは空間への愛が強くなってきましたね。
--芸術監督は平田オリザさんからのご指名ですか?
大池 いえいえ、団内公募があって手を挙げたら「どうぞどうぞ」と。その前にオリザさんとの面談でも春風舎の芸術監督になりたいと伝えたら「いいんじゃない」って言ってくださって。本来はラインナップを検討するのが芸術監督の仕事かなと思うんですけど、どちらかというと利用団体が萎縮せずにやれる環境を整える仕事が多いですね。でも私はいずれ公共劇場の芸術監督になりたいので、そのための勉強だと思ってやっています。
--それでは、青年団に入ろうと思ったきっかけは?
大池 大学生のころ、オリザさんの演劇論の本を読んで、これはすごいなあと思いまして。当時、劇作の勉強はしていましたが、自分で劇団を持って公演を打つためには演出を学ばねばと。オリザさんの本は、誰にでもわかりやすく自分の演劇の方法論を伝えているので、これを盗めたらいいなと思ったんです。そんなときに受けた東京デスロックの多田淳之介さんのワークショップがすごく面白くて、青年団の演出部はすごいかもしれないと。そのあとで『東京ノート』を見たら、それもすごく面白くて、本当に世の中の見方が変わったような気がしたんです。それで青年団に入りたいと強く思いました。
平田オリザとつかこうへいのハイブリッドに身体的負荷を加えた芝居
--演劇という表現に大池さんを突き動かすものはなんでしょう?
大池 「どうせ死ぬのに」がうさぎストライプの作品のテーマです。どうせ死ぬのに生まれてくるって、不毛だなあと。不毛だけど、頑張って生きる。それをそのまま舞台の上に乗せたいと思っています。そして、オリザさんとつかこうへいさんのハイブリッドみたいな戯曲で表現したいなあと。ベースは日常に何かが潜んでいるといったオリザさんの現代口語で構成して、その日常を一見普通に過ごしている人間が、実は心に抱えている混沌としたものをつかこうへいさんみたいな長台詞で、吐露させたいんです。
--「つかこうへい」の名前が出てくるとは意外ですね。
大池 私の父は漫才作家をしていて、演劇も好きでよく観ているんですが、家に父が買ったつかさんの戯曲がにあったんです。
うさぎストライプと20歳の国『学級崩壊』(2014年/アトリエ春風舎) 撮影:西泰宏
--うさぎストライプは、どんな演劇をやっているんですか?
大池 以前は一見すると物語に関係ない動きを負荷として俳優に課していました。動かない壁を押したり、進まない自転車を延々と漕いだり。これって、不毛な負荷じゃないですか。さっきの「どうせ死ぬのに生まれてきてしまう」不毛さとも重なるんですが、全力で不毛なことをする、というのが私にとっての「生きる」ということかなあと思っていて。けれど、最近はもう少し虚構を遊ぶような感覚で演劇をつくっています。たとえば『空想科学』という作品は、ある男がラブホテルで目覚めたら、自分の頭に斧が刺さっていて、「どうやら自分は死んでいるらしい」と。そこへ一夜を共にした女性が現れて「死んでいてもいいから付き合ってほしい」と言い出すことKら生涯を共にするという話なんですが。以前はそういうチープな虚構が嫌で、役名を付けずに俳優の名前をそのまま使ったり、壁を押して現実に俳優が疲弊していく様に台詞を重ねてみたりと、徐々にフィクションになっていく感じを求めていました。でも「嘘」を思い切ってやってみたら楽しくて。そのときに、こんなことはありえないというところから始めて、普遍的なことをかすめる描き方があってもいいなと思ったんです。そこから小道具をたくさん使ってちょっと漫画チックなありえない要素を入れるようになりました。前回の『みんなしねばいいのに』だとハロウィン・パーティーがどんどん暴力性を帯びて、血まみれの姿が本当なのかメークなのかわからない状態を通り越して、人を殺しても咎められない世の中になっちゃったみたいな話を書きました。そのときに現代口語のへんな使い方、こんなことを言わせちゃうよ的なことを楽しめるようになりました。それをもって、初期のころにやっていた身体的な負荷みたいなものとハイブリッドができないかなあと、今は思っています。
大人になれない大人のためのうさぎストライプ『セブンスター』(2016年/アトリエ春風舎) 撮影:西泰宏
中丸さんと志賀さんは、調子のいい旦那と奥床しく見えて全てを握る嫁のよう
--それでは次回作『バージン・ブルース』について教えてください。
大池 中丸さんと一緒にお仕事をしたことがあって、そのときに「俺は志賀廣太郎と同じ大学で、年齢も一個違いなんだよ。死ぬまでにあいつと芝居をやりたい」とおっしゃったことから始まったんです。時々お二人とお酒の席に混ぜていただくんですけど、ずっと中丸さんがしゃべっていて、志賀さんがぽつぽつと受け答えをする。それがなんだか夫婦みたいな感じなんです。中丸さんが調子のいい旦那さんで、志賀さんが奥ゆかしいけど本当はすべてを握っている嫁みたいな。それが家族モノをやりたいということとつながっているんです。娘が一人、なぜか父親が二人いるという話です。娘と一緒にバージンロードを歩くことで自分たちの生きて来た道、娘と歩んできた道を振り返るみたいな。
--稽古場では、おじさん二人は楽しそうですか?
大池 そうですね、だいたい稽古が終わると毎日飲んでます。本番期間中も毎日飲むんだろうなあと。お二人は大先輩ですが、私や小瀧が萎縮しないようにしてくれているのかなあと思うところもあって、すごくありがたいですね。のびのびやらせてもらっています。こんなバカバカしい台詞をこんなにいい声でカッコよく言ってくれるのか、みたいな喜びもありますし。予想外のものが返ってくるのも、作品が豊かになっていく感じがして、楽しいですね。結構、みんなできゃっきゃしながら、つくっていると思います。
《大池容子》劇作家・演出家。うさぎストライプ主宰。日本大学芸術学部演劇学科劇作コース卒業。2010年、劇団青年団演出部に入団。同年うさぎストライプを結成し全公演で作・演出をつとめる。2013年9月、東京芸術劇場が主催する、芸劇eyes番外編・第2弾「God save theQueen」に参加し、地下鉄サリン事件を遠景に交差する人々の思いを描いた『メトロ』を上演。飛鳥新社『演劇最強論 ー反復とパッチワークの漂流者たちー』で次代を担う小劇場作家として紹介される。2013年12月、アトリエ春風舎の芸術監督に就任。
取材・文=いまいこういち
※学生、高校生以下の方は、当日受付にて学生証を提示
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