ミュージカル毛嫌い層をオとすカギは音響にあり!?

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感情が音楽にのって、舞台から飛んでくる

近頃ミュージカルを観に行くと、脚本よりも楽曲よりも演技よりも、音の響き方ばかりが気にかかることがある。歌詞が聞き取れないとか、声が舞台じゃないところから聞こえるとか、せっかくの生オケなのにちっとも臨場感がないとか。「どうだった?」と聞かれて真っ先にこういうことを答えると、「そんな細かいことじゃなく中身の感想を」的な反応が返ってくるわけだが、実はこれ、全然“細かいこと”なんかではないのではなかろうか。

ミュージカルの醍醐味は、感情が音楽にのって、舞台から飛んでくることにある。第一条件としてそこがクリアされていれば、ミュージカル嫌いの常套句である「なんで急に歌うの?」なんて疑問やサムさを感じる前に、歌と演奏の迫力に身を任せてしまうのが人間の本能だと思うのだ。この「感情が音楽にのって、舞台から飛んで…こないorz」というストレスを、欧米の一流劇場で感じたことがないのはなぜだろう、とつらつら考えていた矢先、ミュージカル『WICKED』の公式FACEBOOKにこんなバックステージ動画が投下された(数年前に製作された動画が改めてシェアされた模様)。

「なぜガーシュウィン劇場(ブロードウェイで『WICKED』を上演中の劇場)では、どの席に座っていても台詞が完璧に聞こえるのか」


「『WICKED』の音響チームは、ただ役者の声を拡大しているのではなく、歌詞ひとつひとつをPOP(弾ける)させ、エフェクトひとつひとつをSPARKLE(きらめく)させる音景を作り出しています」という導入からして「それそれ!」という感じなのだが、続いて紹介される音響デザイナーや音響エンジニアのコメントがもう、激しく首肯するしかない言葉のオンパードだ。

声は舞台から、オーケストラはオケピットから

曰く、「観客が音響に気をとられることなく物語を受け取ってくれることがゴール」、「声は舞台から、オーケストラはオケピットから聞こえていると感じてもらいたい」、「エンジニアは演者と一緒に呼吸をすべき」…。そうしたコンセプトに基づき、デザイナーはマイクとスピーカーを舞台のあちこちに仕込み、エンジニアは「T、K、Sが台詞の最後にくる時にはそこだけ音を上げる」などの工夫を凝らしているのだという。

日本の音響スタッフがそうした努力をしていないとは思わないし、劇場構造や気候、それに日本語そのものの響きづらさなど、条件面での様々な違いが影響していることも十分想像できる。だが一方で、ドラマデスク賞やオリヴィエ賞(トニー賞では今年から廃止されてしまったが)にもしっかり「音響デザイン部門」がある欧米と比べて、日本ミュージカル界において音響というものに対する意識が低いこともまた事実かと思われる。

それに何より、“工夫を凝らす”ことは、欧米人よりむしろ日本人の得意分野ではなかったか。実際、世界的ヒットミュージカルの日本版上演の際に来日する海外スタッフに取材をすると、皆「日本人スタッフは優秀で緻密で改良上手」と口を揃える。その日本人音響デザイナーとエンジニアが周囲の高い意識のなかで課題に取り組めば、「感情が音楽にのって、舞台から飛んで…きた!」と感じられる音景作りをあらゆる公演で実現することがきっとできるはず。その日を諦めずに待ち続けよう、と改めて思わされる動画であった。

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