関西二期会が満を持して、マスカーニ作曲 歌劇『イリス』を上演

インタビュー
クラシック
2017.5.19
関西二期会50周年公演「ドン・カルロ」(2014.10.25 兵庫芸文)

関西二期会50周年公演「ドン・カルロ」(2014.10.25 兵庫芸文)


関西二期会が今月27日から上演するマスカーニの歌劇『イリス』は、江戸時代の日本が舞台となる、極めて演奏機会の少ないオペラだ。ジャポニズム・オペラと言えばプッチーニの『蝶々夫人』が有名だが、『イリス』の初演はその5年前。マスカーニと言えば、「カヴァレリア・ルスティカーナ」があまりにも有名だが、『イリス』の音楽は「カヴァレリア・ルスティカーナ」に負けず劣らず、あまりにも美しい!

今回の『イリス』のチラシからのあらすじを抜き出すと以下の通り。「盲目の父と慎ましく暮らしていた純真無垢な少女イリス。ある日、京都が彼女を吉原に連れ去ってしまう。自らの意思で吉原に言ったと誤解した父が激怒し、絶望の果てに彼女は身を投げてしまう…。」

関西二期会が『イリス』を上演するのは初めての事。これまでにもコンサート形式で上演されたことはあるが、本格的なオペラとしての上演は本当に珍しいだけに、この機会を逃すともう観られないのではないか。昨年、東京フィルがやはりコンサート形式で『イリス』を演奏した際、指揮をしたイタリアの若きマエストロ、アンドレア・バッティストーニが「マスカーニの真の傑作は『イリス』!」と言ったそうだが、大編成オーケストラが奏でる極彩色のオーケストラサウンドは、何をおいても聴いてみる価値がありそうだ。

関西でイタリアオペラと言えばこの人!ソプラノの泉貴子(上の写真、『ドン・カルロ』にエリザベッタ役で出演。上手アイボリーのドレス姿)に、見どころや聴きどころを聞いてみた。

取材に笑顔で応える泉貴子 (C)Isojima

取材に笑顔で応える泉貴子 (C)Isojima

泉 今回、初めて歌わせていただくのですが、とにかく出ずっぱりです(笑)。そうですね、声質は私に合っていると思います。日本が舞台で、「フジヤマ」や「ムスメ」と云う言葉も出てきますし、出演者には京都や大阪という人物も出てきます。ただ、音楽的には「蝶夫人」のように日本のフレーズが出てくるわけではありませんが、本当に素晴らしいです。

--ストーリー的に不思議な話ですね。そのあたりはいかがですか。

泉 マスカーニ自身が想像する幻想の中の日本が舞台なのだと思います。確かに腑に落ちない点もあるのですが、今回の井原広樹さんの演出はその点をしっかりとカバーしたもので、稽古の最初に丁寧に説明していただいたこともあり、納得して演じられます。

出演者が絶大な信頼を寄せるマエストロ・アジマン。

出演者が絶大な信頼を寄せるマエストロ・アジマン。

泉 昨年、イタリアの歌劇場で歌わせていただきましたが、今回の指揮者イタリア出身のアジマンの素晴らしさを改めて認識しました。日本でマエストロの指揮の下『イリス』を歌えることはとても幸せです。素晴らしいオペラ『イリス』を、ぜひ皆さまに劇場でご覧いただきたいですね。

ジャポニズム・オペラだけあってリハーサルは着物姿 (C)Isojima

ジャポニズム・オペラだけあってリハーサルは着物姿 (C)Isojima

『イリス』の魅力について、演出の井原広樹にも聞いてみた。

原作のファジーな部分をカバーするのは、井原広樹の的確な演出 (C)Isojima

原作のファジーな部分をカバーするのは、井原広樹の的確な演出 (C)Isojima

井原 ジャポニズム・オペラと言っても、日本的なものがほとんどなく、マスカーニのカンタービレなサウンドに、初めて『イリス』を聴かれる方には少々違和感を感じられるかもしれませんね。その違和感が、良い意味で不思議感につながり、この作品の持つファンタジーな魅力につながっているのだと思います。主人公のイリスは終始未成熟な少女のままです。京都からは労働を強いられ、金を搾取されます。恋人気取りの大阪からは、お前の美しさが俺をこんな風にするんだと弄ばれ、父親のチェーコからは、お前は私を裏切った。許せないと罵倒されます。これら、すべて男のエゴなんですね。自分の事しか考えていない。イリスは死ぬことによってそれらから解放され、自由になり、天井に上がっていきます。

原作をしっかり読み込み、書いている事はもちろん、書かれていないことも埋めていくのが演出の仕事。矛盾点を修正し、登場人物のキャラクターをしっかり設定することで、楽しんでいただける作品になったと思います。


関西二期会の第87回公演は、『蝶々夫人』の陰に隠れ、知る人ぞ知る感のあったマスカーニの歌劇『イリス』を、コンサート形式ではなく、オペラとして楽しめるまたとないチャンス。またこの公演は、関西二期会とマスカーニの生地でもあるイタリアのリヴォルノ歌劇場との共同制作という形で上演されるという意味でも、注目すべき公演だ。

取材・文=磯島浩彰
 
公演情報
関西二期会 第87回オペラ公演 歌劇「イリス」

▮日時:
5月27日(土)16:00開演
5月28日(日)14:00開演
▮会場:あましんアルカイックホール

■作曲:ピエトロ・マスカーニ
▮指揮:ダニエーレ・アジマン
▮演出:井原広樹 
▮管弦楽:大阪交響楽団
▮合唱:関西二期会合唱団
▮出演:
 27日 泉貴子(S) / 片桐直樹(Bs) / 小餅谷哲男(T) / 鳥山浩詩(Br) / 井上美和(S) / 山中幸治(T) / 水口健次(T)
 28日 福田祥子(S) / 服部英生(Bs) / 松本薫平(T) / 大谷圭介(Br) / 鬼一薫(S) / 島袋羊太(T) / 藤田大輔(T) 
▮お問合わせ: 関西二期会:06-6360-4649
▮公式サイト:http://kansai-nikikai.com/

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