久保田秀敏演じる最後の八雲! 舞台版『心霊探偵八雲 裁きの塔』稽古場レポート
舞台版『心霊探偵八雲 裁きの塔』
舞台版『心霊探偵八雲 裁きの塔』が、5月31日(水)からいよいよ上演となる。原作の「心霊探偵八雲」は、神永 学の大ヒット小説シリーズ。漫画・舞台・ドラマCD・テレビアニメなどメディアミックスが図られ、小説はシリーズ累計で450万部以上を売り上げている。舞台版では、外伝シリーズのANOTHER FILESより「いつわりの樹」が2013年に久保田秀敏主演で上演され大ヒット、さらに「祈りの柩」を2015年に上演、今回上演されるファン待望の新作「裁きの塔」は第3弾で舞台化シリーズの最終章となる。
今作は、過去2作品で八雲を演じた久保田秀敏が演じる“ラスト八雲”としても注目が集まっている。そんな熱気漂う稽古現場に立ち会うことができた。
本作の主人公である斉藤八雲(久保田秀敏)は、赤い左眼を持ち、死者の魂が見えるという特異な体質を持つ大学生。物語は、八雲とヒロインの小沢晴香(美山加恋)が通う大学の時計塔での殺人事件から始まる……。八雲と周囲の人物たちが協力し、スリリングな事件を解決していく心霊現象を巧みに取り入れたミステリーは、原作者である神永 学による脚本だ。
稽古風景
舞台となる明政大学の時計塔には、かねてから妙な噂があった。塔の最上部に置かれた大きな姿見が黄泉の国と通じていて、24時にその鏡の前に立つと死者と再会することができるのだという。友人の小池花苗(今村美歩)からその噂にまつわる相談を受けた晴香は、八雲と共に時計塔の謎を調べ始める。
一方、明政大学文芸サークルの桜井 樹(水石亜飛夢)は、自身が執筆した小説「時計塔の亡霊」で北東新聞社小説新人賞の大賞を受賞し、世間を騒がせていた。八雲と親しい新聞記者の土方真琴(樋口智恵子)は、取材の中で桜井が語った「この作品は、時計塔の亡霊に書かされた」という言葉に奇妙な違和感を覚え、八雲に相談をもちかける。
その頃、世田町警察署の未解決事件特別捜査室では、刑事の後藤和利(東地宏樹)と部下の石井雄太郎(佐野大樹)が、石井と同期でエリート志向の強い小野寺(OH-SE)から持ち込まれた、明政大学近くでの不審者目撃情報の調査を始めていた。
と、ここで物語の流れは冒頭のシーンに戻る。時計塔で起きた殺人事件……その容疑者としてあげられたのは何と晴香だった。第一発見者の警備員・瀬尾 稔(田中涼星)はその現場で晴香の姿を見たと言う。しかし晴香には覚えがない。
桜井、花苗と同じく文芸サークルに所属する西澤保伸(北園 涼)や、真琴の恩師であり、文芸サークルの顧問である恩田秀介(石坂 勇)も密接に関わり、事件は意外な展開を見せていく。果たして八雲は、晴香を助け出せるのか? ――緊密なミステリー劇が幕をあける。
稽古風景
リラックスした雰囲気とはうって変わり、演出の伊藤マサミの掛け声とともに稽古場には緊張感が満ちる。斉藤八雲の久保田秀敏は、どこか冷めてクールなセリフ回しと身のこなしがかっこいい。そこにあっけらかんと絡む天然系の美山加恋演じる小沢晴香の演技が可愛らしく、二人の絶妙なコントラストが稽古場で表情豊かに弾けている。
さらに、アニメでも声優として同役を演じていた後藤和利役の東地宏樹は、荒っぽくも心根の優しい後藤を、大胆且つ丁寧に演じている。いつもおどおどした石井雄太郎を演じる佐野大樹は、コメディリリーフとして活躍しており見ているだけで面白い。石井の同期なのに、なぜか石井は「さん」づけで呼んでしまう堅物の小野寺をOH-SEが、情に流されず信念を貫く冷徹な態度で見事に演じる。
稽古風景
水石亜飛夢が演じる桜井 樹は序盤では新進気鋭の作家としての顔を見せ、真実が明らかになる山場での表情の変化に目をみはる。晴香の友人である小池花苗役の今村美歩は、幽玄的な美しい佇まいがどこか儚げだが、確かな意思を表情から感じさせてくれる。
北園 涼の演じる西澤保伸も、ストーリーの中で大きな役割を果たす。怒りを露に感情をぶつける演技が新鮮だ。瀬尾 稔役の田中涼星は、目撃者の警備員という立ち位置に留まらず、終盤に暴かれる意外な真実に、狂気じみた表情を見せてくれた。
稽古風景
哀しい因縁を心に秘めた恩田秀介役の石坂 勇は演技に説得力があり、場の緊張感を徐々に高める役割を十全に果たす。土方真琴役を演じる樋口智恵子は闊達なセリフ回しと溌剌とした明るさでストーリーに彩りを添え、統制のとれたチームワークを稽古場からひしひしと感じることができた。
事件は二転三転を繰り返し、緊張感はマックスへ。
稽古風景
今作のハイライトは、いつもクールで冷静な八雲が、晴香が犯人として逮捕された際に、彼女のことを何も知ろうとしなかった自分に気付き、進むべき方向を見失いそうになりながらも、彼女を助けるべく勇敢に立ち上がる瞬間だろう。
稽古風景
もちろん、こんがらがった糸が八雲の赤い眼によってほどかれていくストーリー展開は圧巻で、伊藤マサミによる大胆で緻密な演出と、脚本の神永 学と丸茂 周による計算されたストーリーによるものが大きいだろう。音楽の倖山リオのクールなジャズ風の音楽も等身大の八雲を表しているようで、物語に華を添えていた。
稽古風景
感情移入した狂気あふれるキャスト陣の絶妙な芝居と伊藤マサミの緻密かつ繊細な演出により、原作者の無言のメッセージを強く感じさせてくれた。
事件の結末には、正解も間違いもない。観る者の、思考・想像力次第で本作のキャッチコピーである“裁かれるのは誰だ?”の問いに悩まされるであろう……これこそ演劇本来の楽しさではないか!!
本番をますます楽しみにさせてくれる有意義な時間であった。
稽古風景
舞台版『心霊探偵八雲 裁きの塔』は、5月31日(水)から6月11日(日)まで、品川プリンスホテル クラブ eⅩを皮切りに、6月18日(金)から6月16日(日)の大阪ビジネスパーク円形ホールまで上演される。
原作ファンも、前回公演を観劇した人も、初めて観劇する人にもオススメしたい、初夏にふさわしい傑作ミステリー舞台だと感じさせてくれた。
稽古風景