浅野ゆう子と喜多村緑郎が語る! 七月名作喜劇公演『紺屋と高尾』華やかな舞台の純愛喜劇の見どころ

2017.6.19
インタビュー
舞台

七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」喜多村緑郎、浅野ゆう子

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浅野ゆう子喜多村緑郎が主演を務める『紺屋と高尾』が、7月3日より新橋演舞場にて上演される。本作は「七月名作喜劇公演」2本立てのうちの1本で、同時上演は波乃久里子主演の『お江戸みやげ』だ。浅野と喜多村、そして演出の浅香哲哉が、合同取材に応じた。

『紺屋と高尾』の主人公は、染物屋(紺屋)の職人である久造と、吉原一の花魁である高尾太夫。上方から江戸に出てきた久造が、吉原の花魁道中で高尾太夫に一目惚れするところから物語は始まる。一龍斎貞丈の口演をベースに脚色され、昭和の時代には、松竹新喜劇の伝説の喜劇役者・藤山寛美が主演を務め人気を博した演目だ。

流れをくみつつ、2人らしく

演出の浅香は「松竹新喜劇の味を残しつつも、浅野さんと緑郎さんのお二人にあったやり方で創りたい」と語る。また、「精神的には現代劇でありつつ、歌舞伎的な部分を」と演出のイメージを明かした。たとえば黒御簾を使った三味線や鳴物の生演奏、歌舞伎の演目『籠釣瓶』を意識した要素を取り入れるなど「歌舞伎がわかる方には、さらに楽しめる作品になるのでは?」と語る。浅野によれば「浅香さんは人情喜劇の中の“人情”も描いてくださっている」とのこと。高尾が久造を好きになるきっかけを垣間見るようなサイドストーリーも楽しめるようだ。

七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」演出・浅香哲哉

深いところで惹かれていると伝わるように

浅野ゆう子は、吉原の最高位である高尾太夫を演じる。

「江戸で一番の花魁と言われる高尾太夫ですから、高貴な、雅な雰囲気、久造には到底手の届かない存在として演じなくてはと考えております。また、久造を演じる緑郎さんがこのとおり大変魅力的でいらっしゃいます。ですので『あれだけ久造が素敵なら、高尾が心惹かれるのも当たり前』と受け取られないよう、高尾は深いところで久造に惹かれているのだと伝わるように演じたい。(歌舞伎、講談、松竹新喜劇など)色々な要素を取り入れ、浅香先生と喜多村緑郎さんと一緒に新しい高尾太夫を作らせていただきます。この作品で描かれる心は、現代に通じるものがあります。純粋なラブストーリーです。そのテイストを出せればと思います」

七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」浅野ゆう子

本公演では、実際の歌舞伎のセットや衣装を用いた絢爛たる花魁道中を再現するという。これが実現するのも松竹による新橋演舞場での公演だからこそ。浅野も声を弾ませコメントした。

「女ですから、いくつになっても綺麗なお着物をきさせていただけるのはすごく嬉しいことです!毎日いい気分で外八文字を踏ませていただけると思っております。星の数ほど女優はいますが、新橋演舞場の花道で花魁道中をさせていただける女優は数えるほどしかいません。大変光栄で、女優をやってきて良かったという気持ちでおります!」

七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」喜多村緑郎、浅野ゆう子

僕の勘は当たるんです

喜多村緑郎は、歌舞伎界で市川猿翁(三代目猿之助)の元、月乃助の名で芸を磨いた後に、2016年に新派へ移籍した。現在は、斬新な解釈で大きな話題となっている新派版『黒蜥蜴』の公演期間中でもある。

「藤山寛美先生が演じた久造に追いつけるとは、これっぽっちも思っておりませんし、マネができるとも思いません。だからこそ浅香先生と浅野さんと一緒に、我々の『紺屋と高尾』を一から作っていきたいです。恋して、恋して、恋しぬく久造という男は、一途さにおいて、どこか常人ではない、特別な人物像を感じます。それをズバリと見抜く、高尾太夫の気風の良さと、久造に惚れてくれる心根の美しさ。メルヘンチックなラストに向けて、みんなが一生懸命にバーッと進んでいく姿は、現代でも共感いただけ、楽しんでいただけると思います」

七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」喜多村緑郎

当代一の喜劇女優・藤山直美に届くよう

当初、新橋演舞場の七月公演2本立てのうち1本は他の作品を予定していた。しかし主演の藤山直美が乳がんを公表し、治療に専念するためやむなく降板。演目が急きょ『紺屋と高尾』に変更された。記者のひとりからこの件に質問が及ぶと、浅野は心痛な面持ちで深く頷き、そして口を開いた。

「機会があるたびに直美さんの舞台を拝見し、いつかご一緒させていただく機会があればと願っておりました。ご病気の発表には、ひとりのファンとして心配させていただいておりました。(その後、本公演の出演に声がかかり)僭越ではありますが、直美さんに新橋演舞場に立たせていただいたという気持ちでがんばりたい。『浅野ゆう子ががんばっていましたよ』と、直美さんのお耳に届くような舞台にしたい。そんな思いでおります」

七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」浅野ゆう子

喜多村は「藤山直美さんに『あんた、関西弁いけるな。今度「銀の簪」やってみぃ』とアドバイスいただき、さっそく勉強しようと入手した寛美先生のDVD-BOXに『紺屋と高尾』が収録されていたんです。それを観て、寛美先生の久造に大変魅了されておりましたら、直美お姉ちゃんが降板となりまして、演目が変わるかもと知らせを受けました。その時、ふと頭の中で『紺屋と高尾』になるのでは?と思ったんです。後日『紺屋と高尾』に決定したという連絡がありました」とエピソードを明かした。

「さすが僕の勘はすごいなと思いました」と付け加え、取材の場は笑いに包まれた。

七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」喜多村緑郎、浅野ゆう子

浅野と喜多村は、本作が初共演となる。浅野の印象を訊かれた喜多村は、「大女優さんに共通する、1本筋の通った、男の匂い」を感じると答えた。

「まだ本読みで一度ご一緒させていただだけですが、芯の通った素晴らしい声に、この美貌。素晴らしい高尾太夫になると感じました。一発でズキューンとハートを撃ち抜かれましたね(笑)。新橋演舞場にいらっしゃるお客様も、美しい大舞台に外八文字で登場する高尾太夫に撃ち抜かれると思います。良い舞台になると予感いたしました。最近、勘が冴えわたっております。この勘も当たると確信しております!」

喜多村(右)のコメントに「さりげなくプレッシャーをかけられましたね」と浅野(左)。七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」

江戸弁と上方弁と、ありんす言葉

高尾太夫を演じるにあたり、浅野に立ちはだかるのが廓言葉(「~でありんす」など遊女が使った言葉)だ。

共演する市村萬次郎は、脚本の深い読みに基づいた役作りに定評がある歌舞伎役者だ。そこで浅野は、「萬次郎にさん、この台詞どう言ったらいい?」とアドバイスを求めるなど、奮闘していることを明かす。演出の浅香はこれについて「難しさはあると思うが思い切って、浅野さんらしさを出して堂々とやってほしい。当時の吉原を知っている、花魁に実際に会ったことのある人はもういないので、自由に(笑)」と変化球のエールを送った。

一方、喜多村は「七月名作喜劇公演」2本立てのうち『お江戸みやげ』は江戸弁で阪東栄紫を、「紺屋と高尾」は大阪弁で久造を演じる。 「僕は新潟の出身ですが、関西弁には色々ありますね。英語よりも難しいかもしれません。その意味で今、僕はバイリンガルですよ!」と自信をのぞかせる。

七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」喜多村緑郎

七月は新橋で絢爛豪華な観劇体験を

さらに見どころとして、喜多村は「歌舞伎さえ、これほど美しい豪華な舞台がいつも観られるわけではありません。ビジュアル的な美しさも味わっていただけるはず」という。贅沢な刺繍をあしらわれた重量のある衣装を身にまとい、25cmの高下駄を履くことになる浅野だが、もともと170㎝近い高身長。「鬘まで含めると、3メートルは超えるんじゃないですか? マジンガーゼットみたいな」と、男前なコメントで取材陣を笑わせた。

日常生活では体験しがたい絢爛豪華な世界観と、美男美女の純愛に浸る名作喜劇公演『紺屋と高尾』は、7月3日より25日まで新橋演舞場にて。

脇を固める実力派俳優陣にも注目。七月名作喜劇公演「紺屋と高尾」

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報
七月名作喜劇公演

■会場:新橋演舞場 (東京都)
■日程:2017年7月3日(月)~25日(火)
昼の部:11:00~ 夜の部:16:00~

■演目:

一、お江戸みやげ 
作 川口松太郎
演出 大場正昭
 
二、紺屋と高尾 
作 一竜斎貞丈
脚本 平戸敬二
演出 浅香哲哉
 
■出演:浅野ゆう子/喜多村緑郎/小林綾子/仁支川峰子/市村萬次郎/大津嶺子/曽我廼家文童/波乃久里子
■公式サイト:http://www.shochiku.co.jp/play/enbujyo/schedule/2017/7/post_325.php
 
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