美輪明宏が古き良き時代のシャンソンの魅力を語る! 名曲の数々が堪能できる音楽会『美輪明宏の世界』がこの秋開幕
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美輪明宏 撮影=御堂義乗
毎年のように開催している恒例の美輪明宏の音楽会が今年は心機一転、『美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~』にタイトルを改め、新たなプログラムで登場する。“古き良き時代のシャンソン”の名曲の数々が、「1曲ごとに、まるで映画や一人芝居を観ているかのよう」と評される、豊かな美輪の表現力で披露されていく。曲目としては果たしてどんなラインナップを予定しているのか、そしてシャンソンの魅力について、美輪に語ってもらった。
――今年9月、タイトルも新たに開幕する『美輪明宏の世界』は、『~おしゃべりとシャンソン~』というサブタイトルをつけての新しいプログラムの音楽会になるそうですね。
これまでの音楽会は、わたくしが作詞作曲した作品や日本の抒情歌などと、フランスのシャンソンとを混合しながらやらせていただいていたのですが、最近はどうやらシャンソンがあまりにも衰退しているようなので、ここで少し復活させたいと思っているんです。なぜならば、わたくしも唖然としたんですが、近頃の若い人たちの中にはシャンソンが何か、わからない人が多いんですよ。歌のことだと思わずに、化粧品か何かだと思っているらしいんです(笑)。
――シャンソンという言葉自体を、ご存知ない方が多いんですか。
ええ。「シャンソンというのは 歌 という意味です」と教えると、「じゃ、ソングじゃん」。それで「それは英語でしょう、そのソングをフランス語ではシャンソンと言うの」と言うと、「どうしてフランス語なの?」なんて聞いてくるので、「フランスの歌だから、フランス語なの!」って言ってしまいました。最近の子って単刀直入で、可愛いことは可愛いんですけれど(笑)。
だけどシャンソンの衰退が始まったのは、もうだいぶ前からです。というのも、筑紫哲也さんがまだ御存命の頃、パリにいらした話を聞いていたら既に「もうシャンソンはダメだね」っておっしゃっていましたから。「美輪さんが歌っている曲は“シャンソン・ド・クラシック”と呼ばれていて、今ではCDショップの奥のほうにある小さなコーナーに入れられているよ」っておっしゃいました。大歌手のエディット・ピアフやジュリエット・グレコ、イヴ・モンタンやシャルル・アズナヴールの曲がそういう風に扱われているそうなんです。日本でもシャンソン歌手のことを知らない人が増えてきているとは思っていましたけれど、まさか本場のパリがそこまでひどくなっているとは思っていなかったので驚きました。
シャンソンと一口にいっても、実はいろいろなジャンルに分かれているんです。たとえば「シャンソン・ド・シャルム」というのは“魅惑的なシャンソン”という意味ですけれど、これはどちらかというとコケティッシュな、蠱惑(こわく)的な、聴いていてとろーっとするような甘いシャンソン。「聞かせてよ愛の言葉を」みたいな口説きの歌が、この「シャンソン・ド・シャルム」にあたります。
そして「シャンソン・ド・サンチマンタル」というのは、つまりセンチメンタルな、恋人にフラレたとか、うまくいっていないとか恋愛関係の歌です。「愛の讃歌」など、エディット・ピアフが得意としていたジャンルはこちらに分類されます。また、「シャンソン・ド・レアリスト」、これはリアリスティックな、現実的な問題、テーマを歌っているジャンルです。
そういう風にジャンル分けがされていて、そのジャンル別にそれぞれ歌手がいるんです。しかし、日本では、全部ひとくくりにしてシャンソンと呼ばれています。けれど、わたくしの場合はどのジャンルのシャンソンも歌っています。もう50年以上も前の話になりますが、わたくしがパリでコンサートをやった時は「“レアリスト”も“シャルム”も両方やれるなんて、珍しい人だ」と言われて、向こうのうるさがたにも支持されたんです。
――シャンソンがそんなに細かくジャンル分けされていることは、知りませんでした。
それと、昔はシャンソンのライブハウス、シャンソニエが文化の発信地だった時代があったんです。わたくしが最初にブレイクしたのが1956年から1957年のことですが、その頃、銀座の7丁目に銀巴里というライブハウスがありました。今でも石碑だけは立っています。そしてパリにはキャフェ・ド・フロールという喫茶店があって、そこへジャン=ポール・サルトルや奥さんのボーヴォワールといった哲学者たちや、実存主義の人たち、詩人のジャン・コクトーといった芸術家たちが集まっていて、まさにそこが文化の発信地でした。
雑誌か何かで彼らの写真を見た時に、わたくしも銀巴里をそういう場所にできないかなと思ったんです。というのは、当時は岡本太郎さんが「僕にも歌わせて~」って時々歌いにいらしていました。『パリの屋根の下』とか、フランス語で本当にお上手にお歌いになっていました。他にも江戸川乱歩さんや三島由紀夫さん、川端康成さんや吉行淳之介さん、遠藤周作さん、安岡章太郎さん。それに俳優の三國連太郎さん、菅原文太さんといった方々も、とにかくいろいろなジャンルの方々がおみえになっていました。
そんなこともあって「そうだ、ここも文化の発信地になるじゃない」と思ったわけです。そこから「じゃあ、わたくしはどういう格好をしようかしら」と考えるようになり、いろいろと調べてみると平安時代から“お稚児さん文化”というものがあったり、その後にも西郷隆盛が心中未遂をした相手が美少年のお坊さんだったり、などなどいろいろなことがわかってきたんです。さらに、当時の世の中にない色ってなんだろうということを考えてみたら、紫色のものがあまりなかったんです。だから、紫色のマニキュアも作って貰ったりしたんです。
さらにパーティー用のスプレーで髪を紫色に染め、紫色の生地で洋服を仕立ててもらって、頭の先から足の先まで全部紫色にして、数寄屋橋から銀座七丁目まで「ラ・ヴィ・アン・ローズ」をフランス語で歌いながら歩いたんです。そうしたら「紫のオバケが銀座に出るぞ」みたいな噂になって、すっかり有名になってしまいました。まるで“ハーメルンの笛吹き”みたいに、わたくしのあとをみんなぞろぞろついてくる。それで、わたくしが地下にあった銀巴里に入っていくと、そのままみなさんも入ってくるものだから、お店も評判になりました。つまり今回は、そのころの雰囲気も再現したいと思っているんです。
――では、シャンソンを中心にしたプログラムになるわけですね。
はい。ただ「ヨイトマケの唄」に関しては、シャンソンではないですし、まだ歌うか歌わないかを決めていないんです。それ以外は今のところ全部、シャンソンになる予定です。「愛の讃歌」はもちろん、歌います。あれは紅白歌合戦で歌った時も、ツイッターで、いい意味でものすごく炎上してしまったでしょう。若い人たちは、ああいう曲を初めて聴いたそうです。その反応を教えていただいて、「じゃあ、みなさん、実はシャンソンを求めてはいるんだな」と思ったんです。つまり、提供する側に問題があるんだということです。それもあって今回は、古き良き時代のシャンソンを選んでプログラムを組んでみたんです。
――なるほど、そうだったんですね。
わたくしが最初に世の中に認められた時に歌っていた「メケ・メケ」も、プログラムに入れようと思っています。これは「メ・ケスク・セ」、つまり「それがどうしたんだ?」って意味ですけれど、それがなまって「メケ・メケ」になっているんです。原詩は簡単に言うと、水夫が港の女とできて、その女と別れて、船が出航するんだけど、やっぱりまた堪らなく会いたくなって、サメのいる海に飛び込んで、彼女のところに戻って来て、日が昇ってめでたしめでたし、となるわけです。
でも、わたくしは長崎の女郎屋のそばで育っているものだから、女性が「ねえ、好きなのよ、行かないで」なんてしおらしく言っていたのに、男がいなくなった途端に「バッカヤロウ、いい男ぶりやがって!」なんて言っている姿を見てきたので、そういう場面を入れたんです。前半では「行かないで、私は死んじゃうわよ」って言っていた女が後半になると「バカヤロウ、情なしのケチンボ」なんて言い出すから、それでみなさんビックリなさったんです。それまでは、日本の歌で、バカヤロウだとかケチンボだとか、そんな歌詞は一切なかったものだから。それで、ウケたんです。まあ、不道徳だとか、いろいろなことを言われはしました。
それでも、わたくしがこれを普通の男の格好で歌っていたら変にリアルになってしまったでしょうけれど、背広にネクタイとかではなく、また女性の服を着ているわけでもなく、女だか男だかもわからないような格好でした。だからこそ、許された部分もあったんだと思います。
――その他にプログラムに入れようと思われている曲目は。
以前、なかにし礼さんがエッセイか何かで褒めてくださった「愛する権利」、これも歌おうかと思っています。もともとはピアフの歌なんですけれど「どんなことがあってもとにかく、私たちは愛する権利を貫く」と、男女の恋人同士のことが描かれています。でも、わたくしは、人種差別とか、性差別とかも含めて、世の中にはさまざまな差別があると思っていますので、たとえば年寄りが若い女をもらえば「あのスケベジジイ」なんて言われたりするし、逆に「あの女、財産狙ってるのよ」と言われたりもするでしょう? そういったこともすべて総合的、トータルにすべきだと思ったので、そういう視点の歌詞に変えて、人間同士が愛し合うことに変わりはないと、どんな愛も誰も裁くことは出来なく、人間は人種や性、年齢を越えて愛し合う権利があると解釈しました。
――ちなみに、“シャンソンとおしゃべり”という副題がついたということは、トークコーナーも増えるということなんでしょうか?
いいえ、お客様の中には歌だけ聴きたいという方もいらっしゃいますし、おしゃべりのほうは本を読むだけでたくさんという方もいらっしゃるようなので(笑)、あくまでもほどほどに。曲にまつわるお話くらいにしようと思っています。この『美輪明宏の世界』では、シャンソンには面白い歌もあれば、とても洒落た歌があり、お芝居がかった歌もあるので、シャンソンをあまりお聴きになったことがない方に、こういう大人の、切ない歌の世界があるんです。ということをぜひこの機会に知っていただきたいんです。
――歌の中に、さまざまな人生を抱えた主人公が出てくるので、聴いているだけでとても楽しいです。
有難う御座います。わたくしのコンサートにいらした方は「映画を何本も観たような気持ちになる」って、よくおっしゃいます。映像が見えてくるんだそうです。ですから、そういう優れたシャンソンの数々をこのまま廃れさせてしまうのは、もったいないと思うんです。せっかくフランスの良き時代、今みたいにアメリカナイズされていない時代に、練り上げて練り上げてできた曲ばかりなんですから。ぜひ、そういった大人のお洒落な歌を、この機会に味わってみていただけたら幸いです。
インタビュー・文=田中里津子 撮影=御堂義乗
※本文内にて紹介した曲目は変更になる場合がございます。ご了承くださいませ。
会場:東京芸術劇場 プレイハウス (池袋駅西口)
構成・演出・出演:美輪明宏
演奏:セルジュ染井アンサンブル
公式サイト:http://www.parco-play.com/web/program/miwa2017/