独自の進化を遂げてきたバンド・PAELLAS MATTON(Vo)とSatoshi Anan(Gt)が語る、これまでと新作
PAELLAS(Satoshi Anan、MATTON)
限りなく“洋楽的な”バンドとして、早くから東京のインディー・シーンで注目を集めていたPAELLAS(パエリアズ)。ニュー・ウェイブ~サーフロック的なサウンドで始まり、やがてハウスにもアプローチするようになり、昨年末に発表した1stフル・アルバム『Pressure』ではフランク・オーシャンやザ・ウィークエンドに通じるインディーR&B的なグルーブとテーム・インパラに通じる揺らぎを獲得。そのようにサウンドを変化させながら個性を磨いて独自の進化を遂げてきたわけだが、現在制作中の新しいミニ・アルバム『D.R.E.A.M.』(9月6日リリース)では日本語詞で歌うなど、サウンド以外でも新境地を切り開いているとのこと。「甘噛み」が持ち味のボーカリスト・MATTONと、ソングライティング及びサウンド面に関してのキーマンであるギタリスト・Satoshi Anan(以下、Anan)に、これまでのバンドの歴史を振り返ってもらいつつ、新作についての話も聞いてみた。
――まずはベーシックな質問から。バンドは大阪で結成されたんですよね。
MATTON:そうです。僕とベースのbissiが大阪出身で、Ananは福岡出身。サンプラーのmsd.が静岡で、ドラムのTakahashiが神奈川。その二人は東京に出てきてから出会いました。だから、バンドとしては大阪で生まれて東京で育つっていう。
――大学のサークルで知り合った友人同士で結成したとか。
MATTON:はい。僕が大学4年のときに結成して、大学を卒業するタイミングで二人抜けて、僕とベースのbissiだけになって。で、曲を作ってネットにあげて、最初はネットレーベルから音源を出したんです。
――最初はロックバンドとして始まったんですよね。
MATTON:イギリスとかそっち系のサイケデリックな感じの音楽を日本語でやってました。で、Ananと大阪で出会って。Ananが大阪の学校に通ってた頃……2011年の冬ですね。その翌年にAnanがアメリカに留学することが決まっていたので、それまでの2~3ヶ月だけまず一緒にやって。それからAnanがアメリカに行って、帰ってきたときに「一緒に東京行こう」って決めた感じでしたね。それまで僕とbissiの頭の中には、東京に行ってやるっていう考えはなかったんですけど。
――やるからには東京に行って本気でやるぞ、と。
MATTON:Ananはバンドがどうこうじゃなく、アメリカから帰ったら東京に行こうと初めから考えていて。僕とbissiは、その頃一緒に関西で活動してたバンドがみんな東京に出ていったりしてたので、“自分たちはどうしようかな?”って思ってたんです。“このままでいいのかなぁ”みたいな。ちょうどその頃、東京で今に通じるインディー・シーンが形成されていってる様子をネットとかSNSとかで見て感じたりもしていたので。それで、Ananが東京に行くって言うのなら、“じゃあオレらも行こう”と。
――思いきって決断した。
MATTON:思いきってというよりは、けっこうノリで決めた感じでしたね。ぼんやり考えてた選択肢のピースが、Ananの一言でポンとハマったみたいな。
Anan:単純に「オレ、東京に行くんだ」って報告したつもりだったんだけど、まさかそこで「じゃあオレらも行くわ」ってなるとは思わなかった(笑)。
――まあでも、言うなればそこが人生の分岐点だったわけですよね。
MATTON:そうですね。そのわりには20分くらいで決めちゃいましたけど(笑)。
――で、メンバー全員、東京で一緒に住むことになったと。
MATTON:ひとつ屋根の下ですけど、部屋は別です。同じアパートの隣同士で、条件もそれで探してもらったんですよ。3件あいてるところを探してほしいと。そしたら1コだけあるよってことだったので、そこに決めて。
――それが高井戸だったと。YouTubeを見てたら、高井戸についてみんなで語っている映像があって、「自分たちの音楽は渋谷とか新宿って感じではなくて、都会の人がちょっと寂しくなって帰ってきたときに聴くようなイメージ」みたいなことを言っていて。ああ、言い得てるなと思ったんですよ。
MATTON:外から来た人間がやってる音楽なので。最初の頃は“東京に向かって走ってる夜行バスに乗ってるときに流れてる音楽”というようなイメージで曲を作ってましたね。向かっている先に東京という場所はあるんだけど、その地の人間ではない。ある意味の憧れとか、そういうものを含みながら、そこに向かっていってる自分の音楽というか。
――なるほど。都会に完全に馴染んでいる状態ではなく、かといって地方がいいと開き直るわけでもなく。
MATTON:そうですね。
――ひとつ屋根の下に住んで、初めはひたすら曲制作を?
Anan:最初の年は本当にそうだったよね。
MATTON:メンバー全員の人間性を考えると、そういうふうにしないと作らないだろうと思ったんですよ。追い込まないとやらない人達なので。自分も含めてですけど(苦笑)。
――みんな、もともと洋楽ばっかり聴いていたんですか?
MATTON:Ananは音楽の入り口が完全に洋楽で。東京に来てから日本の音楽も聴くようになった感じだよね。
Anan:うん。東京に出てくる以前はバンドをやってたわけでもないし、バンド・シーンというものを体感したこともなかったから。東京に来てバンドを始めてから、ライブハウスとかで日本のバンドと共演したり交流したりするようになって、それで“こういう日本の音楽もあるんだ”って知った感じ。そこからいろいろ掘り下げるようになりましたけど、入りは洋楽だったので、今でもやっぱり洋楽を聴くほうが多いですね。
MATTON:僕とbissiは、そもそもPAELLASを始めたきっかけとして、二人ともミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)とか、ブランキー(BLANKEY JET CITY)とか、ゆらゆら帝国とかが好きだったっていうのがあって。洋楽ももちろん聴いてましたけどね。
PAELLAS(Satoshi Anan、MATTON)
――それから徐々にメンバー全員の好みが近づいていった。
MATTON:2011年~2012年くらいにアメリカのインディー・シーンが面白い感じになってて、Ananはもともとそういうのが好きで、僕らはAnanと出会うちょっと前くらいにそういうのを好きになりだしたんです。その前は僕はThe Drumsにハマってて、bissiはリー・ペリーばかり聴いてて、好きな音楽性が乖離しすぎて“これ、解散するパターンかな”と思ったくらいだったんですけど(笑)、Ananと出会ってbissiもアメリカのインディー・ロックとかを聴くようになって……っていう流れですね。
――では、ここで今までリリースしてきた作品をざっと振り返っておきたいんですけど。まず『Long Night is Gone』。これが最初?
MATTON:そうです。僕とbissiが家でコソコソ作ったのがそのアルバムで、大阪で2012年に出したものですね。1曲だけ、Ananがアメリカに行く前にいた2~3ヶ月の間に作ったものも入ってます。
――今とは全然音が違いますよね。ダークでローファイというか。
Anan:あのときはローファイなものに集中してたので。
MATTON:ローファイこそ全てみたいな(笑)。歌い方も今と全然違いますね。
Anan:今でこそPCで曲を作ってますけど、あのときはセッションして、楽器の音を一つずつMTRに入れていって……っていうアナログなやり方で作っていたので。
MATTON:音が悪くて、こもってるのがいい、みたいな。「こもらせろ、こもらせろ」って(笑)。
――ニュー・オーダーっぽい曲とかもあったりする。
MATTON:あの当時はbissiがトラックを作ったものが多かったので、そういうのもありましたね。bissiはニュー・ウェイブ~ポストパンク的なものにサーフ・テイストを混ぜたような音が好きだったので。
――そういうテイストの音を表現することは、『Long Night is Gone』1枚で満足したわけですか?
MATTON:まあ、アメリカのインディー・ロックの流れが徐々に動いていったのと同時に、僕らの好みも変わっていったので。
――で、2014年8月にEP『Cat Out』をリリース。2013年は何も出してなかった?
MATTON:2013年は『Sugar』という自主盤を出して、そこらへんからちょっとR&Bみたいなことをやってみて。今思えば本当に「やってみて」ぐらいの感じですけど。で、2014年の『Cat Out』。これは東京に来て、3人で初めて作った曲なんです。今聴くと……なんかね(苦笑)。
Anan:なんとも言えない気持ちになるね(笑)。やっぱり歳を重ねるごとに自分たちのクオリティが上がってるので、今聴くと“ああ、こんなの作ってたんだ……”って気持ちにはなりますよね。だからあんまり聴けない。
――それは演奏面に関して?
Anan:演奏面もそうですし、エディット面やソングライティングの面に関しても。
MATTON:歌も。全部ですね。今の東京のバンドはけっこう最初から感性も技術もあって、その状態で完全に近いものを提示できている人たちが多い気がするんですけど、そう考えると僕らは未だにそれができてなくて。
Anan:東京で生まれ育ってバンドやってる人たちって、オレらがくすぶってたような時代の感じを高校とかで既に経験してて……20歳過ぎたくらいでカッコいいバンドをやって世に出ていくみたいな、そういうイメージがある。
――ああ、最近はそうなのかもしれないですね。でも、PAELLASのように変化していく過程を見せるのも大事なことだし、その面白さもあるわけだから。
MATTON:そうですね。だから、これからどんどん良くなっていくんだろうなって思ってます。
――そして2016年1月にリリースしたのが5曲入りのEP『Remember』。2015年はリリースはなかったんですね。
MATTON: 2015年は確かに出してないですね。でも『Remember』は、実は2015年の1月にはもうできてたんですよ。そこからいろいろあって、録り直そうってことにもなって。
Anan:ライブハウスでは自主音源のやつを先に売ってたんですけど、そのあとインディペンデントの事務所と契約して、録り直すことになったので。
MATTON:だから『Remember』は、僕らとしては2015年の意識ですね。ずいぶん昔。
――その『Remember』の段階では、まだロックもやりつつも、一方ではハウスをやるなど音楽性がグッと広がった印象があります。
MATTON:これまでずっと、“好きになったものをすぐにやってみて出しちゃった”みたいな感じできてるから。そのときも、なんか急にシカゴハウスを聴きだして、“早速作ってみました”っていう曲を収録しちゃってる。
――“今、自分たちにとってカッコイイのはこれだから、すぐやろうぜ”と。
MATTON:そうです。技術が伴ってるかどうかはおいといて。すごくピュアな状態でやっちゃってますね。
Anan:でも、バンドはそうあるべきだと僕は思いますけどね。海外のバンドはそうやってそのときの衝動でいろんなことやるのが多いけど、日本のバンドの人たちって“最近こういうのにハマってるけど、やっぱオレたちはこれしか出せねえ”みたいな感じが多いじゃないですか。やりたくなったらそれをやればいいのにって僕は思うし、僕らは好きになったらすぐに“これやろう”って作ってますね。
――ちなみにこの『Remember』の中では、MVもある「Night Drive」のできが非常にいいですね。この時点でのPAELLASの個性を高レベルで反映させているという印象がある。
MATTON:あれは、フランキー・ナックルズ(にインスパイアされてできた曲)ですね。あのときはまだロックというものに対する意識が残ってて、それとそういうハウスを混ぜるというか、“ハウスでロックする”というか。今、DYGL(デイグロー)でギター弾いてるShimonakaがサポートで入って、ツインギターでやったりしてた時代の音源なんです。
PAELLAS(Satoshi Anan、MATTON)
――で、2016年3月にシングル「Pears」をリリース。この時点でもう『Remember』から意識がだいぶ先に行ってる感じがありますね。
MATTON:そうですね。自分たちなりに洗練されてきた。プラスチックなR&Bに対するアプローチが技術的にも感覚的にもちょっと上達してきた頃かなと。レコーディングすることだったり、歌を作るということだったりに関しての、自分にとっての分岐点でした。Ananにとってはどうかわかんないけど。
Anan:うーん。まあ、特にはないかな(笑)。好きだけど。
MATTON:自分にとってはけっこう「Pears」は大きかったんですよ。プロダクションとかもよりクリアになったし、いよいよローファイから完全に脱却できた感じもあったし。年末に出したアルバム『Pressure』に向けての、ひとつのモデルがここで作れた実感があった。
――なるほど。そして2016年12月にアルバム『Pressure』をリリース。
MATTON:このアルバムから完全にAnanがソングライティングを担当するようになりました。それは意識的にそうしようと決めたことで。
――それまではセッションしつつ全員でアイディアを出しながら曲を作っていたわけですよね。Ananさん的にはソングライティングを任されることになって、どうだったんですか? 自分で作りたいという気持ちは前からあったのでしょうか。
Anan:曲を作りたい気持ちはあったし、セッションで作ってたときもわりと僕がコードとリズムを持っていって、それを流しながら歌を入れたりベースを入れたりっていうやり方だったので。まあその頃から「オレ、作る」っていうオーラは出してたかもしれないです。
MATTON:Ananのネタ帳みたいなのがあるんですけど、それ聴いてると、ソングライティングがどんどん上手くなってるのがよくわかる。なので、このタイミングで基本的にはもうAnanが全部作るっていうふうにしたほうがいいんじゃないかと思ったんです。
Anan:セッションで曲を作るやり方に限界を感じてて。そのやり方だとどうしても同じ展開が続くような曲になってしまう。もっとガッツリ、ポップな曲とか、楽曲としていいものをバンドでやりたいっていう気持ちにみんながなっていたんです。で、じゃあ(自分が)作るかと。
――PAELLASにはどういう曲が合うかを考えて書くわけですか?
Anan:そうですね。このバンドでやるってことを意識しつつ。でも自分が書くってことのアイデンティティも持たせつつ。そこまで器用に“このバンドに100%合うものを作る”っていうふうにはできないので。まあ、曲全体の雰囲気ですね。
――基本的に楽しめてますか、ソングライティングは。
Anan:楽しい面もありますし、苦しい面もありますし(笑)。
――でも、ずっと続けていきたいと。
Anan:そうですね。自信は日を追うごとについてます。
――プロデュースというか、全体像を決めていくことも、Ananさんがやってるわけですか?
Anan:はい。最近は完全に、僕がこういうのをやりたいって言って大まかに作っていく、っていうやり方なので。今作ってる『D.R.E.A.M.』(9月6日発売のミニアルバム)に関しては、音も全部入れちゃって、構成も作って、それを持っていって各々がやりたいことを混ぜながらレコーディングするという形で。バンドでアレンジするみたいなことは、今回やってないですね。
――新作『D.R.E.A.M.』の話はあとでもう一度訊くとして。まぁそんなふうに、その時々で音楽性も作り方も変化していって、『Pressure』ではフランク・オーシャンとかザ・ウィークエンドといった同時代の音楽に相当感化されて作っていることもわかるわけですが……さっきの話じゃないけど、“こういうのが最高”と思ったらすぐにそれをやりたくなる。
Anan:“これ、カッコイイ”って思ったら、やりたくなりますね。“これはできそうにないな”って感覚にはあんまりならない。
――例えば、そういった同時代性みたいなことをまったく意識せず、ただただ自分の内側から沸き起こる感情や衝動……怒りだったり哀しみだったり……をそのまま表現したいんだというタイプの人もいるわけだけど、そういうモードで書くことはない?
Anan:僕個人としては、そういうのは本当にうっすらしかないですね。内側のエネルギーみたいなものは曲に入れるようにしてますけど、そこに喜怒哀楽はそんなに持ち込まない。怒ったからといって怒りの曲とか書かないし。音楽にそれを持ち込みたくないというのがあるので。
MATTON:同時代性みたいなことも意識はしてるんですけど、別に新しいものを作っているという意識は、僕はさらさらない。間違っても最先端なんてことは言いたくないですし。むしろ、今の世界のスタンダードな音楽が自分たちのベースとして当たり前にあって、それプラス、そのときに好きになったものの中から自分たちの強みとして出せるものをしっかり選んで作っていきたい、という気持ちですね。今作ってるのもそうですけど、Ananがインスピレーションを受けた音楽の中には2017年的なものもあれば、2012年くらいのものもあるし、80年代的なものもあるし、70年代的なものもある。だから、新しいものをやってるっていう意識はほとんどないんです。
――新しいかどうかより、今の自分たちに一番しっくりくるものをやっている。
MATTON:そうですね。しっくりくるかどうか。あと、歌詞に関しては、僕も怒りとかを表現したいとは思わなくて。基本的に歌詞は二人称のものしかないですし。自分のことを書くとしたら、死生観だったりを書くほうが多いですね。メッセージみたいなものはないんです。結果的に聴いた誰かにとってのメッセージになりうるフレーズがあったりしたら、それはそれでいいなとは思うんですけど、メッセージを投げようとしているところはまったくない。ストーリーを書くにしても、自分と違う人間が主人公であることが多いので。
――PAELLASの音楽性はどんどん変化しているけど、ずっと変わらない部分もやっぱりあるなと感じていて。まず、基本的にダーク。そういうのが全員、好きってことですよね。
MATTON:はい。
――それから2010年代のサイケ感というようなものがある。そして、夜が似合う。夜の音楽。
MATTON:そうですね。自分が音楽を聴く時間も夜なので。
――そういったあたりは2012年の『Long Night is Gone』から一貫してますよね。
MATTON:確かにそういう意味での精神性みたいなのは最初から一貫してあるものですね。だから、どんな音楽をやってもPAELLASらしいものになるかなと思ってやってますけど。
PAELLAS(Satoshi Anan、MATTON)
――あと、MATTONさんのボーカルも、歌唱方こそ変化しているものの、甘美なムードは比較的初めの頃からあったような気がしてて。どうですか、ボーカルに関しては。今のその感じは始めた頃から自分のスタイルとしてあったものなのか、徐々に身についていったものなのか。
MATTON:歌うことに対する意識は去年くらいですごい変わりました。以前は、“歌は声でしょ!? 技術とかも必要かもしれないけどさぁ”みたいに思っていましたけど、去年から“やっぱり技術は絶対必要だな、ちゃんと歌わないとだめだ”と思うようになった。基本的に僕の歌って、甘噛み系じゃないですか。ガブッとは噛みつかない。そういうテンションというか、ムードみたいなものは意識してますね。で、理想としては、聴いてる人が寝てしまうぐらいであれたらいい。朝起きるときに聴く声ではないと思うんですよ。寝る前に聴いてそこから睡眠に入っていくくらいのムードであれたらいいなと思ってます。
――耳元で囁かれてるような感触がありますもんね。ソフトで、甘め。誤解を招く言い方かもしれないけど、突き詰めるとちょっと70年代くらいの日本のフォーク~ニューミュージックの歌手の雰囲気にも通じるものがある気がして。
MATTON:わかります。『Pressure』の曲とかはほぼワンマイクで歌ってますからね。わりとフォークっぽいというか。そういうふうにしてみようと思ったところは確かにあって。海外で言うならエリオット・スミスとか、まあThe xxとか。耳元で囁くような感じっていうのは好きですね。
――さて、制作中だという新作の話を訊きますね。9月リリースということですが、どのくらいできているんですか?(取材は6月下旬)
MATTON:82%くらい(笑)。核となる部分はほぼできたので、ゴールは見えてるかな。まだ素っ裸の状態ですけど、この時点で今までとは比べ物にならないくらいのものになってる気がしてて。もちろん聴く人の好みもあるでしょうけど、音楽作品としては間違いなく今までで一番。
――『Pressure』からの繋がりはある? それとも全く別次元?
MATTON:延長線上にありながらも、全ての面で間違いなく進化してると思います。ソングライティングも各々の演奏も歌もレコーディングも。
Anan:曲を作る上での意識は本当に変わりましたね。よりインパクトを出したいなって気持ちがかなり大きい。『Pressure』のときは自分がテーム・インパラとフランク・オーシャンにむちゃくちゃ固執してて、それはそれでひとつの過程としてよかったんですけど、あれを出したあとにもうちょっと音楽をフラットに見たいなと思うようになって。そういう意味で、今回はしっかりと自分たちがやる音楽ってことを意識している。だからギターもちゃんと弾こう、とか。『Pressure』のときはギターを弾きたくなかったんですよ。
――ギタリストなのに。
Anan:はい(笑)。
MATTON:『Pressure』は制作面で全員が試行錯誤しまくりすぎてしまって。曲作りからレコーディングまで全部に関して試行錯誤しまくった。それを教訓として、Ananもすごい変わったと思うんです。
――前作が学習だったとしたら、それを経てようやく開放された感じなんですかね。
Anan:そうですね。前作は本当に学習だった。その学習したものを血肉にして今回は表に出せてるかなと。
――聴く人が聴いたら、進化したなってすぐわかるものになっている?
Anan:絶対思うと思います。メロディも曲の規模も違うし、ミックスも前回は全部自分たちでやったんですけど、今回はちゃんと信頼のできるエンジニアをつけて、音の面でもガツンとくるものになっているので。
――因みに今回の作品では日本語詞も取り入れているということで。1曲だけ先にあがったものを聴かせてもらったけど、すごくいい。単純に言って、より広く届きやすいものになっているように思いました。そういう意味でのポップさがある。
MATTON:自分で歌ってても、もっと伝わってほしいなって自然に思うようになったんですよ。あと、日本語で歌うことのほうが今の自分にとってはむしろ挑戦だし、それだけに出来上がったときの喜びも大きい。例えば2年前にはそんなふうに思うようになるとは思ってなかったけど、本当に自然にそう思うようになって。“このタイミングで日本語にしてきやがったな”とか思われるかもしれないけど、自分の中では去年くらいから自然にそうしたいと湧き上がってきてたことなんです。
――なんでそういう気持ちが湧き上がってきたんですかね?
MATTON:英語のほうが単純にかっこいいというか、雰囲気は伝わるものだと思うんですよ。でもそこで自分の歌が終わってしまうのは勿体ないなと思って。というのがひとつと、楽曲の魅力を損なわないようにしながら日本語をそこに乗せるのは英語を乗せるより難しいことなので、そこにチャレンジしたかった、ってことですね。
――わかりました。じゃあ、完成したらまたその段階で話を訊かせてくださいね。で、9月~10月には、そのミニアルバム『D.R.E.A.M.』を携えてのツアーがあります。どんなツアーになりそうですか?
Anan:個人個人、ライブでもっといい音を出したいという気持ちが今すごく前に出てきてて。だいぶ意識が高いです。あと、すぐにでも新曲をやりたいって気持ちです。
MATTON:うん。よりお客さんひとりひとりに深く届くものになると思います!
取材・文=内本順一 撮影=菊池貴裕
PAELLAS(Satoshi Anan、MATTON)
発売日:2017年9月6日(水)
価格:¥1,600(本体)+税
規格番号:PECF-3184