熊川哲也率いるKバレエ最高のグランド・バレエ『クレオパトラ』、中村祥子&宮尾俊太郎が世界初演への意気込みを語る

インタビュー
舞台
2017.7.28
『クレオパトラ』合同取材会にて(撮影/石橋法子)

『クレオパトラ』合同取材会にて(撮影/石橋法子)

独創的な振付と演出で、古典バレエに新たな息吹を吹き込んだ『カルメン』の衝撃から3年ーーー。Kバレエ カンパニー芸術監督の熊川哲也が今秋、全2幕5場のグランド・バレエ『クレオパトラ』を上演する。原作も音楽も存在しない完全オリジナルストーリーをゼロから立ち上げるのは、熊川にとっても初めての挑戦となる。紀元前のエジプトとローマを取り巻く壮大な史実を紐解き、絶世の美女と謳われたエジプト女王の波乱の半生を描き出す。タイトル・ロールを演じる世界的バレリーナの中村祥子と、クレオパトラ最後の恋人でローマの実力者アントニウス役の宮尾俊太郎が大阪で会見し、世界初演作への意気込みを語った。

『クレオパトラ』合同取材会にて

『クレオパトラ』合同取材会にて

「蛇の化身という発想も新しい、自分なりのクレオパトラを表現したい」(中村)

ーー本作『クレオパトラ』は中村さんのために書かれた作品だそうですね。

中村祥子(以下、中村):ありがたいことに熊川ディレクターから「祥子のために『クレオパトラ』を振付たい」と言われたときは、本当に驚きました。想像もつかなかったような題材で、名前は知っていてもどんな人生を歩んだ女性だったのかまったく想像できませんでした。果たしてバレエとして表現できるのかという不安もありましたが、「すごい題材でしょ!」というディレクターのワクワク感に触れ、これから一緒に大きな作品を作り上げていけるんだという喜びもあり、いろんな感情が沸き上がってきました。

中村祥子

中村祥子

ーー女王の半生を描く壮大な大河ドラマです。クレオパトラも時代と共に、さまざまに変化をとげるのでしょうか?

中村:ディレクターもまだ「クレオパトラの性格は確定していない」と言ってるんですね。今は順序を追って振付を進めていっている段階で、徐々にクレオパトラ像が見えつつあるという状況です。その中で、クレオパトラとは今までに演じたことのない女性だなと感じています。劇中では様々な男性と関係を持ちますが、それも心からの愛情があったのか、国を守るために女王としてやらなければならないことだったのか……。絶世の美女で話術にも長けていたそうですが、この立場の女性はこういうことを感じて、こういう行動を起こすのだろうか、とか。今は振付を覚えながら見えてくる面白さ、沸き出てくることの楽しさがありますね。

左から宮尾俊太郎、中村祥子

左から宮尾俊太郎、中村祥子

宮尾俊太郎(以下、宮尾):祥子さんのクレオパトラは、男性に迫るときは冷酷で冷たい表情を見せたかと思えば、女性的な表情を浮かべたり、非常にエキゾチックで魅力的です。毒々しいけど女性としてはすごくピュアな印象を受けました。クレオパオラという古典にはない初めての題材での全幕バレエなので、振付もクラシックバレエだけではない新しさがあります。今までにないステップや、床を這いずり回ったり、高い位置でのリフトなど、見応えのある動きがたくさん登場すると思います。

宮尾俊太郎

宮尾俊太郎

中村:時々私は……蛇になったりもします(笑)。クレオパトラは蛇の化身なんですね。その発想が本当に新しくて、面白い表現だなと。熊川ディレクターが想像するクレオパトラに近づけるようにしたいですし、新しい作品をつくるときは、ダンサー側からも感じたことを伝えられるのがありがたい。既存の作品では少しでも振付がズレると「ニュアンスが違う」と指導を受けるので。一度作って、違うと思えばまた戻って作り直せるという貴重な経験を楽しみながら、「一般的にはこう思われているが、実際はこういう人物なのでは?」という自分なりのクレオパトラを表現していきたいなと、強く思っています。

中村祥子

中村祥子

ーークレオパトラが愛した男性の中でもカエサルは有名で、映画にもなりました。宮尾さんは今回アントニウス役ですが、彼との恋も大きなみどころになりそうですね。

宮尾:もちろんカエサルはクレオパトラとの間に子供ができて政治が大きく動いたり、物語の中心軸として描かれます。一方、アントニウスはクレオパトラと最後に恋に落ちた男性だと言われています。シェイクスピアの戯曲『アントニーとクレオパトラ』にもあるように、熊川ディレクターは二人のピュアなエピソードもバレエ向けに作られるのではないかなと。まだ確定ではありませんが、政治などが絡むことのない純粋な気持ちでクレオパトラと恋に落ちる。最後は恐らく二人のドラマチックな恋愛模様の踊りがあることによって、クレオパトラという作品や人物が一つに繋がって見えてくるのではないかと思います。

宮尾俊太郎

宮尾俊太郎

中村:例えば『白鳥の湖』だと主役の二人がいて……というお話ですが、今回の『クレオパオラ』は宮尾くんがいて、遅沢(佑介)くんがいて、山本(雅也)くんがいて、(スチュアート・)キャシディがいて、本当にみんなの役がそれぞれに重なりあって見えてくる物語でもあるので、色んなところにドラマがある。Kバレエの素晴らしいダンサーたちが一斉に一つの作品で交わるというのはあまりないので、その点でもすごく見応えがあると思います。熊川ディレクターも史実にいろんなニュアンスを加えながら作られています。

宮尾:クレオパトラが出会っていく重要な男性たちは、みんな死んでいくのですが、そこでも熊川ディレクターが一人ひとりの心情に違う工夫をされていて見応えがあります。複雑な人間関係を分かりやすく伝えるのは、熊川ディレクターが得意とする部分なので、そこはぜひ期待して頂きたいですね。

宮尾俊太郎

宮尾俊太郎

「今までにない凄さと驚きを併せ持った新作に、僕ら自身も期待しています!」(宮尾)

ーー舞台衣装や美術など、ビジュアル面への期待も高まります。

中村:クレオパトラにもシーンごとに色んな衣装があって、一番独特に感じられたのが鱗がついてるという点。そこはやはり蛇を意識されているのだと思います。蛇から人間になったり、人間のクレオパトラから蛇になったり。

宮尾:デザイン画を見ましたが、クレオパトラの衣装だけは「これが衣装になるのか!?」と想像がつかなかったですね。ただ、Kバレエの新作は毎回キャスト陣も含めて「わっ、凄い!」と必ず驚くものしか作らない。今回もきっとエジプトの雰囲気と見たことのないクレオパトラ像を見せて貰えるんだろうなと。僕たち自身が「凄いんだろうな」と期待してしまいます(笑)。

宮尾俊太郎

宮尾俊太郎

中村:果たして、髪型もおかっぱなのかも分からない。踊りのスタイルも今までにないもので、クラシックであり、そこから崩された不思議なスタイルもあるので。きっと熊川ディレクターにとっても初めての挑戦だと思います。そこをダンサー側もどこまで信じて崩せるか、難題でもありますね。

中村祥子

中村祥子

宮尾:今回は男女のエロスの表現も多く、激しく派手にしっかりと魅せていくので、そこも今までのKバレエにはない雰囲気です。このまま振付が変わらなければ、きっと驚かれると思います。

宮尾俊太郎

宮尾俊太郎

ーー中村さんから宮尾さんに期待される部分はありますか。

中村:俊太郎くんとは本当に様々な役を一緒にやらせて頂いて、前回の大阪公演『ドン・キホーテ』でもご一緒しました。初めて『カルメン』で出会った頃はお互いに若くて、表現力の必要な題材にキスシーンもあったので大変という印象でした。その後は互いに経験を積ませて頂いて、俊太郎くんも表現力や男性としての力強さも備わり、ダンサーとしてもパートナーとしても素晴らしく、目に見えて大きく成長されたと思います。今回のアントニウスとの関わりも今からすごく楽しみにしています。

中村祥子

中村祥子

宮尾:祥子さんと出会ってから10年が経ちましたが、毎回役への向き合い方、舞台上での過ごし方に学ぶことが多く先輩として、またダンサー、アーティストとして尊敬しています。10年の間に、僕は怪我からドラマ撮影までを経験し、祥子さんも結婚、出産を経て人間的にもどんどん素敵になられている。僕も成長した姿をお見せしたいですね。当時は本当にめちゃめちゃ厳しくて、怖かったので(笑)。

左から宮尾俊太郎、中村祥子

左から宮尾俊太郎、中村祥子

中村:遅沢くんにも同じように言われるんですけど(笑)、それも怒って厳しいのではなく、「私はこうしたい」と言葉で伝えないと伝わらないこともあるので。やはりパートナーというのは互いに何かを伝えて、受け入れることで、そこから新たな表現が生まれると思うんです。どちらか一方の熱意だけでもダメですし、そこにこだわりがなければ成長もなく、魅力的な“何か”は生まれてこない。そうやって意見を交わす時間がリハーサルだと思います。私は遠慮せずに言ってほしいですね、バレエに遠慮は向かないと思います。でも最近はあまり言わないよね?

左から宮尾俊太郎、中村祥子

左から宮尾俊太郎、中村祥子

宮尾:まだまだ至らない所も多いんで。祥子さんの言うように、何かを発信して感じ取れる、その受け答えがちゃんと成立できるようにしていきたいです。

中村:今回も色んな男性ダンサーの方とパ・ド・ドゥがあるので、それぞれのダンサーから色んな感情を受け入れながら、それぞれに個性ある表現ができたらなと思っています。

左から宮尾俊太郎、中村祥子

左から宮尾俊太郎、中村祥子

 

イベント情報
Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY Autumn Tour2017
『クレオパトラ』
 
■芸術監督・演出・振付:熊川哲也(Kバレエカンパニー芸術監督)
■出演:中村祥子、山本雅也、スチュアート・キャシディ、宮尾俊太郎、遅沢佑介ほか
 
<東京公演>
2017年10月6日(金)~9日(月・祝)、28日(土)、29日(日)
■会場:Bunkamuraオーチャードホール
 
2017年10月20日(金)~22(日)
■会場:東京文化会館大ホール
 
<名古屋公演>
2017年10月12日(木)
■愛知県芸術劇場大ホール
 
<大阪公演>
2017年10月14日(土)
■会場:フェスティバルホール

 

 

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