山宮るり子が魅せるハープの多彩な表情「ハープの楽譜はピアノの楽譜に似ていて、ピアノのまま弾ける場合もある」

レポート
クラシック
2017.8.1
山宮るり子(ハープ)

山宮るり子(ハープ)

画像を全て表示(11件)

ハーピスト・山宮るり子が楽器の魅力を披露 “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.7.23. ライブレポート

「クラシック音楽を、もっと身近に。」をモットーに、一流アーティストの生演奏を気軽に楽しんでもらおうと毎週日曜の午後に開催されている『サンデー・ブランチ・クラシック』。7月23日(日)の天気は曇りとなり、連日の酷暑は少し和らいだ。この日の『サンデー・ブランチ・クラシック』には、ハーピストの山宮るり子が登場した。

13:00の開演時刻、舞台に登場した山宮は、早速演奏を披露してくれた。最初の曲は、D.ワトキンス作曲「火の踊り」だ。非常に繊細に、しかし軽やかなリズムを感じさせながら音楽は始まる。やがて登場するメロディーは、軽快で楽しげな印象だ。ハープらしい優雅さとともに、時折ハープのイメージと異なる激しい動きも見せる。

山宮るり子(ハープ)

山宮るり子(ハープ)

続いて、きらめくような伴奏とともに、情熱的なメロディーが現れる。ギターなどの曲にありそうな曲調や弾き方もみられるが、ギターより柔らかく、丸みを帯びた音色だ。高音域は煌びやか、中・低音域は響きが多いので、1つの楽器でも多彩な表情を見ることができる。曲調は少しずつ静まっていき、幻想的な雰囲気になった。最後には、華麗で激しいグリッサンドを聞かせ、曲は閉じられる。

MC中の様子

MC中の様子

会場全体から拍手を受けながら、山宮が挨拶した。

「本日は、お暑い中お越しいただき、ありがとうございます。今日は短い時間ですが、外の厚さを忘れる心地良い時間を過ごしていただけたらと思います。最初にお聞きいただいたのは、ワトキンスの「火の踊り」です。ワトキンスはイギリスの作曲家で、自身もハープ奏者でした。ハープをよく知ったうえで作曲しているので、ハープのよさを出しつつ、みなさんのイメージとは違う面もあったと思います。続いて演奏するのは、アルベニスというスペインの作曲家が書いた「アストゥリアス」という曲です。これは少し前にCMでも使われていたので、冒頭を聴いたことがある方も多いと思います。「アストゥリアス」とは、スペイン北部の地名で、神秘的な雰囲気の漂う曲となっています。」

神秘的な音がカフェに響き渡る

神秘的な音がカフェに響き渡る

そうして、山宮は2曲目のアルベニス作曲『スペイン組曲』より「アストゥリアス(伝説)」の演奏に入る。冒頭部は弱音ながら急速なテンポで、哀愁を感じさせる民族的なメロディーが提示される。音楽はダイナミクスの波を作りながら徐々に盛り上がっていき、鋭い強奏の和音が差し挟まれるようになった。切れ目なく演奏される細かい音符は、ギターの爪弾きを思わせる。ピアニッシモの低音域では、特に神秘的な雰囲気が醸し出された。

中間部では、テンポは一転して緩やかになり、曲調も優雅なものになる。たっぷりとうたわれるメロディーは、東洋的でエキゾチックな雰囲気。曲調は、短い間に情熱を帯びたり、テンポを速めて楽しげになったりと、白昼夢のような幻想的な気分にさせられる。

やがて冒頭の旋律が再現される。動きは急速で技巧的だが、ピアニッシモの音は非常に繊細だ。しかし、執拗に挟まれる激しいフォルテの和音には情念がこもっている。曲の終わりに近づいた頃、駆け上がる音階とともに音楽が静まる。僅かな間、甘美で切ない表情を見せたあと、短い強奏の和音によって曲は終わりとなる。

山宮るり子(ハープ)

山宮るり子(ハープ)

ハープの名前や見た目を知っていても、楽器についてよく知っている人は多くないだろう。2曲目を終えて、山宮はハープについての知識も紹介してくれた。

「先ほどの曲はもともとピアノの曲で、ギターで演奏されることも多いです。ハープの楽譜はピアノの楽譜に似ていて、ピアノのまま弾ける場合もあります。ここで、少し楽器について説明したいと思います。ハープを初めて見る方も多いかと思います。いっぱいある弦の本数は47本で、赤い弦と黒い弦、白い弦に分かれています。赤い弦はド、黒い弦はファとなっていて、それを目印に弾く形になります。あまり知られていないのが、ペダルが7つ付いていることです。 “ドレミファソラシ”の7つの音それぞれについていて、ペダルを変えると半音ずつ違う3つの音(ド♭・ド♮・ド#)が出ます。」

足元にはペダルが

足元にはペダルが

説明中、実際にペダルを踏み変えながら音の違いを聞かせてくれる山宮は、「これらの音を足で操作しながら弾くので、全てのピアノ曲がハープで弾けるわけではありません。そこで、自分でアレンジを加えながら弾くこともあります。続いて演奏する「月の光」も、ピアノ曲としてとても有名です。ピアノの楽譜をそのまま使っているのですが、わたし的にはピアノで弾くよりも、ハープで弾いた方が雰囲気が出ると思っています。」

そうして演奏される3曲目は、ドビュッシー作曲「月の光」。誰でも聴き覚えのある、繊細でロマンティックな導入で始まる本楽曲は、ピアノ曲として慣れ親しんでいるが、ハープ独特の音色で演奏されるため、新鮮な印象を受ける。中・低音域の音は深い響きを持ち、高音域は柔らかく優しい響きをしている。

全曲を通じて静かな曲だが、盛り上がる箇所では豊かな情感を持たせている。きらめくようなアルペジオの伴奏系が登場する甘美な中間部では、心地良い夢の中にいるような気分にさせる。ピアニッシモの音でも、響きが豊かで会場の隅々まで届くようだ。ハープ独自の音色が、幻想的な曲調に非常にマッチしていた。曲は時間をかけて静まっていき、安らかに寝入るような繊細な上昇音型によって締めくくられ、会場全体が長い余韻を楽しんだあと、山宮に拍手が送られた。

コンサートの案内

コンサートの案内

演奏会は早くも、次で最後の曲に。山宮は、「最後に演奏するのは、トゥルニエ作曲「ロシア農民の踊り」です。フランス人のトゥルニエは、1曲目のワトキンスと同様、ハープ奏者であり作曲家でもありました。ハープのための曲をたくさん残していて、私たちハーピストにとって大事な作曲家となっています。「ロシア農民の踊り」というタイトル通り、軽やかで楽しい曲になっていますので、お楽しみください」とハーピストならではの楽曲を紹介してくれた。

早速現れるメロディーはリズミカルで、躍動感がある。ロシア音楽のイメージ通りの、勇壮で土着的な曲調だ。長く持続する中音域の音に乗せて、力強く踊るメロディーが印象的で、ハープならではの華麗なグリッサンドも繰り返し登場し、賑やかな田舎の祭りのようなムードを演出する。

上昇音型を繰り返し、頂点まで駆け上がると、曲はやや雰囲気を変える。出現したメロディーは、哀歌のように悲しげだ。雰囲気は民謡風で、哀切な中に情熱も含んだ演奏である。華やかな伴奏に乗って切々と歌いながら、音楽は時折激しい表情も見せる。波が引くように、いったん曲は静まるが、まもなく冒頭のメロディーが戻り快活さを取り戻した。音楽は徐々に加速し、クライマックスに向けて熱量を増すが、ハープの音色が持つ気品はそのままだ。曲の終わりの頂点では、煌びやかなグリッサンドを披露した後、急速なテンポのまま着地して終曲となる。

山宮るり子(ハープ)

山宮るり子(ハープ)

この日一番の拍手が、奏者に送られた。

「先ほど“最後の曲”と言いましたが、1曲アンコールを用意しています(笑)。黛敏郎作曲の「ROKUDAN」という曲です。これは、伝統的な琴の曲「六段の調(しらべ)」をハープ用に編曲したものです。実際は複数楽章からなる長い曲なので、ここでは抜粋して演奏します。」

そう曲紹介をしてくれた後、山宮はアンコール曲の黛敏郎作曲「ROKUDAN」の演奏にはいった。断片的な音型から入る冒頭は、静かだが緊張感がある。旋律は日本の伝統音楽の雰囲気そのままだが、ハープの響きの多い音色で演奏されるため、とても新鮮に聞こえる。ずっしりと響く低音域の重音は重厚で、現代的な印象ももたらしている。

旋律を弾くとき、伝統芸能の長唄のように、軽くこぶしをきかせたようになる。ハープのイメージと大きく異なっていて意外性が大きく、非常に面白い演奏だ。それでいて、波打つような美しいグリッサンドなど、ハープならではの動きも取り入れている。後半にはテンポが早まり、活発で強い情熱を感じさせる音楽となる。リズム感を持って、フォルテの音量で奏でられるハープの音色は、ダイナミックで迫力に満ちている。華麗なグリッサンドで聴き手を引き込んだ後、緊張感のある静寂を経て、強奏の和音で閉じられた。

演奏後にはCD販売やサイン会も

演奏後にはCD販売やサイン会も

今回が初めての『サンデー・ブランチ・クラシック』出演となった山宮に、お話を伺った。


――今回、初めて『サンデー・ブランチ・クラシック』に出演されてのご感想はいかがでしたか?

コンサート会場と違ってお客様との距離も近いですね。飲食を楽しみながらという雰囲気の中で演奏するのは初めてだったので、「どうなるかな?」と思いながら演奏にのぞみました。でも、皆さんとても集中して聴いてくださっていて、とてもいい雰囲気で演奏できました。

――本日は有名曲から、あまり知られていない曲まで登場しましたが、どういった意図で選曲されたのでしょうか?

初主演で会場の静かさなども分からなかったので、できるだけ聴きやすく、リズムが目立つ派手目の曲がいいかな、と考えました。聴き馴染みのある曲に加えて、ハープの名曲についても知ってもらえるように組み合わせてみました。

インタビュー中の様子

インタビュー中の様子

――演奏活動しかり、今後も活動が続いていくと思います。今後目標にしたいことは何でしょうか?

ソロ活動に加えて、共演する方との出会いも大切にしたいと思うので、室内楽も意欲的にやっていきたいと考えています。また、ハープの演奏会はまだまだ少ないので、多くの方に興味を持って欲しいと思います。私の活動が、ハープという楽器やハープの楽曲に興味を持ってもらえるきっかけになれば嬉しいです。

山宮るり子(ハープ)

山宮るり子(ハープ)

毎週日曜日、午後の昼下がりに渋谷のカフェで行われる『サンデー・ブランチ・クラシック』。ぜひ一度訪れてみてほしい。


取材・文=三城俊一 撮影=鈴木久美子

シェア / 保存先を選択