『人間風車』の稽古場で矢崎広と松田凌に直撃インタビュー! “手段を選ばない男”と“小学生の男の子”は今何を想うのか
(左から)矢崎広、松田凌
舞台『人間風車』が14年の時を経て、河原雅彦による新演出で今秋上演される。 オリジナル戯曲は、後藤ひろひとが劇団「遊気舎」に1997年書き下し上演、その後2000年と2003年、パルコ劇場にて再演され、作品の衝撃度と共に長らく演劇界の伝説となった。9月28日の初日に向け絶賛稽古中の『人間風車』の現場にて、小杉役の矢崎広と則明役の松田凌にインタビュー。笑いと恐怖と衝撃がギュッと詰まった一筋縄ではいかない“問題作”に正面から取り組む若き俳優たちの胸の内とは?
矢崎広インタビュー
「自分が自分の中に持っている“怖さ”ともずーっとずーっと向き合ってます」
矢崎広
――14年ぶりの上演、しかも今回の上演のために後藤ひろひと氏が「一文字目から」脚本をすべて書き直したという本作。出演が決まったときのお気持ちは?
僕は『人間風車』というタイトルは聞いたことがあって、ストーリーもふわっと知っていた程度だったんですけど、お話をいただいて改めて作品について調べてみたら、本当に僕が尊敬している大好きな先輩方がやってきた作品だし、演出の河原さんも今回加藤諒くんが演じているサム役をやったことがあると知り、喜びと緊張とで“これはほんとにスゴい作品に参加できるんだ”って背筋が伸びました。
――売れない童話作家・平川の語るお話がさまざまな人間たちを結びつけ、やがてサムという青年によって予想外の恐怖へと突入していく。笑いと戦慄が渾然一体となった物語です。
童話ホラーというこの特殊なジャンルは、僕自身も凄く気になる世界ですね。展開としては、最初はすごく楽しく思える光景の中にどこかで亀裂が生じ始め、やがてそれが一気にひっくり返っちゃう。最初はあんなに笑ってたのに……!って、最後はすごくモヤモヤした気持ちになって、もうなんかホントに不思議な後味。初演と今回とでは少し終わり方が違うんですが……でもね、僕が一番強く感じたのは、“リアルな人間の恐怖”。それって、かねてから後藤さんがおっしゃっているように、“この舞台はお客さんがいろいろ持ち帰って作品のことを話して帰るモノになるよ”ってところに繋がるんだと思います。
矢崎広
――演出の河原さんとは『パンクオペラ 時計仕掛けのオレンジ』、『黒いハンカチーフ』に続く3度目のタッグになりますね。
河原さんの現場は、僕自身が役者として成長させてもらえる……といったら甘えになってしまうか。自分からいろいろなコトに触れ、改めて自分について考えさせられる場だと感じています。準備の仕方であったり、現場の臨み方であったり、稽古場にそれらをちゃんと自らで持ち込み、それを河原さんがしっかりと見てくださっている。それこそ最初に河原さんとご一緒したときは僕自身なにもできなくてとても悔しい思いをしましたし、リベンジを誓った『黒ハン』でも、やはり自分の中での悔しさっていうのは残りました。そして今回。河原さんの現場は厳しいと言う方も多いですが、それってすごく愛のある厳しさだし、そこはちゃんと役者が応えるべきところだと思っていて……出来る出来ないは別にして、3回目にしてやっと自分も「ここでできることがたくさんあるぞ」、「河原さんの創りたいモノをキャッチして、自分もそのピースのひとつとして役割を果たしていくぞ」ってなれてます。そしてそれをちゃんと見てもらえていることが嬉しいし、楽しいですね。
――矢崎さんの演じる小杉はTV局のディレクターであり、成河さん演じる童話作家・平川の友人。キャラクター説明は“私利私欲のためなら狡猾で手段を選ばない”男。
調子がいいけど小悪党にはなり過ぎない、今はそういう微妙なラインを目指してます。なんか、そういう人って実際にもいますよね。友だち、仕事の現場、下の者……人によってコロコロ態度も変わって。そういう対応の違いというところをなるべく細かく細かくしていったほうが、この小杉ってキャラは面白くなっていくんだろうな。平川との関係も、なにかふたりのやり取りの中で見えてしまう小杉の中の黒いものを漂わせたい。とはいえ、なかなか脳の切り替えがついていかないんですけど(笑)、それはもう稽古の中で生み出していくしかないですね。
最近は具体的なモデルを探しながら街を歩いたりもしてます。全然知らない人でも見た目の情報からなんか人間性みたいなモノが伝わって来ることもあるし、駅のホームとかね、面白いですよ〜。あと居酒屋の隣の会話とか。「あ、今ホントに笑ってないな」なんて(笑)、日常の中でもそういうのをすごく気にしながら過ごしてます。映画もできるだけ観て……今回はサスペンス系を主に観てるんですけど、「今の表情よかったな」とか、ヒントは常に探してます。
――劇中ではサムのピュアなイマジネーションがいくつもの童話に刺激を受け、取り返しのつかない出来事へと発展していきます。矢崎さんは子どもの頃に影響を受けた童話などはありますか?
うちは母親が先生だったこともあって、子どもの頃の誕生日プレゼントは毎年絵本のセットだったんです。本当はゲームボーイとか欲しいのに、箱に入った本がドーン! 全っ然嬉しくなかった〜(爆笑)。でもやっぱり子どもだからあれば読みますし、お話はいろいろ知ってるほうだとは思います。『三びきのやぎのがらがらどん』とか……『おしいれのぼうけん』はすごく好きでした! あれを読んではムダに押し入れに潜り込んで、“いつか違う世界に繋がってどうにかなっちゃうんじゃないか”っていうのにすごく期待してました。ほかにも『ハリー・ポッター』や、アニメですけど『千と千尋の神隠し』とか、日常の狭間から異世界にヒュッと行けちゃう系は好きですね。今も影響はすごく受けてるんじゃないかな。
――平川の語る童話もそうとうヘンテコでクセになります。
ね。でも平川は現実と童話の世界を行き来しちゃえますけど、小杉はなかなか絵本の世界には行かないので……それも難しい立ち位置なんですよね。こういうテイストの作品の中でも特にリアルなところにいる人だからこそ、周りにどういう影響を与えていくのかをすごく考えてます。あ、劇中劇で別の役はやりますよ。殺陣も結構あって、最初は小杉ってあんまり汗かかないのかもなぁって思ってたら、そんなこと全然なく、僕はのっけからしっかり汗かいてます! キャストのみなさんもすごく達者で素晴らしい役者さんですし、ホント、それぞれの役者がそれぞれにかなりのカロリーを使っているお芝居になってますね。各々で考えて持ち寄ってきたものを稽古場で日々練り合わせ戦わせ……いい緊張感なんですよ。この感じ、ホントに堪らなく好きです。
――『人間風車』は上演の度に観客に衝撃を与えて来た強い演劇力を備えた作品。挑み甲斐がありますね。
この物語自体はとても普遍性があるというか、いつ上演してもなにか感じてもらえる作品だと思うんです。それをこの2017年にやる意味としては、不安定な世界の状況……ミサイルのニュースとかね、そんな今の空気の中で劇場にやってきた人たちに直接刺さるモノっていうのが絶対あるはず。人間の狂気が存分に刻み込まれ――僕自身も自分で演じていながら「小杉みたいな人って怖いよなぁ」と常に感じますし、稽古をしながら自分が自分の中に持っている“怖さ”ともずーっとずーっと向き合ってますね。自分も知らないうちに誰かを傷つけてなかっただろうかとか、知らないうちに他人に妬まれてるかもしれないよなぁとか、そんなことは日常生活の中でも普通にあって。でもそればっかり気にしていても始まらないし……ってね。
今回用意されているラストも、この2017年にふさわしいラストになっていると思うんです。『人間風車』は一種のお伽噺のようでいて、実は誰もが身近な感覚から共感してもらえる要素がたくさん描かれている。そうですね、僕はそこが“怖いな”って思ってもらえる作品になればな、できればなって思います。“今”のあなたに届く作品です。
矢崎広
松田凌インタビュー
「客席でどんどん想像力をかき立てて、好きなように深読みしてください」
松田凌
――稽古場で日々触れている『人間風車』の世界。どのように受け止めていますか?
救いがあるようで、ないようで……。僕の人生の中でも初めて出会ったタイプの物語だなって感じています。先日広くんが「なにを信じていいのか、なにがホントで嘘なのかと思わされてしまう今、そういう世の中の歪みみたいなものが突き刺さって来るような作品なんじゃないか」って言っていて、僕も“確かにそういう感触がある作品だな”って感じましたし、もちろんそれがすべてではないけれど、受け取る側にそう思わせる力があるってことがスゴいなって思いました。
個人的に一番魅力的だなと思ったのは、あまり規制がないところ。身近なテレビですら「これは言ったらダメ」、「こういうことはやったらダメ」って、表現しきれないことが増えている中、『人間風車』は包み隠さずちゃんとすべてを言葉で表現しているし、その裏付けもちゃんとあるし、驚きをくれる伏線も用意されている。最終的にサムが、そして平川がどうなってしまうのかというラストの落とし前の付け方も、自分にとってすごく衝撃的でした。
――このカンパニーのためのラスト、ですね。
後藤さん自身の“書き直したい”という思いが反映された“今の『人間風車』”。だからこそ僕なんかが言葉にしようすると陳腐になってしまって、なかなかひと言で「こういう作品です」と言えないんですよ。というか、後藤さんも河原さんも、もしかしたらそもそも僕たちが考えているようなことすら求めていないのかもしれないじゃないですか! ホント、“演劇って自由でいいんだな”って思いますね。
松田凌
――松田さんが演じる則明は、平川の童話のファン。小学生の男の子です。
河原さんには当たり前ですが「子どもになって欲しい」と言われました。どの役にも大切な役割がありますけど、則明が担う役割っていうのもやっぱりひとつ大きくて。物語の大きなキーでもある“童話”、それを成立させるために則明ら“子どもたち”がいるわけですよね。平川が童話を語り、それを信じて聞いている則明たちの存在があることで、より童話の説得力も生まれてくる。たぶん自分は……子どもの頃からそんなに心は成長していないし(笑)、普段も自由人なほうなのでわりと少年の心は忘れていないと思うんです。ただやっぱりすごく難しいなって思うのは、いくら心がそうなっていても、結局はボディランゲージや表情で子どもを伝えなくちゃいけないんだってところですよね。実際はもう大人として生きちゃってるので、そこの誤差を脳で変換し、心も行動もリアリティーを持って子どもに近づく……自分がもう知っているようなこともまだ知らない純粋な存在、純粋な子ども、純粋な則明に近づいていきたいです。
――ちなみに、少年時代の松田さんに影響を与えてくれた童話や絵本はありましたか?
『100万回生きたねこ』は好きだったけど……僕はやっぱり漫画! これってひとつの作品に絞れないくらい、漫画の存在は大きかったですね。あと特撮モノ。小学生の頃は忍者になりたかったし(笑)。
――実際に真似てみたり?
いえ、そういう世界にめちゃめちゃ影響はされてましたけど、あくまでも自分の心の中だけで、実際は絵とか文章でその思いを表現してましたね。あの頃は真似をしたりとか、“自分が憧れている存在になれる”という心の持ちようではなかった。だからその思いは今、役者の道で叶ってるって言えますよね。それもちょっと不思議で、自信とも違うんですが、あるとき自分の中でなにかしらのきっかけがあって役者になって……どういう出来事だったか自分でもはっきりしていないけど、でも今こうして芝居をしている。その気持ちの転機がなかったら、漫画への憧れ、ヒーローへの憧れはまた全然違う方法で表現してたかもしれないです。
――やっぱり好きなモノは深く刻まれる、と。
それにね、『ぐりとぐら』、『桃太郎』、『鶴の恩返し』……子どもの頃に聞いたお話って僕も忘れてません。だからサムにはちょっとリアルな怖さを感じるんです。自分も大人になったからわかるけど、絵本や童話の物語って、教育でもありある種の洗脳でもあり、紙一重で子どもの心を壊しかねないよなぁって。取り扱い次第で、サムみたいな子が実際に出てきてもおかしくない。それくらい童話には強い力があると思います。
松田凌
――稽古もますます佳境です。
河原さんとご一緒するのは『黒いハンカチーフ』以来ですが、河原さんの現場って、河原さん自体のメソッドというか……河原さんのやりたいことを実現するための考え方や基準が明確にあって、そこの期待に応え、さらに上を行く役者さんが揃っているんです。その中に自分がいられるのは光栄でもあり、いっぱい迷惑もかけてしまうんじゃないかという不安もあり。キャストの先輩方がみなさんすばらしいので、お芝居はもちろん、考え方や稽古場での立ち居振る舞いなんかを見ていると、「ああ、そういうことなんだ。自分はまだそれはできていないな」と――。でもここに自分がいられるのは光栄ですし、なんとかして河原さんが求め想像するラインに達していきたい。このカンパニーの一員であるという責務を全うしていきたいです。
――舞台上の松田さんに会うのが楽しみです。
本番ではお客様が僕らの『人間風車』を観て、笑ってくれたらいいし、泣いてくれてもいいし、なんか委ねる……じゃないですけど、どういうふうに響いてくれてもいいなぁって。後藤さんも河原さんも、こういう作品を残していく意味っていうのは100%決まってないんじゃないかなって思うんです。童話だって、読むときの年齢によって感じ方は全然変わりますよね。だからもうひとりひとりがこの『人間風車』を好きに深読みしてくれたらいいんじゃないのかなぁ。創ってるほうが“そんなふうに思ってないよ”ってくらい(笑)、どんどん想像力をかき立てちゃって欲しい。平川が子どもたちにいろんな面白話をして、「お話を聞いてるときのみんなのその顔が観たいんだよ」っていうのと同じように、僕らもみなさんが楽しむ顔を見たいんです。そうしてそれぞれの想像の産物が残っていけば素敵だし。その代わり覚悟してくださいね。スゴいもの、観てしまうはずなので。
松田凌
インタビュー・文=横澤由香 撮影=荒川 潤
「人間風車」
■作:後藤ひろひと
■演出:河原雅彦
■出演:
成河、ミムラ、加藤 諒、矢崎 広、松田 凌、
今野浩喜、菊池明明、川村紗也、山本圭祐、
小松利昌、佐藤真弓、堀部圭亮、良知真次
■公演日程:2017年9月28日(木)~10月9日(月・祝)
■会場:東京芸術劇場プレイハウス
■入場料金(全席指定・税込) =S席8,900円、A席7,800円
※未就学児のご入場はお断りいたします。※営利目的の転売禁止。
※車イスでご来場予定のお客様は、ご購入席番号を公演前日までにパルコステージ宛にご連絡ください。
■前売開始:2017年7月15日(土)
■問い合わせ:
パルコステージ 03-3477-5858(月~土11:00~19:00/日・祝11:00~15:00)
キューブ 03—5485-2252(平日12:00〜18:00)
■公演内イベント:
9月30日(土)18:00の回終演後 矢崎広×松田凌×良知真次
10月5日(木)14:00の回終演後 成河×ミムラ×加藤諒
※該当回の公演を持ったお客様が対象です。ご観劇時と同じ座席でご覧ください。
◆10月4日(水)公演の客席内に収録用のカメラが入ります。予めご了承ください。
<各地公演>
お問合せ:高知新聞企業 事業企画部 TEL 088-825-4328
お問合せ:ピクニックセンター TEL 050-3539-8330
お問合せ:キョードーインフォメーション TEL 0570-200-888
お問合せ:サンライズプロモーション北陸 TEL 025-246-3939
お問合せ:サンライズプロモーション北陸 TEL 025-246-3939
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パルコステージ 03-3477-5858(月~土11:00~19:00/日・祝11:00~15:00)
http://www.parco-play.com/
キューブ 03—5485-2252(平日12:00〜18:00)
http://www.cubeinc.co.jp/
■公式サイト:http://www.parco-play.com/web/play/ningenfusha/
美術=石原 敬
音楽=和田俊輔
照明=大島祐夫
音響=大木裕介
衣裳=高木阿友子
ヘアメイク=河村陽子
殺陣指導=前田 悟
演出助手=元吉庸泰
舞台監督= 榎 太郎 広瀬泰久