ブルー&スカイと池谷のぶえ、宝石のエメラルド座『ライバルは自分自身ANNEX』を語る!【稽古場miniレポート付きインタビュー】
(左から)池谷のぶえ、ブルー&スカイ (撮影:荒川 潤)
好きな人にはたまらない、希少なコメディをぜひ一度味わって
どこまでも無意味でくだらないーー演劇の自明性を根底から覆す強度の“ナンセンス”を武器として、数多の同業者たちからの畏敬の念を一身に集める劇作家/演出家ブルー&スカイ。そんな彼の手掛ける待望の新作公演、宝石のエメラルド座『ライバルは自分自身 ANNEX』が、2025年8月22日(金)〜31日(日)、東京は下北沢のザ・スズナリで上演される。これまで『星の数ほど星に願いを』(2020年)、『重要物語』(2023年)を制作してきたチームが、今回は唐突に「宝石のエメラルド座」という団体名を冠した興行を行なう。出演は、池谷のぶえ、佐藤真弓、吉増裕士、大堀こういち、という安定感のある顔ぶれに、森一生、西出結、蕪﨑俊平というブルー&スカイ作品初参加組の三名が加わり、比類なき極上のナンセンスコメディを創り上げる。
公演に向けた準備が着々と進む中、このほど稽古場取材を敢行、さらに、ブルー&スカイと、彼の劇宇宙の最高の理解者であり伴走者にして体現者である俳優・池谷のぶえへのインタビュー取材を行なった。
宝石のエメラルド座 稽古場 (撮影:安藤光夫)
■稽古場 miniレポート
この日行なわれていたのは、ラストシーンの稽古。ネタバレになるため、それぞれの役柄やシーンの詳細は伏せるが、シュールなセリフとスピード感のある展開、濃いキャラクターたちの馬鹿げた絡み合いを目の当たりにするや、ブルー&スカイならではの独特無比な劇世界に一瞬で引き込まれた。つい幾度も吹き出してしまう見学者をよそに、淡々と俳優たちの演技を見つめる演出家(ブルー)の姿もまた印象深いものがあった。
(撮影:吉田沙奈)
凛とした表情でシリアスな芝居をしたかと思うと一瞬でコミカルなキャラクターに転じる池谷、癖のある登場人物をチャーミングに魅せる佐藤、シュールな設定を大真面目に演じ切る吉増。ベテランたちの安定感のもと、若手男子の森や蕪﨑が勢いと熱量のある役に体当たりで挑み、若手女子の西出もシュールで難しいセリフを味わい深く表現してみせる。この日は不在だった大堀がこれに加わり、曲者揃いのカンパニーが完成するかと思うと、非常にワクワクせざるをえない。
シーンの通し稽古の後は、演出席を立ったブルーが役者の演技スペースに分け入り、自ら方々に動きながら立ち位置や動線を綿密に確認していく。様々な席に座る観客の目線でステージの見え方をチェックすることも怠らない。
(撮影:吉田沙奈)
また、セリフのトーンやイントネーションについて修正を施していくたびにキャラクターの個性やクオリティは明らかに増していく。俳優側からも「ここはこのテンションで?」「こうしてみたらどうだろう」と真摯な質問や提案が出されるなど、短い時間ながらカンパニーの手腕をしっかり見学することができた。
ここからさらに役者一人ひとりの技巧と個性、ブルー&スカイの感性による化学反応を重ねて生まれる作品には、いっそうの期待が高まる。
(撮影:吉田沙奈)
■ブルー&スカイ、池谷のぶえ インタビュー
――まずはブルーさんにお伺いします。今回の公演の成り立ちや、「宝石のエメラルド座」というチーム名を冠した意図からお聞かせください。
ブルー&スカイ(以下、ブルー) 何度かご一緒したプロデューサーさんから声をかけていただいて企画がスタートしました。チーム名は制作チームに「何かあった方がいいよ」と勧められ、そういえば考えたこともなかったな、と。なるべく意味を感じさせない名前がいいな、と思って考えたのが「エメラルド座」でした。それだけだと「なんだかな」という感じなのと、僕はエメラルドって宝石以外では聞かないなと思ったので、敢えて必要のない「宝石の」を付けて「宝石のエメラルド座」にしました。
――意味のない名前を付けた、とのことですが、それでも「エメラルド」という単語が浮かんだきっかけは何だったのでしょう。
ブルー 大倉孝二さんとやっているジョンソン&ジャクソンというユニットがあるのですが、そのユニット名が付く前にやった芝居の中に、「エメラルドを作ったよ」という唐突なセリフがあったんです。それが好きなセリフのひとつだったので、今回使おうかなと思いました。一座の名前に違和感を抱いていただけたら、という気持ちがありました。
(撮影:荒川 潤)
――「芝居に本館と別館があれば今回は別館もの」というコメントをチラシや公式サイトに出されていましたが、お稽古が進んでいる今、その辺りの感覚はいかがでしょう。
ブルー 挨拶文はお話の内容などが決まる前に出すので、毎回よくわからないことを書いているんです。タイトルだけは先に決めないといけなくて、今回は公演名を『ライバルは自分自身 ANNEX』にしたので、ANNEX(別館)に絡めた、意味のない文章を書かせていただきました。
――タイトルの中の、「ライバルは自分自身」と「ANNEX」は、どちらの部分が先に出てきたのですか。
ブルー ほぼ同時に思いつきました。昔、池谷(のぶえ)さんと一緒にやっていた猫ニャーという劇団に『将来への不安 Z-2000』というタイトルの作品がありました。ありふれたフレーズに何かをプラスして違和感が出るようなタイトルが、自分ではとても気に入っていて、そのニュアンスを今回も取り入れたいなと。それで「ライバルは自分自身」の後にたとえば「DX」を付けるのは、ちょっと単純すぎるので、じゃあ何がいいかと考えて、すぐにこのタイトルが思い浮かびました。
――池谷のぶえさんは、今回の台本を読んだ感想や、本作に限らずブルーさんの作品に感じる魅力など、いかがでしょう。
池谷のぶえ(以下、池谷) 私は元々笑いが好きというわけでもなく、たまたま大学の演劇サークルで出会ったブルーくんがナンセンスコメディを書くようになり、ご縁があって一緒に劇団をやるようになりました。自分がやりたくて飛びついたというより、本当にご縁で、修行のように笑いをやるようになったので、私が語れることでもないというか(笑)。観てくださるお客様の方が、よっぽどブルーくんの作品の素晴らしさをいろいろと語ってくださっているなあ、と思っています。
ただ、私も何十年も演劇を演ってきましたが、こんな作風・言葉を描く人にはついぞ出会ったことがありません。色々な演技をしてきても、正直、一番面倒くさいし難しいし、生み出すのが大変な作品だと感じています。
(撮影:荒川 潤)
ブルー 劇団時代から数えて今度で30回目くらいですね。
池谷 そっかぁ。そんなに演っているんですね。
――台本を拝読して、池谷さんの声でセリフが聞こえてくるところが多々あって、すごく馴染むというか、しっくりきましたが、演っている側としては違うんですね。
池谷 演っている側としては馴染まないですね(笑)。これだけ演っていたら軽々とできるだろうと自分でも思いますが、毎回打ちのめされる。またゼロに戻って構築していかないといけないという苦しみを味わっています。
――台本は役者さんに向けて当て書きをされているんでしょうか?
ブルー 今回初めましてのキャストさんが3名いますが、それ以外の4人の皆さんには完全に当て書きです。何度もご一緒している方々なので、絶対に面白くしてくれるだろうと、頼りにしています。ただ、今回は特に「最近演ってきた作品よりもっとメチャクチャな台本を書いてやろう」と思って書いたので、何回もご一緒している方でも難しいところがたくさんあるとは思います。でも最終的には面白くしてくれると思います。
(撮影:荒川 潤)
――現時点で、お稽古の手応えはいかがでしょう。
ブルー 細かい部分での修正はまだありますが、徐々に出来上がってきていますね。
池谷 まず言葉が覚えにくいので、ようやく入ってきたかなという段階です。ここからニュアンスなどを整えていかなきゃと思いつつ、演れば演るほど疑問も湧いてくる(笑)。なんというか、普通のお芝居と比較してしまう部分もあって、「ここの気持ちはどうしたらいいだろう」などのモヤモヤが増えていく一方という感じです。だからもっと苦しくなるだろうなという状況です。あと、今回ひとつ、制約というか、演出上の構造というか……。
ブルー コンセプトでしょうか。
池谷 そう、そのコンセプトがあって、それがわりと辛いです。でもこれは詳細を書けないので、観客の皆さんに発見してくださいという。
ブルー 実験的な意味合いの試みがあります。
池谷 ぜひ発見してほしいですね。じゃないと苦しんでいる意味がない(笑)。
(撮影:荒川 潤)
――詳細は秘密ということですが、公演を観た方はすぐに発見できそうですか?
池谷 すぐに気付くのは無理かもしれません。
ブルー 気付く方もいれば全く気付かない方もいそうです。でも、やる前とか公演直後に説明しちゃうと冷めるのであまり言えない。
池谷 わからなかったら、謎に包まれたまま……。
ブルー 公演が終わって一ヶ月後くらいなら言っていいかも(笑)。
――今回の物語には、タイトルともリンクして、「ライバル」関係にある人々が何組か登場しますね。つまり「ライバル」がテーマになっているといってよさそうです。そこで、そのテーマにちなんで、お二人にとって自分自身以外のライバルを教えていただけますか。
ブルー、池谷:うーん……。
ブルー 思いつかないです。「俺にはライバルがいない」とか、そういう意味ではなく、考えたことがないですね。今この暑さなので、敵は暑さかな。
一同 (笑)。
ブルー でも、演劇というか小劇場界で、他でやっていないことをやりたい・自分がやらなければ観られない試みをやりたいという思いはあります。
池谷 私も具体的には思いつきませんが、作品創りをしているときにカンパニー内で恋愛が発生していると「作品を最優先に創ろうよ」とは思いますね(笑)。そういうときに、その人より良いパフォーマンスをしなければ、とは感じます。
――作品において、作り手としてのブルーさんと役者の池谷さんとの間で、勝負というか、ライバル関係のような状況は発生しないんでしょうか。
ブルー 僕はわけのわからない台本を書いて、「そういうことか」と伝わってほしい。説明が全くなければわからないと思うので勝負という感じではないですね。
池谷 こちらも「受けて立つ!」みたいな感覚ではないです。どうにかしなきゃという感じ。何のためのどうにかしなきゃなのかはわかりませんが(笑)。作中でやり取りの多い(佐藤)真弓さんも、真弓さんにしか出せない雰囲気をリスペクトしているのでライバルという感じではない。昔は誰かに対してライバル意識もあったかもしれないけど、今はこれと言ってないですね。
(撮影:荒川 潤)
――今回のカンパニー全体の印象もお伺いしたいです。
ブルー 僕がお芝居をさせてもらうときに、昔から知っている人の中に1人くらい初めましての若い方がいることはあるんですが、7人のキャストのうち3人(森一生、西出結、蕪﨑俊平)が初めましての若い人たちというのは初めてなので新鮮です。
池谷 新鮮だし、ブルーくんもよく引き受けたなと思います。「一回は一緒にやったことがある人じゃないと嫌だ」ってずっと言い続けてきたので。だからこれまでは初めましての人がいても1人か2人でした。その意味で、今回はすごいことなんじゃないですか?
ブルー 知っている人で出てほしいと思う人が50歳過ぎの人ばかりになってきたんですよ。でも、今回は若い人が3人もいるので、台本にも少し影響が出ていると思いますね。
池谷 ブルーくんは(台本を)書くときに、「すごくテンションを上げてやってください」というシーンや「真剣にテンションを上げる」というオーダーが多いのですが、その方向性は若い方々に対して、私たちの世代が身をもって演って見せなきゃいけないと思っています。一度見せないと「ここまで演っていい」という度合いが中々わからないのではないかと。ただ、今回、まだみんなとちゃんとお話しできていないので、若い3人がこの作品をどう思っているのか、楽しめているのかわかりません。稽古中に笑ってくれたり提案してくれたりするのを見ると安心しますけど、実は戸惑っているんじゃないかとも思いますね。
ブルー 僕も、どう思われているのかはわかりませんが、世代の感覚の差というより、どれくらい観ているか・演ったことがあるか、という経験値の差なんだと思います。
池谷 若い方々が、今の演劇界に少なくなっているこういう作品を、好きかどうかすらもわからない(笑)。観客として面白い・好きと、演って面白いとではまた違うので、そこは難しいですよね。こういう作品って苦しまないと産まれないと思うので、「楽しんで」というのは違う気もするし。
ブルー 基本的に大変でも、たまに楽しんでくれればいいなぁ、とは思います。
(撮影:荒川 潤)
――最後に、まだブルーさんのお芝居を観たことのない方々に向けて、それから、ブルーさんのお芝居が大好きでたまらない方々に向けて、それぞれメッセージをいただけますか。
ブルー 合う合わないはあるかもしれませんが、合う人にとってはすごく面白い芝居を目指しています。本当にちょっと、来てもらわないと大変だぞと思っています。ワクワクドキドキ、は違うか……。
一同 (笑)。
ブルー ……とにかく、面白いことが好きな人、楽しませますので、ぜひいらしてください。
池谷 ブルー&スカイの作品を心待ちにしている方々にとっては、「これこれ、この味が食べたかったんだよ!」というお気に入りのラーメン屋みたいなものだと思います。だからこそブルーくんが言うように好みがあると思いますが、きっと書いている本人もそういうものを見たいのに、ないから自分で書くしかないという時代になっているような気もして。色々なインタビューで言っていますが、本当に希少な、無形文化財だと思います。だからもしこのインタビューを読んで少しでも心に引っ掛かるものがあったら、消える前に一度見ていただき、「あれを見たんだよ」という言葉で継承していってもらえたら嬉しいです。
(撮影:荒川 潤)
取材・文=吉田沙奈
公演情報
『ライバルは自分自身 ANNEX』
■出演:
池谷のぶえ
佐藤真弓
吉増裕士
西出結
蕪﨑俊平
8月22日[金] 19:00
8月23日[土] 13:00/ 18:00
8月24日[日] 13:00
8月25日[月] 19:00
8月26日[火] 休演日
8月27日[水] 14:00/ 19:00
8月28日[木] 19:00
8月29日[金] 19:00
8月30日[土] 13:00/ 18:00
8月31日[日] 13:00
※受付開始:開演45分前、客席開場:開演30分前
■会場:ザ・スズナリ https://www.honda-geki.com/suzunari
■料金:指定席6,500円
※未就学児入場不可
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Mitt(電話) 03-6265-3201(平日12:00~17:00)