竹中直人×倉持裕×生瀬勝久インタビュー 竹生企画の新作『マイクロバスと安定』は「お芝居って面白いな、と思ってもらいたい」
(左から)生瀬勝久、倉持裕、竹中直人 撮影:石阪大輔
俳優の竹中直人と生瀬勝久による演劇ユニット「竹生企画」が、2018年以来7年ぶりとなる新作公演『マイクロバスと安定』を、2025年11月に本多劇場(12月に兵庫・広島・熊本・盛岡・久慈・青森・長岡公演あり)で上演する。
「竹生企画」は、竹中と生瀬が「一緒に芝居づくりをしたい」と熱望した倉持裕を劇作・演出に迎え、2011年に始動。共演者には毎回、2人が「ぜひ舞台で共演してみたい」と願う俳優たちを迎えるという趣向で、今回は、飯豊まりえ、戸塚純貴、サリngROCK、松浦りょう、浜野謙太が出演する。
地球に小惑星が衝突するまであと3年という世界で、それでも「これまでと変わらず生きよう」ともがく人々を描いた本作への意気込みを、竹中、生瀬、倉持の3人に聞いた。
「今回は奇をてらわない感じで書こうと思っている」(倉持)
ーー今回このタイミングで竹生企画を再始動するに至った経緯を教えてください。
竹中:ちょうど倉持さん生瀬さんとのタイミングが合ったんです。
生瀬:でも、少し間が空きましたよね。今まで竹生企画で3回公演を打ちましたが、2~3年に1回くらいのペースだったのに。
竹中:そう。だったのに、7年も空いてしまいました。
倉持:実は、コロナ禍の前に一度、企画が立ち上がっていたんですけどね。結果的に7年経ってしまいましたね。
竹中:でも7年なんてあっという間です。いやあ、そう考えると私たちはもう死んでしまいますね(笑)。
竹中直人 撮影:石阪大輔
生瀬:以前もそんなことをおっしゃっていましたよ(笑)。
ーー倉持さんは、最初に竹生企画のオファーを受けたときのお気持ちはいかがでしたか。
倉持:嬉しかったですね。「食事をしましょう」と呼び出されまして、その席で「やりましょう」という話になり、どんな内容にしようか、どんな方に出演してもらいたいか、ということを話しました。僕は比較的、若い俳優とご一緒することが多かったので、先輩のお2人とお芝居が作れることが嬉しいなと思いました。
ーー竹中さんは、竹生企画以外でも倉持さんとタッグを組んで舞台や映画などでお仕事をされていますが、倉持さんのどのようなところに惹きつけられるのでしょうか。
竹中:倉持さんが作・演出の『まどろみ』(2008年)という舞台を観た時…うわぁ、こういう世界観が好きや! わて好きやで! としびれてしまったんです。元々僕は、直感的に「この人だ」と思ったら、その作家のことをより深く知りたいのでとくに舞台の場合は本人が受け入れて下さるなら何度も一緒にやることが多いです。倉持さんの世界を自分がどう演じる事が出来るか…ちゃんとそれは理想的な形になっているのだろうかということを思いながらご一緒させて頂いています。
ーー生瀬さんは倉持作品の魅力をどのようにとらえていますか。
生瀬:僕は他の作品ではキャラクターから作品に入ることが多いんですよ。でも竹生企画だと、倉持くんが書く段階で、ある程度「この役を生瀬にやらせよう」という意図があるわけです。それは倉持くんの視点ではあるけれど、「生瀬はこういう役をやらせると活きる」という役を書いてもらえるんです。まあ、大抵はあまり良くない人間として登場するんですけど(笑)。でも、それがすごく嬉しくて。普段は僕自身の人間性で作品に出ることはなかなかないですが、竹生企画だと、役名は違ってもきっと「生瀬」がそこに出ているんだろうな、と感じます。皮肉屋で、ちょっと変わった人っていう、それがすごく楽しいです。あと、倉持くんとさっき話していたら、コロナ禍を経て作風が変わったそうなんです。どう変わったのか聞いたら、「ウケたい」という気持ちがなくなったと。だから、今回どんな作品になるのかすごく楽しみなんです。
倉持:はい、僕も楽しみです。奇をてらわない感じで書こうと思っていて、結果的にその方が面白くなるような気がしています。不自然に笑いを生み出そうとしないというか。真面目な芝居を書いたつもりでも、お客様がいろいろなところで笑ってくださる、という芝居にできるんじゃないかと思っています。
ーーお二人に対してはどのようなものを書きたいという思いがありますか。
倉持:今回は劇場が本多劇場になるので、過去3回上演してきたシアタークリエよりは日常的な芝居になるでしょうし、具体的には声もそこまで張らなくていい場面も多くなるだろうと思います。
倉持裕 撮影:石阪大輔
生瀬:……声、出しますよ? それしか取り柄がないので。
倉持:それしか、ってことはないです(笑)。今回は、過去にわだかまりを抱えていて、あと3年で世界が終わるというのに、まだそのことにこだわっている2人、という設定です。最初の構想では「世界が終わる」という設定はなく、ただウジウジと過去のわだかまりを引きずっている2人の話だけが書いてあったんです。でも、何だかパッとしないなと思って……。
竹中・生瀬:(爆笑)
倉持:それで竹中さんに「何かいいアイデアはありませんか」と相談しました。竹中さんとは以前『エンド・オブ・ザ・ワールド』という映画を一緒に見たことがあって、それも世界が終わるという話でしたし、『メランコリア』という映画も教えてもらって見たんですけど、惑星が地球に衝突するという話でした。もう世界が滅亡するとわかっているのに、まだ「あのときお前はこうだった」と言い合っているのは面白いなと思って、その設定を足したという経緯があります。
「全体のビジュアルのバランス感覚が良い」(生瀬)
ーー今回のキャストについてお聞かせください。
竹中:今日、ビジュアル撮影があったんです。戸塚(純貴)くんは残念ながらお仕事が被って来られなかったんですが、それ以外の出演者の方々はみんな集まりました。その時に感じたのが、ええやん! ええ感じのバランスになっとるやんか! と感じました。4回目にしてまたあらたな、なんとも独特なキャスティングができたやないか! という感じがしましたね。
倉持:僕もそう思います。すごくいいバランスだなと。ビジュアルとしては過去最高かもしれないです。バラバラな感じがするのに、まとまりも感じられて、面白くなりそうだなと思いました。ワクワクしています。
生瀬:いや、本当に全体のビジュアルがすごく良くて、きっとお客様の間で“推し”が分かれるんじゃないかな、というくらい、バランス感覚が良かったです。個性豊かな感じがしました。
竹生企画第四弾『マイクロバスと安定』
ーー竹生企画の特徴や、魅力はどんなところだと思いますか。
生瀬:僕らが若い頃に観に行ったお芝居は、劇団の公演が中心でした。当時、いろんな役者さんが集まって一つの作品を作るというようなプロデュース公演はあまりなかったですよね。時代が変わった今、竹生企画を最初に見て「お芝居って面白いな」と感じてもらえたら嬉しいです。僕らも「お芝居って面白いな」というところから始まっているので、そのきっかけになるような作品になったらいいなと思っています。演劇のメッカである下北沢の本多劇場で、生まれて初めて見た芝居が「竹生企画」だった、という人がいたらいいですよね。「中心になってる2人、知らないおじさんだけど結構頑張ってるな」という感じで(笑)。今の若い子たちは、僕らのことなんて知らないですよね?
竹中:そうですね。この間、道を歩いていたら「あのハゲ、有名人!」って言われました。「あのハゲ」の言葉に、「え? おれ??」ってすぐに反応してしまいました。
(一同爆笑)
生瀬:その子にぜひ本多劇場に来てもらってね。「ああ、なんか頑張ってるな。あのハゲ、役者さんなんだ」って思ってもらえれば。
ーー倉持さんはいかがでしょうか。
倉持:竹中さんと生瀬さんほどのキャリアを持つ俳優さんが、がっぷり四つで芝居をするというのは、他になかなかないですよね。プロデュース公演が増えてきて、どうしても人気の若手がメインの舞台が多い中で、この企画は希少だと思うので、価値がありますよ。
生瀬:おっしゃる通りです。(竹中に向かって)覚えてますか? 『山形スクリーム』のとき。
竹中:もちろん覚えてますよ! 『山形スクリーム』は僕が監督した映画なんですが生瀬くんに出演していただいたんです。
生瀬:僕は若い頃からずっと竹中さんに憧れていて、映画に呼んでいただいたときに「竹中さん、僕と二人芝居をやってくれませんか」と声をかけたんです。
竹中:びっくりしましたね。「え、俺なんかと??!」という感じで。
(左から)生瀬勝久、竹中直人 撮影:石阪大輔
生瀬:そのときは「嫌だよ、恥ずかしいよ」って言われたんです。それから何年か経って、「他の人を入れるんだったらいいよ」と言っていただいて、それで始まった企画なんです。まさかここまで続くとは思いませんでした。一回目で大喧嘩して終わる、とか、最初は盛り上がったけどだんだん面倒くさくなる、なんて話も聞きますし。ここまで続いたら、もう最期は看取りたいなという思いです。
竹中:はい! ですね!(笑)。
ーー生瀬さんの中では、今でも二人芝居をやりたいという気持ちはありますか。
生瀬:というか、竹生企画は二人芝居がベースだと思ってやっています。僕らの二人芝居に色々な方が出演してくださる、という感覚ですね。だから、すごく満足しているんです。
ーー倉持さんから見た役者としてのお二人というのは、どのように映っているのでしょうか。
倉持:お二人はやり方がずいぶん違うと思いますよ。
生瀬:そうですか。考え方の部分かな?
倉持:「相手と芝居をしたい」という基本的な根っこは一緒ですが、生瀬さんはどちらかというと理論派ですよね。竹中さんは、「崩したい」というお気持ちがあるのかな。生瀬さんは共演者に「この間(ま)で、このセリフを、このテンポで言えば笑いが来るんだよ」というようなことをお話しされていて。竹中さんは、恐らくそういう理屈をわかった上で、わざとずらしていくんだろうな、という感じがします。
生瀬:竹中さんはあまり共演者に「こうだよ」とか言わないですよね。僕はテクニカルなことを言いがちかもしれない。
倉持:そうですね。竹中さんは「一緒にやろうか」という感じで、休憩中に相手役のセリフ合わせに付き合ったりして、実践の中で伝えていくという感じなのかな、と思いました。
「舞台でしかできない緊張感とスピード感を忘れちゃいけない」(竹中)
ーーもしも3年後に世界が終わるとしたら、皆さんはどのように過ごされますか。
竹中:大好きなホラー映画を観まくって、あとは過去を振り返りながらチマチマと小さなことをしていそうです(笑)。このお芝居のまんまで「これ、俺じゃん」と思いながら芝居をするのがすごく怖くなってきました…。どげんしよ…どげんしたらええのや!(笑)。
ーー基本的には今と変わらず過ごしますか? それとも何か特別なことをしますか?
竹中:「今と変わらず」と思いながら、逆に浮かれてしまうか、達観してしまって、何でも「アハハハ!」って笑って楽しくなっちゃったりしてね。もしくは自分自身の本性がふつふつと湧き上がってとてつもない事が起こりそうです…! 海パン一丁で海水をがぶ飲みしたり、ボンドガールのグラビアを小脇に挟んで公園のブランコの釣鐘に被りついたり…。
ーーここまでのお話しで竹中さんの芝居愛がとても伝わって来たので、最後の瞬間までお芝居をされているのでは、と勝手に想像してしまいます。
竹中:舞台でしか感じ得ない緊張感と、芝居のスピード感、テンポ感を大切に感じたいので続けていけたらいいですね。そしてふと気づいたら生瀬くんと二人芝居をやっていた…なんてなるのかな。倉持さんにも作、演出をお願いしてね。
ーー生瀬さんはどうでしょう。
生瀬:今の僕は、未来のことも何も考えていないし、何も信じていない。なので、例えば「3年後に地球が滅亡します」という情報が入ってきても、信じないでしょうね。「絶対」というものはないけれど、「死ぬ」ということだけは絶対だと思っているので、「まあ、3年後にその“絶対”が来るんだな」というふうに考えると思います。だから、今まで通りの人生を送り、3年後のことを何もイメージしない。基本的には何も変わらない、ということですね。
生瀬勝久 撮影:石阪大輔
ーー倉持さんはいかがですか。
倉持:僕はとりあえず、3年以上先を見据えて溜めているものや、取っておいているものがあるはずなので、それを全部3年で消化できるように使っていくと思います。お金とか。
生瀬:じゃあ、ちょっと分けてください(笑)。
倉持:……いえ、そういう使い方はしないと思います(笑)。あとは理想論ですけど、旅で喩えると、帰りの電車が何時に出るかわかっていて、とりあえず駅まで行って「出発までの残りの時間をどうやって潰そうか」というような感じで過ごせればいいなと思います。
生瀬:なるほど、それぞれですね~。
倉持:そのときになってみないとわからないですけどね。
ーー公演を楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
生瀬:竹生企画をご存じで楽しみにしてくださっている方はもちろん、初めてお芝居を見る方にも、テレビや映画では見られないドラマが舞台にはあるということを知っていただきたいです。生の舞台は本当に楽しいですよ、ということを皆さんに知っていただければ幸いです。
倉持:今回は竹生企画として初めて本多劇場で上演するということで、これもまた一つの楽しみだと思います。今まで竹生企画をご覧くださったお客様も、シアタークリエとはまた毛色が変わると思うので、ぜひご期待ください。本多劇場に竹中さんと生瀬さんが主役として立つ、というのもなかなか見られない光景だと思うので、この機会を逃さず、ぜひいらしていただきたいです。
竹中:とにかく、皆さんの想像を超える舞台になっていると思います! ピンと張りつめた糸のような、とてつもない緊張感に包まれながらも、終わった後はみんながとっても爽やかな気持ちで「観てよかった!!」「良かったわ! 本当に観て良かったわ!」「サイコーやないけー! ごっつうおもろかったで〜!!」と歓喜に震えるような舞台に仕上がる事間違いなしです。なんたってキャスティングも最高ですからね! 何が飛び出すかわからない、とんでもないお芝居になっていると思います! 劇場でお待ちしております。
(左から)生瀬勝久、倉持裕、竹中直人 撮影:石阪大輔
取材・文=久田絢子
公演情報
出演:竹中直人 生瀬勝久
飯豊まりえ 戸塚純貴
サリngROCK 松浦りょう 浜野謙太
公演期間・場所
・2025年11月8日(土)~11月30日(日) 東京 下北沢 本多劇場
・2025年12月5日(金)~7日(日) 兵庫 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
・2025年12月10日(水)広島 JMSアステールプラザ 大ホール
・2025年12月13日(土) 熊本 市民会館シアーズホーム夢ホール
・2025年12月19日(金) 盛岡 トーサイクラシックホール岩手 大ホール
・2025年12月21日(日) 久慈 久慈市文化会館アンバーホール 大ホール
・2025年12月23日(火) 青森 リンクステーションホール青森 大ホール
・2025年12月27日(土) 長岡 長岡市立劇場 大ホール
X (旧Twitter) はこちら→ https://x.com/cube_stage