台湾の「国民の初孫」!? 大人気シンガー・ソングライターのクラウド・ルーにインタビュー

インタビュー
音楽
2017.9.22
クラウド・ルー

クラウド・ルー

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ここ数年前から、「クラウド・ルー、良いですよね!」という声を周りでよく耳にする。それも、これまであまり台湾の音楽を聴いていなかった方たちからだ。

クラウド・ルー(盧廣仲)は、台湾・台南出身のシンガー・ソングライター。本国台湾では当然のことながら、アジアでも絶大な人気を誇っている。彼の屈託の無い笑顔には人柄の良さが滲みでており、彼の個性的なルックスは、一度見たら忘れられない。独特の着眼点から生まれた、日常生活に寄り添った歌詞はとてもユニークで、メロディーと歌声は、聴き手の琴線に容赦なく触れてくる。ここ日本では2015年にサマーソニック(ガーデンステージ)に出演したが、そう、その頃から、それまで彼のことを知らなかった人たちにもジワジワと彼の評判が広まってきているように思う。2016年には初のワンマンライヴ(瞬く間にソールドアウト)、今年に入ってからは東京で2日間ライヴを行っており、ライヴを観て魅了されたという方も多いはずだ。彼の音楽が多くの人に愛されるワケとは? 幼少期の話からギターとの出会い、曲作りや最新アルバムの話、そして初主演したドラマの話まで、時間の許す限り訊いてみた。


――まずは、子供の頃のお話から伺いたいのですが、どんな子供時代でしたか? 常に音楽には触れていましたか?

母も祖母もラジオを聴くのが好きだったので、家では絶えず音楽が流れていました。母は最新の洋楽ヒット曲が流れる局、祖母は台湾語のトークが多めの局を聴いていました。なので、幼少期の記憶というと、常に頭の中でメロディーが流れていて、無音の時は全くありませんでした。

――子供の頃聴いていた中で、よく歌ったり、好きだった曲はありますか?

台湾だと、歌仔戯(台湾オペラとも言われる台湾の伝統芸能)の楊麗花、洋楽だとホイットニー・ヒューストンの曲が好きでした。

――最初に買ったアルバムは覚えていますか?

最初に買ったアルバムは、CDではなくカセットでした。ホイットニー・ヒューストンが好きだったので、映画『ボディガード』のサウンドトラックでした。あとは、マライア・キャリーの『デイドリーム』です。

――女性ヴォーカルを結構聴かれていたのですね。クラウドさんの歌い方は、すごくのびのびと、声を自由自在に操っている感じがするのですが、たとえば、今名前が挙がったアーティストたちからの影響はありますか?

そうですね、ホイットニー・ヒューストンとマライア・キャリーの影響は受けていますね。なぜなら、声変わりする前はすごく声が高くて、彼女たちと音域がだいたい同じくらいだったので、すごくリラックスして歌えたからです。地声やファルセットの使い分けも、彼女たちの歌い方を真似して学びました。

「OH YEAH!!!」(2nd アルバム『七天』収録)

――(引き出しの多さから)ライヴを観るたびに違う印象を受けるのですが、昨年11月に東京で行われたライヴでは、歌い方やファンキーなグルーヴから、スティーヴィー・ワンダーのことを思い出した瞬間がありました。スティーヴィーの曲も聴きますか?

大好きです。彼の、歌に対する姿勢には感動させられます。彼は盲目なので、僕たちよりも優れた聴力を持っていると思います。彼が届けてくれるのはとても豊潤な音楽だと思います。

――昔、スティーヴィーのライヴを初めて観た時、彼の歌声やパフォーマンスに心を動かされて涙が止まらなくなった経験があるのですが、クラウドさんの曲も、聴いていると自然に涙が流れてくることがあって、何か通じるものがあるなと感じました。

ありがとうございます。僕はスティーヴィーと、レイ・チャールズも大好きなんです。二人とも盲目なので、実は、ステージで目をつぶって、彼らの世界を想像しながら演奏している時があります。先ほど、毎回ライヴの雰囲気が違うと仰ってましたが、つぶっていた目を開いた時に目の前にいるオーディエンスの前で演奏出来るのはその日だけです。なので、その瞬間を大切にしたいと思い、MCや演奏などはその時のお客さんの雰囲気に合わせています。

最初に毎回内容を変えようと思ったきっかけは、いつだったかは忘れてしまったのですが、自分のコンサートを観るために何日もかけてわざわざ来てくれた人がたくさんいると知った時です。自分にとっては何日もあるツアーの中の1日かもしれないけど、わざわざ観に来てくれる人のために唯一無二のパフォーマンスを届けなければならないと思いました。ステージが始まる直前まで、今日はどんな僕をみせようか、どんなことを伝えようか、しっかりと考えてから臨みます。僕は毎日同じではありませんからね。

――今回の来日時のインストア・ライヴなどのイベントでも、内容を毎回変えていましたよね。さて、クラウド・ルーさんと言えば、ギターもとてもお上手ですが、独学なんですよね?

実は、ギターを始めた頃、周りにギターを弾ける友達がたくさんいたので、みんなが先生のような感じでした。あと、ちょうどその頃YouTubeが流行り始めたので、時期的にもラッキーだったと思います。最初の一週間は手元を見ながら弾いていたけどすぐに見ないでスラスラ弾けるようになるなど、始めたばかりの頃の進歩のスピードはなかなか速かったです。

――すごい……。ギターを弾くべくして生まれてきたという感じですね。

実は子供の頃に数年ピアノを習っていたので、それが役に立っているかもしれません。その時に音感が培われたのだと思うのですが、(ギターを始めた頃)自分が弾いている音が合っているかどうかを聴き分けることができました。

――たとえば、ギターを始めたら誰もがコピーするようなリフや楽曲も弾きましたか?

(ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のギターリフを口ずさみ……)僕は、良くも悪くも、なんでも弾きたいと思ってしまうので、ロックの名曲の前奏しか弾けないとか、サビしか弾けないとか、1曲丸々は弾けない場合が多かったですね。実は速弾きにチャレンジしてみた時期もあるのですが、どうも性格的に合わないと思い、ジャズやブルースにたどり着きました。

――大学1年生の時に交通事故に遭ってしまいギターを始めたとのことですが、その時は歌手になりたいと思っていたわけではないのですね。

全くないですね。時間を潰すためだけに弾いていました。ギターの音色が心地良いなとは思っていましたが。骨折して外に出ることができなかったので、ひたすらパソコンの前でギターを弾いていました。

――その時に出来た曲はありますか?

出来ました、ひどい曲がたくさん。たくさんのバッド・ブルースが……(笑)。(自称ひどい曲を除いて)最初に書いたのは、ファースト・アルバムに収録されている「別殺我(Do Not Kill Me)」という曲です。18歳の時に寮で書きました。この曲は出来上がった時にすごく手応えがあって、早く誰かに聴いてもらいたいと思いルームメイトに聴かせたら、他の曲はいつもダメだしされていたのに、「なかなか良いんじゃない?」という反応が返ってきたんです。

――ギターを始めて、歌って、曲作りをして……。クラウドさんの中ではどれも自然の流れだったのですね。

自分で曲を書いている友達にギターを聞かせたら、「なかなか上手いね。曲も書いてみたら?」と言われたのがきっかけで曲作りを始めました。

――ソロ・シンガーとして活動されていますが、バンドをやろうとは思いませんでしたか? また、バンドを組んだ経験はありますか?

僕と同じ学科の人たちがたまたまだったのかもしれませんが、フロントマンになりたい人ばかりだったので、一緒にやることはありませんでした。あと、その時は変わり者だと思われていたのも原因かもしれません(笑)。割と一人で行動することが多かったです。

――その分音楽に情熱を注いでいたという感じですか?

若い頃はそうでしたね。

――その後、変化しましたか?

デビューしてもう10年だし、年を重ねるごとに友達付き合いをするようになりました。今作でも、「NERD PUNK」というスリー・ピース・バンドを組んで、一緒に演奏したり、アレンジをしたりしました。

――最新アルバム『What a Folk!!!!!!』が日本でもリリースされました(台湾では2016年リリース)。合間に兵役に就いていた期間はありますが、アルバムとアルバムの間隔が3年半以上あいたというのは今までで最長ですよね。過去最大のスランプに陥ったとも話されていますが、やはり、制作過程は大変でしたか?

結構大変でした。合間に1年間兵役に就いていて、色々な経験をしたり、曲もなかなか書けなかったので時間がかかってしまいました。

――新作に収録されている曲は、全て兵役を終えてから書いたものですか?

そうです。

――事前にアコースティックなアルバムにしようと決めてから制作したとのことですが、何かきっかけはあったのですか?

フォークなアルバム、聴きやすいアルバムはこれまでもずっと作りたいと思っていました。一人旅に出た時、旅の道中ずっとニック・ドレイクの『ピンク・ムーン』を聴いていて、このアルバムには寄り添ってくれる作用があると感じ、いつかこんな雰囲気のアルバムを作りたいと思っていました。

――関西に一人旅していたそうですが、よく一人旅に出かけるのですか?

よく行きます。朝起きて、「あそこに行きたい!」と思い立ったら、その日の夜にはその場所にいることが多いです。以前、『論語』を読んでいる時期があったのですが、ある朝起きたら急に孔子の生家に行きたくなり、その日のうちに山東省まで行ってしまいました。

――フットワーク軽いですね!

衝動的に旅に出ます(笑)。曲作りをするためではなく旅に出ることもあるので、行きたいと思ったらすぐに行動に移します。なぜなら、これまでに何度か死に至るような危険な状況に陥ったことがあるので、それ以降、やりたいことは後回しにしないで思い立ったらすぐ行動に移そうと思っています。

――日本旅行中に書いた曲、または日本からインスピレーションを得て出来た曲はありますか?

色々な所に出かけ、それらの場所で得たインスピレーションを家に帰ってから整理するという方法で僕は曲作りを行うので、この曲はココで……というのはあまりないですね。

――クラウドさんの曲は、すごくハッピーな曲も、メランコリックな曲もありますが、歌詞を書くときはそのときの気持ちに従って書くことが多いですか?

僕は、日々の生活の中で色々なことに対して敏感で、感受性が結構強いので、スランプなどのネガティブな感情やポジティブな感情、どちらも音符や歌詞に乗せてシェアしたいと思っています。たとえば、最新作に入っている「携帯(二)」は怒りの気持ちが込められた曲です。友達と会った時にみんながスマホを弄っていることに対してちょっと頭にきたことがあって、その怒りの感情をどこかに残しておかないともったいない、あと、体に悪いと思ったので、様々な感情を、曲とかなんらかの形で残したいと思うようになりました。

――クラウドさんが作る楽曲は、曲自体に包容力があって、曲が「友達」だと感じられるような温かさがあって、歌詞は、目の付け所がすごくユニークですよね。そして、仮に言葉がわからない人が聴いたとしてもメロディーと歌声から情景が浮かぶというのが魅力のひとつだと思います。作る際に何か意識していることはありますか?

ありがとうございます。僕も、子供の頃外国の音楽を聴いていたときは、英語がわからなかったので何を歌っているかは理解できませんでしたが、メロディーを聴いているだけでもすごく感動したのを覚えています。きっと声そのものには、言葉とはまた違うメッセージを発することが出来る力があるのではないかと思っています。だから、曲を書くときも、レコーディングをするときも、まずはその曲で自分の声をどのように表現するべきかを考え、声の質感についても色々と研究します。たくさんのマイクを試してみるなど、機材選びにもこだわりますが、声というのはそのようなことを超越して命が宿っているというか、自分の中から湧き出てくるものだと思うので、レコーディング前に瞑想をするんです。たとえば、ラブソングをハッピーに歌うのか、怒りの気持ちを込めて歌うのかによっても聞こえ方とか受け取るメッセージが全く違ってきますよね。

――レコーディングは時間がかかりましたか?

はい。

――何が一番大変でしたか?

それは間違いなく日本語の曲(「いつも信じて」)でした。

――発音ですか……?

そうですね。あと、歌詞の意味をちゃんと理解しないと伝えられないので、そこが大変でした。

――昨年のライヴで初めて日本語歌詞の曲を聴いたとき、しっかりと伝わってきましたよ。

ありがとうございます。日本語を教えてくれる先生がまわりにたくさんいるんです。

――まわりに先生がたくさんいて良いですね! ギターの先生、日本語の先生……。

(笑)。本当にラッキーだと思います。

「いつも信じて」(「一定要相信自己 自分を信じなきゃ」日本語Ver.)

――先ほどスマホの話(「携帯(二)」)をして下さいましたが、最新作で特に思い入れのある曲を教えていただけますか?

「自分を信じなきゃ(一定要相信自己)」は、僕にとって重要な曲ですね。人生で最大のスランプに陥ってしまい、それを乗り越えて書いた曲なので、自分自身も勇気づけられました。

――最後に、音楽以外のことも伺いたいのですが、台湾では、ドラマ(『花甲男孩轉大人(A Boy Named Flora A)』10月9日からNetflixで公開予定)に初主演されていましたね。初めてのドラマ出演とは思えない、自然な演技に引き込まれました。ドラマに出てから、(役の影響で)ちょっと年配の方からも道で声をかけられることが多くなったそうですね。

今僕は台湾で、「国民の初孫」というあだ名がついています(笑)。

一同爆笑。

道を歩いていて出会うおじいさん、おばあさんは、まるで僕が本当の孫かのように話しかけてくれます(笑)。

――ドラマでの表現、ミュージシャンとしての表現は少し違うのではと思いますが、いかがですか? 共通するところもありますか?

同じだと思います。歌手にしても俳優にしても、自分の中にある魂をどのように表現するのかということだと思うので、先ほど、声は文字を超越したメッセージを伝えることができると言いましたが、俳優の場合は、カラダで文字を超越したメッセージを伝えることが出来るのではないかと思います。

ドラマ「花甲男孩轉大人(A Boy Named Flora A)」主題歌

――今後は歌手としてだけでなく、俳優としてのクラウドさんもまた見ることが出来そうですか?

(笑)。演技は結構楽しいなと思ったので、そうですね、多分。あと、俳優のお話がくるときは、同時にドラマの中で使う楽曲も作って欲しいと言われるので、演技だけではなく、自分の創作意欲にも刺激を与えてくれるところが良いなと思っています。

――ありがとうございました。また色々とお話を伺わせてください。

またよろしくお願いします!


台湾に旅行する人が日本でも年々増えており、最近は台湾南部も注目されているので台南の魅力について訊いてみると、「台南の人は素朴で情熱的な人が多いので、きっと楽しい旅の思い出が出来ると思います!」と答えてくれた。彼自身も、素朴で、ほんわかしていて、でも芯はしっかりしている、そんな印象を受けた。既に新作の制作に入っており、来年はまた日本でライヴを行う予定があるという。ライヴ・パフォーマンスがまた素晴らしいので、来日公演が決定した際には、より多くの方に体感してもらいたい。

(2016年11月、原宿アストロホール公演のレポートはコチラ

取材・文=岡村有里子


<プロフィール>
クラウド・ルー(盧廣仲 ルー・グワンチョン)

1985年台南生まれ。大学1年の時、交通事故に遭ったきっかけで、入院中にギターを独学で始める。退院後の翌年、大学の音楽コンテストで優勝、現在の所属事務所にスカウトされる。3枚のシングルを経て08年にアルバムデビュー。発売初週は台湾の多くのチャートで1位を獲得。その自然体と音楽性の高さで大ブレイク。最も権威ある第20回金曲奨(ゴールデン・メロディ・アワード)では最優秀新人賞および最優秀作曲賞を受賞、その後も数々の音楽賞を総なめに。これまでに、2016年など4度にわたり台北アリーナでのソロ・コンサートを開催。日本ではサマーソニック(2015)など日本のフェスにも参加。2016年11月に初の日本でのワンマンライブ(東京、大阪)を開催、東京公演は先行発売1時間で即完となる。日々の生活からふと感じたことを純粋かつシンプルに表現するその音楽スタイルは台湾内外で反響を呼んでいる。

作品情報
クラウド・ルー『What a Folk!!!!!!』
 

発売日:2017.8.23
品番:POCS-1614
価格:¥2.700(税込)

<トラックリスト>
1.  Happy Chakra
2.  一坪半 ~4.95m² Dream~
3.  携帯(一)
4.  夏の歌
5.  ムーンライト備忘録
6.  今日はここで眠ろう
7.  善良なメガネ
8.  携帯(二)
9.  Wedding Ring
10. 星座の愛情物語~蟹座は愛し続けられるのか
11. 自分を信じなきゃ
12. いつも信じて(「自分を信じなきゃ」日本語Ver.)※日本盤ボーナストラック

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