東京アンティーク散歩vol.11 茅場町にある”未完成の愉しみ”アンティークショップ『MAREBITO(マレビト)』
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茅場町MAREBITOの新古道具・メトロノーム
東京近郊にある、上質なアンティークショップを巡っていく連載『東京アンティーク散歩』。今回は、茅場町にあるアンティークショップ『MAREBITO(マレビト)』を紹介する。
歴史ある川のほとりで
日本橋茅場町エリアは日本の金融商業地区だ。日本橋川沿いには日本銀行、東京証券取引所をはじめ、ずらりと銀行や証券会社の本社が並ぶのはご存知のとおりである。
この地区は江戸時代から水運による物流により栄えた。川沿いには酒問屋はじめ蔵がずらりと並び周辺には多くの人々が住んで下町を形成した。日本橋川から隅田川方向へ下った亀島川付近には浮世絵師の写楽や日本地図の祖、伊能忠敬が住んでいたという。その後も商業地区として栄え続けた界隈だけに現在も大正や昭和の建物がところどころ残っている。新亀島橋のたもとに、そんなレトロなビルのひとつがある。入り口には「新古道具」とうたうアンティークショップの看板がある。古道具に”新”とは珍妙だ。
今日はこの興味をそそる看板の店「マレビト」を訪ねてみた。
江戸を偲び、ユニークな古道具に驚く
ビルの階段を登り二階マレビトの扉を開けると、カチ、カチ、カチ、とリズミカルで懐かしげな音が耳に入る。大きな窓からは先ほど渡ってきた亀川の風景が一望できる。川沿いに青々と茂る水辺の草が目に涼しい。江戸時代このあたりには茅が生い茂っていたのが実感できる。ちなみに茅場町という町名はこの町に茅職人が多く住んでいたことに由来する。21世紀の今でも江戸を偲べる素晴らしい眺めである。
新亀川橋のたもとのビル2階がマレビト店舗
そして窓際にはユニークな古道具が並んでいた。見たことがあるようでいて見たことのない不思議な古道具ばかりだ。
先ほどのカチカチカチ……という音は古い木枠に取り付けられた機械の部品が奏でていた。なんだかユーモラスな姿で昔の”からくり”のようにみえる。
「これは古い枡に昔のメトロノームの部品を組み合わせているんです。」とマレビト店主の古村氏が説明してくれた。そうだ、これは昔ピアノレッスンで聞いたメトロノームの音! 懐かしいなあ。ちょっと嬉しくなってしまう。
「こちらは同じ枡の底で作ったクリップボード。こっちは昔の古箪笥の板で作りました。クリップは昭和のものです」とボードを沢山見せてくれた。さまざまなサイズ・質感の木材で作られており同じものはひとつもない。
元は電気ストーブだったライト
天井には金属の枠のついたライトがぶら下がっていた。珍しいシェードですね、と聞くと「これは昔の電気ストーブをライトに改造したものなんです」と古村氏。
え、電気ストーブ?と驚いてしまう。その他、ローラースケートのような靴の木型、箱と電球を組み合わせたレトロなランプなど、不思議なオブジェが、通常の古道具と混じって沢山展示している。これら創作物はすべてマレビト店主の古村氏の手によるものだ。
面白いのはリメイクしたものなのに元々こういうものだったのでは……と感じるところだ。それほどパーツの組み合わせが絶妙でマッチした空気をかもし出している。
アーティストとして辿り着いた古道具の世界
古村氏は長年グラフィックデザイナーとして活動しながら、好きな古道具を収集してきたという。
「デザイン事務所兼アトリエで絵を描いたりオブジェを作っていたんです。とくに古道具が好きで、パーツを組み合わせて自分好みのものを作りたいと思った。たとえばこういう椅子でもパーツを買って好きなように作り直しました。脚の部分はピアノの椅子です」と制作した椅子を見せてくれた。足の部分と座面、別々の椅子を組み合わせだ。なのに不思議と調和している。
古材で制作したクリップボード
ひとことでパーツの組み合わせといってもこのように個性的で調和したものを制作するにはセンスが必要だ。デザイナーとしての古村氏の経験と感性が存分に活かされているのが感じられる。
「今まで絵を描いたり色んなことをやりながら行き着いたのが古道具の世界だった。古道具はアンティークでも骨董でもない、言ってしまえばジャンク。僕はそんな古道具を組み合わせてオリジナルの提案をしているんです。古いものを新しく作り直すので”新古道具”と名付けています。」制作する際に気をつけることは?と聞くと、「古いものをピカピカに磨くのが好きな人もいるんですが、僕は錆びや曇りを活かしています。味があっていい。取ってつけたようにならないよう古道具の味わいをできるだけ残すんです。古道具には未完成の楽しさがあるし、それを求めている人もいますから」。
稀なるものを作る、稀なるひと
「古道具の世界は沢山の人が参入して昔より裾野が広がっているんです。だから同じようなものを皆が扱っている。そんな中で自分のテイストをいかに発信してゆくかは大事。こうやってパーツを組み合わせて使い方を提案すると買いやすくなりますし」と古村氏。「こんな風にしちゃったんだ、って言う人もいますけど。自然体で本質をともなっていればそれでいいと思う」。
古い台と組み合わせた卓上ライト
長い制作キャリアを歩んできた古村氏の出したひとつの答え、、それが新古道具という”作品”だ。こうして作られた新古道具は飾って楽しめ、かつ使える道具でもある。
道具としてもパーツのまま使われず放置されるよりは、作家の感性で新しく生まれかわり使われるほうが幸せに違いない。店舗ディスプレイや趣味のオブジェとして好んで買っていく人が多いという。
江戸の面影残る川のむこう、新しい古道具を携える稀人(マレビト)。橋を渡り会いに行けば、古さの中にある新しい驚きをもたらしてくれる事だろう。
住所:東京都中央区新川1-3-23 八重洲優和ビル 2B
電話:03-3555-9898 東西線・日比谷線【茅場町駅】出口1より 徒歩3分
http://mare-bito.com/