独立国家を作るアートプロジェクトとは? ヨコハマトリエンナーレ2017で「Nowhere」と「Now here」を体験する午後
横浜美術館入口 アイ・ウェイウェイ(艾未未)《安全な通行》2016、《Reframe》2016 ⓒAi Weiwei Studio
東京の片隅で、お金をかけなくても想像力とユーモアで楽しく生活していくことを目指す、森田シナモンによる連載企画『東京の片隅で、普通に、楽しく生きていく』。毎回、さまざまな「午後」を探しながら、東京カルチャーの現在を切り取っていきます。記念すべき第10回は、横浜まで遠征し、ヨコハマトリエンナーレ2017で行われている、アレックス・ハートリーによるアートプロジェクト『Nowhereisland(どこにもない島/ここが国土)』の入国審査を、横浜美術館正面横に現れました、移動式大使館「The Nowhere Embassy(どこでもない国大使館)」にて受けてまいりました。
自分だけの場所(独立国家)を作る
『Nowhereisland(どこにもない島/ここが国土)』は、アレックス・ハートリーが、2004年に北極圏で、後退した氷河の下から現れた地図にない島を発見したことをきっかけにスタートした、「独立国家を立ち上げる」というアートプロジェクトです。
このプロジェクトでは、島の断片を乗せた移動式の大使館を作り(横浜ではトラックになっています)、漂流する島のように場所を変えながら出現し、しばし停留させます。大使館には「The Nowhere Embassy(どこでもない国大使館)」という名前がつけられているのですが、「Nowhere」は、「どこでもない」の意味のほか、「Now Here」「今ここにいる」という意味も込められています。つまり、今いる「ここ」は、どこでもない国であり、「ここ」こそが自分だけの場所(独立国家)なのだということなのでしょうね。頭がこんがらがってしまいそうですが、どこにも属さない自分だけの場所があると思えることは、私たちに自立できる勇気をくれるような気がしました。
さて、大使館を訪れた人は、自身が考えた新たな国の憲法を大使館内で提唱することによって、入国を許可されます。では、その入国審査の一部始終をレポートいたします。
憲法を考えてみる、という体験
①場所は横浜美術館のエントランス右側。小さなシルバーのトラックです。
②ここが入国審査場です。
スタッフの皆さんがあたたかく迎えてくださいます。
③説明を受けた後、申込書に必要事項と、自身の考えた憲法を記入します。
④このトラックが大使館です。緊張しながら階段を登ると……
⑤中には島の欠片である岩が!
⑥大使館内には島を発見した時の様子も展示されています。
⑦自分が作った憲法を、岩の上に立ち、声を出して読み上げます。
⑧すると、入国が認められ、スタッフの方からNowhereislandの「国土」の破片を授与されます。
これは、自身がひととき国というものから解き放たれ、「どこでもない国」へと旅したことを証明するものだそうです。
⑨無事、入国できました!
⑩提案した新憲法は、後日、大使館外壁(トラック背面)に設置された電光掲示板に表示されます。
アレックス・ハートリー《どこでもない国大使館》2017
孤立した自分の国があるから、他の国の存在に気付ける
「憲法」は、目標ではなく決まり事で、しかも絶対的なもの。「自分だけの憲法」は、意外と思い浮かびませんでした。いかに私たちは日々、誰かに作られたルールに寄り掛かって生きているのかということに気付かされます。私は「晴れた日には、外で仕事をする!」という憲法にしたのですが、他の方の憲法を見てみると、「隣の人と仲良くする」や「サービス残業のない国に」など様々でしたよ。もっと自由に考えてよかったのですね。
さて、今回のヨコハマトリエンナーレ2017では、「島と星座とガラパゴス」がタイトルになっています。キーワードは「接続」と「孤立」。相反する価値観が複雑に絡み合う世界のいまを、様々な作品やイベントを通して考えてみようという趣旨だそうです。「Nowhere(Now here)」として孤立した自分の国を持つことは、誰かの国の存在にも気がつけることですよね。だからこそ、初めて誰かと接続することができるのかもしれないなと、考えた午後でした。皆さんも、ヨコハマで、「Nowhere」と「Now here」を体験してみてはいかがでしょうか。
※撮影写真は全てヨコハマトリエンナーレ2017展示風景
大使館鑑賞時間:ヨコハマトリエンナーレ2017開場日の11:00-17:00
入国審査受付時間:土・日・祝の11:00-12:00、13:00-15:00
※荒雨天や、その他の理由により開室できない場合は、公式ツイッター及び横浜美術館会場内ビジターサービスセンターにてご案内します
日程:2017年8月4日(金)~11月5日(日)
主会場 横浜美術館:横浜市西区みなとみらい3-4-1
横浜赤レンガ倉庫1号館:横浜市中区新港1-1-1