山寺宏一×水島裕の「ラフィングライブ」による英国発の爆笑舞台『Cash on Delivery』が開幕
-
ポスト -
シェア - 送る
⼭寺宏⼀と⽔島裕、そして演出家野坂実の3人による演劇ユニット「ラフィングライブ」の第3回公演『Cash on Delivery(キャッシュ・オン・デリバリー)』が2017年11月29日に初日の幕を開けた。共演するのは、⾼垣彩陽、岩崎ひろし、横島亘、斎藤こず恵、折笠富美⼦、⼩形満、⾼橋広樹、越川詩織。10人のキャストたちが、個性も、魅力も、体力も全開で挑む爆笑コメディの見どころを、本番直前に行われたゲネプロ(本番さながらの通し稽古)より紹介する。
<あらすじ>ロンドン東部に家を持つエリック・スワン(山寺宏一)は、愛する妻のリンダ(高垣彩陽)と幸せに暮らしている。しかし実はエリックは2年前に失業。それを隠し、国の保障制度を巧みに利用した不正受給で生活費を賄っている。家の2階は靴屋で働くノーマン(水島裕)に間貸しており、今度の週末には結婚式を挙げる予定だ。ところがエリックは、社会保障省の役人に「ノーマンが死んだ」と電話で伝える。膨大な不正をごまかすための嘘が嘘を呼び…。
芸達者な10人の個性が全開!
物語はすべてエリック・スワン邸のリビングで展開される。舞台転換もないため、この部屋のソファで一部始終を見守る(巻き込まれる?)ような気分になる。玄関、3つの扉、2階への階段のそれぞれから住人や客人が登場し、そのすべてが笑いにつながる。
『キャッシュ・オン・デリバリー』は、イギリス人劇作家マイケル・クーニー(偉大な喜劇作家レイ・クーニーの息子)による傑作喜劇。BGMにUKロック(フランツ・フェルディナンド)が使われたり、登場人物がたびたびお茶を飲んだりファッションにも英国要素がちりばめられている。劇中の笑いも英国仕様。ブラックジョークや、子どもに「どこが面白いの?」と聞かれると困る大人向けのジョークもバンバン飛び交う。そんな作品に対し1ミリの迷いも感じさせず、演技で魅せてくれるのが4人の女優だ。
高垣は、エリックの妻リンダ・スワンを演じる。オフィスファッションを着こなすキャリア系のいい妻で……という印象は最初だけ。全編をとおし、凄まじく怒る! ドアを叩き、ヒールで詰め寄り、怒鳴り散らす。“壁紙を食べんばかり“のご乱心ぶり。当事者たちはてんやわんやだが、観ている側はひたすら面白い。烈火のごとくキレる美人って清々しい! 怒れば怒るほど面白い!
不正受給を隠そうと落ち着きのないエリックに対し、リンダもリンダでエリックに何か言えない秘密を抱えている様子。これが、こじれた話をさらにこじれさせ、大爆笑の仕掛けとなっていく。
折笠が演じるサリー・チェシントンは、慈愛に満ちた福祉事務所の所員……かと思いきや、なかなかの曲者。澄んだ声でボケ倒し、状況を悪化させるのに一役も二役も買っている。
オフィシャル提供画像
ミズ・クーパーを演じる斎藤は、一目見たら忘れられない個性を発しながらも、あくまで上品。ノーマンの婚約者ブレンダ・ディクソンを演じる越川は、ベテラン勢の中でも臆することなくエネルギッシュ。劇中の混乱に拍車をかけていた。4人の女優陣はもともとの魅力を捨てることなくコメディエンヌに徹し、鮮やかに笑いをさらっていく。
それを取り巻く男優陣も皆、芸達者! 受給者の様子を確認にきた社会保険庁のミスター・ジェンキンズは、心優しく、職務にも真面目なお役人。本作においてある意味で一番の被害者だ。それでも岩崎の安定した演技のおかげで、悲壮感なく爆笑させてくれる。
横島が演じるのは、エリックのおじさんであるアンクル・ジョージ。登場した瞬間「こじれるぞ」とニヤニヤさせられる、危ないオーラを出していた。ドクター・チャップマン(小形)は「Dr」の敬称がつく人に特有の、空気を読まない言葉つきがドタバタの中のスパイスに。葬儀屋のミスター・フォーブライト(高橋)は、慎みかしこまった様子で登場するも真面目さゆえの強硬派。サリーと結託し実力行使に出ようとするから、それがまた次のドタバタにつながっていく。
山寺&水島が走る!跳ぶ!はねる!
個性的なキャラクターが結集し、伏線が伏線を呼ぶ物語の中心となるのが山寺宏一と水島裕だ。「ラフィングライブ」は、この二人と演出家の野坂実がコメディをやるために作ったユニットであり、今回で3度目の公演。上演作品を決めたのは野坂だったというだけあり、山寺のエリックも水島のノーマンもはまり役!
エリックはリビングを往来する客人たちの対応に部屋から部屋、ドアからドアを行き来する。15分の休憩こそ挟むが前半・後半ともに出ずっぱり。そこで目をひくのは山寺の身体能力だった。山寺が七色の声をもつことはすでに説明不要だが、アクロバティックな動きから顔の表情にも豊かなレパートリーをもっていることに驚かされる。常識では考えられない大がかりな不正をしているエリックが、詐欺師然としてみえないのは、山寺の持ち前のキャラクターと演技力が絶妙なバランスを保っているおかげだろう。
ノーマンを演じる水島は、エリック家の2階を間借りする靴屋の青年で、今週末には結婚式をあげる予定がある。ノーマンの少年のような無邪気さを力まず演じる水島はさすが! エリックのせいでミスター・ジェンキンズに並ぶ被害者となりながらも、共犯者として隠ぺい工作に巻き込まれていく。
『キャッシュ・オン・デリバリー』の台詞のおもしろさを引き受けていたのもノーマンだった。嘘を隠すため、こじれた会話を無理やりひとつにつなごうと、誰かが言った「未亡人」という言葉を「美貌人(びぼうじん)」に替え、さらに「貧乏人(びんぼうじん)」に変化させてごまかしたり、「ノーマン!」と呼びかけられたところを「No Man(誰もいない)」や「もう、飲まん!」に言い換え状況を押し切ったり。
もともとは英語の台本だ。会話で笑いを生むコメディの翻訳では、語感をもじったジョークやダジャレをどう言い換えるかが勝負どころ。世の中には本筋に関わらない笑いどころは形だけの翻訳でスルーするパターンもないではないが、本作においては小田島恒志氏が遊び心いっぱいの掛け合いに仕上げ、ノーマンとエリックのドタバタ感を盛り上げていた。
このようなコメディ作品に対し「人の不幸を笑えない」という方もいるかもしれない。翻訳劇が苦手という方もいるかもしれないし、キャストたちの声優としての活動は好きだけれど舞台は未経験で……、という方もいるかもしれない。しかし『キャッシュ・オン・デリバリー』なら、そんな苦手意識も吹き飛ばしてくれるはず。野坂の演出が作りだすテンポ感、山寺や水島をはじめとするキャストたちの息の合った演技とコメディへの愛で作られたこの作品でお腹を抱えて笑ってほしい。公演期間は11月29日(水)から12月3日(日)まで。前売り券の完売日でも当日券は毎日出るそうだ。
取材・文=塚田史香
■劇場:博品館劇場
■翻訳:小田島恒志
■演出:野坂 実
■出演:
⼭寺宏⼀/
⾼垣彩陽、岩崎ひろし、横島亘、斎藤こず恵、折笠富美⼦、
⼩形満、⾼橋広樹、越川詩織/
⽔島 裕
■公式サイト:http://www.nelke.co.jp/stage/laughinglive3/