橋本さとし、中川翔子らが挑むJapanese Musical『戯伝写楽 2018』稽古場レポート
脚本・中島かずきの「cube 20th presents Japanese Musical『戯伝写楽 2018』」が、2018年1月12日の東京公演を皮切りに、久留米、名古屋、兵庫を巡演する。2010年の初演『戯伝写楽』に続き、橋本さとし、小西遼生、東山義久(Wキャスト)が出演。さらに今回は、中川翔子、壮一帆、栗山航(Wキャスト)、池下重大、そして山崎樹範、吉野圭吾、村井國夫、他がキャストに顔を揃えた。河原雅彦の新たな演出で生まれ変わる『戯伝写楽 2018』。稽古場の模様を、本作のあらすじとともにレポートする。
写楽は、国内外に広く知られる浮世絵師だ。しかし、写楽の活動期間は驚くほど短い。現在確認されている140数点の作品は、寛政6年5月からわずか10ヶ月ほどの間に描かれたと考えれている。江戸の町に突如現れ忽然と消えた東洲斎写楽の、その出自や経歴は、近年までほとんど謎に包まれていた。そんな写楽が「実は、女だったら?」という発想をベースに創られたミュージカルが『戯伝写楽 2018』だ。作詞は森雪之丞、音楽は2010年に続いて立川智也が担当する。
※以下、公式サイトで記載のある範囲の内容紹介と、演出に関する描写が含まれます。
『戯伝写楽 2018』稽古場レポート
稽古が公開されたのは、第1幕の後半。場面は、おせいの隠れ家的な住まい、兼アトリエ。ヒロイン・おせいを演じるのは、中川翔子。
阿波の国から江戸に出てきた能役者の斎藤十郎兵衛(橋本さとし)は、町中の喧嘩の最中、その様子を夢中で絵に書き留める女・おせい(中川翔子)と出会う。自身も絵を描き身を立てようとした十郎兵衛と与七(栗山航)は、おせいの非凡なる才能を知り、ある大儲けの策を思いつく。「絵を描いて暮らせるならばそれでいい」というほど絵を描くことが好きなおせいは、十郎兵衛の提案を快く受け入れる。
おせいは、絵筆を走らせる。このシーンの稽古が始まる直前まで、中川は柔らかい口調で所作指導の先生と、立ち居振る舞いの確認を重ねていた。しかし今、その時とは、中川の眼に宿る光が違う。ふと手を止めてモデルを思いうかべる時の顔、特に十郎兵衛のことを語るときの表情は、無邪気を通り越して「恍惚」に近い。十郎兵衛や与七と話す時は愛らしいのに、絵のこととなると、そのまま憑りつかれたような笑顔を見せるのだ。
実際に本人も絵心がありすぎることで知られる中川。舞台でのキャリアも着実に積み上げている。だからこそ既知の“しょこたん”の延長線上に、2018年版のおせいを想像していた。しかしその期待を上回るおせいが、短い稽古場見学においても垣間見ることができた。マルチな才能をもつ彼女が、河原雅彦の演出のもとでどのような進化をみせるのか、注目したい。
絵を描くこと以外に執着のないおせいのために、住む場所や食事の面倒を見てやるのが与七だ。Wキャストで東山義久と栗山航が演じる。公開稽古では栗山による与七を見ることができた。丹精込めて煮込みうどんを用意してやる世話好きな一面もあるが、実は与七にも野心と魂胆がある。演出の河原は、与七のただのいい奴ではない、 “くえない奴”な一面を濃く描き出すために、より深く掘り下げたアプローチを提案。それに耳を傾け、与七役に挑む栗山が印象的だった。
山崎樹範が演じるのは、元々は絵師であり、おせいと暮らしていた間柄の鉄蔵。今は画業から離れているという。写楽の絵は、美化して描こうとする従来の浮世絵とは一線を画していた。顔の特徴を大胆にデフォルメし、心の中までも描き出そうとする写楽の絵。鉄蔵は、その作風から「写楽=おせい」とすぐに気がつき、おせいに会いたい一心で追ってきたという。登場シーンの鉄蔵は気弱そうな笑みを浮かべている。しかし、久しぶり再会にも無反応のおせいに対し、しだいに荒々しくなっていく。おせいへのあり余る愛情のせいだろうか、才能への嫉妬もあるのか。ヒリヒリするような鉄蔵の存在感が、物語後半への興味を激しく掻き立てる。
ここにさらに、客が訪れる。それが蔦屋重三郎、通称・蔦重(つたじゅう)だ。版元の主人として実在した人物であり、今でいう、敏腕プロデューサー。幕府の政策に翻弄された過去を持ちながらも野心を捨てず、時流を掴むマーケティングのセンスと文化・芸術への眼識で活躍した蔦重を、村井國夫が江戸の粋と風格をまとい演じる。おせいの仕事場を隠そうと行く手を遮る与七に「どきな」と放つ一言に、ゾクっとさせられた。
この時代の文化を花開かせた曲者たちの中で、自然体でありながらも悠然とした佇まいで場の空気をさらうのが“表向きの写楽”となる斎藤十郎兵衛。橋本さとしが演じる。見方次第では、おせいの才能を都合よく利用している男だ。しかし、まったく嫌な感じがしてこない。おせいのズバ抜けた人間観察力をもってして、「十郎兵衛は面白い」「得体が知れない」と言う。それに頷かずにはいられない十郎兵衛の色気と魅力はぜひ劇場で体感してほしい。
そして、演じる橋本本人もまた、ごく自然体で稽古場のムードメーカーとなっていた。あるシーンのBGMをイヤホンで確認すると、真剣な表情と渋い声で「カフェオレとケーキが出てくる、サロン・ド・パリの感じ」と形容。共演者たちを困惑&笑わせていた。河原ともディスカッションを重ねながら、その場で実際にやってみせ、かと思えばジョークとも思えるバージョンも繰り出し、一同の爆笑を誘う。
本作には、写楽だけでなく喜多川歌麿(小西遼生)、大田南畝(吉野圭吾)、葛飾北斎、十返舎一九など、同時代をもがきながら切磋琢磨し作品を発表し、後世に名をのこした絵師や文人が次々に登場する。
第一幕のラストで披露された歌唱シーンでは、彼らが文化・芸術に傾けた思いの熱さに触れることができるはずだ。公開された稽古では、ピアノ伴奏による歌唱だった。Japanese Musicalと銘打たれる本作は、本番のステージ上に生バンドをセッティングするという。生バンドのサウンドとキャストたちの歌声が重なる瞬間を想像しただけで、はやくもこみ上げてくるものがある。
歌唱シーンが終わり、一瞬の静寂の後に登場するのが浮雲(壮一帆)。高下駄で外八文字を描きながらの花魁道中だ。凛とした美しさに目を奪われた。この時、壮一帆は和服の稽古着こそ着ていたものの髪もメイクもつくっていなかった。それでもすでに、圧倒的な花魁感。実際の舞台では、さらにセットや照明も加わる。
写楽がなぜ、たった10カ月で姿を消したのか。その謎を追うミステリーとしても楽しめる。登場人物たちの、野心や恋心の行方からも目が離せない。さらに歌や音楽が加わることでエンタテイメント性の高い観劇体験も待っている。東京公演の開幕は、1月12日(金)。ぜひ東京芸術劇場 プレイハウスに足を運び、個性溢れるキャストたちの熱演から、新たな年を走り出すパワーを受けとってほしい。
取材・文・撮影=塚田史香
■作:中島かずき ■作詞:森雪之丞 ■音楽:立川智也
■演出:河原雅彦
■出演:
橋本さとし、中川翔子、小西遼生、
壮一帆、東山義久(Wキャスト)、栗山航(Wキャスト)、池下重大、
山崎樹範、吉野圭吾、村井國夫 他
■公演日程・劇場:
[東京公演] 2018年1月12日(金)~1月28日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
[久留米公演] 2018年2月3日(土)~4日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
[名古屋公演] 2018年2月7日(水) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
[兵庫公演] 2018年2月10日(土)~12日(月・休) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■公式サイト:https://sharaku2018.amebaownd.com/