『「グリーンランド」 中谷芙二子+宇吉郎展』レポート 銀座メゾンエルメスに現れた“霧の彫刻”を楽しむ

レポート
アート
2017.12.27
《氷河の滝 グリーンランド》2017年

《氷河の滝 グリーンランド》2017年

画像を全て表示(13件)

「銀座メゾンエルメス フォーラム」にて、『「グリーンランド」 中谷芙二子+宇吉郎展』が、2017年12月22日(金)〜2018年3月4日(日)まで開催されている。

霧のアーティストとして知られ、国際的に活躍する中谷芙二子。彼女がフランス芸術文化勲章コマンドゥールを受勲したことが、本展開催のひとつのきっかけとなった。以下、中谷芙二子と、彼女の父であり、科学者・随筆家でもある中谷宇吉郎の研究や作品を紹介した本展の見どころをお届けする。

銀座にグリーンランドが現れる

中谷芙二子は、最初にこの展示空間へ足を踏み入れた時、「ここをグリーンランドにしよう」というアイディアを思いついたそうだ。グリーンランドは、中谷宇吉郎が1957年から1960年の間に4回滞在し、自然科学の研究・調査をおこなった場所だ。

展示スペース「宇吉郎の部屋」では、中谷宇吉郎がグリーンランドで撮影した中から、厳選した135枚のスライドを鑑賞できる。研究成果や生活模様のほか、世界で最初に人工の雪の結晶をつくりだした中谷宇吉郎が、鋭敏な科学者の目で捉えた氷河なども確認できる。

 「宇吉郎の部屋」より 《グリーンランド 78°Nの氷冠の上で》1957-59

「宇吉郎の部屋」より 《グリーンランド 78°Nの氷冠の上で》1957-59

中谷芙二子は、「中谷宇吉郎 雪の科学館」に設置する霧作品の制作のため、1994年に地質学者の咲子と共にグリーンランドを訪問した。展示スペース「芙二子の旅」は、当時の様子が伺い知れる空間となっている。

70年代からヴィデオアートを制作し、自身の霧作品を撮り続けている中谷芙二子は、父を惹きつけたグリーンランドの姿も映像に捉えた。

「芙二子の旅」より 《グリーンランド 氷河堆石の採集》1994年撮影(中谷芙二子)、2017年編集(越田乃梨子)

「芙二子の旅」より 《グリーンランド 氷河堆石の採集》1994年撮影(中谷芙二子)、2017年編集(越田乃梨子)

ここでは、グリーンランドの氷河堆石も展示されている。一見無骨な石面に、輝く粒子を隠した石たち。これらは、中谷芙二子の映像にも見受けられる、力強さと厳しさの中に繊細な美しさを隠したグリーンランドの魅力を体現しているようだ。

「芙二子の旅」より 《グリーンランドの氷河堆石》

「芙二子の旅」より 《グリーンランドの氷河堆石》

都心で味わう霧の幻想

霧の彫刻は中谷芙二子の代表作であり、場所を霧によって顕在させる作品だ。今回は、銀座メゾンエルメスという室内空間に霧が発生。展覧会場には、ドラム缶やグリーンランドの石など、何らかの形でグリーンランドに関わりのあるオブジェが置かれている。

《氷河の滝 グリーンランド》2017年

《氷河の滝 グリーンランド》2017年

中谷芙二子によると、霧の彫刻を「一番喜ぶのは子どもと犬」だとのこと。確かに、霧の中をさまよいながら視界を求めている時は、子どものように冒険心と好奇心が高まる。本会場のある銀座メゾンエルメスは、滑らかなガラスブロックからなるビルで、壁面のガラスを氷に見立てると、氷河や氷山に囲まれた霧の中のグリーンランドを探索している気分を味わえる。

《氷河の滝 グリーンランド》2017年

《氷河の滝 グリーンランド》2017年

中谷芙二子が今回のような室内空間で霧の彫刻を発生させることは珍しく、特に窓がまったくない場所では初の試みだという。窓を開けて霧を消すこともできないため、制作には苦労も伴ったそうだ。空が見えるガラスに囲まれた空間で、消えずに漂う霧が白い塊となって降りてくると、雲の上にいるような錯覚に襲われた。

《氷河の滝 グリーンランド》2017年

《氷河の滝 グリーンランド》2017年

中谷親子の軌跡を辿る

入り口から見て左側の空間では、中谷宇吉郎のグリーンランドでの研究室が再現され、彼の研究成果が並ぶ。ここでは、アーティストの高谷史郎らが監修した雪の結晶写真や、手書きの文書や研究道具、「雪は天から送られた手紙である 芙二子のために」と記された掛軸、中谷芙二子の70年代のヴィデオ作品が展示されている。

中谷芙二子

中谷芙二子

中谷芙二子のビデオ《風にのって一本の線を引こう》は、蜘蛛が巣をつくる過程が撮影されていて、自然へのリスペクトが感じられる。その他、名画《モナリザ》が上野の東京国立博物館で展示された時の列に並ぶ人々を捉えたドキュメンタリー《モナリザのしっぽ》など、中谷芙二子の優れた観察眼と、それを社会に投げかける姿勢が感じられた。

奥では、中谷芙二子がこれまでに手掛けた霧の彫刻の中で、常設展から4か所分と、大阪万博のペプシ館での展示映像を鑑賞できる。

長年霧の彫刻を制作してきた中谷芙二子は、「霧は風のために形を保つことができないので、テストしつつ、観察や理解によって持続できるようになった。自然をコントロールするのではなく、委ねることが大切」と語る。自然に寄り添って考える姿勢は、「氷のことは氷に聞かないとわからない」という中谷宇吉郎の言葉とリンクしている。

また、中谷芙二子は、銀座という都会において、霧の彫刻で「濡れる喜びのような原初的な体験を提供したい」とも語る。11時15分〜19時45分の間、毎時15分と45分に霧が自動発生する本展では、服が濡れないようにポンチョも貸し出されている。是非霧の中に入り、中谷芙二子・宇吉郎の軌跡と、銀座に顕現したグリーンランドを体感していただきたい。

中谷芙二子

中谷芙二子

 
 
イベント情報
「グリーンランド」中谷芙二子+宇吉郎展
 
会期:2017年12月22日(金)~ 2018年3月4日(日) 
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
開館時間:月~土 11:00~20:00(最終入館は 19:30まで)
       日 11:00~19:00(最終入場は 18:30まで)
休館日:不定休
入場料:無料
シェア / 保存先を選択