特別展『仁和寺と御室派のみほとけ–天平と真言密教の名宝–』レポート 秘仏8体や空海自筆の国宝が、東京国立博物館に集結!

2018.1.24
レポート
アート

重要文化財 五智如来坐像 平安時代 大阪・金剛寺

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東京国立博物館 平成館にて、特別展『仁和寺と御室派のみほとけ–天平と真言密教の名宝–』(2018年1月16日〜3月11日)が開幕した。本展では、世界遺産の京都・仁和寺(にんなじ)に伝わる絵画や書跡、彫刻などの名品をはじめ、仁和寺を総本山とする御室派(おむろは)寺院の所有する、貴重な秘仏や本尊などを紹介。空海ゆかりの国宝《三十帖冊子》(京都・仁和寺)や、国宝《千手観音菩薩坐像》(大阪・葛井寺(ふじいでら))、33年に1度しか開扉されない秘仏・重要文化財《馬頭観音菩薩坐像》(福井・中山寺)など、秘仏8体を含む計174件の名宝が公開される。内覧会より、本展の見どころをお伝えしよう。

会場エントランス

会場風景

国宝 両界曼荼羅(子島曼荼羅)※前期(2月12日まで):胎蔵界 平安時代 10〜11世紀 奈良・子島寺

仁和寺に伝わる天皇直筆の文書

今から1130年前、宇多天皇によって創建された仁和寺は、皇族が歴代住職をつとめる門跡寺院だ。天皇の子息が受け継いできた仁和寺には、天皇に関わる作品が多く収蔵されている。

宇多法皇像 江戸時代 慶長19年(1614) 京都・仁和寺

なかでも、『宸翰(しんかん)』と呼ばれる天皇直筆の文書は、皇室と関わりが深い仁和寺だからこそ、数多く伝わっている寺宝だ。国宝《高倉天皇宸翰消息》は、平安時代末期の天皇・高倉天皇が18歳の時に書いた手紙。はじめての皇子が産まれた喜びを、兄である仁和寺第六世門跡の守覚法親王に伝える内容だ。守覚法親王はすぐに弟に返事を書き、国宝《守覚法親王消息》のなかで、手紙を大事にお寺に伝えていく旨を綴っている。

右:国宝 高倉天皇宸翰消息 高倉天皇筆 平安時代 治承2年(1178) 京都・仁和寺 左:国宝 守覚法親王消息 守覚法親王筆 平安時代 治承2年(1178) 京都・仁和寺

書の美しさが際立つ国宝《三十帖冊子》

真言密教の寺院である仁和寺には、真言宗の開祖である弘法大師・空海にまつわる国宝《三十帖冊子》が伝えられている。これは、空海が遣唐使の一人として中国・唐に渡った際、密教の重要な経典を現地の写経生と共に写した冊子だ。東京国立博物館 150年史編纂室長の恵美千鶴子氏の解説によると、

「空海が唐に滞在したのは約2年。経典を写しはじめたのは最後の半年ともいわれています。半年間、現地の写経生を使いながら、自身も食う寝るを忘れて書写したという本人の言葉も残されてます」

傷みの激しい《三十帖冊子》は、6年の歳月をかけて修理が行われた。本展開催から最初の2週間(2018年1月16日〜1月28日)のみ、展覧会史上初の30帖すべてが公開されるとのこと。空海の書について恵美氏は、

「唐の写経生は、真面目に楷書体を使い、綺麗に上から下までびっちり写しています。それに対して、空海は楷書体だけでなく行書体を交えながら、小さい筆の穂先を自在に使いこなして、空海らしい雰囲気を持った字を書いています」

と、空海独特の書の魅力を語る。

国宝 三十帖冊子 空海ほか筆 平安時代 9世紀 京都・仁和寺

国宝 三十帖冊子 空海ほか筆 平安時代 9世紀 京都・仁和寺

一般非公開の修行道場 「観音堂」を特別に再現

現在、改修工事中の仁和寺にある観音堂。ここは本来、僧侶の修行道場であり、一般客は立ち入れないお堂だ。本展では、高精細スキャナを使って堂内の壁画を撮影した画像と、実際に安置されている33体の仏像によって、観音堂を展示室内に再現している。中央の千手観音菩薩立像をはじめ、二十八部衆立像や風神・雷神立像など、33体の仏像に囲まれた荘厳な雰囲気を会場で体感してほしい。こちらのコーナーは、一般の方も撮影可能となっている。

仁和寺 観音堂の再現コーナーに展示されている33体の仏像

仁和寺 観音堂 壁画の再現

仁和寺 観音堂 壁画の再現

2.5メートルの巨大仏像や、神仏混合の仏さまも

展示後半には、仁和寺や御室派寺院収蔵の貴重な本尊や秘仏が展示されている。

888年、仁和寺創建時の本尊である国宝《阿弥陀如来坐像》は、お腹の前で手を結ぶ「定印(じょういん)」という体勢をしている。制作年が明らかになっているなかで、これは定印を結ぶ最古の阿弥陀如来像といわれている。

国宝 阿弥陀如来坐像および両脇侍立像 平安時代 仁和4年(888) 京都・仁和寺

神奈川県・龍華寺に伝わる《菩薩坐像》は、興福寺の阿修羅像と同じ技法の「乾漆(かんしつ)造」。布と漆を貼り重ねていく乾漆造の技法を使った例は数少なく、大変貴重だという。

菩薩坐像 奈良時代 8世紀 神奈川・龍華寺(神奈川県立金沢文庫管理)

福井県・明通寺の重要文化財《降三世明王立像》と重要文化財《深沙大将立像》は、高さが約2.5メートルもある巨像。東京国立博物館 特別展室長の丸山士郎氏によると、

「平安時代に大きな仏さまが作られるのは、全国的にみても稀なこと。また、《深沙大将立像》は、玄奘三蔵(三蔵法師)が砂漠を旅していた時に、悪魔が現れてこの像に救われたといわれているもの。よく見ると頭の上にドクロ、お腹に子どもの顔、手には蛇を持つ異形の姿をしていて、珍しいお像です」

重要文化財 降三世明王立像 平安時代 11世紀 福井・明通寺

重要文化財 深沙大将立像 平安時代 11世紀 福井・明通寺

香川県・長勝寺の重要文化財《八幡神本地仏坐像》は、本地垂迹説(日本の神々は、もとの姿である仏、「本地仏」が姿を変えたものだという考え)に基づく姿だといわれている。丸山氏は、「本地仏のなかでも古く表現的にもすぐれている。真んなかの如来像の口元は、仏像とは異なる微妙な表現で、人間味のある表情をしている」と説明する。

重要文化財 八幡神本地仏坐像 平安時代 11世紀 香川・長勝寺

滅多にお目にかかれない秘仏が全国から集合

月に一度、あるいは何十年に一度しか開扉されず、通常非公開の秘仏。全国約790箇寺ある御室派の寺院から選ばれた、会場でしか見られない貴重な仏像たちを紹介しよう。

徳島県・雲辺寺の重要文化財《千手観音菩薩坐像》は、標高900メートルの山地にあるお寺の本尊。像内部に残された銘文には、両目の絵と「目がよくなりますように」といった内容の文が記されている。作者の仏師・経尋の願いとも推測され、丸山氏によると、具体的に作った人の願いが書かれているものは珍しいという。

重要文化財 千手観音菩薩坐像 経尋作 平安時代 12世紀 徳島・雲辺寺

兵庫県・神呪寺の重要文化財《如意輪観音菩薩坐像》は、毎年5月18日にだけ開扉される秘仏で、通常の如意輪観音像とは異なる足の組み方をしている。丸山氏は、「普通は両足の裏側をくっつけ合わせて座っているが、この仏さまはあぐらを組んでいるような、変わった姿をしている」と解説する。

重要文化財 如意輪観音菩薩坐像 平安時代 10世紀 兵庫・神呪寺

福井県・中山寺の重要文化財《馬頭観音菩薩坐像》は、33年に一度しか開扉されない秘仏。彩色や台座、光背の状態も良い鎌倉時代の名品だ。

重要文化財 馬頭観音菩薩坐像 鎌倉時代 13世紀 福井・中山寺

大阪・葛井寺の国宝《千手観音菩薩坐像》は、大手・小手合わせて1,041本の手をもつ、日本最古の千手観音像だ。こちらは、後期展示(2018年2月14日〜3月11日)となる。本展では、360度見回せるような展示にするとのこと。

国宝 千手観音菩薩坐像 奈良時代 大阪・葛井寺(後期展示)

特別展『仁和寺と御室派のみほとけ–天平と真言密教の名宝–』は、2018年3月11日まで。普段、なかなか見られないお寺の本尊や秘仏が一堂に会する機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

イベント情報
特別展 仁和寺と御室派のみほとけ–天平と真言密教の名宝–

 会期:2018年1月16日(火)〜3月11日(日) ※会期中、展示替あり
 休館日:月曜日 ※ただし2月12日(月・休)は開館、2月13日(火)は休館
 会場:東京国立博物館 平成館
 開館時間:9:30〜17:00 毎週金曜・土曜日は21:00まで ※入館は閉館の30分前まで
 観覧料:一般1600(1300)円 大学生1200(900)円 高校生900(600)円 ※()内は20名以上の団体料金
 主催:東京国立博物館、真言宗御室派総本山仁和寺、読売新聞社 
 http://ninnaji2018.com​

 
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