ミュージカル俳優・上原理生が魅せる二部構成のソロコンサート「一音一音に愛をもって寄り添う」
上原理生 撮影=岩間辰徳
『レ・ミゼラブル』、『ロミオ&ジュリエット』、『ミス・サイゴン』、『スカーレット・ピンパーネル』といった数々のミュージカル作品で活躍中の上原理生。『1789-バスティーユの恋人たち-』の再演も控える彼が、ソロ・コンサートを行なうこととなった。東京藝術大学で声楽を学んだ彼のクラシック音楽のバックグラウンドと、ミュージカル・スターとしての力量、双方を味わえるステージとなりそうだ。
――今回のコンサートの構成についておうかがいできますか。
二部構成になっていまして、会場となる練馬文化センター小ホール(つつじホール)が非常に響きのいいコンサートホールなので、一部はピアノ伴奏のみでマイクを使わず生声でクラシカルなナンバーを中心に。二部はマイクを使い、特別編成のオーケストラを入れて、ミュージカル・ナンバーや映画音楽の楽曲を歌おうと考えました。
マイクを使って歌う場合は、近くでしゃべっているような感じでいいところもあるんですが、マイクを使わない場合はより立体的に自分の声をホール中に響かせなくてはいけないという違いがあって。マイクなしの方がより音楽に寄り添わなくてはいけないのかなという感じがしますね。マイクありの場合ももちろん音楽に寄り添うんですが、物語をどう伝えようかという方により傾くと最近感じています。
上原理生 撮影=岩間辰徳
――選曲についてはどのように?
一部の曲はピアノと生声だけで成立させられるものを選んでいます。二部では、例えば「ラ・マンチャの男」や「パレ・ロワイヤル」といった曲は絶対パーカッションが入った方がおもしろいですし、映画音楽はストリングスが入った方がきれいだなと、ピアノ・アレンジを担当してくださる北方寛丈さんといろいろと相談しながら選んでいきました。
ミュージカル・ナンバーやカンツォーネ、イタリア歌曲、そして「愛の讃歌」や「見上げてごらん夜の星を」、「ヨイトマケの唄」といった日本の曲も歌います。ミュージカル・ナンバーについては、クラシカルなアプローチで歌ってもおもしろい、メロディアスで歌い上げる系の曲を選んでみました。
――幅広いジャンルから選んでいるのですね。
海外のミュージカル・スターの方々の中にも、クラシカルなアプローチでミュージカル・ナンバーを歌っている方がいらっしゃいますが、それって力がないとできないことなんですよね。それで、自分も挑戦してみたいなと思って。『ジキル&ハイド』の「This is the moment」はもともとアルバムでも歌っていましたが、昨年、『スカーレット・ピンパーネル』に出演したとき、歌声を聴いてくださった作曲家のフランク・ワイルドホーンさんが、「『ジキル&ハイド』とか、絶対僕の作曲した曲に声が合うから、歌っていってほしい」と言われて、やったねという感じでした(笑)。将来的には演じてみたい役でもあります。
『モーツァルト!』の「星から降る金」は、昨年、宝塚のOGの方々とコンサートをしたとき、女性が男性の曲を、男性が女性の曲を歌うという企画で、僕が歌うことになったんですが、作品のプロデューサーの方も「コンサートのたびに歌ってほしい」とおっしゃってくださったんです。そして、これからも歌い継いでいきたい日本の曲も取り上げます。
上原理生 撮影=岩間辰徳
二部の映画音楽メドレーは、『ターザン』、『魔法にかけられて』、『シェルブールの雨傘』といった、大好きな映画からの楽曲を選びました。昔の映画って、物語も曲もきれいなものが多いですよね。僕もそうなんですが、その映画を観た当時のことを、曲を聴いて思い出したりすることってあるじゃないですか。そうやって共有することができるのが音楽のすばらしいところだと思います。そして、しっとり目の曲が続く中で、「ラ・マンチャの男」が流れると、盛り上がってかっこいいんじゃないかなと。僕自身、顔もラテン系だったりするので(笑)。
「パレ・ロワイヤル」は、今年再演される『1789 -バスティーユの恋人たち-』で演じるダントンのソロ曲なんですが、フランス人のセンスのよさを感じる楽曲ですね。踊りが多くて大変な作品ですが、「このシーン大好き! 楽しい!」とキャストみんなが言ってくれるナンバーでもあるんです。初演から出演しているので、大切に歌っていきたい曲だなと思っています。『オペラ座の怪人』は作品が大好きで、怪人はいつか演じてみたい役なんですが、その中でも「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」はアンドリュー・ロイド=ウェバーの真骨頂ともいえるナンバー。最後の「ブイ・ドイ」は『ミス・サイゴン』からの持ち曲です。
上原理生 撮影=岩間辰徳
――ミュージカル作品で歌っている曲をコンサートで歌うときに違いを感じますか。
ミュージカルだと物語が進んでいく過程で歌っているわけですが、コンサートとなると、音楽ありき、歌い手に戻る瞬間という感じがしますね。音楽的にどんなアプローチができるか、それを楽しみみっちりやっていきたいなという思いがあって。そして、両方やっているからこその相互作用があるんですよね。オペラのアリアを歌うとなっても、絶対学生のときとは違う感覚で曲と向き合っていて。オペラにも物語があって、それが進んでいく過程でキャラクターが心情を吐露する、そのために歌うということがあるわけで、じゃあどういう気持ちでこの単語を発しているんだろうとか、そういうことをすごく研究するようになりましたね。ミュージカルで歌うときももちろん、演じながら、音楽的にどうアプローチしようということを考えていますし、両方楽しんで取り組んでいますね。
最近自分の中で、もっと音楽に寄り添いたいという気持ちがすごくあって。そのためにもしっかり準備して、コンサート当日、音楽の中にただよって、寄り添って、紡いでいきたい、そしてその瞬間を楽しみたいという思いがあります。そうやって楽しむのが一番だなとも思っていて。昔、旅行でウィーンを訪れたとき、弦楽のサロン・コンサートに行ったんです。弾いている人たちは昼間はオフィス・ワーカーで、演奏技術だけで言ったら藝大生の方が上手いんですが、でも、その人たちが一音一音、愛おしくてたまらないという感じで弾いていたんです。それが、見て、聴いていて、すごく楽しくて。コンサートの本来のあり方ってこうなのかなってそのとき思ったんですよね。だから今回も、自分がどれだけ一音一音に愛をもって接して寄り添う、僕自身が音楽を大切にして楽しめるかによって、どれだけ楽しいコンサートになるのかが決まるのかなと。お客様にも、お行儀よく座っていないで、いいと思ったら反応してくださっていいですよ、と思っているんです。
上原理生 撮影=岩間辰徳
――今回のコンサートの構成にも、今後上原さんが目指される道がうかがえるのかなと思うのですが。
そうですね。クラシックにしてもミュージカルにしても、ずっと歌える人間でありたいなと思っています。クラシックでいえば、プラシド・ドミンゴは70歳すぎても未だに歌っている。そういう人でありたいですし、ミュージカル俳優としてももっともっと昇りつめたいという気持ちもありますし。人間じゃない役をやってみたいんですよね。ヴァンパイアとか、死神とか、人間でないものの存在に心惹かれるんです。歌っていても楽しいですし。『ジキル&ハイド』にしても『オペラ座の怪人』にしても、普通の人間じゃないじゃないですか。そういう存在って、人間の闇の部分を体現しているのかなとも思う。シェイクスピア作品も人間を描いていて好きなんですけど、なかでも好きなのは『コリオレイナス』や『マクベス』なんです。
最終的なコンサートの楽曲を見て、一貫して“愛”があるなと思いました。いろいろな愛の形がある。それを、歌を通して伝えていくっていいなと思って。自分に歌うというギフトを与えられているのだとしたら、愛を伝えていくことが必要とされていることなんじゃないかなと思うんですよね。僕も歌うことを通じて自己表現していくので、お客様も歌を聴いて自己表現していただければ。拍手してくださってもいいですし、しないで余韻にひたってくださってもいいですし。そんな時間を共有できる楽しいコンサートになったらいいなと思っています。
上原理生 撮影=岩間辰徳
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=岩間辰徳
日時:2018年2月1日(木)
会場:練馬文化センター 小ホール
出演者:上原理生(歌)/北方寛丈(ピアノ・アレンジ)/他
<演奏予定曲目>
Non ti scordar di me 忘れな草
My Heart Will Go On、
映画音楽メドレー~So Close~シェルブールの雨傘~Go The Distane~and more…
ブイ・ドイ
他