バレエ初心者は観た、「ROHシネマシーズン 2017/18」ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』~本日1/19より上映の話題作
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Sarah Lamb as The Sugar Plum Fairy in The Nutcracker. © ROH, 2017. Photographed by Karolina Kuras
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH) シネマシーズン 2017/18」ライヴ上映。2017年12月に一週間上映され連日超満員を記録、2018年1月5日~11日に、TOHOシネマズ日本橋にてアンコール上映もされた話題のロイヤル・バレエ『不思議の国のアリス』に続き、早くもバレエ次回作がスクリーンに登場する。ホフマンの童話に基づくデュマの小説をバレエに仕立てた『くるみ割り人形』が、2018年1月19日(金)~25日(木)まで、東京・千葉・神奈川・愛知・大阪・京都で上映される(仙台・福岡は1月20日~26日、札幌は2月17日~23日)。今回は、2017年12月5日にロンドンはコベントガーデンのロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたピーター・ライト振付版である。
ここでは少々趣向を変えて、バレエ初心者の視点から、このロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』を紹介したい。
クリスマスイブの夜、少女クララにミステリアスな魔術師ドロッセルマイヤーが、彼女の好きなくるみ割り人形をプレゼントする。
そのくるみ割り人形は、呪いによってその姿になってしまったドロッセルマイヤーの甥ハンス・ピーターだった。
くるみ割り人形になったハンスを救うためにはネズミの王を倒すこと。クリスマスツリーが魔法にかかったように大きくなり、おもちゃの兵隊が動き出してネズミの王の軍隊と戦う。ネズミの王を倒した後、クララとくるみ割り人形は雪の国を通ってお菓子の国へ向かうと、こんぺいとうの精と王子が素晴らしい踊りで出迎える。
そんな不思議な冒険は夢だったのか?クララが目覚めると、くるみ割り人形のような美しい若い男とぶつかる!
Artists of The Royal Ballet in The Nutcracker. © ROH, 2017. Photographed by Karolina Kuras
子どもから大人まで数多のダンサーたちが出演。第一幕前に18分間上映される解説+インタビューでは、兵隊やネズミを演じる11歳~12歳の子どもたちが、「憧れのスターと共演できて嬉しい」と目を輝かせる。
さて、この子どもたち、ロイヤル・バレエ・スクールの生徒もいるのだろうか。ミュージカル『ビリー・エリオット』で、ビリーが受験し合格した、あのロイヤル・バレエ・スクール。そこからロイヤル・バレエ団へと上がってゆくダンサーも多い。
その『ビリー・エリオット』において、『くるみ割り人形(The Nutcracker)』は、ビリーの親友マイケルが、チュチュを着てビリーに踊りをせがむシーンにおいて股が裂けてしまい、「Nuts cracker!」と叫んでいたことでもおなじみだ。「くるみ割りって、痛いのね」的な翻訳がされていただろうか。イギリス英語で「nuts」とは睾丸のことだ。「タマが割れちゃう!」を、バレエの名作とひっかけるセンスの効いたセリフだった。ちなみにダンサーたちは、タマが割れないように、タイツの下にサポーターをつけている。ビリーのオーディションの際に、炭鉱夫の父親にタバコを差し出してきた男性ダンサーと同じスタイルだ。
The Corps de ballet in The Royal Ballet's Nutcracker © ROH. TRISTRAM KENTON
さて筆者は、バレエについてはほぼ門外漢だが、英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)の『不思議の国のアリス』で、すっかりバレエの楽しさ・美しさに、ビリビリと魅了されたのだ。そう、『ビリー・エリオット』における「Electricity」のように。
場面場面の可愛さ、美しさ。遊び心に訴える視覚演出。バレエとは、言葉を発せず、表情と身体でもって表現する。それは海外でも、どこででも通じるものなのだ。今回の『くるみ割り人形』も、「バレエの古典作品って高尚で、踊りだけで表現されてもわからないんじゃないの?」と身構える心配はゼロ! 世界のトップ・バレエとは、美しすぎるダンサーたちが、その魅力を余すところなくみせてくれる、究極のノンバーバル表現なのだと気づかされる。
『くるみ割り人形』第一幕は、ヴィクトリア王朝の時代のドレスや装飾が、美しく描かれる。動物や人形が踊り出し、舞台に雪が舞う。子どもたちがピョンピョン跳ねる小ギャロップや、クリスマスツリーが大きくなる等の場面が楽しい。少女クララ役のフランチェスカ・ヘイワード、くるみ割り人形役のアレクサンダー・キャンベルが、お菓子の国へ向かうところで第一幕は終了する。くるみ割り人形役のアレクサンダーは、『不思議の国のアリス』上映にて司会を勤めていたスター・ダンサーである。
Meaghan Grace Hinkis as Clara in The Nutcracker, The Royal Ballet © ROH. TRISTRAM KENTON
ここまででも大いに楽しいのだが、特筆すべきは第二幕! ロシア・アラビア・中国の踊りが続くのだが、それがもう、見せ場、見せ場、見せ場!なのである。ひとつひとつの踊りごとに拍手を送りそうになる出来栄えだ。そしてバレエ初心者であっても、「この曲も、この曲も知っている!」と、心までも踊ってしまった。
筆者注目はアラビアの踊り。普通、人間は動いたらシワのひとつも寄りそうだが、ダンサーの腰には無駄な肉が1ミリもないから、それがない。どんなに踊っても美しいままなのだ。それにはあんぐりと口を開けて見惚れるばかり。
その第二幕でも最大の見せ場は、ラストに控えるサラ・ラムのこんぺいとうの精、スティーヴン・マックレーの王子によるパ・ド・ドゥだ。スティーヴン・マックレーは、『不思議の国のアリス』において、あのタップダンスを見せてくれたマッドハッターを演じた人物……といえば、「それは見逃せない!」と思うファンも多いだろう。
サラとスティーヴンが組むのは初めてだそうで、2人での踊りをより美しく見せるために、実際にピーター・ライト振付でこんぺいとうの精を踊ったレスリー・コリアが指導にあたる様子が、第二幕直前の解説+インタビューで見られる。
なお、ここでは『不思議の国のアリス』上映の際同様、トゥシューズのCMが入る。2~3日で一足履きつぶしてしまうほどにハードなバレエの世界、スポンサーは必須なのだと思わされる。ダンサーは、舞台の上で息を切らすことが禁じられている。汗ひとつかかず、足音もたてず、優雅で軽やかに踊るには、強靭な体力と、日々の厳しいレッスンが必須なのだ。
上演時間は、
解説+インタビュー:18分
第一幕:53分
休憩:13分
解説+インタビュー:18分
第二幕:58分
の、2時間40分。だが、体感時間はあっという間。とにかくウットリしているうちに、時があっという間に過ぎてしまう。ダンサーたちは立ち姿だけでも美しく、カーテンコールの花の受け渡しすら、「美」なのだ。
ミュージカル『コーラスライン』の「At the Ballet」に、こんな歌詞がある。
「Everything was beautiful at the ballet」
バレエをやっている間、観ている間は、浮世の憂さもすべて忘れられる。それほどまでに美しい。
終映後、司会者がこう叫んだ。
「What a treat!」
伝統あるチャイコフスキーのスコアと、色褪せないピーター・ライトの振付を特等席で堪能できるのは、クリスマスのご褒美だ。そんな気持ちがこの一言に詰まっていた。筆者も幸せな溜息をつきながら、「バレエって、こんなに楽しいんだ!!」と、あらためて驚きと嬉しさでいっぱいになった。もう1月ではあるけれど、クリスマスのハッピーな気分を味わうには、まだ遅くない。映画館の大スクリーンで、クララと不思議なクリスマスの一夜を体験しよう!
Francesca Hayward as Clara in The Nutcracker © ROH. TRISTRAM KENTON
『くるみ割り人形』
北海道 ディノスシネマズ札幌 2018/2/17(土)~2018/2/23(金)