『ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち』内覧会レポート 中村江里子「“パリ”という言葉自体が魔法のよう」

レポート
アート
2018.1.24
中村江里子

中村江里子

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『ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち』が、2018年4月1日(日)まで、東京・世田谷美術館で開催中だ。

「パリジェンヌ」といえば、「芯のある素敵な女性」をイメージする人が多いだろう。そんな、美しくしなやかで強い、パリジェンヌという生き方やイメージは、いったいいつ頃から出てきたのか。そして、生身の彼女たちはどうやって生きてきたのか。本展では、ボストン美術館の所蔵品約120点を通して、18世紀から20世紀のパリを体現した女性たちの姿に迫る。

1月12日(金)に開催された内覧会には、本展の音声ガイドでスペシャル・ナビゲーターを務める、フリーアナウンサー・中村江里子も登場。パリ在住の中村が語る「現代のパリジェンヌ像」や、展覧会の見どころを紹介しよう。

18世紀パリ 洗練されたサロンの女主人と、職業人としての女性ダンサー

ドレス(3つのパーツからなる) フランス、1770年頃

ドレス(3つのパーツからなる) フランス、1770年頃

最初の展示室に足を踏み入れると、広々とした空間の中央に飾られている華やかなドレスに目を引かれる。このドレスは、18世紀後半に作られたもの。当時、パリに住む王侯貴族の女性たちは、こうした華やかなファッションに身を包んできらびやかな暮らしを送るだけでなく、知識人たちを招いて意見交換をする「サロン」の女主人としても活躍していた。つまり、彼女たちは外見的にも内面的にも洗練された女性だったのだ。

伝マルタン・ベルト ティーセット(箱付) 1728-29年

伝マルタン・ベルト ティーセット(箱付) 1728-29年

また、男性演者が中心であった舞踊の世界にも、女性が参入するようになる。女性が「ダンサー」という職業人として活躍するのみならず、彼女たちが身につける舞台衣装も人々の心を惹きつけた。そうした踊り子たちのファッションは、「ファッション・プレート(ファッション雑誌の走りとなった版画)」によって、パリ以外の街にも広がっていった。

理想と現実の狭間に生きるパリジェンヌたち

(右)トマ・クチュール《未亡人》1840年

(右)トマ・クチュール《未亡人》1840年

続く2章では、パリジェンヌたちが実際にどのような生活を送っていたかを紹介する。19世紀には、「自立して新しい生き方をしたい」と考える女性も台頭しはじめたが、彼女たちに対する風当たりは依然強いままだった。作家、芸術家、知識人など、これまで男性が優位だった職業を切り拓いた女性であっても、結婚や家庭内での役割を変わらず求められていたのだ。その上、仕事に没頭して外見の美しさをないがしろにする女性に対しても、批判的なまなざしが向けられた。こうしたほろ苦い歴史は、現代を生きる女性にとっても、いまだにリアリティを感じられるのではないだろうか。

女性たちの憧れ、アイコン化したパリジェンヌ

(中央)シャルル・フレデリック・ウォルト ウォルト社のためのデザイン ドレス(5つのパーツからなる) フランス、1870年頃

(中央)シャルル・フレデリック・ウォルト ウォルト社のためのデザイン ドレス(5つのパーツからなる) フランス、1870年頃

「ファッション」にテーマを戻すと、19世紀後半には、ブルジョワ階級も上流階級と同じようにオシャレを楽しめる時代に移り変わっていた。会場には、当時実際に着用されていたドレスやコルセットなどが展示されている。

そして、こうしたファッショナブルなパリジェンヌ像は、国境を超えてアイコン化していた。アメリカの女性たちにとっては、パリを訪れて人気ブランドのドレスを買うことがステイタスとなっていたのだ。このように、パリの流行をアメリカ人がどのように受け止めていたかもうかがい知れる内容となっている。

(左)フランツ・クサーヴァー・ヴィンターハルター《ヴィンチェスラヴァ・バーチェスカ、ユニヤヴィッチ夫人》1860年

(左)フランツ・クサーヴァー・ヴィンターハルター《ヴィンチェスラヴァ・バーチェスカ、ユニヤヴィッチ夫人》1860年

マネのミューズ、ヴィクトリーヌのたくましさ

(右)エドゥアール・マネ《街の歌い手》1862年頃

(右)エドゥアール・マネ《街の歌い手》1862年頃

2階の展示室では、「女性と芸術」がテーマとなる。19世紀後半には、芸術家として活躍する女性も増え、そのなかには「制作者」「モデル」「ミューズ」という、3つの役割を兼ね揃えたような女性も少なくなかった。

たとえば、本展のメインビジュアルともなっている、マネの大作《街の歌い手》のモデル、ヴィクトリーヌ。彼女はマネのお気に入りで、他にも《草上の昼食》や《オランピア》などにもモデルとして描かれている。彼女は本作でもギターを手にしているように、楽器を嗜み、自らの手で生活費を稼ぐたくましい女性だった。さらに、ヴィクトリーヌはその後画業もはじめてサロン出品をするなど、かなり勢力的に活動を広げていたようだ。彼女の生き様は、現代女性から見ても大変興味深いものだろう。

古い型にはまらない、アイデンティティを体現するパリジェンヌ

(左)ジュール・シェレ《モンターニュ・リュス》1889-90年頃

(左)ジュール・シェレ《モンターニュ・リュス》1889-90年頃

さらに時代が巡った20世紀初頭のフランスでは、女性の約40パーセントが労働に従事するようになっていた。彼女たちの活躍する場は、モンマルトルやモンパルナスのボヘミアン仲間たちの間から、日常的な市場へ拡大を続けていった。そしてようやく、女性に求められてきたこれまでの慣習に疑問が投げかけられるようになっていったのだ。

(左奥から)ピエール・カルダン ドレス 1965年頃、クリストバル・バレンシアガ ツーピースのカクテルドレス 1949年頃、ジャン・バトゥ バトゥ社のためのデザイン ドレス 1925-28年

(左奥から)ピエール・カルダン ドレス 1965年頃、クリストバル・バレンシアガ ツーピースのカクテルドレス 1949年頃、ジャン・バトゥ バトゥ社のためのデザイン ドレス 1925-28年

パリ在住の中村江里子が見た、現代のパリジェンヌ

中村江里子

中村江里子

マネ《街の歌い手》の前に登場した中村江里子は、本展について「すべてが素敵で、一つひとつ、とても丁寧に拝見いたしました。社会の中で、パリジェンヌという女性たちの位置付けが変わっていく様子が、ドレスや絵画の中に見えてきたのがとても楽しかったです」と感想を述べた。そして、「良妻賢母が良しとされていた時代でありながら、そこから社会に出ていく女性たちが増えていく移り変わりが興味深かった」と言葉を続ける。

また、パリに暮らして15年以上になるという中村は、現代のパリジェンヌの印象について以下のように話す。

「パリジェンヌはとても自由で伸びやかで、ワガママな印象があります(笑)。でも、ワガママといっても、ちゃんと自己主張をして、自分をとても大切にしている。奥ゆかしい日本人女性がパリジェンヌに憧れるのも、そうした自由で大らかな姿勢が魅力的だからなのかなと感じます。そもそも、“パリ”という言葉自体が魔法の言葉のようで、“パリ”という言葉に本当にたくさんの人たちが恋い焦がれていると思うんです。パリジェンヌはさらに魅惑的で、私たちがまったく想像できないものをたくさん持っている」

展覧会オリジナルグッズ

展覧会オリジナルグッズ

そんな魅惑的なパリジェンヌたちが、歴史の中で移り変わってきた姿を目の当たりにできるこの展覧会。パリやパリジェンヌに憧れを抱いている人はもちろん、今の日本社会を生きる女性にとっても、本展は大きな学びや気づきを与えてくれるだろう。

イベント情報
「ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち」

会期:開催中〜4月1日(日)
休館日:月曜日 ※2月12日(月)は開館、翌13日(火)は休館
会場:世田谷美術館
開館時間:10:00〜18:00 ※入場は17:30まで
入場料:一般1500円(1300円)65歳以上1200円(1000円)大高生900円(700円)中小生500円(300円)※()内は団体(20名以上)
主催:世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)、ボストン美術館、NHK、NHKプロモーション
http://paris2017-18.jp/
 
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