フィッシュライフはなぜ日常を歌うのか、初アルバムから紐解く楽曲の共通点とは

2012年に結成し、翌年には10代のアーティストが集う『閃光ライオット2013』でグランプリに輝くなど、早くから期待を集めていた3人組フィッシュライフ。彼らにとって初のフルアルバムとなった『未来世紀エキスポ』は、若さあふれるエネルギッシュなサウンドと繊細なワードセンスが絡み合い、それでいて包み隠すことなく詰めこんだ感性に、じわじわ引き寄せられていく。そんなフィッシュライフが紡ぎ出す世界は、しばしば「日常的」と評され、聴き手に親近感を持たせている。だが、具体的に彼らの楽曲はどういうところに「日常」を連想させるのか。その楽曲性をひも解きながら、大海原へとついに飛び出し、長い音楽人生を泳ぎはじめたフィッシュライフの展望について、ハヤシング（Vo.＆Gt.）、ミヤチ（Ba.）、テラオカ（Dr.）に話を訊いた。

——フィッシュライフの楽曲の感想をいろいろ読んでいたら、「日常的」という言葉をよく目にしたんです。今回の『未来世紀エキスポ』のどういう部分にそのワードが当てはまるのか考えていたら、どの曲も街の情景描写が多いですよね。街とはつまり、自分たちの生活、現在の立ち位置にも繋がってくる。

全員：おおおっ！

ハヤシング：まさに！　自分の中で空いていたパズルに、ぴったりとピースがはまった気がしました。その解釈、僕が前から意図していたかのように今後話してもいいですか（笑）。街が好きというわけではないけど、でも身近なものだし、良いときも悪いときもその街がどう見えるか考えています。街って、自分の感情が一番反映されやすいもの。自分とリンクしているから、歌詞によく出てくるのかもしれません。

——生まれ育った街って、コンプレックスを感じる人も少なくないですし、何か物事をやる上でいろんな意味で反動となっていくものだと思います。

ハヤシング：僕は高校まで福岡にいて、今は大阪に住んでいる。暮らしている街の風景を、いつもカメラ越しに、ちょっと引いて見ているような感覚があるんです。今、住んでいる街は大阪市外なのですが、夕焼け時、車や電車で大和川を越える瞬間、その橋から見える川がとてもきれいなんです。そのイメージが歌詞には結構多く反映されています。

テラオカ：僕は地元がミヤチと同じで神戸なんですが、大好きな場所。とは言っても、自分が住んでいるのは、目立ったものといえばコンビニくらいしかない田舎なんですけど、嫌な部分がないんです。自分の街のことを考えると、自然と思い出がよみがえってくる。どこか通りがかったとき、あそこで友だちと遊んだなとか。思い出が詰まっている場所なので手放せないですね。

ミヤチ：でも僕たちって、大阪で結成したバンドではありますが、僕とテラオカが神戸、ハヤシは福岡だから、大阪の人間がいないんです。自分たちにとって、名乗る場所は実はどこでも良かった。ざっくりと「大阪のバンドです」と自己紹介しているのですが、「僕たちは日本のバンドです」というような広い気持ちで闘っていきたい。

——今回のアルバムでは「未来世紀天王寺」という曲もありますよね。テリー・ギリアム監督の映画『未来世紀ブラジル』から着想を得ていると思います。あの作品は、情報統制された様々な意味でヤバい架空の街が舞台となってるわけで……。

ハヤシング：九州出身者の僕から見たら、天王寺はまだまだ偶像なんです。天王寺のイメージって、通天閣やハルカスがあって、でもちょっとそれたら下町風情で、いろいろごちゃごちゃしていて、詞の舞台としてとてもおもしろい。天王寺は「おいしい街」ですね。

——次曲「渋谷レプリカント」も、元ネタは「ブレードランナー」ですよね。映画自体は未来都市のお話ですけど、それを渋谷に重ねている。

ハヤシング：いまだに東京って怖いんですよね、何度行っても。

ミヤチ：以前に「東京」という曲も作っていて、メンバーの中で東京に対する共通した意識があるんです。天王寺も住んでいるわけではないけど、でも印象として同じものを持っている。

テラオカ：何かはっきり言わなくても、バンドとして同じ意識を持っていることはすごくやりやすい。でも今回のアルバムで一つだけ、2曲目「Supersonic」を収録するかどうか、意見が食い違ったんです。あの曲はテンションが最高潮のときに出来上がって、僕は大好きな曲。そうしたらハヤシが、「いやいやいやいや、Supersonicって！」と言い出して。「これはないと思うわ」ときっぱり否定してくるから、僕が「何を言うてんねん！」とすごく怒った（笑）。

ミヤチ：テラオカがあんなに主張しているところ、久しぶりに見た。

——ハハハ（笑）。そういえば「ラストオーダー」という曲は、意見や考え方が食い違っていても、相手が好きなものを受け入れると言う内容ですよね。曲冒頭にある歌詞＜リリィ・シュシュより、普通にスワロウテイルが好き＞とか。好きな相手が自分とは違う価値観を見せてきたときって、複雑な葛藤がありますよね。

ハヤシング：僕は実際に、（岩井俊二監督の映画では）「リリィ・シュシュのすべて」より普通に「スワロウテイル」の方が好きで。でも「リリィ・シュシュ」が好きな女の子、多いじゃないですか。しかも僕が好きになるようなタイプの子って、なぜか「リリィ・シュシュ」が好きなんですよ。気持ちの部分にちょっと弱みを持っている人。「ラストオーダー」は、そういうコについつい惹かれちゃって、自分の好きなものを曲げちゃう情けなさを思い出して、「あ、これは曲になる」って（笑）。

テラオカ：僕も基本的には相手に合わせようとするけど、でもすべてがどうでも良くなる“無”の瞬間も結構ある。そのときは、何を言われても「あ、そうなんや。まあ、俺は違うけどね」って感じで。

——それ、冷静すぎて怖い（笑）。ミヤチさんはどうですか。

ミヤチ：僕は、ハイパー合わせるタイプ！　仲良くなっておいた方がいい仕事関係の人、先輩……もうほとんど合わせていますね（笑）。でもそのおかげで、「お前、なんか胡散臭いわ」と言われるようになってしまいまして。最近は、普通のテンションでフラットに接するようにしています。それにしてもこの曲、ハヤシの可愛さが出ていますよね。

ハヤシング：この曲を作ったとき、自分で自分のことをロマンチストだと思いました。今まで培ってきた、ハヤシのロマンをすべてぶちこんだ。

——1stアルバムということもあって、フィッシュライフが日頃見ているものや、そのときの皆さんの表情が楽曲を通じて浮かんできました。今後、私たちは3人のどういうところに注目していけば良いですか。

ハヤシング：『未来世紀エキスポ』は、聴いてくださる人たちのストライクゾーンを目がけて作ることを意識していました。でも次は、今回感じてもらったイメージの逆をいきたい。このアルバムはあくまで一投目の球。次、どう投げ込むかを楽しみにして欲しいです。

テラオカ：僕はこのアルバムを作って、自分たちはまだまだいけるという実感を持ちました。これまで作ってきた曲とは違ったテイストも見え隠れしているし、フィッシュライフってこんなに広がりがあるんだって思った。2018年、良いスタートを切ることができたので、このアルバムを引っさげてツアーに出て、2018年後半に繋げていきたい。

ミヤチ：バンドとしてとても良い状態のときで出来たアルバム。12曲の中で必ず刺さる曲がある。メロディ、ワードにじっくり耳を澄まさなくても、自然と刺さってくるものがあるので、どんな形でも良いのでまず聴いてみてください。

取材・文＝田辺ユウキ　撮影＝森好弘