プロジェクトKUTO-10『財団法人親父倶楽部』工藤俊作×後藤ひろひとにインタビュー

インタビュー
舞台
2018.2.27
(左から)工藤俊作、後藤ひろひと(Piper) [撮影]吉永美和子(人物すべて)

(左から)工藤俊作、後藤ひろひと(Piper) [撮影]吉永美和子(人物すべて)

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「死ぬことをポジティブに考えられる、素敵なコメディにしたいです」(後藤)

関西を拠点に活躍するベテラン俳優・工藤俊作が、自ら企画・出演するプロデュース「プロジェクトKUTO-10(くとうてん)」。あの古田新太を演出に呼んだり、岩松了の『アイスクリームマン』を関西小劇場オールスターキャストで上演したりと、話題作を次々に送り出している企画だ。今回は後藤“大王”ひろひとを作・演出に迎え、KUTO-10の30年近い歴史の中で初となる、本格的なコメディを上演。久保田浩(遊気舎)と保という、KUTO-10常連メンバーを中心に、余命宣告を受けた親父たちの最後の日々を見せる物語となるそうだ。遊気舎『イカつり海賊船』以来、なんと22年ぶりにタッグを組むことになった、工藤と後藤の2人に直撃してきた。

■「“何でも言うことを聞く”と言うから“じゃあ、芝居書いて”って」(工藤)

──過去様々な作品を上演してきたKUTO-10ですが、ここ最近は関西の若い作・演出家や俳優を、積極的に起用した舞台が目立ちますよね。

工藤 KUTO-10を結成したのが、1989年……僕が24歳の時で。それぐらいの時から、いろんな人と作品を作ってきたんですけど、この歳になると「あの時ああいう経験ができたから、今がある」と思えるようになってきまして。おこがましいけど、そういうことを今の若い子にも経験してほしいと、最近特に意識しています。

── ……というポリシーを破って、今回後藤さんを作・演出に呼んだ理由は。

工藤 後藤君は、KUTO-10の公演は割と観に来てくれて、そのたびに打ち上げに来て、結構文句を言うんです(笑)。それで前回の打ち上げの時に「そんなに言うんだったら、何か書いてよ」って言って。

後藤 それで「おお、書いたらあ!」と。相当酔ってたんでしょうね、俺。

工藤 その前にも後藤君は、前回のW杯でドイツが優勝した時に、それに喜んで「今日は何でも言うことを聞きます」って、SNSに書き込んでたんですよね。それを僕が見つけて「じゃあ、芝居書いてよ」って(一同笑)。

後藤 そういう隙を見逃さない人なんですよね。その約束もあったので……だから(優勝から)4年後ではありますけど「ドイツ優勝記念」ですね、この公演は(笑)。

プロジェクトKUTO-10 第17回公演『財団法人親父倶楽部~死んだと思って生きてみる~』公演チラシ。 [宣伝美術]粟根まこと

プロジェクトKUTO-10 第17回公演『財団法人親父倶楽部~死んだと思って生きてみる~』公演チラシ。 [宣伝美術]粟根まこと

──工藤さんと後藤さんのつき合いは、結構長いんですか?

後藤 俺が酔っぱらって、トシさん(工藤)の家に連れて行かれたのが初対面だったのね。その時に家にあったナポレオンを全部空けてしまったことを、ずっとグチっていると聞いて、面倒くさい人だなあと思ってました(笑)。

工藤 いや、後藤君が思うほど怒ってなかったけどね。初めて仕事したのが、(遊気舎の)『イカつり海賊船』で……。

後藤 あれは久保田浩が座長になった初めての公演だったんで、ゲストは彼が選んだんですよ。それがトシさんと八十田勇一で、当時俺は全然つながりがない2人だったから、すごく悩みながら書いてましたね。特にトシさんは、当時の遊気舎では誰もやれない重厚な芝居ができる人というイメージがあったから、相当緊張してました。

工藤 あの時は後藤君の演出を、あまり受けられなかった記憶があるなあ。他の劇団員に半分任せてて、本番直前になって後藤君からアクションの演出を付けてもらった時に「やっと演出受けれるわー」って喜んだのを覚えてます。

後藤 あの時は俺が座長を引退して、座付作・演出家になるという、いわば遊気舎の変わり目の公演だったから「もし俺が完全に遊気舎を離れたらどうなるか?」という実験も兼ねてたんです。だからそれで迷惑をかけたし、俺にとっては大失敗作ですね。あの設定でもう一回、何かリメイクしたいなあと思います。映画でも何でも、名作よりも、失敗作だけど可能性が高い物をリメイクするべきなんですよ。

工藤 それええなあ! でも僕にとってはあの作品のおかげで、いろんな人が初めて工藤俊作という俳優を知ってくれたと思うし、実際その人たちが(当時所属していた)劇団太陽族にも割といっぱい来てくれたので、出てよかったなあと思ってます。

──では後藤さんにとって、今回はそのリベンジみたいなところが。

後藤 いやいや、そういう突っ張った気持ちは一切ないですね。ただもう、トシさんや保さんと久々に仕事ができるっていうのが、すごく嬉しくて。しかも久保田浩は先月(T-works『源八橋西詰』の)公演が終わった所なのに、また一緒にいられるという。何かいろいろ、幸せを感じてます。

第11回公演『黄昏の犬たち~ぼちぼちいこか外伝』(2010年) 作・演出:岩崎正裕(劇団太陽族)

第11回公演『黄昏の犬たち~ぼちぼちいこか外伝』(2010年) 作・演出:岩崎正裕(劇団太陽族)

■「稽古をすればするほど膨らんで、書いてるのがとっても楽しい」(後藤)

──『財団法人親父倶楽部』は、設定だけを聞くとむしろシリアスな感じがしますよね。

後藤 でも「余命わずか」という悲しみを、一切書きたくないんですよ。「いつ死ぬかわかってるのも、幸せなことなんじゃない?」という方向性。それは前から、やってみたいテーマではありましたね。

──そう考えるきっかけが、何かあったんでしょうか?

後藤 最近俺の親父が亡くなったこともあって、「人が死ぬ」ということを、ポジティブに考えられるような話を書きたいと思ったんです。余命宣告を受けた中年親父が3人いて、彼らがやりたいことを思い切りやった上で、ちゃんとお別れしたい人とどのように別れるか……という話。最初はもっとドタバタしたり、もっと悲観的なことを書こうと思ったけど、今はまったく違う方向になってますね。

工藤 珍しく、脚本がちょっと遅れてる。

後藤 またトシさんには迷惑かけてるわけだけど、でもそういうことも含めて小劇場って素敵だなあって(笑)。商業演劇だと1年前に(脚本の)締切を設けられるけど、それって結局有名な芸能人をくどくためのカードでしかないから、不満が残ることが多かったんです。でも今回はトシさんが選んだ素敵なメンバーがそろってるのがわかった上で、その人たちを使って存分に好きなことができるわけですから。

──「この人にこの台詞を言わせたら面白い」と想像を膨らませて、それを実現できるのが楽しい、ということですか?

後藤 もちろんもちろん。俺が書きさえすれば、俺と保さんや、俺と久保田浩との共演シーンが増えるんだと思ったら、自分にちょっと長めの台詞を書いてみたりして(笑)

工藤 だからいつになく、役者・後藤ひろひとが活躍しています。

第13回公演『血、きってみる』(2012年) 作:樋口ミユ(Plant M) 演出:岩崎正裕(劇団太陽族)

第13回公演『血、きってみる』(2012年) 作:樋口ミユ(Plant M) 演出:岩崎正裕(劇団太陽族)

後藤 ただトシさんとは、緊張するので(2人のシーンは)書いてない(一同笑)。でもトシさんが若手の子や、羽曳野の伊藤(注:久保田浩が得意とする不条理キャラ)とどういう会話をするのかな? というのを考えるのは、すごく楽しいですね。さらにトシさんが呼んだ若手の2人が、「今時こういう子がいるんだな」ってぐらい面白いんですよ。

工藤 親父たちだけで舞台を仕込むとか、本当に大丈夫やろか? と思って呼んだんですけど(笑)。でもKUTO-10でよくほめてもらえるのは「工藤は鼻が利く」ってことなんです。特にsun!!(藤本陽子)ちゃんは、後藤作品の中に入ったら輝きそうな子だなあと思いました。

後藤 実際、すごくいい若手を選んでくれましたよ。2人ともいろんな引き出しを持ってるから、稽古をすればするほど「あ、こんなこともあんなこともやってみたい」というのが膨らんでしまって。それもまた、脚本がつかえてる原因(笑)。

工藤 けど今回、後藤君が台本をメールで送ってくるたびに、いつも「書いてるのがとっても楽しい」という一文が添えられててね。それが素敵やなあと思うし、プロデューサーとしても嬉しいことです。

──で、役者・工藤俊作としては、後藤さんの世界の手応えはいかがでしょう?

工藤 多分まだ、上手くできてないですねえ。コメディを長いことやってなかったので「笑いってどうやったんやろう?」って。お客さんの笑いが続いてる時には、どのタイミングで台詞を入れるのがいいのか? とか、僕にとっては難しいことだらけです。この前も久保田と呑んでたら「トシさんは、まだ後藤の作品を理解してへん」みたいなことを言われたし(笑)。

後藤 そんなこと言ってましたか。俺がよくトシさんに言ってるのが「暗くなってる」っていうことですね。自分が死ぬことを告げるシーンなんかで、やっぱりすごく悲しく見えちゃうから、ケロッとして見えるように……それってやっぱり不思議な世界観ですから、余計難しいんでしょうけど。

工藤 ホンマにどっかでシフトチェンジできるよう、頑張ります。

後藤 いや、頑張っちゃダメです。むしろ(稽古前の)ゲームを頑張ってください(笑)。ゲームでみんなが失敗して、全員カッコ悪くなってから稽古に入った方が、絶対この芝居はやりやすくなりますから。

第14回公演『ストレッチポリマーインターフェース』(2014年) 作:林慎一郎(極東退屈道場) 演出:内藤裕敬(南河内万歳一座)

第14回公演『ストレッチポリマーインターフェース』(2014年) 作:林慎一郎(極東退屈道場) 演出:内藤裕敬(南河内万歳一座)

■「“後藤ひろひと最後の小劇場公演”を売りにしたいです(笑)」(工藤)

──ただ、たとえコメディと謳っていても、死を扱うとどうしても演技が重くなっちゃうというのは何となくわかりますし、逆にそれをどう軽くするのかな? と。

後藤 最終的には大切な話が書けそうだけど、深刻にはならないし、ハッピーエンドで……死ぬことがハッピーエンドっていうのも、ちょっと変わってるんだろうけど。

──「あ、そういうデッドエンドがあるんだ」と思えるような。

後藤 そっちの方向の話ですよね。それでお客様にはいろいろ考えてもらいたいし、特に女性には「やっぱり男ってバカだなあ」と思ってほしい。「でも、それが男なんだよね」っていう世界を、この親父たちとしっかり作っていきたいです。

──後藤さんはT-worksの取材の時に「KUTO-10が最後の小劇場作品になるかもしれない」と言ってましたが。

後藤 (大阪公演会場の)ウイングフィールドって、100人も入らないのか? それぐらいの規模でやるのは、もうないな……という覚悟はしなきゃいけないと思ってます。だからすごく、満喫したいですね。

工藤 プロデューサーとしても「後藤ひろひとの最後の小劇場公演」みたいなのを、売りにしたいです(笑)。

後藤 いや、売りにされると戻りにくくなる。だって俺、いつかこのスピンオフで『財団法人おばはん倶楽部』をやりたいと思ってるから(一同笑)。でも小さな劇場でできる楽しみは何かっていうと、狭いからこそお客様に広さを見せられる、感じてもらえるってことなのね。もし大きな劇場で、マンションのベランダに人がいて、その下の階にも誰かがいるっていう状況を見せようと思ったら、やっぱり下層(の美術)を作らないと面白みが出ないんです。でも狭い空間だったら、最初から「その下に何かがある」と、お客さんが広さを想像してくれる。何だったら「自分の後ろの世界では、何かすごいことが起こってる」ぐらいのことまで考えてくれるんじゃないかな。だから俺が最近書いた中では、実は一番スケールの大きな芝居になるかもしれません。

第16回公演『あたらしいなみ』(2017年) 作:サカイヒロト(WI'RE) 演出:樋口ミユ(Plant M)

第16回公演『あたらしいなみ』(2017年) 作:サカイヒロト(WI'RE) 演出:樋口ミユ(Plant M)

──あと今回は、KUTO-10にとっても後藤さんにとっても、初の山形公演がありますね。

工藤 東京以外の公演地を探してる時に、後藤君は山形出身だからということで、山形市民会館に電話してみたんですよ。ツテは全然なかったけど、電話に出てくれた人が「大王の作品ですか! それはぜひうちで!!」って言ってくれて……すごくいい人でした。

後藤 みんないい人ですよ、あの会館は。俺にとっては凱旋ですから、楽しみですねえ。でも大失敗したのは、多分その(公演がある)季節はまだ一面雪景色で、大阪から来た人は転ばれたり、ガラガラ(キャリーバッグのタイヤ)が動かなくなったりと、大変なことになるだろうと。もっといい季節に来てほしかった(笑)。

工藤 でも山形が、今動員苦戦してるのはしてるんですよね。

──じゃあ山形に集中的にアピールする形で、このインタビューを締めましょうか。

後藤 今後藤ひろひとをちゃんと応援しておかないと、後藤ひろひとから山形を見限るよ、と(笑)。でも山形の人って、基本的に人が一生懸命になってやってることを、笑ってはいけないと教えられて生きてきてるから、あまり笑わない人たちだと俺は思ってるのね。でもこれはコメディだから、どうぞ笑いに来てください、と。笑ってるうちに、もっと大事なものをちゃんと差し上げますから。

工藤 大阪の芝居自体、山形で上演されることがめったにないと思うんで、この機会に「大阪の匂い」というのを感じていただければと思います。後藤君も今回は、大阪弁で台詞を書いてますしね。

後藤 本当に等身大の大阪の親父たちを書いてるので、それはぜひ観てほしいですね。山形では、モルモン教を布教しにきたアメリカ人よりも、大阪人の方が少ないから(笑)。アメリカ人より珍しい、本物の大阪人をお見せできると思います。しかも吉本新喜劇に出て来る、どのキャラクターよりも破壊力のある「羽曳野の伊藤」という男を連れていきますからね。

工藤 大阪代表として、頑張ります(笑)。

(左から)工藤俊作、後藤ひろひと(Piper)

(左から)工藤俊作、後藤ひろひと(Piper)

公演情報

プロジェクトKUTO-10 第17回公演『財団法人親父倶楽部~死んだと思って生きてみる~』

《大阪公演》
■日時:2018年3月7日(水)~12日(月)
■会場:ウイングフィールド
 
《山形公演》
■日時:2018年3月15日(木)・16日(金)
■会場:山形市民会館 小ホール
 
《東京公演》
■日時:2018年3月20日(火)~25日(日)
■会場:下北沢 小劇場B1
 
■作・演出・出演:後藤ひろひと(Piper)
■出演:工藤俊作、久保田浩(遊気舎)、保、藤本陽子(DACT party)、長橋遼也(リリパットアーミーⅡ)
■公式サイト:https://plaza.rakuten.co.jp/kuto10/

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