芸術系大学6校が集まる展覧会、学生キュレーターにインタビュー アートフェア東京2018『Future Artists Tokyo—スイッチルーム』

インタビュー
アート
2018.3.1
 (左から)学生キュレーターの森本真梨子(女子美術大学)、内藤和音(多摩美術大学)、高橋和佳奈(筑波大学)、内海潤也(東京藝術大学)

(左から)学生キュレーターの森本真梨子(女子美術大学)、内藤和音(多摩美術大学)、高橋和佳奈(筑波大学)、内海潤也(東京藝術大学)

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日本最大級のアートの見本市「アートフェア東京2018」が、2018年3月8日(木)〜3月11日(日)まで東京国際フォーラムにて開催される(※3月8日は招待客のみ)。

アートフェア東京2018のメインイベントは、ホールEで開催される「Galleries」だ。後述の「Projects」とあわせて過去最多となる164ギャラリーの展示ブースが軒を連ね、縄文土器等の古美術や工芸、近・現代アートまで幅広いジャンルのアートが出品される。その「Galleries」に入場する一歩手前、アートフェア東京の入り口である入場無料のロビーギャラリーに、今年はぜひ注目してほしい。

エントランスフリーの4セクション

東京国際フォーラムのロビーギャラリーで展開されるのは、未来のアートシーンを担う4つの企画だ。まず恒例の『アートカー』。今年は「領域を超え、多様な表現者にひらかれた未来社会」を目指し、公募により選ばれた浅野春香さんの作品がトヨタ自動車のMIRAIを覆う。ふたつ目は、気鋭の11ギャラリーが、今後注目の11人のアーティストを個展形式で紹介する「Projects」。さらに今年初めての試みとなる、『World Art Tokyo —パンゲア・テクトニクス— 』(以下、パンゲア・テクトニクス)。こちらは9か国の駐日大使が、各国注目の次世代アーティストの作品を選出し、現在東京藝術大学大学院生で、第7回モスクワビエンナーレでアシスタントキュレーターを勤めた黒沢聖覇さんがキュレーションを手掛ける国際展だ。

そして4つ目が、『Future Artists Tokyo—スイッチルーム—』(以下、スイッチルーム)。こちらも今年初の企画で、次世代キュレーターとアーティストの育成を目指す点は、『パンゲア・テクトニクス』と共通する。しかし『スイッチルーム』は、日本の芸術系大学より集まった学生キュレーターが、学生アーティストの作品を、チームでキュレーションする試みだ。

SPICEでは、学生キュレーターの内海潤也さん(東京藝術大学)、高橋和佳奈さん(筑波大学)、内藤和音さん(多摩美術大学)、森本真梨子さん(女子美術大学)に、話を訊いた。この4名の他、武蔵野美術大学より金真希さんと森野大地さんが参加。さらに、東京造形大学の作品も展示される。

※以下、敬称略。

『スイッチルーム』テーマについて (オフィシャル資料・コンセプト文より)
本展「スイッチルーム」は、東京を中心に点在する未来の文化の担い手たちを、横断的に繋ぎ合わせ、新たな輝きを創り出す試みです。「Switch Room」とWEB検索すると、企業などの大きなビルの電源や機械を統括する部屋が出てきます。一方、「スイッチルーム」と検索すると、渋谷の商業施設のためにデザインされたトイレが出てきます。「ON/ OFFを切り替えられるような世界一のトイレ」を目指し作られた多機能なこのスイッチルームは、日本の(トイレ)文化がガラパゴス的に進化してきた象徴であるとともに、和製英語という、世界とのつながりの中で生まれてきた日本独特の表現とも言えるでしょう。本展では、6人の学生のキュレーションがスイッチとなり、現在の日本の芸術教育環境から生まれたばかりの12人の独創的な作品から、新しい表現の回路を生み出します。

 

12人の学生アーティスト×6人の学生キュレーター

(左から)内海潤也、森本真梨子

(左から)内海潤也、森本真梨子

――アートフェア東京2018での『スイッチルーム』の開幕へ向け、準備は順調ですか?

高橋:順調です。場所も時間も集まるのは大変ですが、楽しくやっています。

内藤:6校がチームで展覧会に取り組むと聞いた時は、単独でキュレーションするより何倍も大変かもしれないと、一瞬参加を迷ったくらいですが(笑)、結構うまくまとまっています。

――『スイッチルーム』という展覧会タイトルは、皆さんが出したアイデアの中から採用されたそうですね。コンセプト文にある、日本の芸術教育環境と日本のトイレに共通する“ガラパゴス的な進化”について、お話を伺えますか? 

内海:僕は藝大で国内外のアーティストと接してきました。1年間のイギリス留学も経験し、ヨーロッパと日本では、芸術教育をとりまく環境が違うことを意識するようになりました。たとえば日本の美術大学では、作品のコンセプトを言語化しなくても許され、アート市場でのポジション取りなども意識せず、制作に集中できる側面がある。そのような環境だからこそ生まれる、独創的な表現が日本にはあります。同じように日本独自の進化を続ける文化を考えた時、トイレが思い浮かびました。

――訪日外国人の方が日本のトイレに驚いたり、ウォシュレットマシンをお土産に買って帰る話は、しばしば耳にします。

内海:人間の生活における根本的な活動にもかかわらず、文化によって大きな違いが出るのは、面白いことだと感じました。そんな中で、気分転換できる世界一のトイレ「スイッチルーム」の存在を知り、展覧会のタイトルに反映させました。

芸術系6大学、横のつながりから広がる景色

塩出麻美(東京芸術大学)《匣人物 5》2017年

塩出麻美(東京芸術大学)《匣人物 5》2017年

――6校が集まったことで、大学ごとのカラーを感じる場面はありましたか?

高橋:キュレーションに違いを感じることはありませんが、アーティストや作品には、それぞれの大学のカラーが強く出ましたね。

森本:私は皆さんの学校の候補作をみて、まず作品のサイズ(大きさ)に驚きました。それにバラエティ豊かで、広がりがあり新鮮に感じました。

内藤:たとえば多摩美からは平面系の作品が多かったのですが、他の学校の候補には、映像系や服飾など、扱うメディアも様々です。芸術系大学というひとつの世界の中の、横の広がりを感じました。

坂本有希(筑波大学)《Euphe mi sm》2017年

坂本有希(筑波大学)《Euphe mi sm》2017年

――芸術系大学同士、意外と接点が多くはないのですね。

森本:私は地域社会をアートでつなぐイベントをしていたので、地域の方々と接する機会はありました。でも、たしかに他の学校の方々との取り組みはこれが初めてです。なので、教授から「参加してみる?」と声をかけられたときは、なぜ自分なのだろうとも思いましたが、参加してみて良かったです。

――ここまでの準備で、大変だったことは何ですか?

内藤:展示に関しては、スペースの広さや作品のサイズ、相性など、決まった条件下の組み合わせから入るので、ある程度スムーズに決まりましたね。まずは印象で作品を並べ、目線の動きに負担がないか、意図していない意味合いが出ていないかなどを調整します。準備の中で時間がかかったのは、パソコンに会場の平面図と、縮尺を合わせた作品の画像を取り込む作業だったかもしれません(笑)

高橋:個人的に印象的だったのは、参加アーティストを決める時です。「書」を入れるかどうかで様々な意見がありました。私の学校(筑波大)には書の領域があるため、「書は芸術」という共通認識があります。でも一般的には、必ずしもそうではないんです。

椎名正悟(筑波大学)《四季》2017年

椎名正悟(筑波大学)《四季》2017年

――6大学のチームだからこその気づきですね。最終的に、書(椎名正悟さん)は採用されましたが、その決め手は?
 
高橋:ひとつには、運営サイドの方々が肯定的なアドバイスをくださったこと。あとは、話し合いの場が、藝大さんの会議室だったことも良かったのかもしれません。

内藤:会議室の壁に、書がかかっていたんです(笑)

内海:それが藝大の元学長・宮田亮平さん(現・文化庁長官)の作品で、「これを芸術とみなさず、何を芸術とする!」みたいな(一同、笑)

村松大毅(東京藝術大学)《ここは海抜》2017年

村松大毅(東京藝術大学)《ここは海抜》2017年

次世代キュレーターたちの目線の先

(左から)内藤和音、高橋和佳奈

(左から)内藤和音、高橋和佳奈

――どんな方に『スイッチルーム』を観ていただきたいですか?

高橋:アートフェア東京は、日本中のアートに関心がある方、世界中のアート市場に関わる方々がいらっしゃる場です。各国の方々に観ていただきたいので、キャプションもコンセプト文も、すべて日英のバイリンガルで用意しました。『プロジェクツ』や『パンゲア・テクトニクス』と並ぶ位置に『スイッチルーム』があることにも、各国への発信の場として意義を感じます。

――やはり世界への発信は大事ですか? ガラパゴスの道を究めるだけではだめですか?

内海:「ガラパゴス」という言葉は、ドメスティックに進化したものが、外の文化と接した時にはじめて成り立ちます。それに加えて重要なのは、世界に日本の作品が出た時に、感性レベルの共感だけでなく、その作品が日本のどのような土壌で生まれ、どのような文脈に位置づけられているかまで、理解してもらえるようになることだと考えています。

アートフェア東京のディレクター・墨屋宏明さんもお話されていたのですが、日本には素晴らしい伝統文化があり、今現代にも、日本独自のアート・シーンがあります。でも、未来のための歴史を今から創っていかないと、100年後、現在のアート・シーンは歴史として残らず、いつまでたっても「日本が誇る文化=ひと時代飛ばした、何百年前の伝統文化」のままです。

僕が藝大で指導いただいた長谷川祐子先生は、まさに、今の日本のアートを形にして、グループ展として世界に見せていく取り組みをされています。それがキュレーターの役割だとも考えています。今回のアートフェア東京2018での僕らの挑戦はまだ始まったばかりですが、同じ意味合いの“スイッチ”になればと思います。

 学生キュレーターと学生アーティストたち

学生キュレーターと学生アーティストたち

学生と思わずに観てほしい

インタビューの最後、来場者にはどんな感想を持ってほしいかを尋ねたところ、4人は「作品に対しては『学生の』と思わずに観てほしい」と口をそろえた。

だからこそ、この記事を読んでくださった方には、この記事の内容をすっかり忘れ、アートフェア東京2018に足を運んでほしい。そして「これがあの、次世代キュレーターたちの!?」と、後から気づいて驚いてほしい。アートフェア東京2018『Future Artists Tokyo—スイッチルーム—』は、3月8日(木)開幕。一般公開は、3月9日(金)〜11日(日)まで。

イベント情報

アートフェア東京2018 

開催日程:2018年3月8日(木)〜3月11日(日)
     4日間 (最終入場は各日終了30分前)(※3月8日は招待制)
会場:東京国際フォーラム ホールE & ロビーギャラリー(東京都千代田区丸の内3-5-1)
ホームページ:http://artfairtokyo.com

※関連イベントの詳細は下記をご参照ください。
ART in PARK HOTEL TOKYO 2018:https://www.aipht.artosaka.jp
3331 ART FAIR 2018:http://artfair.3331.jp
Asian Art Award 2018 Supported by Warehouse TERRADA ファイナリスト展:http://asianartaward.com 
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