MONO『隣の芝生も。』全国ツアー直前! 土田英生にインタビュー
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MONO主宰で、『隣の芝生も。』作・演出・出演を務める土田英生。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)
「“ザ・ドラマ” “ザ・エンターテインメント”という感じの作品です」
4月から放映される、岩田剛典主演のTVドラマ『崖っぷちホテル!』(NTV)の脚本を担当することが発表された、京都の劇団「MONO」主宰の土田英生。タイミングよく? そのドラマに先駆けて、作・演出を手がける新作『隣の芝生も。』が、3~4月に全国5ヶ所で上演される。古い雑居ビルで隣同士となった2つの会社で展開される、2つの対照的な物語を見せていくコメディになるそうだ。テンポの良いおかしな会話の中から、社会への風刺や警鐘をさり気なく浮かび上がらせるのが土田の得意技だが、今回はちょっと違った世界となるそうで……? その気になる内容を探るべく、土田にインタビューを試みた。
■日常のすぐ隣で、非日常なことが起こってるという有り様を示したい
──土田さんの作品は……ここ最近だと『裸に勾玉』は現在の同調圧力の強まりを、『ハテノウタ』は社会の動きに流されることへの警告を匂わせるなど、笑いが絶えない会話の中に、巧みに現代社会のメタファーを描いていくのが特徴です。今回もまた、何か大きな社会的なテーマがあるのではないかと思うのですが。
特にここ何年かはそんな風に、僕が社会に対して疑問に思っていることを話の軸にしてきてたんですけど、今回はちょっとそういうことを忘れて、純粋にエンターテインメントを作ろうという所から始まりました。元ヤクザが始めた探偵事務所と、若い子たちが始めたおしゃれなスタンプを売ってるお店が隣同士にあって、その2つの話が別々に始まって、だんだん一つの話になるという構造です。探偵事務所の方はMONOのメンバーで、スタンプ屋の方は今回ゲストで参加する、若い5人の俳優が演じます。
──「私以外幸せそうだ」というキャッチから、てっきり今の不寛容な社会の風刺をするのかなあと思い込んでいたのですが。
いや、書き出す時はそういうイメージだったんですよ。この言葉はあまり好きじゃないんですけど……いわゆる「ネトウヨ」と呼ばれる人の存在や、不倫を不必要なほど叩く傾向って、すべて結局妬みの集積だと思うんです。みんな自分の不幸やイライラを、何か恵まれてそうな人にぶつけて満足している。というのが、物語に反映されるかなあと思って書いていたら、昭和のベタなヤクザ映画と寅さんが合わさったような、何のメタファーもない話になりました(笑)。あまりにもベタな人情話になってきているので、変な話ですけど、逆に「何かメタファーとか格言を入れなきゃ」と思ってます、今。
MONO前回公演『ハテノウタ』より。若さを保つ薬がポピュラーになった近未来という設定の下で、元同級生たちの人間模様を描き出した。 [撮影]井上嘉和
──確かに最近のMONOは、割と王道のコメディっぽい『約三十の嘘』のような話は、最近ご無沙汰でしたね。
『崖っぷちホテル!』と同時期に書いてたから、そうなったのかもしれないですね。テレビドラマを書く時って、あまりメタファーとか考えないので、それと同じ思考回路で書いてたような気がします。あともともと今回の話のヒントにしたのは、ウディ・アレンの『ウディ・アレンの重罪と軽罪』という映画なんです。それはほのかな恋愛をする男と、不倫の末に愛人を殺す男の話が同時並行で語られて、最後にその2人が「人の罪って何だろう?」という会話をして終わる。それと同じように、大きな話と小さな話が同時進行で語られて、それが最後に出会うという作りがいいなあと思いました。
──確かに「元ヤクザの探偵事務所」っていうだけで、何か大げさなドラマが起こるべくして起こるという感じがしますし。
ですよね。元ヤクザの方は、社長である元組長がまだ命を狙われているらしいという話があって、スタンプ屋の方では、社員の一人が「自分はなぜ目立たないのか」などの小さなことで悩んでるという。その2つの日常を対比させつつ、融合させていくという感じです。あともう一つモチーフにしたのが、何年か前に脱税か何かをした会社があって。その家宅捜索の様子がTVのニュースで流れた時に、その会社のドアノブの所に「ここは強く引っ張りすぎないでね」って、すごく可愛い絵が貼ってあったのを見たんですよ。何か巨悪のように報じられてる会社にも、社員が「○○さん、こんな注意書きのイラスト描いてくれる?」ってお願いする、みたいな日常があったんだなあと。元ヤクザの会社を舞台の一つにしたのは、それがずっと頭にあったからですね。ヤクザだって多分、日常がずっと『アウトレイジ』みたいなわけじゃないだろうと。一方でスタンプ屋の方は、そんな生き死にが絡むような話が、自分たちのすぐ隣で繰り広げられてることに気づかずに生きているという。そういうどこの世界にもありそうな、隣り合わせの日常と非日常の有様を示したいという思いは、今回あるかもしれません。
──そういえば『錦鯉』でも、MONOメンバー全員が元ヤクザを演じてましたが、あのスピンオフみたいな感じなんですか?
ということは全然ないんですけど、確かに設定は似てますね。本当かどうかはわからないですけど、(ヨーロッパ企画の)上田誠君から「脚本で苦労している時、思わず『錦鯉』を読み直しましたよ」と言われたのが、嬉しかったからかもしれないです(笑)。
土田英生(MONO)
■新しいことよりも、強靭なドラマを作ることをモチベーションにしたい
──昨年『きゅうりの花』の会見の時に「劇団☆新感線の『髑髏城の七人』を観て、ケレンを付けたいと思った」と語ってましたが、今回ケレンはあるんですか?
今回MONOでは初めて、舞台美術に盆(回転舞台)を使うのが、僕にとってケレンです。(『髑髏城の七人』をやっている)[IHIステージアラウンド東京]ほどじゃないけど、舞台回るんやでって(笑)。でもそれって、2つの事務所が裏表にあって、幕ごとに回して転換するだけなんで、その仕掛け自体が面白いってわけじゃないんです。でも僕が今思っているのは、最近演劇の構造自体を疑うような実験的な芝居が増えてますけど、僕はやっぱり演劇の原初的な喜びを大事にしたいなあと。たとえば僕は大学の時に、プロの劇団の芝居を観に行って何に感動したかと言ったら、舞台になってるアパートの水道から水が出ることだったんです。「うわっ、本当の部屋みたい!」って。今回の舞台の転換は、演劇としてはすごくわかりやすくて普通のことですけど、それでも30秒ぐらい劇場が暗くなって、次に明かりが点いたらまったく違う舞台が現れる。それはやっぱりお客さんにとって、だまし絵を観た時のような喜びがあるんじゃないかと思うんです。脚本の方も同じ。「新しいことを思いついたよ」というのをモチベーションにするんじゃなくて、キチンとした強靭なドラマを作りたいと、最近は特に思っています。
──たしかに今現在は……最近ドラマに戻る傾向が出てきてはいますが、やはり「新しいことを思いついたよ」という感じの演劇に、まだ注目が集まってる気がしますね。
そういう芝居も確かに面白いんですけど、「何でみんな、普通にドラマを作らなくなったんだろう?」とも思うんですよね。だから僕は逆に、今まで以上にベタな内容の「ザ・ドラマ」を書こうと思ってます。ポストドラマから一周回って戻ってきて、ドラマだという……「ポスト・ポストドラマ」です(笑)。
MONO『隣の芝生も。』イメージ写真。
──新しいムーブメントの宣言が(笑)。
でも僕最近、戯曲賞の審査で人の戯曲を読む機会が多いんですけど、やっぱり一周回ったドラマって、戯曲としては稚拙でも、読んでて面白いんですよ。それってやっぱり、作者がそれを自覚してるかどうかですね。ベタなドラマを、本当に「いい話でしょ?」って気持ちだけで書いてたら、面白くならない気がするんです。「このベタな展開がいかに陳腐か」ということをわかって、あえて陳腐なものを書いたら、また違う陳腐が生まれるんじゃないかと。それを今回、自覚的にやろうと思っています。そこは役者もわかっているのか、あえて大げさな感じの芝居をしてくれてますね。特にヤクザ側の方は「『アウトレイジ』みたいにやって」って演出しています(笑)。むしろスタンプ屋チームの方が、普段のMONOっぽい世界です。
──若者チームの5人は、昨年上演したmonospecial.com/" target="_blank">『怠惰なマネキン』の出演メンバーが、そのままゲストで出てますね。
実は今回の公演自体、この5人に出てもらうことありきという所があります。最近若い俳優をずっとゲストで呼んでるんですけど、今回は僕の中ではちょっとニュアンスが違ってて、これをきっかけに劇団自体に変化が起こるんじゃないかという気がしています。
──2つの違う世代を一つの舞台に乗せた時に、何か差異を感じたりしますか?
僕はすごくテンポアップして、何なら無個性に見えてくるぐらいの感じで会話を回すのが、もともと好きなんですよ。でも最近のMONOのメンバーは、長くやってるとそれなりに人間の味わいが出てきて、演技にも色が付いてきて。それで獲得したものもあるんですけど、同時に僕が失ったものもあるんです。そうすると若い子たちの方が、昔のMONOに近いことができるんで、僕にとってそれが正直面白い。どっちが正しいというのはないんですけど、その両方の良さが加わるといいなと思います。今の所……こう言い切っちゃうのも怖いんですけど「ザ・エンターテインメント」みたいになってる気はしますね。ベタに笑えることをやってるけど、最後は割と切ないという。
土田英生(MONO)
──「笑って泣ける」という、陳腐すぎてあまり宣伝に使いたくないキャッチを使いたくなるような(笑)。
そうですね、僕も使いたくない(一同笑)。ただ僕はもともと、カクスコみたいな気持ちよく笑える会話劇がしたかったんですよね。でも周りの作家が戯曲賞とかを取って、彼らに負けたくないという気持ちで、一生懸命文学的なものを入れてたと思うんです。それも嫌いじゃないんですよ? でも今は、演劇の世界で新たに何かを認められることよりも、お客さんに認められて、長くこの世界でやっていきたいという思いが一番強い。そうすると自分に刺激を与える新しいことと同時に、本来大事にしていたことも、常に大事にしようと思っています。
──やりたいことをやりつつ、若い俳優などの新しい風を入れて、長くやっていくのが今後の目標だと。
でもこれが難しいのは、完全に「今が幸せでいいや」ってなっちゃうと廃れる一方だと思うので、ちょっとはカリカリしようと……「今はTHE ROB CARLTONが人気だよ」と言われたら、少しはモヤ~ッとしますし(笑)。でもそれを妬むんじゃなくて「じゃあ、俺も頑張ろう」って思えるようになったのが大きいし、そのバランスは大事にしておきたいです。
土田英生(MONO)
取材・文=吉永美和子
公演情報
■日時:2018年3月10日(土)・11日(日)
■会場:愛知県芸術劇場 小ホール
※11日公演終演後、トークイベントを開催
■日時:2018年3月15日(木)~21日(水・祝)
■会場:座・高円寺1
※16日&20日公演終演後、トークイベントを開催
■日時:2018年3月23日(金)~27日(火)
■会場:ABCホール
※24日夜公演&26日公演終演後、トークイベントを開催
■日時:2018年4月1日(日)
■会場:四日市地域総合会館 あさけプラザ
■日時:2018年4月7日(土)・8日(日)
■会場:北九州芸術劇場 小劇場
※7日夜公演終演後、トークイベントを開催
■出演:水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博/石丸奈菜美、大村わたる、高橋明日香、立川茜、渡辺啓太