写真家・都築響一とアミューズミュージアムがコラボ 『美しいぼろ布展~都築響一が見たBORO~』
『美しいぼろ布展~都築響一が見たBORO~』が、2018年3月30日(金)~2019年3月31日(日)まで、東京・浅草のアミューズミュージアムで開催される。
アミューズミュージアムでは、民俗学者・田中忠三郎が収集保存した、江戸時代~昭和初期の農民が着用していた継ぎはぎの衣類にアート性を見いだした『BORO展』の常設展示が続けられている。 本展覧会では、同館の開館年でもある2009年に 写真集『BORO つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化』を出版した写真家・都築響一が新たに撮り下ろした写真作品34点と、現物のBOROや古民具約1,500点を同一空間内に展示。美術館全体がひとつの大型インスタレーションとなっている。
粗末なぼろ布に表れた思いがけない美の世界。消費文化の対極のアートを鑑賞してみては。
都築響一コメント
都築響一
そんなに昔のことじゃない、たった数十年前まで貧しい農村といえば、人はまず東北をイメージした。本州のどん詰まり、東北の端っこの青森県で極貧の生活にあえいできた農民が生み出した、恐るべきテキスタイルの美学、それが“ぼろ”である。
民芸に詳しい人ならば、青森というと津軽のこぎん刺しや、南部の菱刺しを思い浮かべるだろう。雪国の女性たちによって伝えられてきたこぎんや菱刺しは、昭和初期の民芸運動に発見されて、一躍脚光を浴びるようになった。もっともっと肌に近いところで農民の日常のなかに生きてきた“ぼろ”は、いまだに顧みられることもなく、「貧しい東北を象徴するもの」として、恥ずかしさとともに葬り去られようとしている。
寒冷地である青森では綿花の栽培ができず(綿花の育つ北限は福島県あたりといわれている)、農漁民の日常衣料は麻を栽培して織った麻布だった。現在の青森県は江戸時代、津軽藩領と南部藩領に二分されていたが、どちらの藩においても絹織物は一部特権階級のものだったし、寒冷地であるにもかかわらず(青森市は全国の県庁所在地のうちで、もっとも積雪量の多い都市である)、藩政時代を通じて農民が木綿を着用することを禁じていた。
したがって田畑での作業着から、赤ん坊のおしめ、長い冬の夜を過ごす布団まで、農民の身につけるものはすべて、麻布のみで賄う時代が長く続いたのである。1枚の麻布で寒すぎれば、何枚でも重ねていく。枚数を重ねれば防寒性が増すし、糸を刺していけば丈夫になる。傷んで穴が空けば小布でつくろい、また布と布のあいだに麻屑を入れて温かくする。そうした厳しい生活環境から生まれたサバイバルのかたち、それがこぎんであり菱刺しであり、ぼろなのだ。
ここに紹介するのは東北地方でほとんどただひとり、昭和40年代から青森県内の山・農・漁村を歩き回り、“ぼろ”とひとまとめに呼ばれる、布と人との愛のあかしを探し求め、保存してきた田中忠三郎さんのコレクションである。
そっくり復刻して、フランス語かイタリア語のタグと高い値段をつければ、そのままハイファッションになるにちがいない、完璧な完成度。それが民芸や現代のキルト、パッチワーク作家のように、きれいなものを作りたくて作ったのではなくて、そのときあるものをなんでもいいから重ねていって、少しでも温かく、丈夫にしたいという切実な欲求だけから生まれた、その純度。
優れたアウトサイダー・アートが職業現代美術作家に与えるショックのように、雪国の貧農が生んだ“ぼろ”の思いがけない美の世界は、ファッション・デザインに関わるすべての人間に根源的な問いを突きつけ、目を背けることを許さない。
『BORO つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化』(アスペクト・2009年刊)より
イベント情報
会 期:2018年3月30日(金)~2019年3月31日(日) *毎週月曜休館(祝日の場合は翌火曜休館)
開館時間:10:00~18:00(最終入館は17:30)
入 館 料:一般1,080円/大・高生864円/中・小学生540円/未就学児童無料/一般団体料金864円(15名以上) [全て税込金額]
会 場:「布文化と浮世絵の美術館」アミューズミュージアム(東京都台東区浅草2-34-3)