大衆演劇の入り口から[其之三十] 13歳、未来の座長!親子が歩んできた道とは?「優木劇団」登場
左・優木直弥花形 右・優木誠座長
優木(ゆうき)劇団は父と子の劇団だ。座長である優木誠(ゆうき・まこと)さん。花形はその息子、優木直弥(ゆうき・なおや)さん。4月1日に13歳の誕生日を迎えたばかり。
ライターが誠座長・直弥花形の親子にふと魅せられたのは、昨年9月の大阪でのゲスト出演時だ。芝居の中に住んでいる人がひょっこり現れたような風情が心に焼きついた。
親子はどんな役者人生を送ってきたのだろう。
誠座長の温かな芸風。そのルーツは、師匠である都城太郎(みやこ・じょうたろう)さん(現・都若丸劇団キャプテン)にあるのだろうか? そしてまだ中学生の直弥さんの、役の気持ちをていねいに汲んだ芝居。大物役者の兆しじゃないだろうか?
2人のことが知りたくなった。3月末、優木劇団初の単独公演が行われていた、青森県の深浦観光ホテルへ伺った。
「よろしくお願いします」
とニッコリする誠座長、横にちょこんと座る直弥さん。ほのぼのした空気が広がった。
母がおっかけファンで
2018年3月、青森・深浦観光ホテルでの優木劇団公演。中央で踊る誠座長。
――優木劇団を知らない方にも、この記事を通して知ってほしいと思っています。なので、まず座長の経歴から教えてください。
座長 俺は、都城太郎キャプテンの一番弟子になるんよね。俺が15歳で都劇団に入ったときは、俺以外に若い男の子がいなかったから。もともと、うちの母親がおっかけファンで、小学校の3、4年生くらいのときから浪速クラブとかオーエス劇場とかあちこちの劇場に、一緒に連れて行かれて…。中学を卒業する歳になって就職なのか進学なのかって頃に、劇団来ればいいやん!っていう話があって、それでこの世界に入った。
――座長のお芝居はジワ~ッと味があるというか……本当にその時代の人が出てきたような?!感じを受けるんです。
座長 はは(笑)。
――それでいて、舞台に立っている姿が、どこか明るい。師匠である城太郎さんに由来するものなのでしょうか?
座長 そうやね、師匠に似ているって言われるのは、どちらかというと明るめの芝居をやってるときやね。踊りでもにぎやかな踊り、たとえば扇子持ってテンポ速いのを踊ってるときのほうが似てるって言われるね。うちの師匠は踊りながらでもニコッと笑顔を見せるタイプやから。俺が都にいたときは若(現・若丸座長)の時代になる前で、師匠の弟子の男の子が10人ぐらいおって、竜ちゃん(宝海竜也さん)、今の副座長の剛、俺の従兄弟、他にもたくさん。その中でも俺は師匠に似てるって言われよったなぁ……。でもその後、どの劇団に行っても、良いなって思うところは吸収しようとしてきたかな。
誠座長の描線はパッと明るい。
女形はしっとりとした味わい。
「うちに出てもらってええかな?」
――最初に城太郎さんのところにいらして、その後のことを教えてください。もし喋りづらい箇所があれば省いていただいてかまいませんので……。
座長 いや、全部喋れるよ。何も悪いことしてないもん(笑) !
――すみません、インタビューさせていただく人によっては時折グレーな歴史もあるので、不要な配慮をしてしまいました(笑)。
座長 2年ぐらいは、いろんな劇団を数日とか数か月とかの期間で手伝わせてもらってた。たとえば都を出て半年ほどした頃に行ったのが、今の劇団炎舞のボス、橘魅乃瑠(たちばな・みのる)さんのところ。メンバーのあきらと橘広人(ひろと)は、俺と同い年で友達やったしね。俺の目の前で魅乃瑠さんが城太郎先生に電話して、「誠くん来とるんやけど、うちも今とんぼ(現・炎鷹座長)がいなくて困っとるから出てもらってええかな?」って話をしてくれて、15日間だけ行かせてもらった。森川竜二(もりかわ・りゅうじ9さんのところも、鈴成り座のこけら落としのときに行ったよ。だから鈴成りの一番のゲストは俺やったんよね。
――昔からのつながりがたくさんあるんですね。
座長 他にもいろいろな座長さんに声をかけてもらって、あちこち。その中で見海堂(みかいどう)劇団にお手伝いに行った。ここには結局12年ぐらいいたかな。
――12年!
座長 今、代表になってる見海堂駿(しゅん)さんが座長で、俺が副座長やった。
――座長のことを調べていたら、2009年の新潟公演のポスターには座・笑泰夢(ざ・しょうたいむ)の「座長 優木誠」とあったのですが……。
座長 懐かしいねぇ。その頃は見海堂駿&座・笑泰夢っていう形で、駿さんが総座長、大和城二さんと俺がダブル座長の体制になってたんよね。直(なお)は3歳で、もう舞台に出とって、一人では踊ってないけど相舞踊は踊ってたな。
――「座長 優木誠」の背中を見て、直弥さんは育ったんですね。では花形にも話を伺います!
2歳のマイクボーイ「専務直弥」
舞台から降りてきて、客席を沸かせる直弥花形。
――直弥さんが子役として舞台に出始めたのはいつぐらいからですか?
花形 2歳くらいで、マイク持って口上に出てました。軽く覚えてる程度の記憶ですけど……(笑)。
座長 マイクボーイやったんよね。ちょび髭描いてスーツ着せたら、「専務」が愛称になって、それで「専務直弥」って芸名を付けたんよ。
――直弥さんが生まれたときから、正直、役者になってほしいと思われていたんでしょぅか?
座長 いや、そこは無理にやらせる気はなかったねぇ。
――直弥さん自身は、小さい頃から舞台が好きだなって感じられていたんですか。
花形 そうですね……。というか、それしか知らないというか。これが普通みたいな感じなんです。物心ついたときにはもう舞台出てましたし、苦でもないし。小さいときは辛いことも何もなくて、お客様も舞台に出たらワーッて沸いてくれるし、あ、これいいなって(笑)。
――一番古い舞台の記憶は何ですか?
花形 何だろうな……。ぐちゃぐちゃなんで分からないですね、どれが最初でどれが後か。
座長 『子連れ狼』の大五郎ちゃう?
花形 あれは5歳くらいかな。大五郎カットのためにバリカンで丸刈りにされて……。めっちゃ恥ずかしくて。
座長 学校上がる前やね。俺が拝一刀をやって、直を補助輪ついた自転車に乗せて、周りをぐるぐるぐるぐる走らせて……。
――かわいいですね! 学校に上がってからは転校が多いと思いますが、友達とかはすぐにつくれるほうですか。
花形 そうですね。
――クラスの友達が観に来たりすると、お芝居を演じるのは恥ずかしかったりします?
花形 まぁ、ちょっとは(笑)。
座長 あんまり人見知りはしないほうやけど、 (花形のほうを向いて)けっこう照れ屋さんやからね。
花形 それは初めて知った(笑)。
――昨年11月は、若丸一門 劇団時遊(じゆう)さんにお二人揃って出演されていました。時遊さんには同じ10代の役者さんもいらっしゃいましたが、同世代の役者さんと交流するのは楽しいですか。
花形 そうですね、仕事の話もするし、仕事以外だとゲームの話とか、あれ観た?とかの話もするし。
あどけない顔から発された「仕事」という言葉にドキリとさせられた。舞台は真剣な仕事場だ。
「役」になること
――直弥さんが、正直この年齢で、サラッと細かい芝居をされることに驚いています…。たとえば芝居『身代わり孝行』で、直弥さん演じる長吉が父の待つ家に帰って来るシーン。自宅の戸を開ける寸前にふっと嬉しそうな笑顔を浮かべますね。その表情から、長吉と父の間に良い関係が築かれつつあるんだなって、行間が想像できます。こういった役への向き合い方は、座長の指導の賜物なんでしょうか。
座長 何も特別なことはないかなぁ……。その場面も、仕事から家に帰ってきたらホッと一息ついて笑顔になるっていう普通の気持ちかな。
――そういう風に、役が体から抜けないのがすごいと思うんですが…。直弥さんご自身は、面白い役とかかっこいい役とか、好きな役はありますか?
花形 僕が知らない芝居もいっぱいあると思うので、今は何でもやってみたいです。でも、命乞いするような役はあんまり好きじゃないですね(笑)。『待ってくれ~』とか言う役は……。
座長 やっぱり強い役がいいのかな(笑)。
これから色々な役を身につけていく。
花形 ただ、僕が強い役やってもあんまり貫禄ないって言われるんですよね…。
――背はまだ伸びてますか?
花形 なんとか!
――いっぱい伸びるといいですね!座長も、10代の頃は強い役がお好きだったんですか?
座長 そうだねぇ……俺も芝居が楽しくなってきたのは、やっぱり入団から3年ぐらい経って自分がちょっとずつ大きい役をやらせてもらうようになってからかな。もらえる役も、弱々しい若旦那みたいな、バカボンみたいな役から、シャキッとした役に変わってくる頃だからね。
ひらがなで書いた夢「ざちょう」
口上挨拶をする誠座長の横で、グッズを掲げる直弥花形。
――優木劇団を2016年7月に旗揚げされました。
座長 そう、7月28日やった。あの日はね、嬉しかったよね。
――その日、誠座長はすごく涙されていたと聞きました……。
花形 僕は嬉しいのもあったんですけど、緊張して。
座長 いっぱいいっぱいやったよね。
――旗揚げのきっかけは、直弥さんが将来座長になるとおっしゃったからなんですよね。直弥さんからお父さんに「将来座長になります」って話をしたんですか?
花形 そんなきちんと直接言ってないです(笑)。
座長 お客さんや周りに「将来大きくなったらどうするの?」って聞かれたら、「お父さんみたいに座長になります」って答えとったからね。
花形 僕が物心ついたときには、お父さんが(座・笑泰夢の)座長だったので。実際には僕が生まれたときには(見海堂劇団の)副座長だったんですけど、でも記憶にあるのは座長だった姿なんですよね。
――ほかの職業とは迷わなかったんですか。
花形 迷わなかったですね。小学校で将来の夢を書くときも、漢字が分からずひらがなで「ざちょう」って書いてました。
――今後の構想として、いつぐらいに直弥さんが座長襲名と考えているんでしょうか。
座長 う~ん、18歳ぐらいかな……。まだ5年ぐらいはかかるかなぁ、て。舞台に出てやってることはやってるんやけど、芝居でもまだ少し直すところがあるし…。舞台以外のことでも、もっと周りに気が付かないかんところがいっぱいあると思うし。
――成長にますます期待です。4月1日で13歳、4月から中学2年生になりますね。
花形 あ、そうか……早い(笑)。もうすぐ1年生も終わりや。
――この記事を読んでお二人に興味を持たれた方に、どこに行けばお二人を観られるかをお知らせしたいのですが…。
座長 4月は大阪やね。4/10(火)・11(水)・12(木)は此花演劇館、4/19(木)・20(金)・21(土)は九条笑楽座に出させてもらいます。(直弥さんのほうを向いて)今後、お客様へのお知らせ用に優木劇団のホームページ作ってみたらどう?
花形:作る?どうやって?
座長:そんなんおじさんに聞いてもわからへんよ(笑)。まあ常に、どっかではきっと舞台に出てるはずや。
ゆったりした笑い声を残し、誠座長が立ち上がって楽屋へ向かう。直弥さんが並んでついていった。
大衆演劇ファンの皆様は、公演チラシやTwitterに「優木誠」「優木直弥」の名前を見かけたら……思い出してほしい。そこに長い芸歴を通して、温かな情感を持った名役者がいること。凛とした13歳、未来の座長がいること。
そして、舞台とともに生きてきた親子の周りに、何とも言えないやさしい空気が流れていることを。
4/10(火)・11(水)・12(木)
此花演劇館(劇団要)
九条笑楽座(南條光貴劇団)