渡辺玲子(ヴァイオリン)「演奏家の視点で、隠れたメッセージを紐解きます」

インタビュー
クラシック
2015.10.23
 ©Yuji Hori

©Yuji Hori

演奏家の視点で、隠れたメッセージを紐解きます

 世界的ヴァイオリニスト・渡辺玲子が、今秋からHakuju Hallでレクチャーコンサートを行う。これは、作品の解明と全曲の演奏を併せて楽しめる、知的刺激に富んだ公演だ。
「特任教授を務める秋田の国際教養大学においての音楽専攻以外の学生に向けた講義と、『青少年のためのレクチャー・コンサート』の経験を踏まえて、東京では“大人のために”新しい形のコンサートを開きたいと考えました」

 大きな特徴は、「演奏家だからこそ」の視点と実践だ。
「音楽に関する事柄は、本を読んでも真の理解が難しく、ただ聴くだけではスルーしてしまいます。そこで両方を合体し、ある曲のどこが大事で、それが何とどう結び付いているか? といったポイントを、実際に弾きながらレクチャーすれば、リアルな理解が得られ、全曲を聴いたときに深い部分が実感できるのではないかと思うのです」

 1つ具体例を挙げてもらおう。
「例えばブラームスのソナタ第1番『雨の歌』の第2楽章。ここに出てくる溜息のようなテーマや葬送行進曲は、彼自身の人生―親しい知人の死など― と結び付いている、ホルンに似た響きは自然を表わしている、ここはクララの思い出と関連する、またこの和音の移行はブラームスの重要な要素…といった具合に、音に込められたメッセージを読み解いていきます」

 10月のVol.1は、ベートーヴェンの「クロイツェル」ソナタと、前記のブラームスの「雨の歌」が軸となる。
「最初は皆さんが知りたいであろう作曲家、しかも重ねて比較しやすい二人にしました。『クロイツェル』は、ベートーヴェン自身『協奏曲のように』と記した作品で、ヴァイオリンとピアノが華やかな丁々発止を繰り広げます。これは当時の人々にとって衝撃的な音楽であり、今回はその衝撃の意味を解き明かします。『雨の歌』は、抒情的・内向的でブラームスの自然への愛が感じられる作品。中でも先述の第2楽章に含まれた音型によるメッセージは、とても興味深いと思います」

 さらには、国際的に活躍するピアニストの江口玲が、ピアノ曲であるベートーヴェンの「月光」ソナタ、ブラームスの「ラプソディ」の一部を披露するので、より立体的な理解が得られる。
「両ソナタを深く知るために、2曲と関連付けられるピアノ曲を挙げてもらいました。江口さんは作曲家でもあり、お話も得意。『クロイツェル』と同じ例が『月光』のこの部分にある…といった“急所”を、私とのやりとりも交えながら解説していただきます」

 このような公演を「音響が素晴らしく、サロンのように親密な距離感の」Hakuju Hallで聴けるのは稀なこと。音楽に一歩踏み込みたい方には、ぜひお勧めしたい。

取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年9月号から)
 
公演情報
渡辺玲子 プロデュース レクチャーコンサート 知る、聴く、喜び〜時代を彩る名曲とともに〜 vol.1

■日時:10/28(水)19:00
■会場:Hakuju Hall
■出演:渡辺玲子(ヴァイオリン)、江口玲(ピアノ)
■曲目:
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 「クロイツェル」op.47 
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 「月光」 op.27-2より 第1楽章 
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 「雨の歌」 op.78 
ブラームス:2つのラプソディ op.79より 第2番 ト短調
■問合せ:Hakuju Hallセンター03-5478-8700
■公式サイト:http://www.hakujuhall.jp

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