中村鶴松インタビュー『春暁特別公演』 勘九郎、七之助の背中を追いかけて
中村鶴松
「東京に歌舞伎を観に行けない」。そんな声を聞いて、中村勘九郎、中村七之助らが中心となり、中村屋一門が全国巡業する公演も今年で12年目を迎えた。2017年の「錦秋」への出演に続き、3月より始まった『春暁特別公演』では本格的に中村屋の看板を背負って巡業するのが、中村鶴松。中村勘三郎から「うちの息子になれ」と言われ、勘九郎、七之助の背中を追う三番目の息子として舞台に立つ。その鶴松に、全国を回る巡業公演の見所と意気込みを聞いた。
『春暁特別公演』全国12ヶ所を巡る!
ーー恒例の『春暁特別公演』は、中村屋にとってどんな位置づけの公演でしょうか?
わかりやすい演目が多く、歌舞伎初心者の方にも楽しんでいただけるような公演です。各地をまわるので、歌舞伎をあまり観る機会がない地域のお客様にも観ていただきたいですね。同時に、初めて歌舞伎をご覧になる方が僕たちの舞台を観て「歌舞伎ってやっぱり難しい」と思ってしまったら、歌舞伎から足が遠ざかってしまうというプレッシャーはあります。僕たち次第で歌舞伎を嫌いになる可能性もあるので、気が抜けないし、怖いですね。でも楽しいですよ。土地によってお客さんの反応も違いますし、食べ物も楽しめるし、巡業公演は大好きです。
ーー今回の巡業では3つの演目があります。『鶴亀』『浦島』『枕獅子』それぞれの見所は?
『鶴亀』は中村屋のお弟子さんたちが出演します。おめでたい演目で、僕も昔出たことがありますし、誰もが踊るような基礎的な演目です。ストーリー性があるわけではありませんが、男性や女性やいろんな役が出てくるし、派手なので、観やすいですね。演じるお弟子さんたちは今、死ぬ気で稽古していると思いますよ。普段はセリフを喋る機会があまりなく、彼らだけで一つの演目をやることはとても貴重な経験なので、すごく頑張ってお稽古をしています。
中村鶴松
ーー『浦島』の見所は?
おとぎ話の浦島太郎と同じなので、とっつきやすいのではないかな。勘九郎さんは若い青年の役から老人の役まで演じ分けます。歌舞伎は手の置く位置などのちょっとしたことで役柄や、年齢や、身分や、役職が変わります。早替り(趣を異にする複数の役を短時間のうちに扮装を替えて演じること)など見た目が変わる面白さもありますが、それ以上に勘九郎さんがどう演じ分けるのかを観ていただけたら。
ーー勘九郎さんが演じるならではの魅力はありますか?
勘九郎さんはお芝居も素敵ですが、踊りが本当に器用でうまい。踊りについては今生きている中で一番だと思っていますから、踊りについては勘九郎さんに教わります。ダイナミックだし、軸がしっかりしていて、しっかり下半身から筋が一本通っているのですごいです。
ーーでは、鶴松さんと七之助さんが出演される『枕獅子』の見所は?
これは『春興鏡獅子』という歌舞伎十八番の元にもなっているとても古い曲なので、歌舞伎役者にとって重要な演目です。実はこの『鏡獅子』は僕が今やりたい演目トップ3に入るものなので、この作品に出られることはすごく嬉しいですね。
ーー『枕獅子』で七之助さんが傾城(遊女)を演じますが、その魅力は?
七之助さんは、前半は綺麗な傾城(遊女)の役で美しく踊ります。七之助さんの踊りは勘九郎さんとは違っていて、女形ということもありますけれど、力を抜いてなめらかで、しなやかで、すべてが流れるような動きです。一方、勘九郎さんはダイナミックで体全部を動かして、手の先から全神経を行き渡らせている感じです。七之助さんもキビキビ踊れるんですよ。その基礎ができないと力を抜いた流れるような踊りはできません。ですから僕も女形として勉強中なんです。
ーー鶴松さんは『鏡獅子』の中で、禿(かむろ/遊女見習いの幼女)を演じますね。
禿を演じるのは久々です。少女に見えなければいけないので、どうやったら可愛く観えるかを日々研究しています。この舞台で同じく禿を演じる國久さんと息を合わせなければいけないのも楽しみです。片方が目立ってもいけないし、しっかり相談してちゃんとやっていきたい。國久さんは僕の父親より年上かもしれないので、稽古場では「なぜ息子と同じ年の子と同じ役を」なんて言っていましたね。稽古で見た目ははふつうのおじさんですけれど、きちんと拵え(こしらえ)をしたらきっと少女に見えると思いますよ! また、今回は人生で初めて「ぶっ返り」という歌舞伎独自の手法に挑戦するんです。化け物が本性を表すときに「ぶっ返り」をするんですけれども、人生初ですね。楽しみです。
中村鶴松
ーー鶴松さんと國久さんは禿から胡蝶へ、七之助さんの傾城は獅子へと「ぶっ返り」をするところは見所のひとつですね。
はい、3人同時に「ぶっ返り」をするので派手だと思います。3人同時はあまりないので、観ていて楽しいと思います。
ーーそして、勘九郎さんと七之助さんによるトーク、『芸談』もあると。
なかなか歌舞伎役者の赤裸々なトークを聞くことはないと思いますので、貴重な機会ではないでしょうか。場所によって司会の方が変わるので、トークの内容も毎回違います。僕たちも「そんなことを思っていたんだな」と面白く聞いています。また二人のお兄さんたちも話が上手いですから、楽しいですね。お二人はずっと一緒にいて、楽屋も一緒なのに、あの歳であんなに仲のいい兄弟がいてもいいのかなあと思うほど仲がいい。お兄さんたちだけでなく、中村屋全体でファミリーという感じで、これほど距離が近い歌舞伎の家はないかもしれません。お芝居のことに関してはとても厳しいですが、プライベートは分け隔てなく仲良くワイワイやっていることがチームワークの良さに繋がっていると思います。お父さん(勘三郎さん)がそういう方だったので、僕たちもオンオフがはっきりしていますね。
ーー年々、勘九郎さんはお父さんの勘三郎さんに似てきますね。
そうなんですよ。でも舞台では勘九郎さんが似ていますけど、プライベートは七之助さんがそっくりなんです。怒った時、お芝居の話をする時、お酒を飲んだ時、まったく勘三郎さんそのままで、怖いんですよ。お父さんに怒られているみたいです(笑)お二人ともお父さんを世界一の役者だと思っていますし、僕もそうです。目指すところは一緒だなと思います。
ーーそういった中村屋独自の雰囲気も『芸談』で垣間見られるのでしょうか?
そうですね、お弟子さんを呼んで一発芸があったりしますよ。僕は絶対出たくない……でも途中で呼ばれそうな気がします……。気配を消しとこう(笑)でもそんな気軽な感じですから、肩の力を抜いて観ていただきたいです。ふらっと寄ってみたという感じで劇場に来ていただければいいですね。わかりやすいし、歌舞伎座で観るよりお安いですし、初めての方にもおすすめです。僕たちは毎回死ぬ気で精一杯つとめますので、何かが伝わると嬉しいです。
中村鶴松
中村屋が演じる魅力
ーー全国をめぐる巡業公演は、鶴松さんにとってどのような公演ですか?
僕もお弟子さんも、東京ではできないような重要な役をやらせていただけるので勉強になります。やはりどれほど稽古するよりも舞台に出ることが一番なんです。毎回、すごく小さなことだけれど発見があるんです。たとえば、目線のあげ方のコツを掴んだり、自分が声を出しやすい高さが見つかったり、衣装の着方がマスターできたりといったことが少しずつ積み重なってきている。
お客さんの反応も正直ですね、怖いですけれど。良い時には良い反応が返ってくるし、反応が厳しい地域もありますし、喜んで拍手をくれる方もいます。土地によって客席の空気がまったく違うことも、巡業公演の面白さですね。ただ、劇場が毎回違うことは大変です。広さも花道の有無も違いまう。空間を意識して踊らなければいけないので、公演が始まる前に劇場をチェックして、移動に何歩かかるのか、どの位置で踊るのかなどを把握しています。でもあまりにいろんな場所で公演をするので、自分が今どこにいるのかわからなくなることもありますよ(笑)。
ーー公演だけでなく、その土地の方との出会いも楽しみですね。
ええ、終わった後の食事も楽しみですね。地元の人との触れ合いもありますし、勘九郎さんや七之助さんなどお兄さんたちといると声をかけてもらえることも多いです。「昨日観たよ」「今日観にいくよ」と言ってくださると、嬉しいですね。また、お手紙で「巡業を観に行くよ」とお伝えいただくこともとても多いんですよ。巡業するかいがありますね。
2005年に始まった『春暁特別公演』をここまで続けて来られたのはお兄さんたちの力ですし、僕ももっともっと成長してお客さんを呼べるようになりたい。お兄さんたちの存在がとても大きいのですが、その肩を借りっぱなしではいけないなと思います。
ーー今回はチラシでも、勘九郎さん、七之助さんと並んで鶴松さんのお写真が掲載されています。これからの中村屋を担う存在になっているのだと感じます。
プレッシャーはあります。勘三郎さんがいて、今、勘九郎さん、七之助さんがいる。僕もそこに続かなければいけない。僕が駄目だと中村屋すべてを汚すことになるので、荷が重いと感じることもあります。
ーーお兄さんお二人のどんなところに憧れますか?
たくさんありますね……。お二人はもちろん歌舞伎の家に生まれた歌舞伎俳優なんですけれど、歌舞伎の枠組みにとらわれない方たち。新作をやっているだけでなく、いろんな演劇を勉強しています。歌舞伎はもちろん芝居というものが心から好きな方々なので、新作をやることも古典に活かされている。リアルなところもうまく取り入れているなと思います。歌舞伎は形(かた)で演じてしまいがちですけれど、それをとても嫌がる方たちなので勉強になりますね。
ーー大学を卒業して歌舞伎俳優に専念した今、ご自身の中で変化はありますか?
まったく違いますね。学生という枠組みがある時は、学校にも行かないといけないという甘えが少しはあったと思います。でも今は毎月の稽古や公演を休みたくないですし、ずっと舞台に出ていたい。もう学生ではない、いち歌舞伎俳優として、今までよりももっと頑張らなければいけないと感じています。
ーー鶴松さんはじめ、中村屋さんの舞台を楽しみにしています。
ありがとうございます。今回の公演では、歌舞伎をよく観る方もあまり観ない方もぜひ来ていただいて、もっと歌舞伎を好きになってもらいたいです。そして、他の劇場や、歌舞伎座でも観てみたいなと思ってもらえると嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。
中村鶴松
取材・文=河野桃子
公演情報
春暁特別公演 2018
帝:中村小三郎
鶴:中村仲之助
鶴:中村仲四郎
亀:中村いてう
亀:中村仲助
従者:中村仲侍
浦島:中村勘九郎
傾城弥生後に獅子の精:中村七之助
禿ゆかり後に胡蝶:中村鶴松
禿たより後に胡蝶:澤村國久
【3月17日(土)】
さいたま市文化センター 大ホール(埼玉県)
開演 11:00/15:00
料金 S席8,500円 A席7,500円(税込)
お問い合わせ サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
なかのZERO 大ホール(東京都)
開演 11:30/15:30
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
お問い合わせ サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)(北海道)
開演 13:00/18:00
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
お問い合わせ TVhテレビ北海道 011-232-3337(平日10:00~17:00)
リンクステーションホール青森(青森市文化会館)(青森県)
開演 12:00/16:00
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:5,500円(税込)
お問い合わせ 青森朝日放送 017-762-1111(平日10:00~18:00)
山形市民会館 大ホール(山形県)
開演 11:30/15:30
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
お問い合わせ さくらんぼテレビ 0120-150-616
郡山市民文化センター 大ホール(福島県)
開演 12:00/16:00
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:6,500円(税込)
お問い合わせ テレビユー福島 024-531-5111(平日9:30~17:30)
とりぎん文化会館 梨花ホール(鳥取県)
開演 11:00/15:00
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:5,500円(税込)
お問い合わせ TSK山陰中央テレビ 0852-20-8888
とりぎん文化会館 0857-21-8700(9:00~22:00)
島根県民会館 大ホール(島根県)
開演 11:00/15:00
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:5,500円(税込)
お問い合わせ TSK山陰中央テレビ 0852-20-8888
山陰中央新報社 事業部 0852-32-3415
【3月31日(土)】
岡山市民会館 大ホール(岡山県)
開演 11:30/15:30
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:6,500円(税込)
お問い合わせ イオンモール岡山センター 086-941-8818(10:00~18:00)
JMSアステールプラザ 大ホール(広島県)
開演 11:00/15:00
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
お問い合わせ TSS事業部 082-253-1010(平日10:00~18:00)
ホルトホール大分 大ホール(大分県)
開演 11:00/15:00
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
お問い合わせ キョードー西日本 092-714-0159
鎌倉芸術館(神奈川県)
開演 12:00/16:00
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
お問い合わせ サンライズプロモーション東京 0570-00-333