水谷豊も来場!『プーシキン美術館展 旅するフランス風景画』レポート モネ《草上の昼食》など、印象派の誕生前後を辿る旅へ
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水谷豊
東京・上野の東京都美術館で2018年4月14日に開幕した、『プーシキン美術館展 旅するフランス風景画』。7月8日まで開催されている本展には、ロシア・モスクワのプーシキン美術館から日本初公開となるモネの《草上の昼食》をはじめ、17世紀から20世紀のフランス風景画65点が来日している。開幕前日には、本展のスペシャルサポーターを務める俳優の水谷豊も来場してプレス向け内覧会が行われた。その様子とともに本展の見どころを紹介しよう。
モネ、ルノワール、ピカソ、ゴーガン……、風景画の名画65作が来日!
プーシキン美術館は、1912年に創設されたロシア・モスクワの国立美術館である。この美術館は、エルミタージュ美術館などから移管された近代以前のヨーロッパ絵画と、ロシア革命以降に国有化された大富豪たちの個人コレクションを中心に構成。所蔵品の数は10万点以上と、世界屈指の規模を誇る。本展には、フランス絵画コレクションの中から17〜20世紀の風景画65点が来日。初来日となるモネの《草上の昼食》をはじめ、ミレー、ルノワール、ピサロ、セザンヌ、ピカソ、ゴーガンなどの絵画を通じて、印象派を軸に近代風景画の変遷を辿っていく。
クロード・モネ 《草上の昼食》 1866年 (C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow
東京都美術館の大橋奈都子学芸員は、本展の全体概要を解説した上で、「今回展示される作品の多くは20世紀に入る頃にパリからモスクワへ旅をしてきた作品で、本展ではそれらが日本に旅してくることになります。ぜひ皆様もフランスの空気を旅するようにお楽しみください」と述べた。
東京都美術館の大橋奈都子学芸員
印象派「以前」と「以後」を2部構成で辿る
印象派絵画を筆頭に日本でも人気の高い西洋風景画だが、中世ヨーロッパの絵画ヒエラルキーにおいて、風景画は神話画や宗教画、肖像画に次ぐ序列とされてきた。確固たるジャンルとして確立されたのは17世紀以降だったが、ロシアの収集家たちが早い頃から風景画の価値を認めたことが、数多くの名画がロシアに渡るきっかけになったという。
第1章の展示風景
大きく2部構成からなる本展は、フランス風景画の移り変わりを印象派の「以前」と「以後」に分けて紹介。時系列や地理的な広がりに沿って歴史を辿っていくという、とてもわかりやすい構成になっている。
第1部「風景画の展開-クロード・ロランからバルビゾン派まで」では、第1章「近代風景画の源流」と第2章「自然への賛美」というふたつの章が展開。ここではまず、17世紀に西洋風景画の先駆者的存在となったクロード・ロランやガスパール・デュゲらの作品に光があてられている。
クロード・ロラン《エウロぺの略奪》1655年 (C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
風景画の黎明期だった17世紀半ば。戸外で油彩画を描くことがほぼなかった時代に描かれた彼らの作品は、決して本物の風景をそのまま描いたものではない。それらは神話や聖書の舞台を題材としつつも、作者の中にある理想的な風景を描くことに関心が注がれていた。とりわけ、ロランの作品はイギリスで高く評価され、ウィリアム・ターナーら後世の風景画家にも影響を与えたという。
手前/ニコラ・アントワーヌ・トーネー 《アルカディアの牧人たち》 1804年頃 (C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
その後、風景画の先鞭になった18世紀の戦争画や雅宴画などの展示が続き、徐々に風景画がジャンルとして確立されていく流れを追っていく。そして19世紀前半のバルビゾン派の台頭により、風景画は「作者の理想的な風景」を描くものから「ありのままの風景」を描くものへと、その在り方が改めて定義されるのである。
ジュール・コワニエ/ジャック・レイモン・ブラスカサット 《牛のいる風景》 19世紀前半 (C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
なお、筆者が会場に足を踏み入れて感じたのは、「旅」を想起させる室内の色使いだ。場面ごとに移り変わる壁の色は、樹木のグリーン、太陽のオレンジ、大地の土色などのアースカラーが用いられ、描かれた世界が絵画の外まで広がっていくようにも感じられた。
若き日のモネの傑作《草上の昼食》を堪能する
第2部「印象派以後の風景画」では、主に印象派以後の風景画の移り変わりを4章立てで辿っていく。19世紀半ばに「パリ大改造」と呼ばれる都市整備によって大きく新しくなったパリの街は、画家たちにとって恰好のテーマになった。併せて鉄道網の発達とアメリカで発明されたチューブ入り絵の具の普及は画家を戸外へと繰り出させた。そうした時代の変化が印象派の幕開けへと繋がっていくわけだが、本展では数々の風景画や印象派絵画、その後に続くフォービスム絵画などを通じて古き良きパリ、ひいてはフランスの情景を知ることができる。
ジャン=フランソワ・ラファエリ《サン=ミシェル大通り》1890年代 (C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
各作品がパリのどこで描かれたのかを地図で解説
なかでも、やはり注目は初来日となるモネの《草上の昼食》だろう。この作品は、モネが印象派画家として名声を得る前の20代半ばに残したもので、パリ近郊のシャイイ=アン=ビエールでピクニックを楽しむ若者たちが描かれている。この日は本作を囲んで、東京大学の三浦篤教授によるギャラリートークが行われた。
本展に学術協力している東京大学の三浦篤教授がギャラリートークに登場
「モネといえば印象派の代表的な画家ですが、この絵は印象派の典型的な作品ではありません。ただ、これは初期のモネの傑作であると私は思っており、若き日のモネの大変野心的な作品と位置付けることができます」
初めにそう語った三浦教授。そして本作が貴重かつ斬新であった点として、「バルビゾン派も描かなかった近代パリの都市的生活を描いたこと」と「自然光の輝きを表現しようとしたこと」を挙げて、さらに次のように解説した。
「この作品は森の中のピクニック風景を写実的に描くというベクトルと、光や空気を印象派のような斬新な手法で描くというベクトルのちょうど中間にあります。別の言い方をすると『ここから印象派が始まった』という出発点のような絵で、モネ個人においても印象派の歴史的にも重要な作品なのです」
右/クロード・モネ《白い睡蓮》1899年 左/クロード・モネ《ジヴェルニーの積みわら》1884-1899年 (C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
なお、《草上の昼食》の隣の部屋には、モネの連作としてともに代表的なモチーフである「睡蓮」と「積みわら」が並べて展示されている。そのほかにも、ルノワール、ピサロ、セザンヌ、ゴーガン、ルソーらの作品が目白押しで見ごたえ十分。暖かな春の日に観る数々の風景画は、旅に出たくなる気分を運んできてくれるかのよう。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰》1876年 (C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
アンドレ・ドラン《港に並ぶヨット》1905年 (C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
旅の案内人・水谷豊「ルソーの絵に不思議なオーラを感じました」
この日は、本展のスペシャルサポーターで音声ガイドの「旅の案内人」も務めている俳優の水谷豊も来館。ひと足早く展示を鑑賞したという水谷は、「『旅するフランス風景画』ということで、僕も絵の中にスッと引き込まれていくような感動が味わえました」とコメントした。
スペシャルサポーターの水谷豊
続けて気になった作品について質問されると、アンリ・ルソーの《馬を襲うジャガー》を挙げた水谷。「パリの植物園で熱帯植物を見ながら想像して描いた作品と聞きましたが、どうしたら想像だけでこんな素晴らしい絵が描けるのだろうと、何か不思議なオーラを感じました」と感想を述べた。
手前/アンリ・ルソー《馬を襲うジャガー》1910年 (C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
「今回のプーシキン美術館展では、名作と呼ぶにふさわしい数々の作品が東京都美術館に揃いました。見る方をきっと爽やかな世界に連れていってくれるはずなので、ぜひたくさんの方に感動を味わっていただきたいと思います」
最後にそのように本展をPRした水谷。彼の味わい深い語りで作品が描かれた世界に没入してみるのもいいだろう。
展覧会オリジナルグッズも必見!
鑑賞後にある展覧会特設ショップには、12面体の箱が特徴的な「旅するフランスビスケット」(500円)や展示作品の一部をモチーフにした「原寸プリントTシャツ」(4800円)などのオリジナルグッズが登場。《草上の昼食》をイメージしてピクニックセットや芝生を装飾した売り場作りにも注目してほしい。
《草上の昼食》をイメージした展覧会特設ショップ
フランスからロシア、そして日本へと旅してきた風景画たち。それらは場所だけでなく時間も旅してフランスの古き情景を今に伝えてくれる貴重な記録ともいえる。ぜひ本展を訪れて、西洋絵画の時と風景の旅に誘われてみてはいかがだろう。