『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2018』レポート 文化の発信地・京都が、写真の力で“UP”する!

2018.5.1
レポート
アート

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若手から巨匠まで、国内外の注目アーティストの写真作品が集まる『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2018』が、4月14日(土)よりスタートした。趣ある歴史的建造物やモダンなギャラリー空間、計15会場を舞台に、5月13日(日)まで開催されている。

今年で6回目を迎える本イベントのテーマは「UP」。個人においてもグローバルな局面においても様々な問題に直面している現代だからこそ、ポジティブに目線を上げて行動を起こすことの意味を、“写真”を通して伝えようという試みだという。そのメッセージとはいかに。さっそく『KYOTOGRAPHIE2018』の見どころをレポートしていきたい。

「UP」を最高潮に鼓舞する、イメージメーカーの巨匠によるアートワーク

最初に紹介するのは、京都駅ビル内にあるジェイアール京都伊勢丹のインフォメーションブースだ。2階エントランスを入って上を見るとすぐに、見覚えのあるアートワークが目に飛び込んできた。こちらは、稀代のイメージメーカーとして名を馳せるジャン=ポール・グールドによる作品だ。ジャン=ポール・グールドといえば、写真家、クリエィティブディレクター、デザイナー、映像監督とマルチな才能をいかんなく発揮し、80年代から現在に至るまで、とりわけ広告業界の第一線で華々しい活躍をしてきた重要人物として知られている。

最初のミューズ、グレイス・ジョーンズをモデルに起用した《加工 / アップグレードされたグレース》は、シャネルをはじめ有名ブランド広告を数多く手掛けてきた彼のアートワークの中でもひときわ異彩を放つ、ジャン=ポール・グールドのシグネチャーともいえる作品である。本作は『KYOTOGRAPHIE2018』のメインビジュアルとして、公式パンフレットの表紙をクールに飾っている。

かつてダンサーを夢見ていたという彼は、身体表現によって起こる体の微細な動きやリズムにすっかり魅了され、それらの要素をどのように作品の中に表現するか、ということに情熱を傾けていたと言われている。この他にも彼のドローイングの才能、ビビッドでリズム感をも感じさせる抜群の色彩センス、幾何学的な構図の妙など、一言では到底語り尽くせないジャン=ポール・グールドの天才たるゆえんを、本会場の京都文化博物館にて、ぜひご覧いただきたい。

また、京都伊勢丹にある美術館「えき」KYOTOでは、3月16日に京都市より「京都国際観光大使」に任命された蜷川実花の写真展『蜷川実花写真展 UTAGE 京都花街の夢』もアソシエイテッドプログラムとして開催されている。

京都の五花街(祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東)から選び抜いた15名の芸妓・舞妓を、特別なセットで撮り下ろしたという80点の作品。今日まで受け継がれてきた京都の伝統の美学の粋を、存分に堪能できる。雅でありながら華麗な花街の魅力を蜷川の感性がどう表現しているのか、この機会に目に留めておきたい。

 

工場地帯のミステリアスなムードにマッチする、リアリティに満ちた作品群

続いて向かった先は、かつては氷工場や貯氷庫であったという「三三九」。こちらの一帯でまず注目したいのは、スペインの写真家、アルベルト・ガルシア・アリックスによる作品群である。

40年以上の写真キャリアをもつ彼の作品は、極限状態で生きるアンダーグラウンドな人々が被写体だ。退廃的な色気と危うさが匂い立つモノクロームのポートレートからは、不思議と強烈な“生”が立ち上がっているようで、その一枚一枚が、確かなリアリティをもって胸に迫ってきた。

通常、なかなか目にすることのない人々の生の記録は、空間のもつどこか怪しげな雰囲気とマッチして、写真のポテンシャルをいっそう際立たせていた。スペイン国民写真賞を受賞するなど、ヨーロッパでの活躍もめざましい写真家の日本初の本格的な個展を、この機会にチェックしたい。

また1階の旧貯氷庫では、ギデオン・メンデルの「Drowing World」も必見だ。国境や文化の壁を超えて発生する洪水災害に直面した人々の局面を捉えた本シリーズは、世界は常に危うい均衡の上に保たれていること。そして平和と隣り合わせにある自然災害の脅威を、ドキュメンタリー性の高い貴重なショットから如実に感じ取れるだろう。

中央市場の場外となっているこちらの丹波口の周辺区域では、もうひとつ、東京在住のフランス人アーティスト、K-NARFの「はたらきもの」プロジェクトにも出会うことができる。路地の壁面に佇むように展示されている作品は、街の空気となじみ、趣ある独特の表情を醸し出していた。

“ヤングパワー”が炸裂する、革命の記録

京都の中心街にあるNTT日本 三条コラボレーションプラザでは、クロード・ディティヴォンの『パリ五月革命—夢見る現実』が展示されている。

1968年5月、政府の教育政策に不満を抱いたパリの大学生が起こした大規模なデモを捉えた一連の作品群。自由を求めて体制に真っ向から立ち向かってゆく学生たちの力強い勇気、さらに若さを武器にみなぎる生命力を爆発させている様子が、ありありと胸に迫ってきた。

一般的に形容される「モノクローム写真」が、仮にエモーショナルでメランコリックなムードを漂わせているとするならば、彼の写真はその対極にあるイメージを強調する。今にも地響きが聞こえてきそうなヤングパワーのもつ底なしのエネルギーは、一瞬のうちにして空間をも支配してしまうような、“若さの求心力”ともいうべき魅力を湛えていた。

また、こちらのスペースでは写真展示のほか、公式グッズをはじめ写真集やポストカードを購入できるスペースも併設されている。この他にも、京都市内は写真祭を盛り上げる空気感に溢れており、期間中は街の至るところ『KYOTOGRAPHIE2018』のロゴや関連イベントに出会うことができる。

 

「UP」というテーマに込められた、世界へのまなざし

京都国際写真祭の共同ディレクターを務める仲西祐介氏は、今年のテーマ「UP」について、関連プログラムに「WAKE UP」、「STAND UP」、「MOVE UP」というサブ・テーマが設定されていることを踏まえた上で、次のように語っている。

「今こそ、日本人が目を覚まし・立ち上がり・動き出す時だと思っています。さもなければ、悪政がどんどん私たちの生活や精神を蝕んでいってしまいます。一人ひとりが能動的に行動するきっかけをご提供できればと思い、このテーマを選びました」

また、仲西祐介氏のパートナーであるルシール・レイボース氏も「これは日本だけではなく、世界中に対して言えることです。今こそ、政治の決定に左右されず、私たち全員が自分自身の手で未来や運命の舵を取るべき時です」と話すように、今年の京都国際写真祭から発せられるメッセージは、非常に示唆に富んだ内容であるといえよう。

写真がもたらす表層的な視覚イメージにとどまらず、その奥に秘められた力強いメッセージにも耳をすましながら、全身で写真芸術の底力やエネルギーを味わい尽くせる『KYOTOGRAPHIE2018』。

世界屈指の文化都市・京都から発信される、多様性が導き出す世界のめくるめく展開とグローバルなエネルギーとを、GW期間中にぜひ感じ取ってみてほしい。

イベント情報

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2018
日時:2018年4月14日(土)~5月13日(日)
会場:丹波口エリア(京都市中央市場場外)、京都文化博物館 別館、両足院(建仁寺内)、誉田屋源兵衛 黒蔵/竹院の間 他十数ヶ所
 
アーティスト:
1.ローレン・グリーンフィールド Lauren Greenfield(アメリカ)
2.森田具海 Tomomi Morita(日本)
3.小野 規 Tadashi Ono(日本)
4.フランク・ホーヴァット Frank Horvat(フランス)「Un moment d’une femme」presented by CHANEL NEXUS HALL
5.クロード・ディティボン(フランス)Claude Dityvon
6.ジャン = ポール・グード Jean-Paul Goude(フランス)presented by BMW with a special CHANEL × GOUDE highlight
7.深瀬昌久 Masahisa Fukase(日本)
8.ロミュアルド・アゾゥメ Romuald Hazoumé(ベナン共和国)
9.ステファン・シェイムス Stephen Shames(アメリカ)「Power to the People」他
10.リウ・ボーリン(中国)
11.宮崎いず美 Izumi Miyazaki(日本)
12.中川幸夫(日本)「俎上の華」
13.ギデオン・メンデル Gideon Mendel(南アフリカ)「Drowning World」
14.アルベルト・ガルシア・アリックス Alberto García-Alix(スペイン)
15.K-NARF(フランス)
 
公式サイト:http://www.kyotographie.jp/