女性だけの劇団「げんこつ団」と俳優「志賀廣太郎」の魅力の謎に迫る!
げんこつ団 団長:一十口裏 副団長:植木早苗 志賀廣太郎
11月4日より駅前劇場にて待望の2015年の新作公演が始まるげんこつ団。女性だけの出演者たちが極めてブラックで濃厚なナンセンス喜劇を上演する異色の劇団。その昨年公演『つぶつぶ』に、女優達に混ざり、初の男性映像出演者として、より作品を混沌に導いていた志賀廣太郎。上演後、半年以上たっても色あせなかったあの興奮の謎を迫るべく、この夏行った緊急会談。演劇ぶっく10月号より別バージョンの写真とともに紹介する。
お客さんを説得するには、状況をきちんと作っておくことしかないんです
——昨年、20年を越える歴史の中で、初めての出演男性として志賀さんが映像出演されましたが、理由を教えていただけますか?
一十口 毎回、劇中映像をたくさん作っているのですが、いつもと違ったものをと考えたシーンのある役が、志賀さんしか浮かばなくて。
志賀 え、他に知らないんじゃないの?
一十口 いやいやいやいや。志賀さんが絶対。いつもどの舞台でも、映像でも出演されている作品を拝見していると、当たり前のようにその世界に居て、生活している姿があって。一人の人間は、一人の人間であると同時に、誰かの背景でもあると思うんですけど、そのどちらか一方ではなく、同じ瞬間に、一人の人間でありながら状況や風景の一部にもなっているのが凄い! といつも思っています。きっとどんな時代劇だろうとSFだろうと、それは変わらないんだろうなと。
志賀 青年団の芝居はそういう作りですからね。馴れているというか、今、おっしゃったような感じで居ますね。自分から「何かをやってやろう」という気持ちも、稽古中には少しあるんだけど、それを採用するかどうかは演出家の判断ですから。青年団の作品は、げんこつ団とはまったく違うんだけども。
一十口 げんこつ団も台本の稽古に入る前に必ず「状況表現」という「誰も目立たない、物語も見えてこない状況を出演者だけで作る」稽古をやっています。意外と基本的なところは似ていると思っているのですが。
志賀 そうだね。舞台に現れるときのスタイルっていうか、形は違うけど共通する部分もあるだろうな。げんこつ団では女性が男性を演じる、しかもハゲヅラをつけたおじさんなどかけ離れた役をやっても、全然違和感がないですから。
一十口 デタラメな設定や状況が多く、そんなに舞台セットも組まないですし、その上、女だけでやっているので、観ているお客さんを説得するには、状況をきちんと作っておくことしかないんです。
無意識のブラックを目指しています
——それにしても、げんこつ団は老若男女を何役も演じたり、場面もよく変わり、シュールな展開もあるので、出演者の方たちは、いろいろ大変だろうなと想像されるのですが、本番中、舞台上では何を考えていますか?
植木 本番中は「無」ですね。逆に何かを考えたらできないかもしれない。本番期間中は本当にそれだけで、本番が終わったら、全部忘れるんですよ。
志賀 すごい集中力だね。
植木 集中力というとかっこいいですけど……。終わった後は急に寂しくなりますね。公演の最終日には、もうこの作品を二度とやらないと思うと「あ、はかないわ」と感じます。そこが魅力かもしれない。よくわからないですけど。
志賀 青年団は、再演、再々演と何度も上演する作品が多いですからね。だんだん時が経つと演じる人間が変わってきたりして。そうすると別の新しい意味が出てくるというおもしろさがあります。違う人がやると違う感じになって、それはそれでおもしろい。けっこう再演、再々演って楽しいですね。
一十口 げんこつ団は時事ネタというか、その時々の関心から作っているので、再演は不可能ですかね。
志賀 時事ネタと言っても、現象だけを見た一過性のものではないなという感じがすごくします。きちんと態度として批判していて、裏側に時代をみる目がしっかりしているといつも思います。
一十口 ありがとうございます。作品を作るときに、批判するぞという意識はないんですけど、自然と世の中なり、人なりを見ていて、「おかしいな」と思うことを拾っていくとそういうことにぶち当たるんです。作品にすると「おもしろさ」や「笑い」になるんですけど、みんなで楽しく穏やかに、和やかに「笑う」のではなく。「笑う」と同時に衝撃を受けて、笑うしかないっていう「笑い」が好きなので。そういう状況を考えていくと、どうしてもブラックになり。でも、だからブラックをやろうとか、ブラックだって思っちゃうとだめなんです。赤ちゃんのような天真爛漫な気持ちで無意識にやっちゃえ!というところを意識しています。
志賀 そうだね、狙っちゃうと、違ってくる。
一十口 そうですね、不意に出てくるブラックを目指しています。無意識のブラック。
【プロフィール】
志賀廣太郎
しがこうたろう○青年団所属。俳優を志望するもいったんは演技を教える側にまわる。40歳を前にして、平田オリザの青年団作品に出会い、入団。俳優活動を開始。舞台、TVドラマ、CM、映画など出演作品は多数。
一十口裏
いとぐちうら○「げんこつ団」団長。げんこつ団では脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。現在は、映像作家としても活動中。webマガジン「日刊☆えんぶ」にて妄想を紡ぐエッセイ「妄想危機一髪」を連載している。
植木早苗
うえきさなえ○団長の「団員募集」のコメントにビビッと来て、全くの未経験ながら「げんこつ団」に入団。いつのまにか副団長で、振付、演出も担当。ただ「おもしろいことをやりたい!」というパッションだけで現在に至る。本人曰く「感覚人間なんです」。
【公演情報】
2015年 11月4日(水)~11月8日(日) @駅前劇場
げんこつ団『ボリショイ・ライフ』(9月9日(水)発売開始)
4日(水)19:00 5日(木)14:00/19:00 6日(金)19:00
7日(土)14:00/19:00 8日(日)14:00/19:00
脚本・演出・映像・音響 一十口 裏 / 演出・振付 植木早苗
出演 植木早苗 春原久子 河野美菜 池田玲子(10・Quatre) 望月文
川端さくら(乙女装置) 久保田琴乃 山口奈緒 杉森多恵子(オフィスチャープ)
三明真実(アリエス) 鷹羽彩花(オフィスチャープ)
ボリショイ・サイト
http://genkotu-dan.xxxx.jp/
【取材・文/矢崎亜希子 撮影/岩田えり】