子供鉅人・益山貴司インタビュー『真夜中の虹』再演を語る
益山貴司
2005年、大阪で益山貴司、寛司兄弟を中心に結成された劇団「子供鉅人」。2015年から東京に活動の場を移し、初進出した本多劇場では史上最多となった114人のキャストで『マクベス』を上演。音楽劇から会話劇、家屋の解体を演劇化するなど、常に刺激的な展開を見せてきた子供鉅人が、2016年初演の『真夜中の虹』を再演する。ツアー公演となる今回は、東京や大阪のほか、仙台と福岡でも上演予定だ。主宰で作・演出を務める益山貴司に、上演作について、劇団の未来について、話を聞いた。
◆自分たちが育った関西を舞台に
――2016年、大阪と東京で上演された『真夜中の虹』を再演作に選んだきっかけはなんですか?
私たちの劇団は、あまり再演に対して積極的ではないというか、新作主義というか、大阪で劇団を結成して以来、ヨーロッパに自腹ツアーに行ったり、本多劇場で100人マクベスをしたり、常に新しいことがしたくて、まさに突っ走るようにやってきたんですが、ここらへんでそろそろ過去の作品をブラッシュアップして世間に問うということを、キチンとやったほうがいいと。で、自分たちの成長が測れる作品として、劇団員のみの作品を選ぶことにしました。
それが、『真夜中の虹』だったんです。この作品は、「子供鉅人ベスト」っていう声も出るくらい、初演時にはお客さんからも好意的に受け止めてもらえました。自分たちが育った関西を舞台にした作品であるということも大きかったです。普段は標準語で芝居を作ることが多いので、アイデンティティの確認にもなるし。
――前回公演の『ハミンンンンンング』も関西地方が舞台になっていました。作品全体のテクスチャーも、しっとりしつつ哀愁とさわやかさが同居していて、『真夜中の虹』と通じるものがありました。
これまでやってきた作品のなかにはチャンバラものから女子プロレスラーを主人公にしたものまで、100人規模によるかなりスペクタクルな作品もありました。けれど、『真夜中の虹』はちょっと特別で、気張らずにつくることができた作品なんです。その延長線上に『ハミンンンンンング』があります。客演を入れずに、劇団員だけでじっくり作る。これって劇団としては当たり前のことなんですけど、「何かぶっ飛んだことをしてやる!」って意気込みが強すぎた時期もあって、自分たちの強みを模索していたとき、ふと、肩の力を抜いて内省したら、自分たちの武器は私の書く叙情であり、関西弁であり、役者たちの個性であることに気づいた。両作品とも、その気づきが出発点ですね。
――『ハミンンンンンング』では、大阪在住の人にしか分からないような地名もどんどん出てきましたね。
かなり意図的に書いた面があります。東京の人にとって、関西弁はファンタジーだと思うんです。「知らない国のお話」という感覚で観てもらえてもいいんじゃないかと。実際にそういう感想もありましたね。「うつぼ公園」だとか、具体的な土地の名前も出しましたが、そうやって具体的であればあるほど、観ている人のなかにあるまた別の地名や景色が見えてくるんじゃないかと思うんです。
『真夜中の虹』初演より 撮影/橋本大和
◆情の厚さが生み出すドラマツルギー
――『真夜中の虹』初演では、キャストたちによる抑制の演技が際立っていたように思います。ド派手で勢いある演出も得意な子供鉅人で、また別の方法論が生まれたわけですね。
私が大阪出身者として思うのは、大阪出身はブランドでありつつ、ある種のレッテルにもなってしまうということ。「大阪人のノリで」「大阪人特有の勢い」なんて、たまに自分でも言っちゃうことがありますけれど、もちろん、関西人だって抒情的な感性を持ち合わせていて、一般的に言われる大阪らしさとは違う一面があります。「真夜中の虹」では、そういう部分を作品に出したかったんですね。情の厚さと抒情性といえば、近松門左衛門です。なにしろ大阪は近松を生んだ土地ですから、そこを舞台とした会話劇での繊細なやり取りをつくってみたかったんです。『ハミンンンンンング』のときは、近松の『曽根崎心中』を読みながら台本を書いていました。情の厚さが生み出すドラマツルギーというか、そういうところがこれから劇をつくるうえで、自分の鉱脈になるかもしれないなと思います。
――初演よりもキャストがひとり増え、エピソードが加えられるとか。
いくつかのエピソードが重なっていて、バラバラの話が集約されていく内容なので、基本的な枠組みを大きく変えることはありませんが、新しいエピソードを挿入していくので、初演とはまた違ったものになるかもしれません。私のイメージでは、『真夜中の虹』は短編小説の集合体のようなものなんです。もっと言うと、日本の短編集でなくアメリカの短編に近いかな。個人的にはレイモンド・カーヴァーが好きなので、乾いた叙情みたいなものが出ればいいかなと思っています。
――劇団初のツアー公演ですね。
新しいお客さんに出会いたいという気持ちがずっとあったので、いつかツアーはやりたいと思っていたんです。それも、できるだけ日本をコンプリートするような形で。行ったことのない街にも行きたくて。
ちなみに今回は、自主公演手打ちなんです。何かのフェスティバルに呼ばれて上演する形とは違って、移動から集客まで全部自分たちの作業ですね。周囲から無謀だと言われていますけど、自分でもそう思いますね(笑)。新しいお客さんに出会うためのお披露目公演と思ってがんばります。だからみなさん、是非来てください(笑)。
『真夜中の虹』初演より 撮影/橋本大和
◆役者は技巧よりも「華」が大切
――子供鉅人はこれまでも多くのミュージシャンと共同作業を展開してきました。『真夜中の虹』ではスティールパン奏者のトンチさんが加わっていますね。
いつも、オリジナルの音楽にはこだわっています。子供鉅人の作品はできるだけオーダーメイドでつくりたい。衣装や美術にしても同じで、役者も劇団員という自社製品でお届けしたい。トンチとは大阪時代からの友だちで、真夜中の高速道路から聞こえる、遠くに響くような車の走行音とスティールパンの音色が似ている気がして、彼女にお願いしました。
――決して作風を一本化するわけではないでしょうけど、ド派手な子供鉅人が好きなお客さんもいるでしょうし、『真夜中の虹』のスタイルを気に入っている人もいるでしょう。子供鉅人は、一度観ただけでは劇団のカラーを掴めないところも魅力と思います。
自分でも考えているんです。なんで私はいろいろやりたがるのだろうかと。劇団のプロモーションとして考えたときに、プレゼンで「いろいろやっている」という説明はむずかしいんです。お客さんには、潜在的に「ひとつのことをしていてほしい」という願望があると思います。たとえば「こないだの子供鉅人が笑える作品だったから次も観よう」と、実際にはまったく違うテイストのシリアスな舞台で、お客さんが戸惑うということが何度もありました。けれど、黒澤明は『七人の侍』から『野良犬』まで、ぜんぜん違う作風に挑戦している。私もそんな風でありたいと思うんです。なんというか、演劇というジャンルをひとりで背負っているという勝手な自負というか(笑)。
益山貴司
――上京から3年半。東京に来て思ったことはなんですか?
役者に関しては、東京の人たちはうまいと思いました。同世代でもすごくうまい人がいっぱいいる。ただ、華があるのは関西の役者のほうに多いのかなとは思います。でも、それはあくまで環境でしょう。大都会の東京では他人との距離の取り方が重要になる。それが演技にも出ている。いい意味で田舎みたいなところがある大阪は、人と人の距離感が無闇に近い(笑)。だから、客に対して親密な演技になりやすい。
劇団員も含めて役者に求めるものは、演技力よりも華があるかどうかです。技巧よりも、その人しか醸せない説得力に意味があるというか。何をしていても目立っちゃう人が気になるというか……。あと、演劇という芸事の始まりは神様にささげる神事ですよね。「うまい」か「へた」かでは、神様は喜ばない気がする。その人の一生懸命さに神様は喜ぶと思うんです。まあ、簡単に言うと、名優よりも怪優が好きなんですね。
――劇団力を高めた先に見据えているものはなんですか?
一般的に演劇を観る人はまだまだ少ないです。世の中に与えるインパクトなんてほとんどないと言ってもいいくらい。演劇の世界ではそこそこ有名でも、ごく一般に浸透しているか、その演劇が社会的に関心をもたれているかというと、それこそ蜷川幸雄さんや野田秀樹さんのような方しかいませんから。私たちも小さな世界でなく一般に対して、どんどんぶつかっていきたいと思っています。
撮影・取材・文/田中大介
公演情報
■音楽:トンチ
■出演:益山寛司、キキ花香、影山徹、億なつき、ミネユキ、山西竜矢、益山U☆G、古野陽大、うらじぬの、益山貴司
2018年7月01日(日)~08日(日)◎<東京>下北沢 駅前劇場
2018年7月21日(土)~21日(日)◎<仙台>せんだい演劇工房10-BOX
2018年7月26日(木)~30日(月)◎<大阪>HEP HALL
2018年8月04日(土)~05日(日)◎<福岡>ぽんプラザホール
東京、仙台、大阪公演/一般 ¥3,500 学生¥2,000 高校生以下¥1,000(全席自由席)
福岡公演/一般¥3,000 学生¥2,000(全席自由席)
舞台は関西のとなる地方都市。高速道路が伸びる小さな町を照らすのは、うすあかりのナトリウムランプ。この町で暮らす人々の物語が、幾層にも折り重なっていく。高速道路沿いにひたすら自転車をこぎ続ける男が、人々の物語を拾い上げながら、やがて海へとたどり着く――。関西弁をリリカルに綴る抒情詩劇、待望の再演。